売上2ケタ成長の花王「KATE」が挑む新たな取り組み。反響を得ている「没入型ECストア」「グローバル旗艦店」の特徴を担当者が語る
花王が展開する化粧品ブランドの1つ「KATE(ケイト)」は、1997年のブランド創設以来のロングセラーブランド。2023年12月期における「KATE」の国内売上高は前期比2ケタ増。2024年7月に渋谷に開設したブランド初の旗艦店とECストアの連動施策も進めている。花王の岩田有弘氏(化粧品事業部 KATE ブランドマネジャー)に「KATE」の最新の取り組みとEC戦略を聞いた。
四半世紀以上愛され続ける花王の人気ブランド「KATE」
「NO MORE RULES.(ノー・モア・ルールズ)」をスローガンとし「ルールに縛られない攻めのメイク」をコンセプトに掲げている「KATE」。「メイク市場ナンバーワンブランド」(インテージのSRI+調べ。メイク市場の2021年1月~2023年12月累計売上金額)に選ばれるなど、市場で確かな地位を確立。
2021年に発売し、落ちにくい口紅として爆発的にヒットした「リップモンスター」など、数多くの人気商品をラインアップしている。
「Web限定」を切り口にEC送客
「KATE」で取り扱うカテゴリは「アイシャドウ」「アイブロウ」「口紅」など全9カテゴリ。色展開が多いことや、Web限定の商品を多く取りそろえることも特徴の1つだ。
たとえば「KATE」の単色アイシャドウ「ザ アイカラー」は全108色を展開。そのうちの82色はWeb限定の取り扱いとしている。2021年に発売し、落ちにくい口紅として爆発的にヒットした「リップモンスター」も全17色のうち6色がWeb限定だ。
こうした戦略が「KATE」のEC売上高を押し上げる一因になっており、ドラッグストアなどへの卸販売がメイン販路だが、ECストアでの展開も積極的に取り組んでいる。
「KATE」は、海外ではアジア9カ国(中国、台湾、香港、韓国、タイ、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、フィリピン)でも販売。日本以外の各国のECサイトでも国内同様の販売戦略をとっている。
EC売上は毎年2ケタ成長
「KATE」がECチャネルに進出したのは2018年。まずは「Amazon.co.jp」「楽天市場」といった大手ECモール内に「KATE」の販売ページを立ち上げた。その後、2022年の年末に立ち上がった花王の公式通販サイト「My Kao Mall」を通して顧客が「KATE」の製品を購入できるようにした。かつ、1顧客=1IDで購買データを取得することもできるように改善している。
インテージの全国女性消費者パネル調査によると、「KATE」のEC売上高は毎年2ケタ台で伸長しているという。岩田氏も「『KATE』は市場における化粧品ブランドのEC売上高の平均伸長率よりも高い」と説明している。
花王全体の化粧品事業におけるEC化率、「KATE」におけるEC化率は非公開だが、「化粧品市場全体のEC化率には届いていないものの伸長している」(岩田氏)と言う。なお、化粧品・医薬品市場全体のEC化率は8.57%(経済産業省調べ、2023年)となっている。
没入体験型ECストアで「KATE」製品によるメイクアップイメージを想起
「KATE」は、没入体験型ECストア「KATE ZONE」を2023年1月にオープン。独自の顔印象分析によるメイク提案など、従来のメイク市場ではあまり見られなかった斬新なアプローチでユーザーと製品のタッチポイントを創出している。
「KATE ZONE」は「KATE」が約1年半をかけて開発した。ブランドが提唱する「ルールに縛られない攻めのメイク」を消費者に楽しんでもらうねらいで、製品に関する多様な情報発信や、独自のアルゴリズムを用いた顔印象分析によるメイク提案コンテンツを盛り込んでいる。
Web上に情報があふれている現代では、自分にとって正しい情報を見つけるのが難しい傾向があります。そうした潮流を踏まえ、独自の顔印象分析を通じて、「KATE」らしい新たな提案をしたいと考えました。その軸にはブランド誕生以来、大切にしている「感情を揺さぶる」という方針があり、「似合う」だけでなく「まだ知らない自分に出会う」ような提案も含まれています。
2024年9月現在、「KATE ZONE」では「ZONE」として5つのコンテンツを展開しており、ユーザーは用途に応じて使い分けることができる。
- LAB(ラボ)
- LIBRARY(ライブラリー)
- TUNNEL(トンネル)
- STUDIO(スタジオ)
- ATELIER(アトリエ)
それぞれの特徴は次の通り。
LAB
ユーザーの顔をスキャンして顔の印象を分析し、似合うメイクや眉の形、印象チェンジをねらうメイクを提案する。さらに、なりたいメイクの画像から「KATE」の製品を提案することもできる。
LIBRARY
ユーザー向けに、メイクにまつわるあらゆる「知」を蓄積しているコンテンツ。「KATE」製品の使い方、メイクのコツ、インフルエンサーによるメイクの仕上がりイメージなども閲覧できるようにしている。
TUNNEL
「KATE」製品の口コミや製品ランキングを随時更新し、配信する。
STUDIO
「KATE」から最新のトレンドを提案・発信する場として、「KATE」のYouTube動画やライブ配信を閲覧できる。
ATELIER
メイクアップのさまざまなイメージが集まり、ユーザーが新たなメイクを探求できるアトリエと位置付けている。
メイクアップ後のイメージから製品を提案したり、製品ごとにメイクアップのイメージを表示したりする。ユーザーはバーチャル上で自分専用のアイシャドウパレットを作ることもできる。
「顔印象分析」を体験
5つのゾーンのうち最も人気が高いのは、ZONE1で体験できる「分析コンテンツ」。実際に筆者も顔印象分析を体験してみた。
まずは、顔の印象から似合うメイクを提案する「KATE SCAN」を体験。指示に従いパソコンやスマートフォンで顔写真を撮影すると、顔タイプの診断結果が示される。筆者の顔タイプは、クールな要素と温かい要素を持ち合わせている「RITO(璃灯)」だった。
岩田氏によると、「KATE SCAN」の分析手法は「KATE」独自のロジック。筆者が他社のパーソナル分析のサロンで顔タイプ診断を受けた際は「エレガント」に分類されたが、「KATE SCAN」の診断結果は一般的な診断よりも細分化されていると感じた。
「KATE」製品の購入動機に
顔タイプに沿った似合うメイクやおすすめの「KATE」製品も示される。「KATE」製品を使ったメイクアップのイメージ画像では、実際にメイクした場合の仕上がりが完全には想像できなかったものの、「『KATE』を使ったメイクを実際にやってみたい」という動機づけにはなった。
続いて、「PERSONAL MAKEUP」のEYEBLOWを体験した。顔写真を撮影すると、おすすめの眉の形とアイブロウメイクが提案される。おすすめカラーとしては「グレー」や「ブラウン」が提案されたが、ニュアンスカラーとして「オレンジ系」が提案された。この点は「いつもと少し違う自分に出会う」メイクの提案をされたと感じた。
実は、1度目の顔タイプ分析と2度目の眉に関する診断では、顔タイプの診断結果が異なっていた。1度目はクール ×温かい印象の「RITO (璃灯)」、2度目はクール ×かっこいい印象の「KOTO (光透)」。岩田氏によると、写真の撮り方やメイクによって診断結果が多少変わることはあるという。
グローバル旗艦店からのEC送客も順調
「KATE」は、2024年7月25日にブランドとして初となるグローバル旗艦店「KATE TOKYO 渋谷サクラステージ店」をオープンした。リアルとデジタルを融合した「KATE」ならではの体験ができる店舗としている。「予想以上の来客があり、売上高も順調に推移している」(岩田氏)
入口付近に設置されている「KATE iCON BOX(ケイト アイコンボックス)」は、来店者からの人気が特に高い。利用は無料で、「週末は行列ができるほどの反響」と岩田氏。顔印象分析の結果によって、個々の利用者におすすめのアイシャドウを4色提案する。アイシャドウを購入する場合は専用ケースと製品がボックスの出口から出てくる仕組みだ。おすすめされたカラーをそのまま購入する人も多いという。
店舗内の魔法陣アートにユーザーがスマホをかざすと、ユーザーをスマホで「KATE ZONE」へ誘導し、Web上で似合うメイクを診断できる仕組みも導入している。これは、リアル店舗からWebへの導線の役割となっている。
グローバル旗艦店では、実店舗で販売する商品ラインアップのなかで唯一、Web限定色を購入できる。そのため、Web上での仕上がりイメージと実際の製品の色味を確かめたうえで購入できるようになっている。
LINEの友だち登録を促す仕組み
グローバル旗艦店の来場記念として、自分だけのオリジナルチケット(ステッカー)を作成できる機械も店内に設置している。作成にあたり「KATE」公式LINEの登録を必須としており、LINEアカウントの登録者数アップを図っている。
チケットはイラストレーターのNAKAKI PANTZ(ナカキパンツ)さんがデザインした5種類のイラストをカスタマイズできる。
LINEで友だちになると、アカウントから「KATE ZONE」を体験することもできます。来店記念のチケットを作成したお客さまがLINEから流入して、顔印象分析などのコンテンツを体験いただくケースが想定以上に多くなっています。(岩田氏)
「KATE ZONE」は、今後、多言語対応を進め日本以外のアジア各国でも利用を推進していく計画だ。