脱・広告依存のマーケティングで、EC売上30%増に成功。「資さんうどん」の通販課課長に聞くEC戦略

「資さんうどん」で知られる資さん。2023年7月に通販課課長に就任した朝長氏は、既存商品の改良、新商品の開発、従前のマーケティングの改善まで、EC販路をさまざまな角度から改革している。これまでの取り組みを朝長氏に聞く

松原 沙甫[執筆]

2月25日 7:00

北九州発祥のうどんチェーン店「資(すけ)さんうどん」を運営する資(すけ)さんは、オンラインでは自社ECサイト「資さんストア」や大手ECモールのEC販路を展開している。2024年10月からはすかいらーくグループの傘下となった。「資さんうどん」のファンが多く利用する「資さんストア」では、従前と比べて広告出稿を控えたにもかかわらずEC売上が前年比30%増加しているという。EC事業の指揮をとるのは、マーケティング部 通販課課長の朝長慎也氏。資さんのEC販路で成功につながった転換や、ヒットにつながった商品開発の舞台裏など、数々の取り組みを聞く。

未経験から通販課課長に就任。商品開発、マーケティングの両方で好実績

――資さんの事業規模、EC事業の推移や足元の動きについて教えてほしい。

朝長慎也氏(以下、朝長氏)資さん全体の売上高は152億円で、ECのシェアはまだ1パーセント以下。ECの新規顧客獲得やリピーター育成にはまだまだ伸びしろがあると見ている。

「資さんストア」で取り扱っている商品の一例
「資さんストア」で取り扱っている商品の一例

――EC事業における自身の役割、担当業務は。

朝長氏ECサイトの運営、マーケティングの他、施策立案や商品開発を担っている。ちなみに略歴は、資さんに中途入社。入社以前は、飲食店の店舗スタッフとして長く働いていた。資さんに中途入社するまではECの運用経験は全くなかった。

資さんの既存社員は中途入社の私を快く受け入れてくれた。ただ、ECのノウハウが自分になかったので入社当時は大変だった。その課題を解消するため、EC専門用語の習得といった勉強、実践からマーケティングノウハウを吸収し、現場で積み上げてきた

――EC事業における自身のチャレンジを教えてほしい。

朝長氏既存商品の仕様変更、主力商品のEC向け商品の開発、顧客獲得・売上アップに向けたマーケティング方法を従前のやり方から変えたことだ。

既存商品の仕様変更について、つゆを濃縮つゆに変更した例を説明したい。濃縮に変更したことでつゆのサイズを小さくでき、商品そのもののサイズを縮小。お客さまの家庭で保存いただく際、冷凍庫に占めるスペースの削減、利便性向上、製作リソースの圧縮につながったりしている。

このほか、主要商品である「肉ごぼ天うどん」をEC向けに商品化し、2024年5月から販売をスタート。ECでの広告出稿を取りやめる一方、情報発信を強化して興味を持つユーザーにアプローチする取り組みを始めた。

店舗で人気ナンバー1の「肉ごぼ天うどん」を待望のEC商品化

――「肉ごぼ天うどん」は、店舗「資さんうどん」で人気ナンバー1のメニュー。EC向けの商品を開発するにあたり、店舗に劣らない味を追求するのは苦労があったのではないか。

朝長氏:大変だった。お客さまからは「肉ごぼ天うどん」を「資さんストア」で販売してほしいという期待の声が多くあり、商品化へ向けて開発が重ねてきた。しかし、「ごぼ天」の特徴である食感やサクサク感などの再現が難しく、社内からは「店舗と同じ味わいを再現できない限り商品化は難しい」という意見が多かった。

パートナー企業との協働の末、「資さんうどん」ファンのお客さまが家庭でも「肉ごぼ天うどん」を味わえる商品開発に成功。加熱することで食すことができる冷凍食品としてECでは販売している。ECの「肉ごぼ天うどん」は、うどん麺、ごぼ天、濃縮のうどんつゆ、肉うどんの具を封入した商品。店舗と同様にECでも「肉ごぼ天うどん」が人気NO.1の商品となっている。

家庭で「肉ごぼ天うどん」を作れる冷凍商品をECで販売。「資さんストア」では3人前入り3590円 (税込)、5人前入り4940円 (同)を展開
家庭で「肉ごぼ天うどん」を作れる冷凍商品をECで販売。「資さんストア」では3人前入り3590円 (税込)、5人前入り4940円 (同)を展開

脱・広告依存のマーケティングで前期比30%増の実績

――マーケティング方法の変更とは。

朝長氏広告に頼らないマーケティングをめざすため、プレスリリースやSNSの配信など情報発信を強化した。特にLINEの開封率は高い。LINE公式アカウントのフォロワーは約65万人(2024年9月末現在)。ゆくゆくは通販専用のLINEアカウントを新設する予定だ。

私が通販課課長に就任する以前はあまり行ってこなかったが、ECでのキャンペーンは月に1度のペースで開催。キャンペーンの告知はXの公式アカウントなどで実施している。

資さんが展開しているキャンペーンの一例
資さんが展開しているキャンペーンの一例

従前は、ECの新規獲得は「楽天市場」などECモールへの出稿を主としていた。2023年7月に私が通販課課長に就任してからは、運用を見直し、こうした広告出稿をストップ。SNSなど、広告なしでファンに発信できる施策を強化してきた。2024年8月期のEC売上高は前期比30%増となっている。

店舗で培った経験をEC運営でも発揮

――EC以外の業務経験がECに生きているエピソードを教えてほしい。

朝長氏:ECは店舗と違ってお客さまの顔が見えないことが、店舗経験が長かった自分にとって最初のハードルだった。ECサイトのUI・UX向上においては、店舗での接客経験を思い返しながら、顧客満足度の高いサイト作りをめざしている。

店舗もECも、最も大切なのは接客。ECの商品詳細ページは、店舗に置き換えると接客に該当する。店舗で接客をするときと同じように「わかりやすく、丁寧に」を心がけ、「注文したくなるくらい商品がおいしそうに見えるか」を重視している。同じように考えると、ECにおける購入確定までの工数は、店舗でいうと商品を注文するまでのプロセスに該当する。

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