ECは「読む」から「見る」時代へ。EC動画マーケティング最前線

イオングループのリテールメディアがめざす「体験を届ける」顧客体験とは?責任者が語り尽くす「共創ドリブン型のマーケティング」の全ぼう

リテールメディアを展開しているイオングループでは、動画活用によって顧客への情報発信の在り方を変革しています。「動画が持つ力は非常に大きい」と語る担当者に取り組み施策を聞きます【第3回】

大里 紀雄[執筆]

7:00

年間10兆円以上の売り上げ、年間数十億人以上の来店者、1億人以上のWAON POINT会員、全国1万7,000の店舗網──。国内最大規模の小売グループであるイオンが、その巨大な資産を横断的に活用し「リテールメディア」という新たな領域でDXを加速させています。単なる広告事業ではなく、生活者と共に成長する「共創ドリブン型のマーケティング」をめざすなかで、リテールメディアにおいては動画が大きな役割を担っています。今回は、イオン株式会社の赤坂徳聖氏(リテールメディア推進部 部長)との対談から、巨大リテールグループが動画マーケティングを通じて描く次世代の顧客体験の姿に迫ります。

リテールメディアが生み出す新たな顧客体験

イオングループにおけるリテールメディア推進の中核を担うのが、2024年4月にイオン株式会社内に新設された「リテールメディア推進」組織です。同組織は、グループ内に分散していた顧客接点やデータを統合し、1人ひとりの顧客に寄り添う新たな体験価値の創出をめざしています。赤坂氏は、そのリテールメディア戦略を統括する責任者として、全体構想の策定と実行をけん引しています。

デジタルサイネージで動画活用推進

大里:早速ですが、イオングループではリテールメディア推進の一環として、店頭のデジタルサイネージ活用にも力を入れていらっしゃいます。動画マーケティングの観点から、店頭での動画活用について、どのような可能性をお考えでしょうか。

大里 紀雄(おおさと のりお) 本連載執筆者/Firework Japan株式会社 Revenue Operation Manager, Sr. Marketing Manager
大里 紀雄(おおさと のりお)
本連載執筆者/Firework Japan株式会社 Revenue Operation Manager, Sr. Marketing Manager

赤坂氏店頭サイネージにおける動画活用は、単なる販促手段ではなく、購買直前の“意思決定メディア”として大きな可能性があると考えています。

赤坂 徳聖(あかさか のりまさ) 氏 イオン株式会社 リテールメディア推進部 部長。2024年4月に新設された同部署の責任者として、グループ全体のメディアアセットやデータアセットを集約し、リテールメディアを起点としたスケールメリットの創出をけん引している。「Yahoo!ショッピング」等でのECコンサルタント経験も持つ。
赤坂 徳聖(あかさか のりまさ) 氏
イオン株式会社 リテールメディア推進 責任者。グループ全体のメディア・データ基盤を統合し、リテールメディアを起点とした新たな価値創出を推進。デジタルコンサルタント、モバイルマーケティング、新規事業開発など幅広い領域で実務・マネジメントを経験。

私たちがめざしているのは、動画を通じて「モノを売る」だけでなく、お客さまに新たな「体験を届ける」ことです。

たとえば、2024年3月にサントリーさんと連携し九州の店舗で実施した取り組みでは、単にビールのCMを流すのではなく、UGC(SNSなどに一般ユーザーが自発的に作成・投稿するコンテンツ。レビュー、口コミなど)を基に「このビールに合うおつまみランキング」という動画を作成し、サイネージで放映しました。さらに、そのランキングと連動した棚を作ったところ、多くのお客さまが足を止め、関心を示してくださったんです。これは、企業からの一方的なメッセージではなく、生活者のリアルな声が共感を呼んだ好例だと考えています。

UGCを活用したデジタルサイネージ+連動する棚を作り、関心を集めた
UGCを活用したデジタルサイネージ+連動する棚を作り、関心を集めた

“広告感”のないコンテンツ醸成に成功

大里:非常に興味深い事例ですね。UGCを活用することで、広告感が薄まり、コンテンツとしての魅力が高まったということですね。生活者のリアルな声は、何より信頼できる情報源ですから。

赤坂氏:はい。今後はさらに一歩進めて、地元の店舗で買った商品をハッシュタグ付きでSNSに投稿してもらい、その中から選ばれたものをサイネージで流すといった、お客さまが参加できる企画も面白いと考えています。

ユーザー起点の企画とデジタルサイネージを組み合わせる取り組みをイメージしている
ユーザー起点の企画とデジタルサイネージを組み合わせる取り組みをイメージしている

お客さまが参加できる仕組みを通じて、店舗を“モノを売る場”から“共感が集まる場”へと進化させていく。そのためのコンテンツとして、動画が持つ力は非常に大きいと感じています。

AI時代でも「店舗」はなくならない

大里:昨今、AI技術の進化は目覚ましいですが、今後の消費行動やメディアのあり方はどう変わっていくとお考えですか?

赤坂氏:近い将来、私たちの購買行動を主導するのはパーソナルなAIエージェントになると考えています。欲しいものを伝えれば、エージェントが最適な商品を最適なタイミングで提案し、購入まで済ませてくれる。そうなると、企業は「エージェントにいかに選ばれるか」を考えてマーケティングを行う「AIO(AI Optimization)」の時代が来るでしょう。

大里:現実味がありますね。そうなると、リアルな店舗や、そこで行われる動画マーケティングの価値はどこに見出されるのでしょうか。

赤坂氏AIの時代が来ても店舗の価値が失われることはないと考えています。特に日本では、国土が狭く店舗が密集している地理的要因や、「自分の目で見て安心して買いたい」という日本人特有の文化があるからです。

むしろ、店舗の役割はより重要になります。これからの店舗は、オンラインでは得られない「発見」や「体験」、人との「温かみのあるコミュニケーション」を提供する場へと進化していくはずです。そのために、ショッピングカートのメディア化によるお得情報の発信や販促連携、サイネージ×AIカメラによるコンテンツ視聴・購買行動の可視化など、先進的な取り組みを通じて店頭DXを加速させ、EC同様のシームレスなレコメンド体験をリアル店舗で実現し、新たな購買価値の創出をめざします

イオングループがめざす「共創ドリブン」で動画が果たす役割

大里:「最適化」はAIに任せ、人間はより創造的で情緒的な価値を提供する――と。まさに我々Fireworkが動画を通じてめざしている「人間らしい対話」の世界観と重なります。

赤坂氏:その通りです。私たちがめざすリテールメディアの姿は、AIによる最適化を活用しつつ、その先にある「発見」や「体験」、人との「温かみのあるコミュニケーション」といった“共感”が原動力になるものです。これは、生活者が「生活の質をより良くしたい」と願う気持ちに寄り添う、いわば「共創ドリブン型マーケティング」です。

リテールメディアを通じて地域社会に貢献し、お客さまと共に成長していく。そのためには、ロジックだけでは人の心は動きません。九州の店舗でのサントリーさんの事例のように、UGCのような共感を呼ぶ動画コンテンツの重要性は、これからますます高まっていくでしょう。

イオングループは動画活用による“共感ドリブンマーケティング”を描いている
イオングループは動画活用による“共感ドリブンマーケティング”を描いている

大里:「共創ドリブン」、非常に示唆に富む言葉ですね。データとテクノロジーが、いかにして人間らしい温かみのある体験を生み出していくのか。その中で「動画」が果たす役割の大きさを改めて感じました。ありがとうございました。

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