「ネッ担アワードはECのプロを育成する登竜門」。いまEC業界で求められている人材とは? 石川森生氏に聞く
EC業界で活躍する「人」にフォーカスし、企業や団体などで活躍する個人の功績や取り組みを表彰する「ネットショップ担当者アワード」の選考委員の1人である石川森生氏は、EC業界においてさまざまな企業とポジションに従事し、経験と知見を積んできた。現在は自身でEC支援会社を経営する傍ら、オルビスやルームクリップなどのEC事業に携わる。石川氏が捉えているEC事業に関する現状、危機感、問題点などについてインタビューした。
「ネットショップ担当者アワード」第2回授賞式は11月20日、16:15から「虎ノ門ヒルズフォーラム」にて開催。聴講無料、事前登録制です。ふるってご参加ください!
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ECを本当の意味で運用できていない会社が多い
――EC業界での経歴など自己紹介をお願いしたい。
石川森生氏(以下、石川氏):ECには15年ほど携わってきた。インターネット金融のSBIホールディングスに入社したが、金融に関心が高かったわけではなく、もともとEコマースをやりたいと思っていた。そのため、SBIグループ傘下のベリトランス(当時、現在はDGフィナンシャルテクノロジー)に配属してもらい、新規事業開発を担当していた。
2008年当時、「決済のマーチャントの売上向上を目的にレコメンドエンジンを提供する」という事業を開始したところ芽が出たため、法人化しようという流れになり、その後ベリトランスの子会社であるSBIナビ(現ナビプラス)を創業した。
石川氏:ただ、一度は外に出て経験を積んだ方が個人としての評価などが築きやすいという考えがあり、事業会社に転職した。それが当時のクライアントの1社だったアパレルECのマガシークだった。マガシークでマーケティング部を立ち上げ、部長を経験。当時は伊藤忠商事の子会社で株式を上場していたが、TOB(株式公開買い付け)でNTTドコモ傘下に入るところまで所属していた。
その後は、製菓・製パンECサイト「cotta」を運営する企業の立ち上げに携わり、社長に就任した。その後2016年に、ディノスに転職。Eコマースを監修するポジションで入社した。転職当時から、自身で会社を経営しており、10年ほど続けている。ベンチャー投資も20社弱くらい手がけている。
――BtoB向けの事業、BtoC向けの事業、さらには大企業やベンチャーにも理解が深い。ECのクライアントから相談を受けるなかで、近年印象的なものは。
石川氏:ECを本当の意味で運用できていない会社が多いと感じる。ECはシステムを入れ替えただけで売り上げが伸びるわけではない。だからこそ、ECとしてやらなければいけないことをきちんとやりましょうと伝えたい。
もちろんノウハウも必要。だが、ECをきちんと運営するためには、手を動かす人がいて、その作業ワークフローが確立されている状態を作り上げることが重要だ。ECはオペレーションで伸ばしていくものだが、それができていない。
実際に手を動かす人材不足もあるが、中心で旗を振る人材も不足している。たとえば、取り扱っているモノは良いし、リアルの流通ルートも押さえてはいるが、ECの立ち上げはできていないという会社は多いのではないだろうか。
手を動かすプロと、全体を横断して描くプロが必要
――マーケター視点で全体を俯瞰できる人が少ないということだろうか。
石川氏:それもあるし、そういった人の下にきちんとチームが構成できていないこともある。よくあるのはEC専任が1人いて兼任で2~3人という体制。これではECを回していくのはほとんど無理だと思う。
ECをきちんと回していくにはある程度、組織を作らなければいけない。だが、EC事業部を立ち上げたばかりで売り上げが小さい状態では、損益計算表(PL)上は固定費を増やすことができない。「ニワトリと卵、どちらが先か」の状況を続けてしまっている会社が多い。
――「今こういう人材が求められている」「こういう人材がいると良い」という考えを教えてほしい。
石川氏:いわゆる旗振り役のCMO(最高マーケティング責任者)、CDO(Chief Digital Officer)、CECO(Chief e-Commerce Officer)など、Webマーケティング、MD、システムといった機能で分断するのではなく、それらをすべて横断して事業の絵が描ける人材を増やさないといけないと考えている。
たとえば、リアル店舗の棚を押さえるためにマス広告を駆使する従来型のマーケティングだけでなく、デジタルを活用した広告やSNS戦略を伴う集客、その後の顧客からの収益最大化を図るためのCRMの仕組みなど、統合的に理解している人材は希少だ。ある程度、マーケティング全般を俯瞰して事業の絵が描ける人材を生み出していかなければならないと思っている。
石川氏:ただ、リアルとデジタルの両方を理解できている人の存在だけでは、事業そのものを推進するのは難しい。私がその立場を任されているとしたら、私の下にチームが必要となる。そのチームは個々に最適化されたプロフェッショナル集団で、デザイナーやエンジニアやWebディレクターなど、自分よりもアウトプットの質が高いプロ人材であってほしい。こうした専門的なスキルに突出したプロフェッショナルの手も足りていない。
少なくとも事業会社にはこうしたプロ人材がまったくと言って良いほど足りておらず、採用もほとんどできない売り手市場の状態。なので、1つのことを突き詰めて手を動かせるプロフェッショナルと、全体を横断して絵が描けるプロフェッショナルの両軸が必要だと思う。
――足りない部分を補う、足りない部分に気が付くためにコンサルティングの役割が求められているということか。
石川氏:この話は最終的に人や組織設計、評価制度の話に行き着くことがほとんどだ。つまり、コンサルティングで数字を分析して“勝ち方”の絵を描くことはできるけれども、それを実現しようとすると「誰が、どこで、どうやるのか」という話になる。その際「組織の形をこう変えよう」「評価制度をこうした方が良い」などと進めて行くと、必ず「人財が足りない」という話に行き着く。
企業の担当者から「採用でどういう人を取れば良いのか」という相談を受けることもあるし、「最終面接には全部出てほしい。採用すべき人材を見極めてほしい」という相談を受けることも多い。結局、人と組織の話に行き着いているのが課題だ。
人から聞かれる、頼られる存在になることからめざす
――EC業界における今後のトピックスとして注目していることは。
石川氏:チームの作り方や考え方を変えなければいけないタイミングに来ている、ということに注目している。
果たして自社でそれだけのプロ人材を確保できるのか。さらには、そうしたプロをアレンジする人、つまり組織の中心で事業運営を設計していく、より経営に近い人を獲得できるのか。そう考えると、今後はそういった人たちを外部から採用する形になるのではないかと思う。
その方が質の良い組織の再現性が高いし、万が一「方向性が合わなくなった」「もっと適任な人が見つかった」となった際、チームが有機的に変化し続けられることになる。それは会社にとっても個人にとってもWin-Winの新しい形になっていくのではないか。
人手不足の現在の市況を考えると、旧来のように自社のメンバーが全員社員で、その人たちの月曜から金曜までのデイタイムをすべて自社の業務時間として押さえるというのは現実的ではない。
もちろん、そのような働き方ができる存在がいればいいし、コアなポジションの人たちにはそうあってほしいと思っている。しかし、人を獲得できるまで事業がドライブできないのでは話にならない。
――企業のEC部門で成長中の担当者に一言お願いしたい。
石川氏:まず「この領域だったら彼/彼女に聞こう」と思ってもらえる人材をめざしてほしい。社内で問題が起きたときに「これは○○さんに聞いたら良い」という存在になってほしいと考えている。
そうするとどんどん自分の領域が増える・拡大していくことにつながる。気が付けば、組織だけでなく、業界全体でも「この領域だったら彼/彼女に聞こう」と思われる人材になっていく。それが成長の近道の1つで、得意分野のプロフェッショナルになれるはずだ。
石川氏:自分の場合、新卒の頃は社内で「レコメンドエンジンについてだったら石川に聞こう」となるように取り組んでいた。次に「ECの集客についてだったら石川に聞こう」「ECの売り上げを上げるなら石川に......」となるようにプロと呼べる分野の領域を徐々に広げていった。この延長線に会社の経営があった。
得意領域を深掘りし“職人”になるか、横に領域を広げて経営者タイプになっていくのかということは選択だと思う。より数が必要なのは職人タイプだが、経営者タイプの人材も足りていない。専門領域が広い人材は1人で何社も見ることができるかもしれないが、実際に描いた戦略を実行する段階では職人タイプのプロフェッショナルが必要になる。
経営者の立場として見ると、喫緊のニーズは、1つの職場に制約されず複数社の現場で自由に動けて手を動かせる職人タイプだろう。人気がある人の手は常に埋まっている状況で、外部の4~5人に声をかけてもタイミングによっては誰もつかまらないこともある。その意味で、まずは限定された領域でも良いのでプロ人材になることをめざすべきだ。
――「EC業界で伸びる人」ならではの特徴や、EC担当者が行動したほうが良いことは。
石川氏:担当者レベルでは日々のルーチンワークが多いと思うので、ルーチンをこなすだけにならないようにする。自分の担当業務だけでも良いので、フローやルールを疑い、壊していってほしい。自分たちが作ったルールに縛られてしまいがちだが、新しいことはとにかく試すマインドを持ち続ける。
マネージャーなど、経営に近づくポジションになるほど多部署と協業しながら仕事を行うことが増える。この場合は、利害関係を統制する能力や社内調整力を意識する必要がでてくる。
――「ネットショップ担当者アワード」について一言お願いしたい。
石川氏:自身の職能を横に広げるか、1つの領域のプロフェッショナルとして縦に深掘りするかはどちらでも良いが、このアワードを開催することで、個人のキャリアを考える上でのロールモデルを見つける手助けになるのではないか。
「ネットショップ担当者アワード」は“ECのプロフェッショナル人材になるための登竜門”という位置付けでもあり、他人からの評価を得ることで「自分はプロだ」という自覚を持つことは意義深いように思う。
とにかく、ECは業務が多岐にわたるし、業界全体で人が足りなさすぎる。たとえば社内でメルマガだけを担当している人は将来のキャリアプランの広がりを描きにくいのではないか。しかし、メルマガひとつとってもプロのノウハウが存在しているし、まずはそれを獲得し認められることで、自分が考える以上の人材ニーズに触れることができるようになるかもしれない。
石川氏:表彰を通じて「自分もああなりたい」というロールモデルが顕在化してくると、どういったスキルを伸ばすことが転職時に有利になるかというイメージが沸きやすいと思うし、企業としてもスキルフルな人材が増えることは望ましいことだ。そうして具体的なスキルを持つ人材が増えていけば、雇用形態も正社員だけではなく外部のプロに委託するという選択肢も増えてくるだろう。
私自身、複業やプロ人材の活用にネガティブな企業で仕事をしたいとは思わないし、実際に、お固いイメージがあるような大企業から1人のプロ人材として声をかけられる機会も年々増えてきていて、確実な時代の変化を感じている。
企業側にとっても、担当者が生き生きと活躍している様子を通して人材活用のブランディングを行うことはとても重要た。企業としてもこのアワードが優秀で多様な人材が活躍しているというブランディングの場となり得るのではないか。
石川氏:「自分の作業が事業にどう役立っているかわからない」という若手の悩みをよく耳にするが、若い頃からより責任あるポジションをめざすためには、まずは狭い領域でも良いので相対的に1位になることをめざしてほしい。
特定の領域に特化すれば、若手だったとしても頼られる状況を社内で作ることができる。経営に近い人間が事業を推進する際に、プロジェクトにその若手を含めることが合理的になる。どの分野の一番をめざすかは自由だが、先輩社員に得意な人がたくさんいる領域ではなく、誰も開拓できていない領域に特化していくのもキャリア上の競争戦略だと思う。
石川氏がjoinしている、「ネットショップ担当者フォーラム」4名の選考委員はこちら! 各人のインタビュー記事も続々配信中です。
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【選考委員長】中島 郁 氏/ネクトラス株式会社 代表取締役
【選考委員】大西 理 氏/スマイルエックス合同会社 代表
【選考委員】石川 森生 氏/ルームクリップ株式会社 KANADEMONOカンパニー管掌、オルビス株式会社CDO(Chief Digital Officer)、トレンダーズ株式会社 社外取締役、株式会社RESORT代表取締役CEO 他
【選考委員】逸見 光次郎 氏/株式会社CaTラボ 代表、オムニチャネルコンサルタント、日本オムニチャネル協会 理事
「ネットショップ担当者アワード」第2回授賞式は11月20日、16:15から「虎ノ門ヒルズフォーラム」にて開催。聴講無料、事前登録制です。ふるってご参加ください!
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