2025年10月の制度改正で、仲介サイトのポイント付与が禁止されたふるさと納税。「お得競争」の終焉は、EC上のスペック勝負から「リアルな体験価値」への回帰を促します。本稿ではこの変化を好機と捉え、ポップアップストアを活用して地域の魅力を“五感”で伝え、新たなファンを獲得する戦略を解説します。
- 2025年10月のポイント禁止以降、ポップアップストアはEC上のスペック競争から脱却し、「五感」と「共感」で寄付者の納得感を醸成するための“価値を伝える装置”として重要性を増している
- 「お得」ではなく、確実な「体験」と「物語」をどう手渡すか──このOMO視点があるかどうかが、改正後の市場で新たな支持を獲得できるかどうかの分岐点となる
2025年10月改正がもたらす変化
ふるさと納税がいま、大きな転換点を迎えています。
これまで、多くの寄付者にとって選定基準の大きなウェイトを占めていたのは、返礼品の還元率や、ポータルサイトが付与する「ポイント還元」などの“金銭的メリット”。しかし、総務省の告示改正により、2025年10月からポータルサイトを通じたポイント付与が禁止されました。
EC担当者の視点で見れば、これは「Web上のスペック勝負(還元率や容量、ポイント倍率など)だけでCV(コンバージョン)を獲得する難易度が跳ね上がる」ことを意味します。検索一覧に並んだとき、画像とテキストだけで他社との違いを明確にし、寄付者の心を動かすことができるでしょうか?
ここで注目すべきは、オンラインでの獲得効率が下がる反動として予測される「オフライン回帰」です。
ポイントというインセンティブが外れた時、消費者はより本質的な価値――「本当に美味しいもの」「長く使えるもの」「応援したい地域」を慎重に選ぶようになります。その際、「五感で確かめられる体験(リアル)」が、重要な接点として機能します。
ふるさと納税の原点に立ち返る「体験型」の価値
本来、ふるさと納税は「地域の名産品との出会い」や「地域への応援」を目的とした制度でした。この原点に立ち返ったとき、リアルな場でのポップアップストアは、ECでは伝えきれない価値を補完する強力な武器になります。]
- 「シズル感」と「手触り」の伝達
ふるさと納税の人気返礼品の多くは、肉、魚、果物などの「食品」です。ECサイトの画像がいかに美しくても、漂う香りや試食の味わいには勝てません。
また、伝統工芸品などは、実際に手に取った時の重みや質感が価値の源泉です。リアルな場があれば、これらを直接プレゼンテーションし、納得感を醸成できます。
- ショールーミングによる在庫リスクの回避
通常の物販ポップアップと異なり、ふるさと納税を絡めたイベントは「その場で商品を渡す」必要がありません(※その場での寄付受付→後日配送という形式が一般的)。
つまり、在庫を抱えずに最小限のサンプルだけで出店が可能です。「試食・試着をして、気に入ったらその場のQRコードから寄付(購入)する」というショールーミング形式は、物流コストを抑えたい事業者や自治体にとって理想的なモデルといえます。
- 「偶発的な出会い」の創出
ECサイトでは、ユーザーは検索ワードで目的の商品を探すため、知らない地域や商品には辿り着きにくい構造があります。一方、ポップアップストアは、通りすがりの人々に「何だろう?」と足を止めてもらうことで、検索されなかったはずの商品との偶発的な出会い(セレンディピティ)を生み出します。
ターゲット別・おすすめのスペース選定と活用事例
では、具体的にどのような場所でポップアップを行うべきでしょうか。やみくもに出店するのではなく、ふるさと納税の特性(寄付者の属性や行動心理)に合わせたスペース選びが重要です。
オフィスビル・企業内マルシェ
ふるさと納税において、控除上限額が大きいのは高所得者層です。そんな高所得者層にダイレクトにアプローチできるのが、都心のオフィスビルや、大手企業の社内で行う職域販売(企業内マルシェ)です。
【出店イメージ】
ランチタイムにオフィスエントランスで「高級フルーツの試食会」や「ブランド牛の試食」を実施。忙しいビジネスパーソンに対し、その場でQRコードを読み込んでもらい、「今年の枠、まだ余っていませんか?」と訴求できます。年末の駆け込み需要期(11月〜12月)に特に有効です。
駅ナカ・駅改札前
圧倒的なトラフィックが見込める駅ナカは、認知拡大に適しています。 特に、地方自治体が首都圏の主要駅でPRを行うことで、「故郷」を想起させるエモーショナルな訴求が可能になります。
【出店イメージ】
夕方の帰宅ラッシュ時に、地酒や地ビールの「立ち飲みスタンド」を展開。「気に入ったら、ふるさと納税で自宅にお届け」という導線を設計。重い瓶を持ち帰る必要がないため、駅利用者のニーズとも合致します。
商業施設・百貨店の催事
週末に家族連れが訪れる商業施設は、日常の食材を探している層との親和性が高いスペースです。
【出店イメージ】
定期便(お米や野菜)のPRイベント。単発の寄付ではなく、リピーターになりうる定期便の魅力を、実際の量や鮮度を見せてアピール。「毎月これが届く生活」を想像させることができます。
“体験”が寄付を生む。ポップアップの実例パターン
オーソドックスなイベントに加え、本パートではユニークな事例も紹介します。
パターンその1〜岩手・花巻の魅力を“食”で伝えるポップアップ
- イベント名:いわて・花巻フェア
- 開催期間:2025年11月26日(水)~12月2日(火)
- 場所:北千住マルイ 2F カレンダリウム3

イベントの最大の特長は、通常の物産展のように商品を陳列し、「その場で返礼品として持ち帰れる」というスキームを導入した点です(一部商品を除く)。
具体的な設計のポイントを解説していきます。
ポイント①:ECの課題「配送待ち」を解消する即時性
「白金豚(プラチナポーク)」や「ほろほろ鳥」といった生鮮食品、そして地元で人気を誇る「マルカンビル大食堂」のラーメンなどが並びます。ECで申し込むと配送を待つ必要がありますが、本イベントでは「今夜の夕食」として持ち帰ることが可能です。
産直EC「ポケマル」が提供する 「ポケマルふるさと納税」のシステムを活用し、生産者と直結することでこのスピード感を実現。「年末年始に合わせて確実に手に入れたい」というニーズに応える設計となっています。
ポイント②:生産者の「顔」が見える展示構成
会場には、単にモノが置かれているだけではありません。
- 高源精麦の高橋誠さん(白金豚)
- 石黒農場の石黒晋治郎さん(ほろほろ鳥)
- アグリ女子・鈴木久美子さん(ブルーベリー)
こういった生産者のストーリーやこだわりが掲示され、スタッフが解説します。 返礼品選びの基準が「お得さ」から「品質・共感」へとシフトする中、「誰がどう育てたか」を知った上で選べることが、寄付者にとっての安心材料となります。
ポイント③:対面サポートによる「制度不安」の払拭
会場では、売場スタッフがふるさと納税の仕組みや手続きについて個別に対応しています。 手続きに不安を感じる層に対し、対面で案内を行い、その場で疑問を解消するフローが組まれています。ECサイトではカバーしきれない、リアルならではのサポート体制といえるでしょう。
岩手県花巻市以外にも、2025年秋に独自の切り口をみせたポップアップストアがみられます。
パターンその2〜地域一体型で街全体をポップアップで表現
- イベント名:燕三条 工場の祭典 2025(新潟県三条市・燕市)
- 開催期間:2025年10月2日-5日

東京へ出向くのではなく「現地に来てもらう」発想。 職人の手仕事を目の前で見せ、その体験を寄付につなげることで、ポイントの有無に左右されないファン作りを行いました。
パターンその3〜食の宝庫、北海道の味覚を東京で体験
- イベント名:別海町(北海道)×食の体験イベント
- 開催期間:2025年11月1日〜11月30日

ホタテや乳製品で有名な北海道別海町は都内の飲食店「銀座ライオン」、他の飲食店とコラボし「味覚」でアピール。北海道・別海町(べつかいちょう)の食材を使用した料理フェアを実施。
ポータルサイトのランキングのみに頼らず、「食べて美味しかったから」という実体験に基づいた指名買いを促す狙いがあると見込んでいます。
制度改正を「好機」に変えるためのアクション
2025年10月の改正は、一見すると逆風に見えますが、本質的な商品力を持つ事業者にとっては「ノイズ(過度なポイント競争)が減り、正当に評価されるチャンス」でもあります。
チャンスを逃さないために意識したいポイントは、次の3点です。
OMO(Online Merges with Offline)の導線設計
リアルイベントを行う際は、単なる試食や展示で終わらせず、その場で寄付アクションに繋がる導線(QRコードや持ち帰りスキーム)を設計することが重要です。花巻市の事例のように「ポケマルふるさと納税」などのシステムを活用し、「いいなと思った瞬間に寄付できる」環境を整えましょう。 また、LINE公式アカウントへの登録や、イベント限定の「体験型返礼品(現地ツアーなど)」の用意なども必要です。
身軽な出店スタイルの確立
大規模な物産展だけでなく、空きスペースを活用した数日間のポップアップなど、機動的な出店ができる体制を整えておくこと。 まずは小さなスペースでテストマーケティングを行うのも良いでしょう。
「モノ」から「コト」へのストーリー構築
ただ商品を並べるのではなく、「生産者に会える」「現地に行きたくなる」ような体験価値を付与すること。
「ネットでお得に買う」から「リアルで体験して応援する」へ。 ふるさと納税のパラダイムシフトは、すでに始まっています。 デジタルとリアルを融合させ、寄付者の心に直接届く体験設計こそ、改正後の市場で新たな支持を獲得していく鍵となるでしょう。
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