「モバイルにいっぱいお金を使っている、心配」の声に三木谷社長が答えた「楽天市場」2020年の振り返りと成長戦略【講演要旨】
「社長、モバイルにいっぱいお金を使っている、心配だ」。自社回線エリア拡大のための基地局整備への投資などを踏まえ、「楽天市場」出店者が思っているであろう声をこう代弁したのは楽天の三木谷浩史会長兼社長自身。1月28日にオンライン配信で行われた「新春カンファレンス」で、三木谷社長が3万人以上の「楽天市場」出店者に語った楽天の戦略、2020年の振り返りなどをまとめた。
「楽天市場」単体で流通総額3兆円を突破
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で「楽天市場」は好調。2020年12月期に「楽天市場」単体で流通総額が3兆円を突破した。2兆円を超えたのは2018年。流通総額の成長率は過去10年間で最高を記録した。
なお、2019年度(2019年1~12月期)国内EC流通総額は3.7兆円。国内EC流通総額は「楽天市場」の流通総額に加え、トラベル(宿泊流通)、ブックス、ゴルフ、チケット、ファッション、ドリームビジネス、ラクー、ビューティ、マート、デリバリー、楽天ダイレクト、カーライフ、クーポン、ラクマ、楽天デリバリープレミアム、Rebates、Raxy、楽天西友ネットスーパーなどの流通額を合算した数値。
2020年12月度の「楽天市場」流通総額は前年同月比で50%増。この要因として、新規購入者、1年以上「楽天市場」を使っていなかったユーザーの復活購入、加えて、1人あたりの月間購入額の増加、ユーザーの定着率(リピート購入)がある。
2020年4-6月期(第2四半期)の新規購入者数は前年同期比63.1%増、1年以上購入がなかったサービス利用の再開者数は同80.9%増。
2020年7-8月の1人あたりの月間購入額は前年同期比10.9%増。2020年4-6月期(第2四半期)に「楽天市場」を利用したユーザーが、7-9月期(第3四半期)にリピート利用した割合は約75%に達した。
このように、「楽天市場」が好調の理由について、ある出店者は「『楽天市場』で長らく店舗を構えている多くの企業では『楽天市場』店の売上高が増えている。特に、休眠顧客の復活購入、客単価と購入頻度の増加が大きく寄与しているのではないか」と分析する。
三木谷社長が考えるモバイルと「楽天市場」のシナジー
楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT」契約者数は2020年12月30日に200万回線を突破した。課題となっているカバーエリアでは基地局の整備を進めており、「2021年7月には人口カバー率96%を達成する」(三木谷社長)。そして、宇宙から直接通信を提供する「スペースモバイル計画」についてこう話す。
当初は2026年末までとしていた人口カバー率96%以上の実現を5年前倒しできる。2023年には宇宙から通信を提供する取り組みを始める。日本での人口カバー率100%を達成する。
楽天がモバイル事業への莫大な投資を進めることに、中核ビジネス「楽天市場」の出店者はどう見ているのか。三木谷社長は講演時、出店者の声を代弁するかのようにこう発した。「社長、モバイルにいっぱいお金を使っている、心配だ。(出店者の皆さんは)こう思われているかもしれない」
出店者の“声なき声”を代弁した三木谷社長。ただ、携帯電話の契約者数増加によって、出店者が抱えている心配を払拭(ふっしょく)できる相乗効果が出ているようだ。
楽天モバイル申込者の内、15%が楽天が提供するサービスを利用していない新規ユーザー。その内の35%が「楽天市場」など楽天が展開する他サービスを利用しているという。
もともと「楽天市場」を使っており、2020年5月に楽天モバイルに加入したユーザーの1人あたりの月額流通総額は急増。「楽天市場」を使いながら2020年12月時点で楽天モバイルに加入していないユーザーと比べると、1人あたりの月額流通総額には大きな差が出ている。
また、楽天モバイル契約者の55.1%が2020年12月に「楽天市場」で商品を購入している。
このように楽天がモバイルに注力する背景には、モバイルを通じた買い物が増えていることがあげられる。2020年12月時点、「楽天市場」でのモバイル経由の流通総額比率は76.5%。「楽天市場」の元旦(1月1日)のモバイル流通総額は86.3%がモバイル経由で占め、訪問比率はモバイル経由が89.7%を占めた。
こうした状況を踏まえ、三木谷社長はこう話す。
楽天モバイルというものが楽天経済圏とって非常に重要な存在になっていくということわかっていただけると思ってます。
また、電話・メッセージ・SMSなどが利用できる楽天モバイルダイヤルアプリ「Rakuten Link」を軸に、さまざまな楽天グループのサービスを融合させていく方針を示した。
2000億円を投資する物流改革
物流拠点とラストワンマイルを拡大することで、独自の配送ネットワークを構築する「ワンデリバリー」構想では2000億円超の投資を計画する進める楽天。
楽天グループで生活用品や日用品を取り扱う「Rakuten24」などの直販店舗、「楽天ブックス」、ファッション通販サイト「Rakuten Fashion」、家電ECサイト「楽天ビック」の商品と、「楽天市場」出店店舗を対象とする物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」で受託する一部の荷物を自社配送している「Rakuten EXPRESS」の人口カバー率は2020年12月時点で63.5%まで拡大。
2021年上期には神奈川県の「楽天フルフィルメントセンター中央林間(RFC中央林間)」が稼働する予定となっており、人口カバー率の拡大を進める。
「ワンデリバリー」構想を一気に進めるための協業先の1つが日本郵便。楽天と日本郵便は12月24日、持続可能な物流環境の実現を目的とした戦略的提携に向け、基本合意書を締結。
日本郵便の物流網やデータ、楽天が保有する「楽天市場」での需要予測や受注データの運用ノウハウなどを活用し、合弁会社の設立などを含めた新たなオープンプラットフォームの構築で協業する。
楽天のテクノロジーと日本郵便の配送網・アセットを組み合わせて、物流分野にデジタルトランスフォーメーション(DX)を起こす狙いがある今回の協業。次世代物流プラットフォームを構築し、可能な限りオープンな形でさまざまな事業者に展開しようとするこの協業を踏まえ、三木谷社長は出店者にこう説明する。
(配送料を)より安価に、クオリティが高いサービスを、出店者の負担をできるだけなくせるように提供する。
購入者の送料負担を0円とするラインを3980円以上に設定した「送料無料ライン」について、85%以上の店舗が導入。「送料無料ライン」導入店舗と未導入店舗の成長率を比較すると、導入店舗は未導入店舗と比べて成長率は25ポイント高くなっている(2020年4-12月の実績)。