パルのアパレルブランド「DISCOAT」に学ぶ社内報の波及効果。「スタッフのモチベーション」「接客ノウハウ」の向上を実現する社内報作りとは

マニュアルを作るばかりが人材の育成につながるとは限らない――。パルのアパレルブランド「DISCOAT」では、社内報を作成し、顧客の声や他店のスタッフの取り組みを紹介している。トップダウン型のマニュアルではなくても、社内報を通じて自然とスタッフのスキルアップや士気向上につながっている

高野 真維[執筆]

2月17日 8:00

パルが展開するアパレルブランドの1つ「DISCOAT(ディスコート)」が発行する、ブランドスタッフ向けの社内報が、スタッフのモチベーションアップや接客ノウハウの知見向上に役立っている。その旗振り役となり、社内報の企画・制作を担っている、パルの細貝真梨子氏(DISCOAT CX/CS担当)に取り組みを聞いた。

スタッフのモチベーションアップや育成といった観点で、EC担当者にとっても学びがある。活躍しているスタッフの取り組みや実績を社内で取り上げることは有意義と言えるだろう。

コロナ禍に創刊。きっかけは「店舗スタッフのモチベーションを高めたい」

パルは、運営するファッションブランド「DISCOAT」で、社内報「STAFF SPOTLIGHT」を2021年5月に創刊した。ページ建ては1号当たり約30ページで、現行4月と10月の年2回発行している(休刊のケースもあり)。

顧客に対するアンケート調査の結果を基に、店舗スタッフにインタビューする内容としており、店舗を中心とした全国のスタッフが誌面を通じて接客術などを参考にできる内容となっている。読者となるスタッフの知見向上だけでなく、誌面でとりあげられたスタッフのモチベーションアップ、さらには、「『STAFF SPOTLIGHT』でとりあげられるようなスタッフになりたい」という士気向上にもつながっているという。

細貝氏が手がける社内報「STAFF SPOTLIGHT」
細貝氏が手がける社内報「STAFF SPOTLIGHT」

創刊した2021年夏は、本格的なコロナ禍に突入していた時期。店舗経由が売り上げの大部分を占める『DISCOAT』ブランドは、売り上げが落ち込んだ時期でした。コロナ禍の販促施策として、ECに力を入れるだけでなく、コロナ禍のご時世でも店舗スタッフのモチベーションを高めたいという思いで同僚スタッフが創刊しました。(細貝氏)

パル DISCOAT CX/CS担当 細貝 真梨子 氏
パル DISCOAT CX/CS担当 細貝 真梨子 氏

注目店舗のスタッフにインタビュー

現在は創刊時のスタッフではなく、細貝氏が「STAFF SPOTLIGHT」の誌面の企画や取材をほぼ1人で担当している。

細貝氏が担当するようになったのは2021年の年末から。創刊時は「DISCOAT」の顧客からアンケートでコメントを募り、アンケート結果を掲載する誌面が中心だったが、読者となるスタッフの学びやモチベーション向上につなげる目的で、誌面の構成を刷新。各店舗の顧客からのアンケート結果をベースとしつつ、注目店舗のスタッフにインタビュー形式で取材するようにした。

アンケートを通じて実際に集まった顧客の声の一例は次の通り(「STAFF SPOTLIGHT」の掲載から抜粋)。

  • はじめて入ったのですが、店員さんも雰囲気が良く、今日は唯一買ったお店になりました!
  • 商品のサイズについて質問したかったのですが、すぐに声がけしていただき、気持ちよく答えて下さいました。私が着ていたワンピースもこのお店のものと気づいてもらってうれしかったです。
  • 販売員の方達は、客が見ているアイテムについて店内にあるアイテムでコーディネート提案してくれたり、サイズ感の説明もわかりやすくしてくれたり、イメージが湧きやすく購買意欲につながりました。コロナ禍でネットで買い物する事が増えていたけど、接客も含め久しぶりに実店舗で良い買い物ができてとても満足。

誌面を通じて接客技術が向上

細貝氏は誌面で、このように顧客からの反響が大きかった店舗のスタッフにインタビュー。誌面によると、スタッフからは今後めざす姿として「自分だけでなく、どのスタッフが対応してもお客さまに満足してもらえるようにめざしたい」「商品だけでなく、『店の雰囲気が良いから』という理由でも入店いたただけるお店をめざしたい」といった声があがっている。

「顧客と接する際にどのようなことを心がけているのか」「具体的に工夫していること何か」など顧客のファン化につながる振る舞いや、活躍しているスタッフの今後の目標を誌面に掲載することで、読者となる社内スタッフが自分に落とし込んでスキルアップしやすい構成にしている。

細貝氏は、各店舗のスタッフが自分たちで考えた顧客コミュニケーション術、顧客体験向上のために準備していること、工夫して実施していることなどをインタビューで引き出している。

「STAFF SPOTLIGHT」を読むスタッフは、他店のスタッフの取り組みを読んで、「自分が担当する店舗に取り入れてみよう」とか、過去に自分の店舗でやったことがなかったらやってみようとかアクションにつなげる人が多いです。

それによってお客さまが喜んでくれてリピートにつながることがわかってくると、接客やおもてなし技術の向上に波及する効果が出てきました。

あらかじめマニュアルを作成して、それに従ってもらうことよりも、「STAFF SPOTLIGHT」を読んで自然と接客技術が向上していくような流れを作り出せたことは、ビジネスの面でも良い結果が期待できる流れになってきたと思います。(細貝氏)

顧客アンケートで「接客の振り返り」「顧客満足度アップを考える」機会を創出

店舗を訪れた顧客へのアンケートは社内内製のアンケートフォームで実施している。

まず、アンケートフォームにジャンプするQRコードを作成し、それをカードに貼付。店頭でお買い上げいただいたお客さまにカードをスタッフが手渡しして、アンケートの記入を促すというやり方でした。それを集計して社内報に落とし込んでいます。どこの店舗にどのくらいの数、どのような顧客の声が集まっているか......という観点です。

お客さまの回答のなかから、「STAFF SPOTLIGHT」にどのような内容を掲載するか、どの店舗の誰をピックアップしていくのかを決めています。(細貝氏)

入力履歴から、アンケートに入力した顧客の回答日時がわかる。スタッフ自らが接客した顧客にアンケートの協力を呼びかけているので、店舗スタッフにとっては「このアンケートを回答してくださったのは、もしかしたらあのお客さまかもしれない」という想像ができるようになり、自分の接客を振り返る機会にもつながった

「STAFF SPOTLIGHT」で掲載しているスタッフインタビューの一例(スタッフ名にはボカシを追加)
「STAFF SPOTLIGHT」で掲載しているスタッフインタビューの一例(スタッフ名にはボカシを追加)

全国の「DISCOAT」店舗で顧客アンケートを展開すると、1回のアンケートで寄せられる顧客からの回答は約1000件。「STAFF SPOTLIGHT」の発刊に合わせて、年に2回実施している。アンケートの設問内容はおよそ20項目。

「STAFF SPOTLIGHT」の誌面インタビューでは、スタッフによっては「顧客と接する際にどのようなことを心がけているのか」「具体的に工夫していること何か」を話している。各店舗のスタッフが自分たちで考えた顧客コミュニケーション術、顧客体験向上のために準備していること、工夫して実施していることなど。

店頭におけるお客さまアンケートは、ブランドやスタッフに対する、お客さまのマインドがかなり影響していると思います。それはスタッフも同じで、お客さまに対するホスピタリティーがいかに整っているのか問われます

「STAFF SPOTLIGHT」の誌面作成に関連する顧客アンケートを通じて、お客さまに対してどのような心意気で対応していけば、お客さまの満足を得られる体験を提供できるのか、またリピートしていただけるのかを自然と考えられるようになったスタッフが、当初想定した以上に多いと感じています。(細貝氏)

「STAFF SPOTLIGHT」では注目店舗の評価を数値化して掲載。顧客ロイヤルティーを示すNPSだけでなく、「声のかけやすさ」「店内の好感度」といった項目もある(スタッフ名にはボカシを追加)

優秀なスタッフの育成につながる社内報をめざす

「DISCOAT」では、オンライン、オフライン両方のチャネルで活躍するスタッフも台頭している。

一例をあげると、お客さまに対するコメント返しがうまいなどオンラインでの顧客対応が得意で、実店舗でも接客が得意なスタッフは、仮にフォロワー数が極端に多くなくても、売上金額がかなり上位に来ています。

自分が抱えているお客さまの特性を確実に捉えていて、その上でお客さまに響く文言を選んだり、「絶対におすすめしたい」という熱量を一定のレベルで保っているからだと思います。そのようなスタッフは優秀ですし、そうしたスタッフを確実に育成して、増やしていける社内報にしていきたいです。(細貝氏)

細貝氏は、次回の「STAFF SPOTLIGHT」発行は2025年5月ごろを見込んでいる。

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