楽天の“無人配送”が東京・晴海近辺でスタート。「自動配送ロボット」の実力は?
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楽天グループ(楽天)は、2024年11月6日から東京都中央区晴海周辺において、自動配送ロボット(ロボット)による小売店や飲食店の商品配送サービス「楽天無人配送」を開始した。楽天は2019年からロボットを活用した実証実験やサービス提供を実施しており、都内では初の試みとなる。サービスの狙いや強み、これまでの反響を楽天グループ 無人ソリューション事業部 ロボット事業課 シニアマネージャー 山下福太郎氏に聞いた。
注文を受けて即時配達、受取時間は15分ごとに設定可能
楽天が2024年11月から展開している「楽天無人配送」は、専用サイトからスマートフォンで注文すると、対象店舗の商品を指定した受取場所で受け取れるサービスだ。
現在は東京都中央区晴海全域、月島と勝どきの一部で展開しており、「スターバックス コーヒー 晴海 トリトンスクエア店」「スーパーマーケット文化堂 月島店」「吉野家 晴海 トリトンスクエア店」の合計3店舗・5300品以上が対象となる。利用時間は各店舗によって異なるが10時00分~21時00分が基本で、配送料は100円。
利用手順は次の通り。
- スマートフォン向けの専用サイトで「販売店舗」「商品」を選択し、「受取場所」「時間」を指定して注文する
- 専用サイトで配送状況を確認する
- 到着の通知が届いたら指定場所に移動し、機体の操作パネルで暗証番号を入力して商品を受け取る

受取時間は15分ごとに設定でき、受取場所は約90のスポット(2025年2月時点)から選択できる。晴海周辺のほとんどのマンションやビル前での受け取りが可能で、玄関前とはいかずとも、数分以内で到着できる場所までは届けられるという。配達時間の目安は最短で30分以内、混雑時を除いて1時間以内での配送が可能だ。
ロボットの積載容量は24リットル(スーパーの大きなレジ袋で2~3個分)で、保温機能を搭載しているほか、保冷ボックスにより冷凍・冷蔵商品も配送できる。台風や大雨などの悪天候時は難しいが、通常の雨天や多少の積雪なら運行できる。
EC運営企業としての「技術力」と「重ねた実績」が強み
楽天では、配送需要の増加や人手不足といった物流の課題解消をめざし、2019年からロボットによる無人配送事業に着手。千葉大学、神奈川県横須賀市の「うみかぜ公園」や馬堀海岸住宅地、茨城県のつくば駅周辺など、複数エリアでの実証実験やサービス提供を通じて知見を溜めてきた。
私有地から公道へと配送領域を年々拡大し、それに伴ってロボットの台数も増やしながら対応するシステムやオペレーションを構築し、実現可能性を検証してきました。また、利用者からのリクエストへの改善を積み重ねることで満足度も高めてきました。(山下氏)

今回、晴海周辺でサービスを開始したのは、大規模マンションが多く人口密度が高い、ターゲットとなる30~40代の子育て中の世代が多く住んでいる、道幅が広いなどの理由から。
タワーマンションの場合は、エントランスから公道までの距離があることから、ロボットが敷地内まで走行して届けるケースもある。各マンションの管理会社などと連携して、安全に運営できる停車場所を決定したそうだ。
楽天が晴海周辺のサービスで活用しているロボットと遠隔操作システムは、米国企業・Cartkenが開発しており、日本仕様に適合させた製品を使用している。一方、利用者向けの注文サイトと事業者向けのオペレーションシステムは自社で構築し、ロボット側の遠隔操作システムなどとAPI連携させることで、スムーズな運営を実現しているという。

Cartkenのロボットは、段差に強い6輪設計で走行性能が高く、実績も十分にあるため導入を決めました。裏側のシステムには楽天が築いてきた会員基盤などのアセットを活用することで、効率的なオペレーションを実現しています。(山下氏)
楽天が構築した注文サイトには、利用者の不安要素を解消するための機能が多く採用されている。たとえば、ロボットの現在地や到着予定時間を表示したり、ロボットが到着したときにSMSと自動音声電話で通知したりしている。また、小売店や飲食店など事業者向けのロボット配送管理システムは注文と配送を一元管理できる仕様で、感覚的に操作できるように工夫されている。
トラブルのほとんどは遠隔操作で対応できる
ロボットによるスムーズな配送が実現できれば、物流の課題解決につながるはずだが、そのサービス品質は気になるところだ。楽天によると「配達達成率や定時配達率は非公開だが、高い水準に至っている」とのこと。
ロボットは人間に比べて道に迷うなどのトラブルがなく、定時配達を達成しやすいため、今回の新サービスでは到着時間を15分ごとのスロットで設定しています。現状はロボットを初めて利用するお客さまが多いですが、わかりやすい通知などにより受け取りやすい仕組みを作れています。(山下氏)

ロボットは、基本的な走路をあらかじめマッピングしておくことで自動走行をかなえている。祭りなど大規模なイベントで道路が封鎖される場合は事前に周知されるため、それに応じて走路を変更することで遅延を回避している。また、工事現場やゴミが歩道にまで広がったゴミ捨て場などで大きく迂回する必要がある場合は、自動走行で迂回する、または遠隔操作の監視者が操作して対応しているという。
走行中に子どもに周囲を囲まれてしまうなど走行が続行できなくなった際は、監視者が音声でアナウンスすることも可能だ。機体の不具合で走行が突如ストップしたり、事故などに巻き込まれたり、ロボット自身での処理が難しい場合は、監視者が現場に駆けつけて対応する。ただ、これまでのところ監視者が出向く事例はほとんど発生していないという。

その他に起こり得るトラブルでは、走行中の揺れによる液体などの漏れがある。サービス開始前にさまざまなルートで各社の商品を運ぶテストを実施しており、通常時は問題なく配送できることを確認しているが、大きめの石が落ちていたなど予想外の状況では、漏れなどが発生する可能性があるそうだ。また、ロボットの到着後に一定時間が経過しても利用者が受け取りに来ない場合は、電話連絡を行っている。
まずは晴海周辺に注力、店舗数やエリアを拡大していく
2019年からサービス展開を重ねてきた実績から、これまでのところ大きなトラブルなくサービスを提供できているという。ただ、現状は同事業で採算が取れているわけではない。利用者の需要を確認し、満足度を上げながら事業体制を構築していく方針だ。

現在、当社の利益になるのは1回100円の配送料金のみで、商品代金は店頭で購入する場合と同じ価格にしています。今後、技術進化により1人の監視者が監視できるロボットの台数が増えていけば、ロボット利用のコストは下がっていきます。コスト削減の状況と需要を見て、配送料や商品代金を再検討できたらと考えています。(山下氏)
直近の展望としては、まだ一部での提供にとどまっている月島・勝どきのエリアを拡大すると共に、利用できる店舗数を増やしていくという。新たなエリアの開拓も視野に入れているが、まずは晴海周辺での成功事例をつくることが先決だ。