ECビジネスで活躍する注目人物7人が語る成長ポイント+キャリアアップの軌跡【ネットショップ担当者アワード詳報】
EC業界で活躍する“人”にフォーカスし、個人の功績や取り組みを表彰する「ネットショップ担当者アワード」の第2回表彰式では、「MVP」を含めた各賞を7人が受賞しました。受賞者の実績や取り組みは、EC担当者が「自身のロールモデルにしたい」と思えるものばかり。授賞式では実績につながった取り組みを受賞者本人がコメント。EC業界に豊富な知見を持つ選考委員が評価ポイントを掘り下げて説明しました。表彰式の模様を記事でまとめましたので、自身の成長やキャリアアップのヒントにしてください。
EC業界の発展、EC人材の成長につながるアワードの第2回授賞式で7人の受賞者を表彰
表彰式の冒頭、選考委員長の中島郁氏(ネクトラス代表取締役)はアワードの趣旨を次のように説明しました。
EC業界には「圧倒的な人材不足」「企業側のEC事業への取り組み姿勢が十分でない」という課題があります。これを解決する一助として、他社で活躍している担当者をロールモデルにして、EC人材の成長、キャリアアップにつなげることができるのではないか、ECに従事する個人にフォーカスすることでEC人材・業界の発展に貢献し、底上げしていきたい――というのがアワードの趣旨です。
中島委員長を筆頭に、「ネットショップ担当者アワード」の選考委員を務めるのは、スマイルエックス代表の大西理氏、CaTラボの代表でオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏、ルームクリップ KANADEMONOカンパニー管掌やオルビスCDO(Chief Digital Officer)などの石川森生氏です。
【選考委員長】中島 郁 氏/ネクトラス株式会社 代表取締役
【選考委員】大西 理 氏/スマイルエックス合同会社 代表
【選考委員】石川 森生 氏/ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー管掌、オルビス株式会社CDO(Chief Digital Officer)、トレンダーズ株式会社 社外取締役、株式会社RESORT代表取締役CEO 他
【選考委員】逸見 光次郎 氏/株式会社CaTラボ 代表、オムニチャネルコンサルタント、日本オムニチャネル協会 理事
選出した賞と選考基準
|
キャリアデザインのロールモデルはタイムマシン 小川公造氏
ロールモデル賞のなかの「キャリアデザイン賞」は、EC担当者のキャリアデザインのヒントになるようなキャリアを築いた人物を讃える賞。タイムマシンの取締役、小川公造氏が受賞しました。
大西選考委員による選出ポイントの解説
日本最大級のイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」で、YouTubeの企業アカウントの運営に携わっています。また、個人でもYouTuberとして活躍しています。小川さんが登場する動画を見ると、驚くほど淀みなく製品の魅力を伝えています。
小川さんの経歴は、エンジニアからスタートしてマーケターへ転身、ECの運営に携わるようになりました。その後、独立してYouTuberを経験し、またEC企業であるタイムマシンに戻ったというキャリア。
現在は取締役を務めながら、YouTuberとして活躍されているのも、やはりオーディエンス、つまりはtoCのお客さまが何を望んでいるのかをつぶさに理解し、それが事業展開できているということ。キャリアのユニークさが、キャリアデザインとして秀でているのが受賞理由です。(大西氏)
小川氏の受賞コメント
エンジニアからキャリアをスタートしましたが、当時所属していた通販企業の広告担当者の退職に伴い、後任としてマーケティングの仕事にも携わるようになりました。
その当時の自分は、アルファベットのEC専門用語が何を意味しているのかわからない。勉強の日々で苦しかったのですが、後から振り返ると、楽しかった経験だと思うようになりました。
ECに携わることで、どのように事業がスケールしていくのか、どのように集客するのか、どのような事業構造になっているのかを包括的に学べました。その後、自分自身でも積極的にマーケティングを勉強するようになりました。自分のキャリアにおいてとても印象深い出来事の1つです。(小川氏)
BtoB-ECのビジネスモデルへの転換をリードするエトワール海渡 桑原惇氏
フロンティア賞<BtoB部門>は、企業を対象にアパレル、雑貨、食品まで幅広い商品を販売している総合卸問屋のエトワール海渡の桑原惇氏(営業開発部副部長)が受賞。エトワール海渡は従来のショールーム型の商品提案から、BtoB-ECのビジネスモデルに大きく転換しています。
石川選考委員による選出ポイントの解説
エトワール海渡さんのような社歴が100年を超えるような歴史のある会社、さらにBtoBの業態の場合、EC事業やDX化の推進は難しいことが多いです。そういったなかで桑原さんは率先して社内改革を進め、EC事業を伸ばしてきました。それが表彰理由です。(石川氏)
桑原氏の受賞コメント
エトワール海渡は、2024年11月で創業122周年を迎えた歴史ある会社です。コロナの影響で2021年からEC化を促進。当初1割だったECの売上比率が今では9割まで成長しています。リアルでのやり取りがメインだった従来のお客さまに、オンライン上で商品を提案し、決済いただくのに慣れていただくことに苦労しました。
当社、法人営業を担当していた私は、どのようなコンテンツや注文フローなどがあったら便利かをお客さまにヒアリングして社内に持ち帰り、ECサイトのUI・UXの改善に努めてきました。(桑原氏)
バックヤードやオペレーションを追求し成果をあげているTshirt.st 後藤鉄兵氏
フロンティア賞<BtoC部門>は、Tシャツ専門のECサイト「Tshirt.st」を運営しているTshirt.stの後藤鉄兵代表取締役が受賞しました。
石川選考委員による選出ポイントの解説
後藤さんはECのオペレーション部分、バックヤードの部分を磨き上げられていて、最適なワークフローを作ってきた人物。バックヤードというEC業務の「見えない部分」でずっと頑張ってきたというところに光を当てたいと思いで、フロンティア賞<BtoC部門>の表彰を決めました。(石川氏)
後藤氏の受賞コメント
ECのバックヤード、なかでもキャンセル対応に力を入れており、外部企業向けにソリューション化もしています。
消費者の注文間違い、キャンセル連絡の遅れで、物流倉庫に返品商品がたまることは少なくありません。ECのバッグヤードのなかで、オペレーションのコストが膨らむのはこの部分。必要ないモノをお客さまにお届けし、運送会社に運賃を支払い、それをまた物流倉庫に戻すフローになるからです。
開発したソリューションは、キャンセルのCS対応をオペレーションロボットが行う仕組み。決まった時間までは注文のキャンセルを受け付けますが、指定時間を過ぎるとECの運用担当者に代わってキャンセルを断るという仕組みです。
ECの場合、利益の源泉はバックヤードなどの日々の仕事にあると思っています。Tshirt.st社内のオペレーション改善だけでなく、外部にもソリューションとして提供し、EC業界に恩返ししたいです。(後藤氏)
解約率3%のサブスクECを運営するPOST COFFEE 下村祐太朗氏
「サブスクリプション」は、コーヒーのサブスクリプションECを手がけるPOST COFFEEの下村祐太朗氏が受賞しました。
逸見選考委員による選出ポイントの解説
POST COFFEEさんのECサイトで、ユーザーの好みのコーヒーをお薦めする「コーヒー診断」などを見ると、「コーヒーをどれだけ楽しんでもらうのか」という観点のこだわりがとても伝わってきます。離脱率の低さ、データドリブンといったテクニカルな要素でサブスクで売り上げをきちんと伸ばしている一方、お客さまとの接点も大事にしている。ぜひ評価したいという思いで選出しました。(逸見氏)
下村氏の受賞コメント
「スペシャリティコーヒーのおいしさを広める」という大きな目標を持ってECを運営しています。サブスクとしてコーヒーの体験を楽しんでもらうことを重要視し、「注文してからすぐ届く」、コーヒー診断をきっかけに利用するお客さまには「診断結果に基づく自分の好みのコーヒーが届く」というところを楽しみにしてもらうという観点で運営しています。(下村氏)
育児とECの管理職を両立するルームクリップ 田中ゆみえ氏
ロールモデル賞のうち「ワークライフバランス賞」を受賞したのは、ルームクリップ KANADEMONOカンパニー General Manager MD&QA管掌の田中ゆみえ氏。授賞式にはお子さん2人も駆けつけ、壇上でお母さんにお祝いのメッセージを伝えました。
大西選考委員による選出ポイントの解説
ワークライフバランスという言葉は単に仕事と家庭の両立を保つことではなく、女性が出産、産休、復帰後再びしっかり仕事していくことも意味していると感じています。そのような環境下で復帰した後、時短勤務という立場になると往々にして軽めの作業や事務的な仕事に振られがちな職場もあるかと思います。
田中さんは、サプライチェーンやバックヤードを担当し、生産からサプライチェーンまでを管理する業務に携わっています。田中さんはお子さん2人の育児、General Managerとして事業のマネジメントを両立。その働き方は、同じような働き方をする方々の参考になるはずです。(大西氏)
田中氏の受賞コメント
ルームクリップよりも前に在籍していた会社は「子供を産んだ時点で、もうそんなに働かなくていいよ」という姿勢でした。「任せてもらえればもっとできるのに」という思いを抱えていたため、私にとっては辛く苦しかったです。
ルームクリップは育児中の女性であっても意欲に応じて責任ある仕事を任せてもらえる企業。働きやすい環境です。
育児の経験は管理職のマネジメント業務に生かせることが多いと感じています。「出産や育児でキャリアが中断されてしまう」と考える出産前の女性が多いと思いますが、出産自体をネガティブに捉える考えはなくなっていったら良いと感じています。
管理職で活躍することも、育児中の子どもがいることも、本来は喜ばしいこと。EC業界では、キャリア形成とライフステージの変化を前向きに楽しんで取り組める女性社員と、その環境を創っていける会社が増えていくことを願っています。(田中氏)
ゼロからの挑戦で老舗革靴メーカーのECをけん引するマドラス 丸山堅太氏
ベストチーム賞は、老舗革靴メーカーとして知られるマドラスでEC改革のけん引役となった、マドラス リテール事業部EC課 課長 (紳士担当)の丸山堅太氏が受賞。EC事業の経験がゼロからのチャレンジとなったなか、ベストチームを築き、リーダーとして活躍してきた人物です。
逸見選考委員による選出ポイントの解説
マドラスは大正時代の創業。社歴が長くて大きな会社は、いろいろなことができるのではないかと思う反面、大変なこともたくさんあります。丸山さんなどチームメンバーはECの経験がなかったにもかかわらず、成果を出し続けてきた。マドラスさんの場合、現場の最前線でECの成長をけん引してきたのが丸山さんでした。(逸見氏)
丸山氏の受賞コメント
ECのチームメンバーは、マドラスのなかでは少し変わった年齢構成です。30歳代から50歳代半ばまでで、男女比は半々くらい。さまざまな角度から意見が出やすいチームになっています。
メンバーからの意見に対して「ノー」とは言わずに、まず話を聞き、それをどのようにもっと良くしていこうかと議論。打ち合わせのなかで決まったことはすぐに実行し、結果をすぐに検証する。自分たちのECチームはそういう形で動いています。(丸山氏)
メーカー直販ECをリードするカンロ 武井 優氏
MVP賞は、カンロ マーケティング本部 デジタルマーケティングチームリーダーの武井 優氏が受賞しました。自社ECサイト「Kanro POCKeT(カンロポケット)」の運営を管掌し、メーカー直販ECをリードしてきた人物です。
中島選考委員長による選出ポイントの解説
EC部署に配属されるまでの主なキャリアとして多いのは、①他の部署や業務を経験した後、ECの運営に配属されるケースなどです。武井さんの場合、②出産・育児の休暇取得直後に、育児を続けながら、いきなりECの構築プロジェクトのリーダーに異動という要素が加わっています。考えるだけで大変な無茶ぶりですが、老舗ゆえに働き方という観点で、さらに困難があったのではと推察されます。そして、③アメやグミという単価が安く、近隣のスーパーなどでも買える最寄り品を扱うという難易度の高いECを成長させています。
EC担当者に多いキャリアを経て、ライフスタイルの変化を受け入れながら、きちんと実績を出されている武井さんは、「ネットショップ担当者アワード」が考える、今後のEC担当者のロールモデルとして、良い意味で典型的な方ではないでしょうか。(中島氏)
武井氏の受賞コメント
カンロのEC「カンロポケット」は、直営店で販売している人気商品を主軸としてECの成長を伸ばしています。そのほか、EC専売の商品も展開しています。自社ECはお客さんと直接つながる場。販売だけではなく、お客さまとのコミュニケーションの場としても重視しています。
今後はコミュニティサイトの開設を予定しており、いま準備を進めているところです。カンロのなかでEC化率はまだ高くありませんが、トライアンドエラーを日々繰り返しながら粘り強く頑張っています。(武井氏)
事業規模にかかわらず、ECで活躍する「人」に焦点
2025年以降の「ネットショップ担当者アワード」開催に向けた、選考委員のメッセージを紹介します。
2023年のアワード創設から、第2回開催となった今回にかけて、EC担当者のロールモデルになる人物を顕彰しました。この「ネットショップ担当者アワード」そのものも、EC業界で奮闘する担当者1人ひとりのモチベーションや、ロールモデルの役割を担っていってほしいと思っています。
自身の成長に向けて、多くの担当者が真似したくなる人物を今後も「ネットショップ担当者アワード」で顕彰し、EC担当者にどんどん真似していただきたいと思っています。(中島氏)
数限りない国内ECサイトのなかから、活躍している方を受賞者として選出するのは選考委員にとっても大きなチャレンジ。業界関係者の皆さまからの推薦やご支援があって今日の授賞式を迎えられています。今後もさまざまな観点を持ち、視野を広げ、次世代に向けてEC担当者のロールモデルになるような人を見つけていきたいです。(大西氏)
受賞者の選出過程で、ノミネート者の公募にあたり「自社の事業規模では公募にエントリーしにくい」という話を聞くことがありましたが、萎縮せずぜひ応募いただきたいです。ECは本当に地道な作業の積み上げ。これをきちんとやってくれている人たちがいるから、運営ができています。
見えにくいところで活躍している人たちにもっと焦点を当ててクローズアップすることによって、EC事業の仕組みはこういうものだということをより多くの人に知ってもらいたいです。時代に合った形でEC業界のさまざまな人たちに光を当てていきたいと思っています。(逸見氏)
逸見さんが指摘している通り、「ネットショップ担当者アワード」は会社の事業規模の大小にかかわらず、個人としてEC業界の発展に貢献している方をどんどん掘り起こして、皆で横のつながりを作りたいという思いで開催しています。受賞されなかった方も、ぜひ来年も応募していただきたいですし、周りで活躍されている方をぜひ教えてください。(石川氏)
2023年受賞者が振り返る、受賞の影響
授賞式には、記念すべき第1回にあたる「ネットショップ担当者アワード」2023年の受賞者も参加し、自身の受賞後の変化を振り返ったり、今後に向けたメッセージをいただいたりしました。
第1回で選出した賞と、受賞した人物は次の通り。
|
マッシュスタイルラボでEC事業部長を務めています。2023年にMVPを受賞したあと、社内外からさまざまなお声がけをいただいたり、友人や親戚からも連絡が来たりと、受賞したことの影響力を強く感じました。
2024年は、マッシュスタイルラボで私が担当しているファッション事業のECはコロナ禍と比べても過去最高の実績をあげることができ、良い年になりました。今回受賞された皆さまも今後、良い影響が出てくると思います。皆さまの活躍を引き続きお祈りしています。(マッシュスタイルラボ 今井氏)
私が所属する大網は、ホビー系のECサイトや店舗を運営している事業者です。2023年に「ベストチーム賞」を受賞したことは、社内で経営陣からの評価が上がったり、チームのモチベーションが上がったりと良い影響が出ています。より一層、通販事業が成長していくという観点で、受賞が一助となっています。(大網 小林氏)
アズワンは実験機器や医療機器などを扱う専門商社です。9年前に自社ECサイトを立ち上げ、EC事業を成長させてきました。成長戦略の中心にECの成長を掲げていることもあり、その実績として株主に受賞したことを紹介できて、外部から評価されていることの裏付けになったと感じています。
今回の受賞された方も、受賞が社内外でいろんな反響があると思いますし、ECサイトの成長にもつながると思います。会社のさらなる成長、EC事業の成長をめざしていってほしいです。(アズワン 中野氏)
集英社で、自社のファッションEC「ハッピープラスストア」などの通販事業を管掌しています。「雑誌のブランド力を集英社のファッションECにつなげていく」ということを常に課題として意識しています。やればやるほど、ECビジネスはやっぱり「人」ありきだと思います。自分自身、2023年の受賞はすごく励みになりました。今後はアワードを再び受賞できるよう努め、特に「ベストチーム賞」の獲得をめざしていきます。(集英社 湯田氏)
「ネットショップ担当者アワード」は今後も開催予定です。2025年に開催する「第3回ネットショップ担当者アワード」のお知らせや公募は順次スタートします。お楽しみに!
※記事初出時から一部内容を12/4 14時までに修正しています。