ギフト販売大手のリンベルのEC売上高は2021年2月期から2024年2月期の4年間で2.4倍に成長し、2026年2月期は前期比21%増と急伸した。増収要因の1つに、社内外のDX推進、SNSでカジュアルにギフトを贈れる「ギフトリスト」立ち上げによるECの活性化がある。こうした取り組みをけん引したのが、2025年の「ネットショップ担当者アワード」で「ブレイクスルー賞」を受賞した大川和弘氏(執行役員 EC統括部 本部長)。選考委員長でネクトラス代表取締役の中島郁氏が、受賞を振り返るアフターインタビューを実施した。


「ブレイクスルー賞」受賞を振り返って
中島郁氏(以下、中島氏): 大川さんが受賞した「ブレイクスルー賞」は、新たな領域のMDや販路拡大などに取り組み、実績をあげている企業の担当者を表彰する賞。大川さんは多方面でリンベル社内外の改革に尽力し、ECの売上アップに貢献してきた。受賞後、社内での影響はどうだったか。
大川和弘氏(以下、大川氏):社内では、年3回発行している社内報で取り上げてもらった。リンベルの社員数は約580人で、その他のスタッフを含めるとさらに大規模な組織だが、広報がしっかり社内に広めてくれたおかげで、さまざまな場所で話題にしてもらえた。「社内報で見ましたよ」と声をかけてもらったり「『ブレイクスルー賞』とはどのような賞なのですか」と興味を持ってもらえたりした。
リンベルが保有する山形県の物流センターに電話した際にも、自然と受賞の話題になった。おかげで、MTGの場でも報告する機会があり、全体的に前向きな反応が多かった。
中島氏:社外からの反応は。
大川氏: 社外からのアプローチが確実に増えたと感じている。EC支援事業者からのツール提案も増え、紹介を受けてお会いする社外担当者の役職も、以前より上位の方が増えた。そのおかげで、実現したい施策に向けて、上流工程でのリクエストがしやすくなったことはメリットだと感じている。
大川氏が実践するEC運用の成功事例
EC物流改革を推進
中島氏:リンベルの基盤システムやプラットフォームは、この10年間でリプレイスしてきたという認識。大川さんは2024年に自社物流体制の強化に取り組み、注文を受けた商品の当日出荷ができる体制を整えたが、WMS(倉庫管理システム)はどうか。
大川氏:WMSは今まさにリプレイスを進めており、2027年にリリースを予定している。当日出荷を始めたのは2024年10月時点。当日出荷にあたっては、システムよりも運用面の改革を中心に行った。
これまでリンベルの物流拠点は、カタログギフトの出荷を前提とした物流の一部を借りて使っている状態だったが、それを完全に独立させた。そこで働く物流スタッフの体制づくりや、EC特有の波動に対応できるシフト設計など、運用面への投資を重点的に行った。

伝統的なカタログギフトの枠を超えたDX戦略
中島氏:SNSを通じてカジュアルにギフトを贈ることができるサービス「GIFT LIST(ギフトリスト)」を立ち上げ、2024年から提供を開始した。大川さんがお薦めするポイントを教えてほしい。
大川氏:「GIFT LIST」は贈る側がリストを作り、受け取る側がそのなかから欲しいものを選べる仕組み。これは日本人の感覚と相性が良かったと感じている。
現金や金券を贈るシーンが多い、結婚祝い、出産祝いでは、同じものを複数の人からもらってしまうケースが多い。また、日本では「何がほしい?」と聞くのも、「これがほしい」と頼むのも言い出しづらい風土がある。「GIFT LIST」はこのような課題にフィットしたサービスになっている。
また、贈る側にも「贈るギフトを選ぶ」という過程を味わってもらえるため、受け取る側に“選んだ感”が伝わる。受け取る側も、受け取ったリストのなかから好きなギフトを選べるため、贈る側と受け取る側の双方にメリットがある。
「GIFT LIST」の特長
中島氏:「GIFT LIST」はいつ頃から構想していたのか。
大川氏:構想自体は10年ほど前。ギフト販売の大手として成長してきたリンベルの強みや、これからのギフトマーケットがどう変化していくのかを踏まえて、長いスパンでイメージしていた。ただ、実装に向けてはリソースや資金面でなかなか進まず、形にできるようになったのは3〜4年前。そこから約1年でローンチした。
リンベルがめざす未来
中島氏: ECを含めたデジタル領域での成長を図っていくにあたり、今後の注力点は。
大川氏:力を入れる領域は、顧客データ管理(CDO)の部分。すでに取り組んでいるが、データの統合、管理、活用を一層強化していく。
カタログギフトの場合、購入者は1人でも、実際には50人に贈ることもある。そう考えると、顧客データの価値は大きい。カタログギフトの老舗として歩んできたリンベルは、他社にはない独自の巨大な顧客データを持てる可能性がある。これは、リンベルがギフトに特化しているからこそ把握できるデータとも言える。これを整備し、システム化していく準備を進めている。

中島氏:将来的な構想は。
大川氏:将来的にはリンベル独自の“経済圏”のようなものを作っていきたい。世の中でよく見かけるポイントは「どこでも使える」という汎用性を売りにしていることが多いと思うが、リンベルは逆に「リンベルの商圏でしか手に入らない」という価値をポイントに付加したい。長期目線では、数ある経済圏の一部を担える存在になりたい。
EC人材が社内のDXをリードする存在へ
中島氏:大川さんは、いつからEC事業に携わっているのか。
大川氏:入社以来ECに関わっており、2026年4月でちょうど丸20年になる。
中島氏:EC部門で知見や実績を積み上げた人材が会社全体の経営に携わるようになるケースは他社でも多い。今後もぜひ頑張ってほしい。
大川氏:自分も含めて、デジタル関連の部署内の人材が他部署のDXを推進していくことが重要だと感じている。会社としての価値をまずはEC領域で上げていくことが、企業の成長にもつながっていく。
大きな企業はDX専用の部署があることが多く、該当の部署が社内のDXを推進していくが、中小企業の場合や古い体質の会社はなかなかDX推進に向けての切り替えが難しいと感じている。
そういった場合に、EC人材がEC分野でデジタル領域の学びを深め、成長して、他部署のDXにも貢献する――という循環をしていきたい。
個人にフォーカスするアワードならではの魅力
中島氏:大川さんにとっての「ネットショップ担当者アワード」の印象を教えてほしい。
大川氏:アワードは、企業やサービスではなく、個人にしっかり目を向けてもらえる点が大きな価値だと思う。EC担当者の登竜門のような存在になってほしい。EC担当者が受賞をめざし、受賞者はさらに成果をあげることで「ネットショップ担当者アワード」自体の価値も高まっていく。
また、受賞者や表彰式への参加を機にEC担当者同士の横のつながりを広げ、強めていけることもこのアワードならではの魅力だ。私も今回の受賞を通じて新たなつながりが生まれた。嬉しく思っている。こうしたつながりが今後さらに広がっていくことも期待している。

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