BtoB-ECのアズワン、成長の秘訣とは? 「購買システム」「BtoB-EC専用サイト」「販売店経由のネット通販」「モール経由の多チャネル」
「ネットショップ担当者アワード」の「ベストBtoB-EC賞」を受賞したのは、科学機器、産業機器、病院・介護用品の商社であるアズワンのDX推進部長 中野裕也氏(肩書きは現在、受賞当時はeコマース本部UXデザイン部長)と、eコマース本部 BPO推進部長の田中達朗氏。アズワンの2024年3月期におけるEC売上高は前期比18.4%増の278億2700万円。EC売上高の拡大をけん引する事業の中核人物である中野氏と田中氏を表彰した。
自社EC、モール、販売店を通じたECなどさまざまな販売手法を展開
アズワンの2024年3月期連結売上高は前期4.5%増の955億3000万円。EC売上高は278億2700万円でEC化率は29.1%、前期比2.8ポイント増だった。カタログとWeb、全国の販売店1万4000店をタッチポイントとして、ユーザーの購買活動を支援する。そのWeb経由販売を担うEC事業は、中野氏が部長を務めるUXデザイン部、田中氏が部長のBPO推進部で構成している。
UXデザイン部が手がけるのはBtoB-ECサイト「AXEL ショップ(アクセルショップ)」の運営。そのほか、Amazon、楽天グループ、MonotaRO、アスクルといった他社EC事業者・ECモールを通じた販売、オウンドメディア運営などを展開している。
UXデザイン部は、自社ECのほか、オウンドメディア運営、他社のECサイト・モールを通じて販売する事業を展開しています。他社EC経由は、たとえばMonotaROさん、アスクルさん経由で販売するといったビジネスです。(中野氏)
BPO推進部は、大手ユーザー向けの集中購買システム「OCEAN(オーシャン)」、アズワンのプラットフォーム内に販売店のECサイトを構築してDX化・EC化を支援する「Wave」などを手がける。
「大手ユーザー向けにカスタマイズして提供するのが『OCEAN』、『Wave』は販売店支援型ECシステムで、アズワンのデータベースを活用した販売店のECサイトを開設してユーザーに販売できる仕組みを提供しています」(田中氏)
販売店は現在、4500社で1万4000拠点がある。従来は販売店の名前を入れたカタログを制作して、販売店に送っていたが、カタログのニーズが減少。販売店がアズワンのプラットフォームを活用してユーザーに販売できる「Wave」の活用にシフトしている。
人・モノ・金をECに投下して事業を拡大
アズワンが手がけるEC事業の担当者数は2012年当時で2人。その後、5人、7人、9人と増員していき、2017年で15人まで拡大。それまではeコマース推進部という1つの部で、中野氏、田中氏ともグループ長を務めていた。2022年には本部体制に移行してeコマース本部が発足。人員は35人に拡大しており、現在は50人超の体制。
市場が成熟してきているため、多くの企業は既存事業を拡大するのは難しくなっています。そのため、売り上げを伸ばすには、ECで商圏を広げていくことが求められています。販売店と連携するBPO推進部は、北海道から沖縄まで営業スタッフがいます。販売と密に連携し、集中購買先の開拓、Webサービスの拡充など、現場の営業担当とECを担っていく態勢が進んでいます。会社全体として、ECを伸ばしていくという流れになっています。(田中氏)
そのため、アズワンの方針は「人・モノ・金は成長分野に投下する」。十数年前に2人でスタートした部署が今や50人超まで拡大し、EC事業に携わるスタッフは右肩上がりで増えており、優秀な若手が配属される機会も増えているという。
ECやデジタルマーケティングは昔、「パソコンの前に座って何をしているの?」と思われていましたが、その考えが大きく変わってきました。(田中氏)
食品関連事業者向けの新ECサイトも開設
アズワンは2023年6月、新規事業として食品関連事業者向けの新サイト「as kitchen(アズキッチン)」を開設した。飲食業や食品メーカーといった食品関連事業者向けに、資材・備品などを販売するECサイトだ。
科学機器、産業機器、病院・介護用品の商社として専門商材を販売してきたアズワンだが、これまで培ったノウハウを、食品ジャンルに生かしていく。
「AXELショップ」で食品事業者向け商材の販売が伸びていたんです。この食品ジャンルを専用サイトとして独立すれば、さらに成長するのではないかと考えました。食品関連のEC化率はまだまだ低いですが、伸びしろが見込めるとの判断から着手しました。(中野氏)
「as kitchen」の総アイテム数は約60万点。調理器具から衛生検査品、店舗備品、食器、日用品など、食品を扱う現場で必要な商品を集めた。在庫のある商品は午後3時までの注文に対して当日出荷。1回3000円(税込)以上の注文は送料無料で対応する。
部下には「楽しんで仕事をしてほしい」
eコマース本部の部長として要職の立場にある田中氏と中野氏は、若い社員や部下には社内でのコミュニケーションだけでなく、社外との人脈作りやイベントへの参加などを積極的に呼び掛けている。
なぜこのように考えるのか? 長らくEC事業に携わってきたこともあり、昨今は後任の育成にも余念がない。そんな2人は、EC事業に携わるスタッフに次のようなメッセージを残して取材を終えた。
ECは勉強のしがいがあるビジネスモデル。難しいことも多いが、新しい知識を得られることができます。楽しみながら仕事をしてほしいなって思いますね。仕事だから当然、楽しい部分だけではない。しんどい部分も多い。しかし、ECは新しいことにチャレンジできることが多いと思います。僕自身もそれをモットーにしているし、他の人たちにも楽しみながら仕事をしてもらいたい。そのモチベーションが、最終的には事業の成長につながっていくはずです。(中野氏)
ECは新しいことにチャレンジしやすい部門だと思います。他の部門と連携して何かを生み出す、既存のシステムを通じて新しいコラボを生み出すなど、いろんなことにチャレンジしてほしい。僕はそれがすごく楽しい。挑戦することの楽しさを経験してスキルアップしていってほしいですね。(田中氏)
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