ベルーナ子会社の看護師向けEC「ナースステージ」が語る1to1コミュニケーション設計+Cコマースの可能性
会話を起点に購買行動を促す「Cコマース(会話型コマース)」に取り組む事業者が増え続けています。公式アカウントを通じたチャット、1to1のオンライン接客など、その手法や業種は多種多様です。今回は、看護師向け通販業界トップシェアでベルーナ傘下のナースステージで、人材紹介事業を担当する並木純一氏(キャリア事業部マーケティング室マネジャー)と対談。求職者との良質な関係構築を促すCコマースを活用した1to1のコミュニケーション設計について聞きました。
- 看護師向け人材事業が「 Cコマース」に行き着いた理由
- チャットも営業も、的を得たタイミングが大事
- “自分に語りかけてくれる”感覚のコマースプラットフォーム形成を構想
看護師向けECや人材事業を手がけるナースステージがCコマースに行き着いた理由
Micoworks 大里紀雄(以下、大里):「Cコマース」は今やECのみに限らず、人材業界における求人紹介など、幅広い領域でのビジネス活用が進んでいます。並木さんが所属するナースステージさんでも、人材領域でCコマースを展開しているとお聞きしました。まずはナースステージさんの事業概要について教えてください。
並木純一氏(以下、並木氏):看護師向けのECサイト「ナースリー」「アンフェミエ」を運営する企業です。親会社はカタログ通販大手のベルーナ。両ブランドの会員数はのべ215万人です。現在、1年間に医療に従事する看護師数は150万~160万人と言われているため、2つのECサイトを通じて世の中の多くの看護師の方とタッチポイントを持っています。
並木氏:私はナースステージで、人材紹介事業を担当しています。6年前に新規事業として立ち上げた看護師向け転職支援サービス「ナースキャリアネクスト」です。立ち上げ以来、マーケティング全般の責任者として運営に携わってきました。
並木氏:サービスの特徴は、求職者にとって無理のない転職支援を行っていること。「ナースキャリアネクスト」に登録している看護師は「ナースリー」「アンファミエ」を利用している方も多いです。EC事業を通して長期にわたって築いた関係性と認知の下、安心感を持って転職支援サービスを利用いただいている手応えがあります。
看護師は一般的に転職回数が多い職業。「大手の求人サービスは使いたくない」という看護師が一定層います。そんななか、EC事業で築いた信頼感が後押しとなり、「ナースキャリアネクスト」を選んでいただくことも少なくありません。
信頼感の醸成にCコマースが有効
大里:看護師向け転職サービスが数多くあるなかで、求職者がナースステージさんを選ぶ理由がその辺りにありそうですね。「ナースキャリアネクスト」ではCコマースを、キャリアアドバイザーと登録者の1to1コミュニケーションに活用しているそうですが、そこに至った背景を教えてください。
並木氏:前提として、「ナースキャリアネクスト」では転職ニーズを引き出せる潜在層の看護師に時間をかけてアプローチしていくことを想定しています。私たちを信頼していただくことで、転職への意思を育てていくサービスをめざしているのです。
いかに求職者と中長期的に緩やかなつながりを築くかを試行錯誤するなかで、「ナースキャリアネクスト」の登録者にLINEを使ったチャットのやり取りで温度感を高めた後に、キャリアアドバイザーが架電すると、通電率、その後の工数における展開率が非常に高いことに気づきました。
大里:1to1コミュニケーション、すなわちCコマースが、まさに事業展開を良い方向に導いているということですね。
並木氏:その通りです。コミュニケーションを重ねていると、自然と信頼関係が育まれていきます。たとえば、キャリアアドバイザーが普段からチャットでやり取りしている登録者に初めて電話した際に、登録者から「いつもお世話になっています」と声がけいただくことがあります。
「登録者との距離感がこんなに縮まっているんだ」と感激しますし、コミュニケーションを通じて接触し続けることの効果を実感しています。
チャットも営業も、大事なのはタイミング
EC事業の顧客リストが転職サイトにも貢献
大里:ナースステージさんのマーケティングでは、“信頼感の重視”が一貫されていると感じます。競合サービスも多く台頭しているなかで、そのスタンスを確立されるようになったのはなぜでしょうか。
並木氏:理由の1つに業界構造における課題があります。他社の看護師向け大手求人サイトでは、広告費で集客を募っている分、すぐに売り上げを伸ばさないと先行投資を回収できない事業構造になっています。そのため「転職顕在層にアプローチして、1か月以内に転職してもらう」というロジックになっており、どうしてもお客さま本位では動きにくい経営面の内情があります。
一方、「ナースキャリアネクスト」は、看護師向けEC事業である「ナースリー」「アンファミエ」を運営しているため、EC事業を通じて看護師の方のリストをすでに保有しています。広告による集客に依存しないため、潜在層、準顕在層の転職支援にじっくり向き合える体制になっているのです。そのため、信頼感の重視を大切にできています。
テンプレではない1to1の返答が鍵
大里:なるほど、そもそもナースステージさんと競合他社では事業構造からして違うのですね。求職者の方とチャットで温度感を高めているとのことですが、特にどういったことを意識していますか? 転職は登録者のプライベートな事情に関わることも多そうですが、いきなりそこに踏み込むのは難しい印象です。
並木氏:温度感を高めるという意味では、チャットも、実店舗での接客や営業におけるコミュニケーションでも、大事なことはあまり変わらないのではないでしょうか。
たとえば、Cコマースはあくまでも会話が主体ですから、テンプレートの印象を与えるような返答は控えています。チャットコミュニケーションに関するマニュアルも、人材業界としての基本的な流れは踏襲しつつも、各登録者に寄り添った1to1の返答ができるような仕組みに留意して作成しました。
私はかつて営業マンだったのですが、顧客に刺さるポイントをことごとく外してしまう“がっかり営業”と呼ばれる営業を聞いたことがあります。その逆で、顧客が知りたいことに芯を食った応答ができたり、顧客が望むタイミングに合わせてコミュニケーションができたりすることが重要だと感じています。
“自分に語りかけてくれる”感覚のコマースプラットフォームを構想
大里:タイミングが重要というお話について詳しく聞かせてください。ユーザーの熱量が高いタイミングを見極め、冷めないうちにコミュニケーションを図ることが大切だと思いますが、「ナースキャリアネクスト」において密にやり取りを行うタイミングはいつなのでしょうか?
並木氏:大きく分けて2つあります。①会員登録直後のタイミング ②転職先と現在の勤務先との比較検討を進め、検討度が上がっているタイミング――です。②のタイミングでは、温度感が上がっていく方と下がっていく方がいます。下がっていく方の場合は、現状に不満はありつつも実は転職をしなくてもいいと思っていることも多いですね。その場合は、私たちも無理に転職をお薦めすることはしません。
相手の熱量が高まるタイミングがきたら、すぐに返信することが大切です。企業同士のやりとりでは、メールで1日、2日置いてから回答が返ってくるようことはよくありますよね。「ナースキャリアネクスト」では、レスポンスの速さに特徴を持つLINEを使って1to1をしていることもあり、なるべく即日、もしくは翌日までには連絡するようにしています。登録者の熱量が冷めないようにする意図です。
ECと転職の相関関係を探る
大里:EC事業の「アンファミエ」「ナースリー」でも同様にCコマースを推進する方針でしょうか?
並木氏:はい。EC事業ではまず、FAQとコールセンターの中間の役割を担うツールとしてチャットを活用していきたいと考えています。ゆくゆくは、EC事業と転職サイトを統合させたいという構想もあります。現状はECと転職サイトはそれぞれ独立して存在しているのですが、将来的には1つのプラットフォームのなかで買い物を提案しつつ、転職の提案もする――いわば「提案型コマース」を実現する構想です。
私は、買い物と転職には相関関係があるのではないかと感じているんです。たとえばカーテンを購入するのは、窓の大きさをきちんと意識して把握できる、引っ越しの直後が多いと言います。同じように転職のサインとして何かを買いかえるというような傾向が見えるかもしれません。ライフイベントやステージの変化に基づく消費行動や転職ニーズの変化があるのではないかと考えています。
大里:とても興味深い考察です。ECの購買と転職意欲の高さと相関関係が見えてきた先に描いているビジョンはありますか?
現在、ナースステージでは看護師特化型のEC・転職サービスを提供しています。しかし看護師は、看護師という肩書きの前に、1人の生活者でもあります。育児をしたり、運動をしたり、美容に気をつかったり、1日24時間のなかでさまざまな消費活動を行っているはずですよね。先ほどお話した通り、当社としてはお買い物と転職の相互関係の分析から始まり、最終的には衣食住に関わるトータルサービスを提供する展望を描いています。
顧客の“次の行動”を提案するプラットフォームをめざす
大里:Cコマースのメリットの1つとして、メールと比較して返事が戻ってきやすいなど、顧客とのエンゲージメント向上があると感じます。そのメリットを生かすことで、ユーザーの一次情報を得やすくなり、その方の属性や興味・関心をベースにしたマーケティング施策が打ちやすくなると思います。トータルサービスをめざすその展望においても、Cコマースは活躍しそうですね。
並木氏:まさにその通りです。将来的には、ユーザーがすべて自主的に情報を探しに行くのではなく、「こんな職場ないかな」「こんなお買い物がしたい」と思ったときに、チャット内で精度の高いレコメンドがなされるイメージを描いています。
お客さまの心に響くのは、転職エージェントが“自分に語りかけてくれる”感覚だと思います。そうした会話をベースにしたコマースプラットフォームを築くことが理想だと考えているため、これからも事業におけるCコマースの可能性に期待しています。
大里:今回は、未来に向けて広がりのあるお話をありがとうございました。