阪急交通社の1to1コミュニケーション成功事例。アフターコロナの旅行ニーズを拡大させるオンライン接客術とは
コロナ禍を経て旅行目的や生活者の情報収集経路が変化するなか、老舗旅行代理店の阪急交通社は顧客の行動変容とニーズに合わせたデジタルコミュニケーション施策に取り組んでいます。EC事業者のマーケティング支援を手がけるMicoworksは、阪急交通社でオンラインマーケティングを担当する宇和川匠氏(DX戦略事業本部 ウェブ戦略部 ウェブ戦略2課課長)に取材。「Cコマース(会話型コマース)」を活用した顧客コミュニケーションに取り組む阪急交通社の成功事例を掘り下げます。
シニア世代のデジタル化を受けてECを推進
Micoworks:まずは事業概要を教えてください。
宇和川匠氏(以下、宇和川氏):阪急交通社は、1948年2月22日に創業した旅行会社です。店頭販売を主力とする同業他社と異なり、私たちは創業当初から雑誌や新聞、会員誌、ダイレクトメール(以下、DM)による専門カタログなど、紙媒体による通信販売を主軸として消費者に旅行のパッケージ商品、ツアー商品を販売してきました。
主要顧客層は60代~80代のいわゆるシニア世代で、添乗員つきのツアーに強みがあります。出発から帰着までの旅行行程の管理や現地でのトラブル時のフォローなど、「国内外関係なく安心して旅行ができる」とお客さまからはご好評いただいています。
Micoworks:宇和川氏が日々取り組まれているEC業務を教えてください。
宇和川氏:私はウェブ戦略部に所属し、西日本発着商品のWebサイトでの商品管理、商品アップデートなどのメンテナンスや、メルマガ・LINEの運用などを担当しています。
Webサイト経由での予約は年々増えてきています。現在では予約全体の60%がWebサイトです。将来コアなお客さまとなる、40代から50代の顧客層はITリテラシーが高いので、阪急交通社としてもデジタルマーケティングに注力し、オンラインでの接点を拡充しているところです。
体験、レジャー型の引き合いが増加
Micoworks:現在の旅行業界はどのような状況でしょうか。
宇和川氏:アフターコロナの現在、コロナ禍での外出自粛の反動で、旅行需要はコロナ前に戻りつつある状況です。今までと異なるのは、「北海道周遊 7日間」というような観光地を重視した周遊ツアーよりも「雪まつりを見に行きたい」「冬の沖縄で花火がみたい」「東北三大祭りに参加したい」など、レジャーやイベントを楽しむ体験型ツアーの人気がでてきました。
海外向けの旅行プランも同様に、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手の試合を応援する野球観戦ツアー、民放テレビ局が放送した人気ドラマのロケ地を巡るモンゴルでの年越しツアーなども大きな反響があります。
コロナ禍前後でお客さまの価値観や行動が変化し、観光地中心で選ぶのではなく「どのような体験がしたいか」「どのような体験ができるか」に価値をおいて旅行先を決める方が増えました。そのため、会社としてもラグジュアリーな体験ができる旅、長期滞在を楽しむ旅、1人でのリラックスタイムを満喫する旅といった特化型の商品ラインアップを強化しています。
Micoworks:こうした市況を踏まえ、マーケティングや顧客コミュニケーションで課題に感じることはありますか。
宇和川氏:阪急交通社の主要顧客層は60代から80代のシニア層ですので、従来は紙媒体を通じた通信販売に注力してきました。今は幅広い年代の方がスマホを使いこなす時代。また、コロナ禍を経てWeb上での購買行動が活性化しています。次なる主要顧客となる40代後半から50代の顧客層に向けてデジタル上のコミュニケーションを充実させ、利便性向上を計りながら、1人ひとりの旅行動機に応じた旅行プランを提案する必要があると強く感じていました。
「Cコマース」で個別最適なコミュニケーションを設計
Micoworks:消費行動の変化に対し、阪急交通社はどのようなコミュニケーション施策で対応してきましたか。
宇和川氏:お客さまの行動変容に合わせて、顧客コミュニケーションの比重をデジタル中心に変えていく必要がありました。そこで、新たな顧客層との接点拡大を見据え、DMやメルマガに加え、個別に最適なコミュニケーションが実現できるLINEを活用したCコマースに注力することにしたのです。
Micoworks:阪急交通社ではプッシュ型のコミュニケーション手段を多数展開しています。それぞれどのように運用されていますか。
宇和川氏:デジタルでお客さまとつながるプッシュ型のチャネルは、メルマガ、LINE、アプリがあり、それぞれの特性を生かしたコミュニケーションを取っています。
主要なプッシュ媒体であるメールマガジンは、おすすめ商品やキャンペーン告知などなるべくこまめに、配信回数を多めにして情報をお送りしています。
LINEはお客さまにブロックされないよう興味を持ち続けてもらえるような情報を配信回数を絞って送信しています。
アプリは、ダウンロードしてもらうハードルがあるものの、ダウンロード後はアプリ特有のプッシュ通知で目を引くことができるので、アプリを毎日開いてもらう仕掛けも含め運用しています。
Micoworks:配信にあたり、どのチャネルでも共通して気を配っていることなどありますか。
宇和川氏:全てのプラットフォームで配信コンテンツをそろえています。どのお客さまでも、自身のアクティブなチャネルで情報を受け取り、興味を喚起し、行動に起こすことができるようにという意図です。
今は多くのチャネルがあり、自分にとって最適なツールを選べる時代。ですから、デジタル上で複数の接点を用意して、どこからでも同じ情報が受け取れるようにしています。旅行商品には発地の概念がありますので地域ごとに商品をお届けしています。
LINE経由の売り上げがアップ
Micoworks:具体的にはどのようにLINE公式アカウントを活用した「Cコマース」を取り入れていますか?
宇和川氏:お客さま1人ひとりに合わせた個別最適な情報を継続的に配信しています。たとえば、全国で実施しているキャンペーン情報や、お客さまの居住地と興味関心に合わせた商品紹介などです。
公式アカウントは以前は30以上あったのですが、それらを1つに統合。新たなアカウント名「阪急交通社【公式】」として2023年11月にリスタートしました。「Cコマース」という新たな取り組みを実施するには、まず、会社全体で足並みをそろえ、戦略やフロー、運用体制を整える必要があったからです。
統合前のアカウントでは、各アカウントごとに友だち獲得や販売チャネルとしての取り組みに大きなばらつきがありました。
そのため、情報がきちんと届いているお客さまと、情報が行き渡っていないお客さまが存在する状況となり、顧客コミュニケーションが統一できていない状況がありました。
Micoworks:LINE公式アカウントによる「Cコマース」を行うようになってからは、どのような変化を感じていますか?
宇和川氏:「Cコマース」の本格的な運用を開始してからはLINE公式アカウント経由の月間売上が増加しています。LINE公式アカウントの友だちも順調に増えています。当社のコア顧客層からも友だち登録をいただいています。
LINEでの接点を増やすことで確実に売り上げにつながることが改めてわかりました。また、社内でも1つの目標に向かってまとまることができました。活用することで社内外、どちらにもポジティブな効果が生まれているのです。
デジタル上の会話を通して顧客ニーズを把握し、より良い商品を提供したい
顧客との対話を起点とした商品開発をめざす
Micoworks:今後の展望、そこに向けたCコマース活用について教えてください。
宇和川氏:スマートフォンで完結するデジタル接点拡大をより強化する方針です。もう1つ、阪急交通社は関西エリアにメインの拠点を置く会社ではありますが、地域やエリアに関係なく、全国ベースで認知拡大を強化していきたいと考えています。
実現には個別最適なコミュニケーションでお客さまの声を拾い上げ、商品開発に生かし、1人ひとりのニーズに合わせた情報発信と商品提供をしていくことが欠かせません。
オンラインマーケティングを業務の主とするDX戦略事業本部は、店舗における対面での接客機会が少ない分、必ずお客さまの声に耳を傾け、施策の振り返りを行い、商品をアップデートし続けてきました。
今後も時代の流れとともに、お客さまが旅行商品に求める価値も変わっていくでしょう。対話を通して、より多くのお客さまの本音を細かく拾い上げることができるのは「Cコマース」の最大のメリットです。
お客さまからの反響があれば継続しながら、そこへ新たなチャレンジを組み込む。お客さまの声から新たな商品を開発する。そうすることで、これからもよりお客さまの人生を豊かにする旅行体験をお届けしていきたいです。