松原 沙甫[執筆] 8/26 8:30

EC業界で活躍する“人”にフォーカスし、個人の功績や活躍を表彰する「ネットショップ担当者アワード」で、ロールモデルとなり得る人物を選出する「ベストパーソン賞」に、集英社のブランドビジネス部 部長 兼 第10編集部 部長の湯田桂子氏を選出した。「コンテンツ力」「データを活用した『届ける力』」を掛け合わせ、EC事業でヒット商品を創出し続けていることが受賞理由。湯田氏は長きにわたって集英社で複数の雑誌編集長を歴任、編集部の部長も務め、2022年12月から通販事業を担当するブランドビジネス部の部長を兼務している。EC事業でも成果を出すための、出版社ならではの独自戦略や、EC業界で求められる人物像を湯田氏に聞いた。

EC業界の“スゴい人”を表彰する「ネットショップ担当者アワード」、自薦・他薦の応募を受付中!

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独自商品でほかのファッションECと差別化

「ここでしか買えない」付加価値を意識

集英社のECサイト「ハッピープラスストア」の売上高は堅調に推移しており、2023年5月期のEC事業売上高は前期比11.5%増の58億円。サイトリニューアル以後、「ここでしか買えない商品」を合言葉に取扱商品の方針を見直し、コラボ商品や別注商品といったオリジナル商品を強化したことが寄与している。

雑誌制作で培ってきた「読者の好みと心理をよく理解する」というノウハウを商品開発にも応用。顧客の心理を想定したオリジナル商品の開発が、「ここでしか買えない」という希少価値を生み出している。

集英社のファッションECサイト「ハッピープラスストア」
集英社のファッションECサイト「ハッピープラスストア」

どこでも買える商品だと価格競争になってしまいます。集英社は出版社でコンテンツメーカーでもあります。コンテンツを増やすという感覚で、通販事業においてもコンテンツで勝負していると思っています。(湯田氏)

集英社 ブランドビジネス部 部長 兼 第10編集部 部長 湯田桂子氏
集英社 ブランドビジネス部 部長 兼 第10編集部 部長 湯田桂子氏

おしゃれ感+体形カバー力に優れた「イーバイエクラ」が人気

「ハッピープラスストア」の主要顧客層は30代~50代女性で、「イーバイエクラ」「トゥエルブクローゼット」「エムセブンデイズ」「スアデオ」のオリジナル4ブランドが柱。これまで、この顧客層が満足できる品ぞろえや商品開発にこだわってきた。

「ハッピープラスストア」が展開する4つのブランド「イーバイエクラ」「トゥエルブクローゼット」「エムセブンデイズ」「スアデオ」
「ハッピープラスストア」が展開する4つのブランド「イーバイエクラ」「トゥエルブクローゼット」「エムセブンデイズ」「スアデオ」

なかでも、突出した人気となっているのは「イーバイエクラ」だ。「顧客のボリューム層となる50代女性は可処分所得が比較的高い上に、おしゃれを気にかける人も多い」と話す湯田氏。しかし、手ごろな価格で自分に合った服を見つけるのは難しい。こだわったデザインで値ごろ感があり、体形をカバーしながら、おしゃれ感があるアパレル商品を紹介していることが、ヒット商品につながっているようだ。

「イーバイエクラ」で展開する商品の一例
「イーバイエクラ」で展開する商品の一例

厳しい審査基準で商品開発

「ハッピープラスストア」でのヒット商品の開発秘話を聞いてみた。

たとえば「イーバイエクラ」。「エクラプレミアム編集室」というチームがあり、それぞれの商品開発を手がける編集者がディスカッションを行う。編集者の目線で捉え「50代だったら何を着たいのか」「どのようなおしゃれをしたいのか」といった厳しい基準を設定。「独自の基準をクリアした、こだわりや納得感がある商品を世に送り出していることがヒット商品につながっています」(湯田氏)

ヒット商品の一例であげたのが、「イーバイエクラ」で販売している「大人チュールスカート」(税込2万900円)。ふくらはぎまでの長さのスカートの上に、チュール生地を2枚重ねであしらった商品で、ウエストは総ゴム。淡いトーンのカラー展開、着やすさ、おしゃれ感があり華やかに着られるシルエットが反響を呼び、発売直後から人気に火がついた。引き合いの多さから、現在も再入荷と在庫切れを繰り返している。色違いで買いそろえる顧客も多いという。

「イーバイエクラ」ヒット商品の1つ「大人チュールスカート」
「イーバイエクラ」ヒット商品の1つ「大人チュールスカート」

「大人チュールスカート」は、スカート単体だけではなく、ほかのファッションアイテムとの相性の良さも特徴だ。トップスはニットでもTシャツでも合わせやすい。靴はスニーカー、ブーツ、パンプスまで、どれを選んでも相性良く履ける。

「普段の服装に取り入れてコーディネートしやすい」「体形をカバーできる」「暑すぎず寒すぎない着心地」「華やかさがある」といった、50代の気持ちに寄り添う商品開発に力を入れた点が、ヒット商品につながった。(湯田氏)

狙った通りに「売れる」商品開発とはどのようなものか。湯田氏は「商品開発の時点で『どの商品をヒット品番にするか』を計画するのは難しい」としつつ、たとえば10用意した商品のうち、「これはあまり買ってもらえないかもしれない」という結論に行き着く商品は検討をつけやすいと指摘している。

一番売れる商品を当てるのは難しいけれども、10ある商品のなかから3つ「これは売れそう」というものを見いだすことならできます。そして鏡を見ながら試着をし、ディスカッションを重ねながら「自分たちも欲しい」「ファンにこれを着てもらいたい」という商品に磨いていきます。(湯田氏)

ファッション誌編集部の経験を生かしたECマーケターに成長

成果がすぐにデータで可視化される点に醍醐味

湯田氏はこれまで、集英社が発刊する女性誌の「マキア」「バイラ」「ノンノ」などの編集長を歴任してきた。現在はEC事業を担当するブランドビジネス部の部長と第10編集部の部長を兼務している。編集部での経歴がEC事業にも生かされているかについて聞いたところ、「共通する部分とそうでない部分があります」(湯田氏)と説明する。

女性誌の編集部では「読者の心理を読む」ことを常に追求してきた。読者が何を考えているのかを常に観察して想像するという工程は、EC事業と共通しているという。雑誌とECの大きな違いは、雑誌は徐々に部数が増えたり、ファンをつかんでいったりといった地道な手応えの積み重ねだが、ECはすぐに結果が数字で表れること。「日次・週次で結果がわかるのは刺激的で、それがECの仕事の醍醐味だと感じます」(湯田氏)

自分たちが投じた施策の結果が「サイトPV」「購買率」「売り上げ」といった数字に直結して見えるECはまさに、マーケティングの腕の見せ所。商品Aを買った人が、次にどの商品のページを閲覧したのか、類似商品Bはなぜ買ってくれなかったのか.....といったお客さまの動きがオンライン上ですべて見て取れるというのは、紙媒体のファッション誌の仕事が長かった自分にとって新鮮でした。(湯田氏)

雑誌の編集部を経験した強みも生かせている。商品を市場に売り出した後、いかにその商品を伝えていくかという点だ。これは、出版社が得意とするコンテンツ力。市場で商品の販売をスタートした後、「いかにその商品の魅力を伝えるか」という段階で出版社ならではの力を発揮できる。このコンテンツ力の高さが、上位2%の商品が売上高の半数を占める「ハッピープラスストア」の売り上げ構造につながっている。

コンテンツの一例(集英社のファッション雑誌「eclat(エクラ)」の公式通販サイトで「大人チュールスカート」を紹介)
コンテンツの一例(集英社のファッション雑誌「eclat(エクラ)」の公式通販サイトで「大人チュールスカート」を紹介)

カタログ通販ならでの難しさを実感

集英社はECの運営だけでなく、雑誌の誌面を活用した通販事業や通販カタログの発行もしている。

第10編集部は、「紙・Web・通販の三位一体」が合言葉になっているくらいの意識で取り組んでいます。ECサイト「ハッピープラスストア」ではコマースメディア室の担当者が、ヒット品番ばかりを集めた「スタンダードブック」という通販カタログを制作。それを顧客に送付することでコンバージョン率のアップやヒット商品の創出につなげています。(湯田氏)

通販カタログ「スタンダードブック」(画像はオンライン版)
通販カタログ「スタンダードブック」(画像はオンライン版)

一方、「スタンダードブック」は紙媒体ならではの難しさもある。通販事業者が発行する通販カタログでも同じことが言えるが、カタログ向けの商品開発は、10か月から1年前に準備するため、気温や環境、流行などを事前に予測するのが困難となる。

商品を作り込んだ後、誌面向けに撮影を行い、誌面内容を編集してからカタログを印刷するという、時間がかかる手順を踏むからだ。たとえば暖冬は、冬物のコートのような重衣料の売り上げに当然影響してくる可能性が高い。誌面発売のタイミングで気温が例年よりも高いと、厚手のコートを訴求しても売れないからだ。

その反面、仮説が当たったとき――つまりは、発行タイミングのニーズにぴったり合う商品を訴求でき、売り上げにつながったときの喜びは大きいという。

「通販カタログ用に撮影した新商品が売れない」という状況に陥ってしまえば大損害が想定されるので、鷹揚(おうよう)な気持ちではいられません。雑誌誌面とは違う点ですね。売れるように仮説を立て、カタログの発行まで慎重に取り組んでいきます。仮説が当たっているかどうかは、発行まではわからないという難しさはありますが。(湯田氏)

商品の売れ行きが不調なときは、社内のマーケターやMDが一丸となって挽回し、当初の売上計画に追いつくため手を尽くす。湯田氏は、そのスピード感の速さに、ECビジネスならではのやりがいを感じているという。

ECに求められる人材は「前提を疑い、新しい挑戦ができる人」

「ネットショップ担当者アワード」は、ECで活躍する個人を表彰する賞だが、現在のEC事業に求められる人材について湯田氏に聞いてみた。湯田氏によれば、変化の激しいこの時代に、従来のやり方や常識が本当に正しいのかを疑って、常に新しいことにチャレンジできる人は結果が出せると期待している。

さらにECの場合、細かい業務作業がとても多いため、それに対してきちんと向き合いながら、自らそれを効率化していける人に対しても有望視している。そして、顧客の気持ちや市場の環境をきちんと想像しながら、最後までやり切れる人材はEC市場で活躍できると指摘する。

「第1回ネットショップ担当者アワード」の授賞式に登壇した受賞者(湯田氏は左から2番目)
「第1回ネットショップ担当者アワード」の授賞式に登壇した受賞者(湯田氏は左から2番目)

今の時代に必要なのは、「従来通り」に甘んじるのではなく、これまでの前提を疑い、より良いもの作りを追求できる人。前例踏襲で安心してしまったり、満足してしまったりしては、得られる結果は横ばいになってしまいやすいし、お客さまも悪い意味で慣れてしまい、飽きられてしまう可能性もあります。お客さまが見たものに魅力を感じてくれるとは限らないし、同じことをやっていくよりも、新しいものを取り入れていける方が良いと思います。(湯田氏)

「ネットショップ担当者アワード」は、通販・EC事業者向けのメディア「ネットショップ担当者」フォーラムが主催する顕彰です。詳しくはコチラ、または下の画像をクリックしてください!

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