中原 祐一郎[執筆] 8/7 8:00

COUNTERWORKSがマーケティング・宣伝・広報担当者に対して実施した「ポップアップストアに関する実態調査」で、2024年に強化したいマーケティング施策として3位にランクインしたのが「ポップアップストア」。「手に取ってみたい」「試したい」「消費者から直に声を聞きたい」など、リアルでしか提供できない価値、リアルだからこそ得られる価値を求めて、「ポップアップ」施策を取り入れる企業は少なくありません。本記事では、インフルエンサーやD2Cメーカーの参入も相次ぐ「アパレル」に着目。メリットや出店費用、費用対効果などをもとに「アパレル」のポップアップストアのいろはを解説していきます。

アパレル事業でポップアップストアを実施する目的

「アパレル」はフランス語由来で、現在はさまざまな生地から製作された既製服から服飾雑貨やアクセサリーなども含めた総称として認知されています。デジタル化なども含め、参入障壁が比較的低いことからプレイヤーが増加しているカテゴリーでもあります。

アパレル業界において実店舗を構えるべき目的は、試着機会の創出、接客による自社アパレル商品を組み込んだファッション提案によるエンゲージメントの向上があげられます

ポップアップストアでは、それらの実店舗販売のメリットに加え、さらに3点の利点があります。

  • SNSフォロワーからのステップアップ
  • UGC(ユーザー生成コンテンツ)活用
  • 限定感を活用したOMO施策

それぞれ解説しますので、詳しく見ていきましょう。

1. SNSフォロワーからのステップアップ、エンゲージメント向上

ブランドの影響力を図る指標として、Instagram、Tiktok、X(旧Twitter)といったSNSの合計フォロワー数が用いられるケースがあります。そのフォロワーが実際に購入体験があるか否かの割合はアパレルブランドごとに違いますが、フォロワーが実際にポップアップストアに足を運んでリピート買い、もしくは初購入するといった消費行動が期待されます

その購入体験を通じ、自社のアカウントとフォロワーとの間のエンゲージメントが向上するといった可能性も期待できます

2. UGC(ユーザー生成コンテンツ)活用

UGC(ユーザー生成コンテンツ)はポップアップストアの運営において、事前にどのようなコンテンツを体験してもらい、拡散してもらいたいかを設計することで効果を発揮します

たとえば、「ポップアップストア限定のアイテムを入手したというシンプルなSNS投稿」「来店者のコーディネート写真を撮影し、ブランドの公式サイトやSNSで公開し拡散してもらう」「ノベルティグッズのプレゼントをフックにしたハッシュタグキャンペーン」などをセッティングすることで、ポップアップストア来店者を通じ、UGCを最大化できます。

3. 限定感を活用したOMO施策

全国各地でイベントを企画できますが、D2Cアパレル事業者においては最初から全国各地をキャラバンするような大型のポップアップストアの実施は、非現実的です。

そのため、ポップアップストアの期間限定という点を生かして、自社ECやモール店舗と連動したOMO施策により、売り上げの最大化を図ることも可能です。

たとえば、「ポップアップストアで新作商品を先行受注販売」といった形式で実施前予告をしつつ、実施後に「ポップアップストアでローンチした商品特集」といった特設ページをECサイト上にキュレーションしておくことで、ポップアップストアに行きたくても行けなかったフォロワーや来店したが購入には至らなかった層(来店後にブランドのSNSをフォロー含む)に対しても購買や来店の意欲を高めることができます。

初出店におすすめのスペースタイプ

アパレルのポップアップストア初出店においては、次のスペースタイプが適しています。

路面店舗

「路面店舗」は、店舗が道路に面して設置されているスペースを指します。商業エリアやビジネス街に位置していることが一般的です。

店前通行量、視認性の高さは実店舗運営において重要な要素。商品ディスプレイによる世界観の演出を仕掛けるアパレルを含むラグジュアリーブランドの直営店舗は、商業施設を除いた場合、ほとんど路面店舗に出店しています。

路面店舗にポップアップストアを出店する最大のメリットは、自社のアパレルブランドの世界観を演出した外装・内装、ディスプレイを多くの店前通行量が期待できる立地で表現できる点です。

店前通行量に関しては、商業施設も同様に期待できます。しかし、施設ごとのルールに則ったVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)では世界観の最大化が難しいことがあります。たとえば、原宿のキャットストリートや明治通りといった通行量が見込める路面店舗では、より自由度が高いブランドの表現が可能です。

近年は、渋谷・原宿・表参道・恵比寿・代官山・中目黒の都心エリアを中心に、ガラス張りで視認性を担保しつつ、スペース内の什器もアパレル事業者のニーズに合わせて、試着室やハンガーラック、トルソーを完備したレンタルスペースも増加しており、準備コストを最小限にしてポップアップストア出店にチャレンジできます

アパレルのポップアップストア、費用対効果はどうなの? コストはどの程度かかる? 知識ゼロからわかる期間限定店舗出店の基礎

商店街

「商店街」は、隠れたアパレル事業者向けのポップアップストアの実施スポットとしてオススメです

商店街は最寄り駅と住宅地をつなぐ立地条件で、日中は主婦・主婦層やシニア層、週末は近隣に住むファミリー層や独身世帯、学生、周辺エリアからの買い物客とさまざまな客層が通行します。

そのため、倉庫キャッシュフロー解消のためのファミリーセール、サンプルセールといったセール会場に適しているほか、東京23区内の主要駅付近に位置する駅チカの商店街の空きスペースを活用した展示即売会にも適しています

自由が丘にある「自由が丘ひかり街」では、雑誌『POPEYE』のWeb編集部による私物バザーが2日間実施され、自由が丘駅から徒歩3分ほどの立地条件もあり、平日ながら大盛況のイベントとなりました。

アパレルのポップアップストア、費用対効果はどうなの? コストはどの程度かかる? 知識ゼロからわかる期間限定店舗出店の基礎

オフィスビル

食物販の記事でも触れたオフィスビルですが、アパレル商品においても有効な出店スペースと言えます。

「母の日」「父の日」「敬老の日」といった家族向けのプレゼント選びの時間がなかなか創出できないオフィスワーカー向けに価格別のファッション雑貨アイテムを販売したり、サングラスや手袋、マフラーといった季節商品の先行販売にもオススメです。

出店費用はどのくらい? 費用対効果は?

気になる出店費用はいくらくらい掛かるのでしょうか?タイプ別にいくつかピックアップしてみます。

路面店舗

出店費用の相場:3万円~1万円
※広さによって異なり、50平方メートル未満であれば3万円~5万円、50平方メートル以上~100平方メートル未満は5万円~10万円、100平方メートル以上は10万円~30万円が目安となります。

出店効果:自社SNSで開催1か月前から事前告知することで、未購入フォロワーの来場を促すスペースとして有用です。また、自社のターゲットに適した立地の路面店舗をセレクトすることで、フォロワーや既存客による来店で発生する行列をフックに店前通行客の入店を促すことも可能です。なお、行列は近隣店舗の迷惑にならないよう整理券配布などは事前準備が必要です。

商店街

出店費用の相場:5000円~2万円

出店効果:商店街は帰宅前の寄り道や日中はアクティブシニア層や主婦・主夫層が多く通行するため、じっくり商品説明が必要な海外原産のファブリック素材、生産方法にこだわった服飾雑貨などの販売会場としても有効です。商業施設と異なり、セールタイミングの開催時期ルールなどは定められていないため、在庫処分や福袋などのセール目的の出店であれば、1-2週間ほど継続実施して段階的にお得度を高めていき、購入動機を高める販促施策と連動させるとより効果的な出店となります。

オフィスビル

出店費用の相場:5,000円~1万5000円

出店効果:近年は上層階をオフィスフロアとして、下層階にショッピングモールや専門店街を展開している複合型のオフィスビルも増加しています。オフィスビルは、試着やサイジングが商品購入前の体験設計に組み込まれているオーダーメイド型のアパレル商品との相性が抜群です。セミオーダーで仕立てるスーツや紳士靴、パンプスは店舗を持たない分、安価にサービス提供できる一方で、ECサイト上の情報だけでは購入まで至らない潜在層も相当数います。薄い興味関心を持っている潜在客層にパーソナライズされたアパレル商品から得られる良い体験を休憩時間や仕事帰りといった可処分時間にてアプローチできるオフィスビルは、出店費用もリーズナブルなため、オススメのスペースです。

出店までに必要な準備

開催スペースを決めるまで

アパレルのポップアップストアの実施に向けて、現地内覧で何を確認すべきかを確認しておきましょう。

日当たり、スペース前の通行量に加え、スペース内備品で利用可能な対象を確認。外壁にポスター貼付けが可能か、什器持ち込みの場合に搬入口の実寸と比較して大きさは問題ないか、スペース前に乗用車の一時駐車は可能か、といった細かい点までチェックポイントを明確にしておきましょう。

見落としがちなのが、アパレルのポップアップストアの実施イベント内のレセプションパーティーでドリンクの提供を企画している場合の対処です。

イベント来店者に無料でドリンク提供するなど商用目的でない飲食物提供の場合は、許可申請を必要としないケースも多いです。ただし、アパレル事業者向けに短期レンタルをしているスペースでは、ドリンク類が一切禁止といったルールで運用している場合もあるため、必ず事前に確認をしましょう。

また、前日搬入やイベント後の事後搬出に関しても無料で対応可能、有料だが対応可能、予約や清掃の都合で対応不可など複数のケースが存在するため、思い込みで準備を進めず、事前にスペースオーナーに相談しましょう。

古着のポップアップストアを開催する場合は、「古物商許可」の証憑を求められる場合や本人確認書類、イベント実施履歴(写真)の提出が必要となるケースもあります。

結果が出るまでに時間を要する検査もあるため、1か月前には出店希望スペースの必要書類を把握し、準備をしておくことを推奨します。

  1. 本人確認書類
    • 法人の場合
      • 登記簿謄本・営業許可書・印鑑証明書等の公的書類の写し
    • 個人の場合
      • 優先順位の高い順に、以下いずれか1点の写し
      • 開業届・マイナンバーカード・免許証・健康保険証等の写し
  2. イベント実施履歴
  3. 営業許可証
    • 『古物商許可証』:古着、アンティークジュエリーを取り扱う場合
    • 『営業許可』:食品やコーヒーといった食物販を商用目的で提供する場合

事例の紹介

アパレルのポップアップストア活用事例として紳士靴の卸売商社として50年以上の歴史があるトーヨーシューズのポップアップストアを活用した小売り進出を事例として紹介します。

アパレルのポップアップストア、費用対効果はどうなの? コストはどの程度かかる? 知識ゼロからわかる期間限定店舗出店の基礎
  • 商材:紳士靴の卸・販売
  • 主な販売チャネル:自社EC、卸販売
  • ポップアップストア出店を検討したきっかけ:コロナ禍を経た業態の拡張

事例のポイント

  • 卸売の販売会場である百貨店やショッピングモール以外のスペースで出店を企画
  • 在庫商品のセール時期にポップアップストア出店を活用
  • ポップアップストアの開催頻度と日数を増加させて売上拡大をめざしている

トーヨーシューズは、コロナ禍で卸専門のアパレル商社が倒産していく姿を見て、今後は卸売のみでは事業の蓋然性が担保できない――という危機感が生まれ、3代目社長が就任したタイミングで、ポップアップストアの展開から小売業態にもチャレンジする意思決定をしました。

本社所在地である大阪のビジネス街でビジネスシューズを販売したいと考え、JR大阪駅直結のオフィスビル「毎日インテシオ」を出店スペースとしてリストアップしました。

当初はオフィスビル内の会議室をレンタルする予定で現地内覧をしていましたが、たまたまエレベーター横でイベント出店しているおにぎり屋さんを発見。視認性が高いこのスペースで出店を実現しました。

アパレルのポップアップストア、費用対効果はどうなの? コストはどの程度かかる? 知識ゼロからわかる期間限定店舗出店の基礎
毎日インテシオ エレベーター前イベントスペース

ポップアップストア出店の効果

トーヨーシューズのビジネスシューズは1万円~2万5000円の価格帯で販売しています。ポップアップストアでは、安い価格帯しか売れないのかな?と想定していましたが、セール価格で販売している「お得感」とポップアップストアが期間限定であることから醸成される「限定感」の相乗効果によって、高価格帯の商品が好調でした。

また、近隣スペースに紳士シャツメーカーが出店する機会があり、同カテゴリのアパレル商品を扱っているという共通項があったため、「将来的に紳士シャツと紳士靴でコラボ出店できたら」といった思いがけない有意義な出会いもありました

ポップアップストアは、次にその場所に行ってもそのお店があるとは限らないため、商品を見かけた通行客が「今、買いたい」という気持ちでパッと買っていきます。

そのため、少々きつくてもブカブカでも履きにくい紳士靴のカテゴリでは、サイズをきちんとそろえることが重要です。

サイズ欠けしていろんなモデルを販売するのではなく、モデルを絞ってでもサイズをきちっとそろえる方が、効果的です。

トーヨーシューズも出店当初は聞かれたサイズをすぐ用意できず、購入に至らなかったお客さんも一定数いたと回顧しています

トーヨーシューズは今後、大阪府内を中心に週に1日の出店ペースから週に2~3日、そして3~4日と次第に開催日数を増やしていきながら、自社商品の小売における最適な販売方法や訴求を探索しています。

まとめ

本記事では、アパレルのポップアップストア展開における解説をしました。

古着やハンドメイドアクセサリーなどのアクセサリー雑貨も含めて、参入プレイヤーが増加し続けているアパレル業界。ポップアップストア自体は珍しいイベントではなくなり、いかに自社商品に合ったターゲットが多く通行するスペースで目的に沿った体験設計を組み込んだイベントを企画・実行するかでポップアップストアの出店効果に大きく差が出るケースも見受けられます

スペースタイプごとの特徴や相性のいい開催形式の理解を深めて、ポップアップストアの出店を通した事業成長の最大化に取り組んでいきましょう。

筆者からのお知らせ

筆者が所属するカウンターワークスでは、商業施設・路面店舗・駅・マルシェ・ギャラリーなど全国の出店スペースをかんたんに予約できる「SHOPCOUNTER」を提供しています。

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