EC業界で活躍する“人”に焦点を当て、個人の功績や取り組みを表彰する「ネットショップ担当者アワード」の第3回表彰式では、「MVP」を含めた各賞を5人が受賞しました。受賞者の実績や取り組みは、EC担当者が「自身のロールモデルにしたい」と思えるものばかり。授賞式では実績につながった取り組みなどを受賞者がコメント。EC業界に豊富な知見を持つ選考委員が評価ポイントを掘り下げてインタビューしました。この記事では、表彰式の模様をまとめています。自身の成長やキャリアアップのヒントにしてください。
2025年は5人の受賞者を表彰
業界で活躍する個人の“ロールモデル”発掘に意義
表彰式の冒頭、「ネットショップ担当者アワード」発起人の1人であり、選考委員長の中島郁氏(ネクトラス代表取締役)が登壇。アワードの趣旨などを説明しました。
2023年に立ち上げた「ネットショップ担当者アワード」の背景の1つに、慢性的なEC人材の人手不足があります。ECサイトや企業を表彰するアワードは多いですが、担当者にフォーカスしたものは類を見ません。そこで、2023年に『ネットショップ担当者アワード』を立ち上げました。
アワードのキーワードは『ロールモデル』。 ECに関わる皆さん、これから関わろうとしている皆さんのロールモデルになるような方に焦点を当てて表彰し、EC担当者の皆さんにはその方をめざして頑張っていただきたい――という趣旨で始まりました。アワードを通じて、キャリアやステップアップをめざしていただきたい。業界で活躍するネットショップの担当者がますます増えることを願っています。
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選考委員長 中島郁氏(ネクトラス代表取締役)
「ネットショップ担当者アワード」の選考委員を務めたのは、中島委員長のほか、スマイルエックス代表の大西理氏、CaTラボの代表でオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏、ルームクリップ KANADEMONOカンパニー管掌やオルビスCDO(Chief Digital Officer)などの石川森生氏、SRSホールディングスの執行役員SRSグループDX推進本部長である田丸知加氏の計5人。
第3回表彰式で選出した賞
- ネットショップ担当者アワード賞(MVP):実績や個人の挑戦などを総合的に考慮して選出
- ブレイクスルー賞:既存のビジネスモデルにとらわれず、新たな領域のMDや販路拡大などに精力的に取り組み、実績をあげている企業の担当者を表彰する賞
- コミュニティ共創賞:EC事業においてファンとのコミュニティ形成に奏功している企業の担当者を表彰する賞
- 越境ビジネス賞:越境ECに関連する業務に精力的に取り組み、後進のベンチマークになり得る担当者を表彰する賞
- SNSマーケティング賞:企業のSNS運用に積極的に取り組み、実績をあげている企業の担当者を表彰する賞
MVPはグレイ・パーカー・サービス小林辰也氏
「ネットショップ担当者アワード」のMVPはグレイ・パーカー・サービスの 小林辰也氏(WEB事業部 部長)が受賞しました。
グレイ・パーカー・サービスは「ちいかわ」などのIPビジネスを展開しています。2025年5月期のEC売上高は前期比50%超。小林部長は2023年の入社以来、デジタル戦略を一手に担い、外注業務の内製化によるコスト圧縮、物流移管に伴うインフラ強化、注文集中時の決済待ち時間を最大5分の1に短縮したシステム活用などを進めてきました。
プレゼンターの中島委員長:IPビジネスは、ECサイト上で短時間に注文が殺到・集中しやすい「フラッシュセール」が多く、売り上げの波がある難易度の高いECです。小林さんはECの支援会社側から事業会社側へ転身し、さまざまなキャリアを経たなかで、現在はEC全体を管掌しています。これまでのキャリアパスで苦心された点を教えてください。
小林氏:自分が「社内で発言権を持っていく」「存在感を発揮していく」というのが苦心したポイントの1つです。グレイ・パーカー・サービスへの入社当時は、ECの担当者が自分を含めて数名のみ。運用の課題は山積している状態でした。
フラッシュセール、物流など、山積している課題をスピード感を持って解決していくためには、ある程度の権限を自分が持っていかないとスピード感が上がらないという感覚がありました。今はチームのメンバーの協力もあり、非常に仕事をしやすい環境で運用できています。
販路拡張、DX化、物流などさまざまな自社改革に成功。「ブレイクスルー賞」リンベル大川和弘氏
「ブレイクスルー賞」はリンベルの大川和弘氏(執行役員 EC統括部 本部長)が受賞しました。リンベルは、コロナ禍のフォーマルギフトの落ち込みという業界の逆風を乗り越え、直近のEC売上高は4年で2.4倍に成長。それをけん引したのがECを管掌する大川氏です。
多方面で社内社外の改革に尽力し、EC売上アップに貢献。ニーズに合わせたギフト販路の拡張、それに伴うDX化、当日出荷を可能にした自社物流の強化など多方面の改革・開発に取り組み、実績につなげています。
プレゼンターの田丸委員:コロナ禍ではセレモニーが自粛傾向で、ギフトの市場規模も縮小したという業界の逆風のなかで、大川さんはMD、販路拡大、物流改革といった現状のビジネスモデルにとらわれない販路を新しく立ち上げてきました。既存のものに執着してしまう風土など、さまざまな壁があったのではないかと想像していますが、大川さんは結果としてすごい実績を上げられてます。一番の成功ポイントをお聞かせください。
大川氏:古いものを捨て去るわけではなく、大事にしながらも、それを踏まえた上でデジタル技術を使った新しいものを生み出す――ということをやり続けています。
最も重視してきたのはやはり『お客さま』。お客さま第一主義というところは、社内のチームで掲げている目標と一致しています。マーケットの状況が変わっていくなかで、お客さまが求めているものも変わってきます。従前の市場ニーズだけに捉われず、お客さまが求めているものは何かを捉えて、それを定量的・定性的な目標に落とし込んで新サービスを投入していきました。
毎月1500件超のUGCが自然に生まれるエコシステムを創出。「コミュニティ共創賞」VALX 古賀雅範氏
「コミュニティ共創賞」を受賞したのはVALXの古賀雅範氏(マーケティング責任者 事業部 マーケティング課 課長)。プロテイン販売のVALXは広告やセールに依存せず、ファンとの共創を軸にブランドを成長させています。古賀氏はEC事業と全社マーケティング戦略を担当し、マーケティング全体の設計とKPIマネジメントを担当。限定商品と接触頻度の最適設計によって継続購入率を向上させています。
古賀氏は2024年4月に入社し、現在のポジションに着任した後、販売戦略の見直しに着手。自社ECでのロイヤル顧客による月次購入数は、着任前と比較して50%以上増加しています(2025年10月現在、VALXでは3か月以内に1度以上購入する顧客を「ロイヤル顧客」と定義)。
プレゼンターの石川委員:古賀さんは熱量の高いファンコミュニティを築く、共創マーケティング戦略というファンを巻き込んだビジネスを推進されています。古賀さんが活躍してきた点を教えてください。
古賀氏:VALXの強みや、お客さまが求めていることを定量的・定性的にも可視化し、経営サイドも含めて現場に深く関わっているメンバーのパイプ役になりました。
VALXはファンに「熱狂」を仕掛けるという前例のないユニークなミッションを持っていることもあり、お客さま1人ひとりの熱量がすごく高いんです。ただそれが定量的に可視化されていなかったりとか、VALXのスタッフ1人ひとりが一枚岩になれてない部分があったので、そこを自分が尽力し補っています。
一方で、VALXの強みは、 SNSの運用から動画の撮影ディレクションまで、コンテンツ作りをほとんど内製化していること。入社前に長く勤めていたスポーツメーカーでは外注がほとんどでした。いま、VALX全員の力で新しいビジネスモデルを作ることができつつあります。MVPを獲得できなかったことは悔しいです。2026年はMVPを狙いたいと思います。
ローカライズ性の高いSNS41アカウントを運用。「越境ビジネス賞」はビィ・フォア―ド土屋汐莉氏
「越境ビジネス賞」は、中古車越境ECのリーディングカンパニーであるビィ・フォア―ドの土屋汐莉氏(デジタルビジネスプラットフォーム推進部 デジタルマーケティンググループ デジタル企画チーム チームマネージャー)が受賞しました。
2024年6月期のEC売上高は前期比9%増の1180億円。土屋氏はビィ・フォアードでデジタルマーケティングを担い、20か国以上にローカライズした全41アカウントのSNS運用、ローカルペイメントの担当などさまざまな事業カテゴリに挑み、ビィ・フォアードの事業成長と自身のスキルアップにつなげてきました。
プレゼンターの大西委員:昨今、越境EC市場は活況を呈していますが、そのなかでもビィ・フォア―ドは歴史が古い。越境ECと言えばビィ・フォア―ド、というぐらい代名詞のような企業です。
越境ECは一般的に、「日本のプロダクトを海外に広めよう」というブランド目線、企業目線の販売事業者が多いのですが、ビィ・フォア―ド は「海外のお客さんが不安なくモノを買えるか状況を作り出す」「いかに買い物における障壁をいかに取り除くか」といった顧客目線に立てている点が強みだと感じます。その観点ではビィ・フォア―ドはサービス業のようにも思えるほど。普段の業務の取り組みでどのような考え方を持っているのかをお聞きしたい。
土屋氏:ECサイトは販売業だけにとどまらず、カスタマーソリューションに近い部分もあるのではないかと自分は思っています。
土屋氏:日本だとネットショッピングは「オンライン上の購入ボタンをクリックすると自宅に商品が届く」というフローが浸透しており、多くの消費者が不安なく利用できていると思います。しかし、アフリカのお客さまの場合は、海外のサイトで買い物――特に高額なものを買うとなると、不安や課題を感じるという声が多くありました。
そういったカスタマーの目線を、実際に現地に行って吸い上げて、それを日本に戻ってサイトやシステムに反映していくことがビィ・フォア―ドが重視している取り組みの1つです。
BtoB領域でSNSを巧みに活用。「SNSマーケティング賞」はビルディ戸田夏海氏
「SNSマーケティング賞」は、鹿児島県に本社を持ち、プロ向けの電動工具・資材ECのBtoB-ECを手がけるビルディの戸田夏海氏(コンテンツ部 クリエイティブチーム リーダー)が受賞しました。
ビルディではSNS運用によるデジタルコンテンツの強化でEC事業が急成長。ECへの流入につながるデジタル戦略が増収に貢献しています。コンテンツ部の戸田夏海リーダーはその推進を担い、TikTokで100万回再生を超えたショート動画の内製化、Instagramのフォロワー数を直近1年間で36%(2025年9月時点)アップさせるなど、SNSコンテンツ制作・運用において大きく力を発揮しています。
プレゼンターの逸見委員:工具マーケットは厳しい世界だと想像しています。価格競争が激しいなか、ビルディでは地道に「早い、安い、安心」という基礎的な部分を抑えつつ、クリエイティブやコンテンツもそろえています。
動画を活用したSNSの運用は、効果が期待できるとわかっていても現実的にはなかなか取り組みにくいところ。企画・制作に当たって現場のスタッフを巻き込みながら、画角なども考えつつ、工具の使い方を紹介していくという取り組みはすごいと思います。 これからさらに進化させていくとしたら、どのような取り組みにチャンレンジしてみたいですか。
戸田氏:親近感を大事にしつつ、SNSを使って一層発信していきたいです。親近感を重視するのは、ビルディはそもそも“地元の金物屋さん”からスタートした会社だからです。
戸田氏:これまでSNSでは、ビルディからフォロワーに向けて一方向的に工具の使い方など発信することが多かったので、今後はUGCを増やしていきたいという思いもあります。そのため、ユーザーからの発信が増えるような取り組みを何かできたらいいなと思っています。ビルディのファンを増やすようなアクションをさらにしていきたいです。
第3回の「ネットショップ担当者アワード」はEC総合支援などを手がけるコマースメディアがスポンサード。一般社団法人イーコマース事業協会が後援しました。
コマースメディアの井澤孝宏代表取締役は表彰式で次のようにコメントしています。
「ネットショップ担当者アワード」授賞式はさまざまなEC担当者からお話を聞ける場です。
コマースメディアはECの総合支援、物販事業の運営などさまざまな事業を展開しています。AI時代のいま、人員削減に踏み切っている企業は少なくないが、コマースメディアはEC担当者を育てていきたいと考えています。現在、コマースメディアは創業約10年、メンバーは約60人ほどですが、2年後には100人ほどの規模にしていきたい。「支援事業にも物販事業にも関心がある」といった人を募集しています。
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「第3回ネットショップ担当者アワード」をスポンサードしたコマースメディアの井澤孝宏代表取締役
「ネットショップ担当者フォーラム」がコマースメディアに取材した記事はこちら
→https://netshop.impress.co.jp/node/14958(PR記事にジャンプします)
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