ユーザーの潜在的な「欲しい」を引き出す! ECサイトの「プッシュ集客」戦略+実践法

プル型の検索対策は、効果的ですが、競争が激しい側面があります。そこで「お客さんが検索する前に接触して販売してしまおう」というのがプッシュ集客です。プル型で集客基盤を作った後に取り組んでください。潜在需要を「思い出してもらう」アプローチが特徴です。
プッシュ集客の3つの戦略
プッシュ集客は、こちらから売り込んで「潜在需要を顕在化させる」という難易度が高い施策です。
お客さん側は「もともと検討していない」状況ですから、動いてもらうためには、何かしらのキッカケが必要です。つまり、キッカケの設計が重要です。例えば「このメールを見ている方限定で」「今なら早割」「在庫限りの先着順」「このクーポンを使うと◯◯プレゼント」などです。
これらを「オファー」と呼びます。何かしらの特典を提案するのです。オファーには「限定感:今だけ・ここだけでしか入手できないという感覚」「理由付け:なぜ今すぐ購入する必要があるのかの明確な説明」という要素があります。
プッシュ集客の典型的なパターンは、大きく3つあります。
1.ステップ販売
- 実店舗やサイト内でオファーして、LINEやメルマガ登録へ誘導
- オファーは、ノベルティやクーポンなどの「登録特典」
2.イベント販売
- ECモール等のイベント会場などで露出して、特集ページへ誘導
- オファーは「早割・期間限定・割引」など
3.トライアル販売
- ディスプレイ広告などの媒体でオファーして、お試し品へ誘導
- オファーは「今だけお得にお試しできます」など
ステップ販売
いったん特典を提示して読者になってもらい、あとはじっくりと距離を詰めていきます。広告というよりは、実店舗などの無料で露出できる媒体で集客します。LINE友だち登録などのSNSフォロー、メルマガ登録で特典を提供します。モニターアンケートに回答してくれたら特典、というケースもあります。
ここでいう特典とは、割引やノベルティだけでなく情報も含みます。「◯◯レシピを差し上げます」などです。特典がなくても、「SNSフォロー(メルマガ読者登録)すると割引クーポンをお届けします」でもOKです。
露出先
- 実店舗、催事、ポップアップストア、展示会など
- チラシ、名刺、封筒などの既存の印刷物(ECサイトのURLを記載)
- 会社サイト(コーポレートサイトからリンクを張る)
- 他社とのコラボ(配送時に自社のチラシを同封、相互送客)
特典
- クーポンによる割引
- ノベルティグッズのプレゼント
- 限定コンテンツ(動画、情報)へのアクセス権
- 次回購入時の特典
イベント販売
母の日や父の日など、ECモールや各種メディアではよくイベントが開催されていますね。ECモールやメディアはこういった特集を広告媒体として販売しています。例えば、「楽天の父の日ページのこの位置のバナー広告は何週間掲載でいくら」など、掲載箇所や広さなどによって様々な枠があります。ECモール出店者は、このような広告枠を購入して、この特集ページから自店舗へ集客します。リンク先は「父の日クラフトビール特集」などの店舗の特集ページや、商品ページです。
イベント会場ページを見て「そういえば◯◯が必要だったな」などと思い出しているお客さんと、店舗側のページを接続するようなイメージで文脈を設計します。
せっかく興味を示しても、まだいいや、となってしまわないよう、季節ギフトの早割や先着順販売などで「今判断しないといけない」状況を作り出せると、「顧客の予定になかった買い物」を促すことができます。これは広告施策に限りません。
広告などから飛んできたお客さんへ向けて表示するページをランディングページ(LP)と呼びます。ECの一般的な商品ページは「検索結果で競合商品と見比べられて選ばれる」ためのページなので、比較優位性のアピールが重要ですが、こういった販売方法のページでは、テレビ通販のようなお客さんを説得するような、長いページ構成のほうが有利です。
検索連動型広告と違い、期間限定での掲載ですから、掲載開始後、広告の効果が出ないと感じた時は、広告原稿やランディングページの品質をこまめに改善しましょう。掲載終了後も効果検証し、今後も出稿するかどうか考えましょう。詳しくは法則28の効果検証を見てください。
トライアル販売
広告媒体を使って露出して「今だけお試し品が安い」と提案し、トライアル商品を買ってもらって、その後通常商品の定期購入へと誘導するアプローチです。単品リピート通販でよく行われます。
オファーは、お悩み訴求が中心です。「ダイエットしたくないですか」とか「最近疲れてきたなと思いませんか」とか「年齢肌が気になっていませんか」といった、多くの人に共通する潜在的な課題感を提示し、そして「そういうお悩みを持っている人は、今このトライアル品を手軽に試すチャンスです」と話が展開します。
ただ、これは相性が良い商材と悪い商材とがあります。潜在需要に訴えかけるといっても 、「薪割りするのが大変だと思いませんか」と問うたところでほとんどの現代人は薪割りをしていませんね。実は「薪割り機」という商品はあるのですが、対象人口が少ないので、この方法でのオファーは向きません。
露出先としては以下のような広告媒体が中心です。
- ディスプレイ広告:ユーザーの興味や閲覧サイトの関連性に基づいて、 Webサイトの隙間などに表示される広告
- インフィード広告:コンテンツやSNSのフィード内に[PR]などと表記しつつ、自然に組み込まれる広告
- 純広告:特定のWebサイトや媒体に直接掲載される広告
トライアル販売の場合は、「確かに、言われてみるとそれは自分にとって必要だ・重要だ」と、潜在欲求を思い出してもらえるようなページが必要です。概ね「〇〇でお困りでありませんか?」「◯◯って困りますよね」といった「課題感を思い出してもらう」ような表現が多い傾向です。一般的な商品ページとは少し違う技術が必要なので、まずは同業他社がどのような形で広告を出しているかを観察し、試しに買ったりして勉強させてもらうのがよいでしょう。
なお、検索経由の購入と比べ、「広告経由で購入したお客さんはあまり長くリピートしてくれない」傾向もあるので、単品リピート通販モデルで収益が取れるかどうかは、見せ方だけでなく、商品との相性が影響します。当たると大きい売り方ですが 、失敗事例も多いので注意してください。
ディスプレイ広告の配信
ここまでで紹介した3つのプッシュ集客戦略とは別に、「シンプルに商品広告を配信する」方法もあります。
法則6で紹介した「データフィード広告」は、ディスプレイ型広告としても使うことができます。過去に別のサイトで見た商品情報が、今見ているサイトに表示されていたことはありませんか? これはリターゲティング広告と呼ばれる手法で、ユーザーに「思い出してもらう」効果があります。また、ユーザーの趣味嗜好に応じて、AIが需要を先読みして表示される広告もあります。これらの広告面は多くのWebサイトに掲載されています。
このように、特に「取扱商品数が多いEC」における、本店(独自ドメイン店)の広告運用では、データフィードが大変重要です。モールに商品情報をアップロードするのと似ていますよね。EC業務の心臓部である「商品マスタ(法則18)」を整備することで、ディスプレイ広告の運用精度が向上します。
この記事は『売れる! EC事業の経営・運営 ネットショップ担当者、チームのための成功法則。』(インプレス刊)の一部を編集し、公開しているものです。
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