Z世代に支持されるには? “界隈を編集する”ポップアップ“文脈ストア”でアプローチしよう

ポップアップストアは、今やD2Cブランドや大手メーカーにとって定番の販促手法となりました。カウンターワークスの調査では、実施経験者の99%が何らかの効果を実感しています。一方で、Z世代の購買行動は近年、スペックや価格ではなく、“文脈”や“界隈”への共感に重きが置かれるようになってきており、単に「売るための場」ではなく、「自分もこの物語の一部だ」と感じられる体験設計が求められています。本記事では、Z世代に支持される“文脈ストア”の本質と可能性を、具体的な事例をもとに読み解いていきます。
- Z世代の消費行動は「共感する界隈への参加」が軸へ。購買はその文脈への“関与”として発生
- “界隈”を意識したポップアップは“商品を売る場”ではなく“文化を編集・体験する空間”として設計する
- オンラインとの接続やコミュニティ設計を通じて、、その場限りで終わらない「文脈の持続性」が鍵
Z世代の消費行動は「文脈と共感が購買を動かす」。ニーズに応えるポップアップ設計の3ポイント
Z世代は、SNSを通じて日常的に「共感」に触れながら育ってきた世代です。InstagramやX(旧Twitter)、TikTokといったSNS上で、他者の選択や価値観がリアルタイムで可視化される環境で形成された「界隈」こそが、Z世代にとってのリアルな文化圏と言えます。
そのため、ブランドが何を提供しているか以上に、「誰が支持しているか」「どのような背景があるのか」が重要になります。
ポップアップストアにおいても同様で、展示や接客以上に“空気感”や“立ち上がる文脈”が重視されるようになってきていることは、押さえておくべきポイントです。
そんなZ世代の価値観に応えるポップアップを設計するには、次の3つの軸を意識することが重要です。
1. キーパーソン(推し)を起点とした構成
界隈を象徴する存在、インフルエンサーやアーティストなどを中心に空間を構築することで、共感を得やすい接点を生み出します。単なるタイアップではなく、彼らの価値観や表現手法を設計段階から反映させることで、熱量のある来場体験を生み出せます。
2. 世界観の統一
香り・音・照明・温度といった感覚的な要素から、SNS上でのビジュアル、投稿テンプレートに至るまで、トーン&マナーをそろえることが不可欠です。世界観を途切れずに接続することで、「その場にいた感覚」をリアル・オンラインの双方で再体験できます。
3. 参加の余白を用意する
来場者がただ“来る”のではなく、コンテンツの一部として関与できる設計が鍵となります。物理的には、書き込みスペースや持ち帰り可能な冊子、オンラインではハッシュタグ投稿や投票企画、さらにはInstagramライブやTikTok配信など、会場に足を運ぶことができないSNSフォロワー層も巻き込む仕組みを組み込むことで、“界隈全体”を取り込む文脈設計が可能になります。
この3ポイントを組み合わせることで、「ここにいると自分が肯定される」と感じられる空間が実現します。
文脈設計が光るポップアップ事例3選
ケース1:POPEYE Web Presents BAZAAR at 自由が丘ひかり街(2023年8月・2024年3月・2024年6月)
2024年6月27日と28日の2日間、雑誌『POPEYE』のWeb編集部には東京・自由が丘の老舗商店街「ひかり街」でバザーイベントを実施。このイベントでは、編集部メンバーの私物、料理家・土井光さんのアイテムなどが販売され、訪れた人々にとって新たな発見の場となりました。

また、同時に実施した「BOOK SWAP MEETING」では、来場者が自分の本を持ち寄り、『POPEYE Web』が用意した本棚から別の一冊と交換するという、読書好きにはたまらない企画が展開されました。

さらに、バザーで商品を購入した来場者には、『POPEYE Web』編集部が独自に作成した「自由が丘マップ」を配布。編集部お薦めのスポットを巡る楽しみも提供しました。

このイベントは、『POPEYE Web』が掲げる「Come Join us!」の精神を体現するもので、読者との直接的な交流を通じて、ブランドの世界観をリアルな場で共有する試みとして成功を収めました。
ケース2:rom&nd(ロムアンド) at アンノン原宿(2024年12月)
韓国発の人気コスメブランド「rom&nd(ロムアンド)」は、2024年12月23日から2025年1月2日にかけて、東京・原宿でポップアップイベント「ロムアンドのおうち」を実施しました。

テーマは「コスメオタクの友だちの部屋」。空間全体が「rom&nd」の世界観を反映しており、商品の陳列というよりも「推しアイテムの見せ合い」や「お気に入りの使い方を語る」ような、同好の士同士の共有体験が可能な構成を志向しています。
コスメに囲まれた部屋のなかでは、メイクアップ体験だけでなく、フォトスポットやガチャガチャ企画、SNS連動のミッションイベントなどを展開し、来場者は受け身の顧客ではなく“場作りの参加者”となる余白のある設計でした。
「ロムアンドのおうち」は単なる販促施策ではなく、コスメを軸とした界隈における価値観を可視化・共有する点で、Z世代の共感的消費行動に適応しながら、“わたしの好き”という感覚を他者と共鳴し合える文脈型ポップアップの好例といえるでしょう。
ケース3:CULTURE SNACK VOL.01 at コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」および周辺エリア(2024年11月)
2024年11月27日〜30日にかけて、品川・THE CAMPUSおよびその周辺エリアで実施された『CULTURE SNACK VOL.01』は、地域の企業やクリエイターが共同で企画・参加した、街ぐるみのカルチャーイベントです。
コクヨの社員有志による「謎解き部」が主催した体験型コンテンツ、地元パン屋とのコラボによる“朝活ワークショップ”、さらには事務椅子に乗って街を疾走する「いす1グランプリ」など、ユニークなプログラムが複数展開されました。

「CULTURE SNACK VOL.01」の魅力は、単なる地域振興や企業PRにとどまらず、「日常の中の文化」を再編集し、来場者自身がその文脈の一部として関われる設計にありました。
特に、“朝活界隈”や“オフィス文化界隈”といった価値観を共有する層に対して、「品川のパン屋さんを楽しむ朝活ワークショップ」や「コクヨサウナ部によるプロモーション」など、仕事や日常生活と地続きのプログラムを通じて共感を引き出す構成となっていました。
従来型のポップアップとは一線を画し、“生活者の視点に根ざした界隈性”を理解した設計で、優れた事例といえます。
オンラインとリアル:文脈接続のポイント
ポップアップは短期的なイベントである一方、その場で生まれた“界隈性”をどう持ち帰ってもらうかが重要です。そのために、オンラインとの接続設計が欠かせません。
- 来場者が撮影した写真や動画をSNSで拡散できるハッシュタグキャンペーン
- ポップアップ限定商品のEC展開
- 来場者限定コミュニティ(LINEオープンチャットやDiscordなど)への招待
こうした仕掛けを用意することで、ポップアップはその場限りではなく、文脈が持続する「関係性の起点」となります。
実務者視点での設計上の注意点
Z世代は過剰な演出や「売られている」感に敏感です。そのため、以下の3点を押さえることが重要です。
- 界隈性のリサーチと協業:対象となる界隈について十分な理解を持ち、実際にその界隈に属する人物との協業や監修を行う。
- リアルな体温感の演出:作り込みすぎず、体験や共創の余白を残す設計を心がける。
- フィードバックループの仕組み:イベント後も関係を継続できるよう、SNSやデジタル施策を連動させておく。
まとめ:文脈を売る時代のポップアップ
ポップアップストアは今、単なる販売チャネルではなく、「界隈を編集するメディア」へと進化しています。
Z世代にとって“買う”とは、“共感できる文脈の中に参加する”ことです。だからこそ、ポップアップは商品を並べるだけでなく、文化や世界観を立ち上げる場でなければなりません。
ブランドと消費者が新しい関係性を結ぶための「共創の場」として、文脈型ポップアップの可能性はこれからも広がっていくでしょう。