竹信瑞基 2020/8/5 9:00

コロナ禍で消費行動はどのように変化しているのか。小売・ECに関するデータからは、緊急事態宣言を受けた自粛要請などでECの利用が広まる一方、ECだけでは満たされない消費行動が浮き彫りになっている。緊急事態宣言前後の消費行動から改めて実店舗の価値・課題に向き合い、どのようにECとリアル店舗を共存させたらいいのか。商業施設や店舗の運営改善をサポートするデータプラットフォーム「adptOS」の開発、ポップアップストアの出店支援などを行うカウンターワークスの竹信瑞基氏が、さまざまなデータを元に小売業界の考察を行う。

進むEC化と、ECだけでは満たされない消費行動

楽天、BASEなど増えるEC関連各社の取扱高

2020年7月現在も続くコロナ禍において、オンラインでの消費活動が勢いを増している。

2020年4月度におけるECモール・ASPなどの取扱高に関する前年同月比を見てみると、楽天は+57.5%カラーミーショップは+70%BASEは+190%

特にBASEは特徴でもある「はじめやすさ」から、7月までの2か月間で10万ショップがとショップを新規開設。多くの事業者がECでの販売に進出している。

結果として、「オンラインストア」の検索数は緊急事態宣言が解除された現在、2020年1~3月の年間成長率(CAGR)から算出した2020年の検索数予測値と、2020年6~7月の検索数を比較すると、2020年6~7月の「オンラインストア」の検索ボリュームは1.5倍になるなど、ネット通販に関する検索需要が伸びていることがわかる。

「オンラインストア」の検索数に関する伸び率を表した図
「オンラインストア」の検索数に関する伸び率を表した図。画像左は2019年1月~3月と2020年1月~3月(2019年1~3月のCAGRから算出した予測値)までのCAGR。画像真ん中は2019年4月~5月と2020年予測値(2019年4~5月のCAGRから算出した予測値)、2020年4月~5月のCAGR。画像右は2019年6~7月と2020年予測値(2019年6~7月のCAGRから算出した予測値。7月は第2週まで)、2020年6月~7月のCAGR(画像:筆者作図)

コロナ禍で浮上した、ECだけで売り上げをカバーする難しさ

しかし、ECだけで売り上げをカバーすることが難しいことも、今回のコロナ禍で判明した。

オムニチャネルの代表的企業NIKEの2020年3-5月期におけるEC売上高は、前年同期比75%増と大きく伸ばした一方、実店舗閉鎖で総売上高は同38.0%減。EC化率が2019年時点で6.76%と、9割以上の消費が実店舗で行われている中で、ECだけでは売り上げをカバーできていない。国内のアパレルブランドなどでも、同様の状況となっている。

緊急事態宣言後のコロナ禍における生活者の行動からも、ECだけでは満たされない消費行動が浮き彫りになっている。緊急事態宣言後、休日の都心部への客足の戻りは、前年比6~7割程度と芳しくない状況が続いているが、郊外の商業施設を中心に客足・売り上げが戻っている

これまで都心部へ足を運んでショッピングしていた郊外の生活者が、「生活圏内のリアル店舗で」消費を再開する流れが起きている。つまり、これだけ急激にEC化が進んでも、消費者はリアル店舗での買い物を継続していることが伺える。

2020年7月19日の全国・商業エリアの客足の戻り
2020年7月19日の全国・商業エリアの客足の戻り(NTT docomo提供「モバイル空間統計 人口マップ」より(画像:筆者編集・作図)

商品試着や体験をリアル店舗に求める消費者

こうした現象が起こる消費者意識の背景として、「店舗での商品試着や体験」を求めるニーズがあげられる。EC化が進むアメリカの調査でも全年代で同様の結果が出ているのだ。

ECにはないリアル店舗の価値とは、「返品などの手間なく、商品を実際に見て・体験してから検討・購入できる」こと。実際、そうした意識が多くの人に残っているからこそ、消費者はECの利便性を理解した現在でもリアル店舗を訪れるのではないだろうか。

これらを踏まえると、ブランド成長において、「ECとともに、どうリアル店舗と付き合っていくか」が1つの成長ポイントになっていくと考えられる。

リアル店舗の課題を解消するさまざまなソリューション

とはいえ、従来のリアル店舗には多くの課題がある。以下は、筆者が考える代表的なリアル店舗の課題だ。

  1. 数年間の賃貸借契約による賃料・人件費に加え、多大な初期費用がかかる
  2. オンラインストアとは全く異なる運営方法で、準備の手間がかかる上、運営・改善ナレッジがない
  3. 出店先を決めるにあたり、人通りや店舗によって生まれる収益を計算するための情報が不足している
リアル店舗の課題3つ
筆者が考えるリアル店舗の課題3つ

しかしこうした課題は、さまざまな形で解消されつつある。

EC事業者の間で広まる、期間限定で顧客接点を持つポップアップストアの活用 

数年単位で固定費がかかるリアル店舗の状況を解消するソリューションとして、1日〜数か月単位の短期間でリアル店舗を開設できる「ポップアップストア」がある。

ポップアップストアのメリットは、出店期間を消費者が商品を検討・購入したい時期に絞れるほか、潜在顧客・既存顧客がいるエリアにて、短期間で出店できるところにある。

従来必要だった内装費用や原状回復費などの費用を大きく絞り込み、変動費で出店しやすくすることが可能になる。

アメリカやイギリスでは数年前から、オンラインストア発のD2Cブランド、AppleやNIKEなど、常設店を持っているナショナルブランドであっても、プロモーションとしてポップアップストアを多く活用している。日本でも近年、同様に活用が広がっている状況だ。

appear hereのサイト
イギリスのポップアップストアのマーケットプレイス「appear here」では、スーツケースの「AWAY」など人気D2CブランドやApple、NIKEなどのナショナルブランドも活用(画像:appear hereのサイトよりキャプチャ)
カウンターワークスが運営するポップアップストアのマーケットプレイス
カウンターワークスが運営するポップアップストアのマーケットプレイス「SHOPCOUNTER」では、商業施設から路面店、駅ナカなど、日本全国1,300以上のポップアップストア出店可能スペースを掲載(画像:SHOPCOUNTERの紹介ページをキャプチャ)

コロナ禍において、アメリカではレディース服などを販売するD2Cブランド「Threads&Company」が屋外の駐車場を利用したカーブサイドピックアップ(オンラインで注文・決済し、駐車場で商品を受け取る購買形態)のテストをポップアップストアで実施。このように、リアル店舗を実験的に活用し、消費行動の変化の中で最適な購買・ブランド体験を模索する事例も増えてきている。

出店・運営支援サービスも増加

より簡単&シンプルにポップアップストアの出店が可能に

リアル店舗の在り方や、EC発の事業者のポップアップストア出店が増えてくる中で、商業施設からテナントに、「小売機能をサービスとして提供する」取り組みも増えている。

アメリカで商業施設を複数展開する不動産投資信託会社「Macerich」では、オンラインを中心としたブランド向けに「Brandbox」というサービスを展開。これは、商業施設としてポップアップストア出店区画を提供するだけではなく、「計画」「店舗デザイン」「内装」「接客・販売スタッフの採用」「店舗分析」までワンストップで提供し、オンラインストアを主とするブランドが負荷なく出店できる形でサポートするというものだ。

出店準備や内装など、負荷が大きいものをフォーマット化したことで、消費者が商品を体験しやすい標準的な環境を低コストで作ることができる。それだけでなくブランドは店舗での体験設計や接客など、「サービス」に集中できることも大きなメリットだろう。

「Brandbox」のイメージ動画

国内でも、EC事業者支援サービスが誕生

同様に、日本でもEC事業者がより手軽にリアル店舗を出店できるよう、支援サービスが続々と誕生し、大手商業施設による導入も進んでいる。

渋谷PARCOららぽーと愛知東郷では、ファッション販売員マッチングサービス「MESHWell」を導入。ポップアップストアなど、可変的な売り場における人材の安定運用をサポートするという。

また丸井グループは、2020年6月にオープンした「メルカリステーション」(※編注:メルカリの使い方を学んだり売れた商品の発送業務などが行えるスペース)や、2020年8月にオープンする「b8ta」(※編注:米国発のリテールストア。IoT製品やD2Cブランド製品などを中心に展示販売。出店ブランドには、店内のカメラなどを通じて来店者がどのような体験をしたかなどの行動分析情報提供がされる)で店舗運営の受託を行うなど、ブランドやEC事業者らが出店しやすい運営支援の環境構築が加速している。

オンラインストアと同様に、店舗空間でもデータを活用した改善が行える基盤もできつつある。当社が自社製品の「adptOS」を活用し支援している「東急プラザ渋谷」では、ポップアップスペース専用区画「111」に店内行動を捕捉できるカメラを標準的に搭載。ポップアップストア出店者にデータ提供を行いながら、店頭の改善を行っている。

東急プラザ渋谷のポップアップストア
東急プラザ渋谷のポップアップストア専用区画「111」の様子。天井に匿名で来店者の行動傾向を捕捉するIoTセンサーが展開され、入店率や店内の立ち止まりを元に、レイアウトや商品展示・POP改善が行われる(画像:カウンターワークス提供)

パルコが提供している「POCKET PARCO」では、来店後のサービス評価データが出店テナントへフィードバックとして届く仕組みが稼働。接客や店舗内サービスの改善がなされ、顧客の再来訪につながり、来店者・施設来館者の満足度をテナントとともに高める取り組みが行われている。

「POCKET PARCO」内での来店前〜中〜後の行動の様子
「POCKET PARCO」内での来店前〜中〜後の行動の様子。ショップ評価にとどまらず、ブログや購入機能、館内回遊を起こす仕掛けも含めることで来館個客の理解を深め、施設運営に活用している(画像:パルコが公開している資料よりキャプチャ)

柔軟なリアル店舗出店の可能性と、商業施設・リアル店舗の未来

こうした商業施設でのさまざまな取り組みは、オンラインストアを中心に販売するブランドがリアル店舗に出店する際の敷居を下げると期待される。また、オンライン化や5G、AR/XRなどの技術進化がこの先もますます進む中で、リアル店舗の未来像もより進化を遂げることだろう。小売市場の中でも2割以上のシェアを誇る商業施設においても、今以上の変化が見込まれる。

◇   ◇   ◇

8月7日(金)16時~、竹信氏、カウンターワークスの代表取締役CEO 三瓶直樹氏、そしてパルコで長年オムニチャネルを推進してきた林直孝氏と共に、未来の買い物体験をディスカッションする無料ウェビナーを開催します。

カウンターワークス製品「adptOS」を活用し支援している「東急プラザ渋谷」内の、ポップアップスペース専用区画「111」で、どのような消費者インサイトが得られているかなども紹介予定です。

詳細は以下のバナーをクリックしてご確認ください。

上記バナーをクリックすると参加申込ページに遷移します
この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]