「単にモノを売るだけでは厳しい」。小売・EC事業者が「どう提供価値を上げていくのか」を“売らない店舗”から考える
ECの台頭で、リテールは変化を求められている昨今。D2Cショップの増加によって、リテールは「売らない店舗」という大きな"進化"を遂げようとしている。D2C×リテールはユーザーにどのような体験を生み出していくのか、「博多マルイ」を運営する丸井 博多マルイ店次長 西澤隆幸氏、「D2C SUMMIT」を主催するにっぽんD2C応援委員会 委員長・プロデューサー 関洋祐氏が語り合った。
丸井グループの九州初店舗として2016年4月にオープンした「博多マルイ」。オープン後は「お客さまとの共創による店舗」というテーマで独自の進化を遂げてきた。
顧客との対話や地域社会への関係を大切にしてきた博多マルイは2022年2月、ビジネスカンファレンス「D2C SUMMIT」とのコラボレーション企画でD2Cブランド体験型ポップアップイベント「We'll SHOP by D2C SUMMIT」を立ち上げる。
ビジネスカンファレンスとEC事業社がタイアップし、ポップアップイベントを実施するのは史上初の試みとなる。
「売らない店舗」はどのような思いで作られたのか
関洋祐氏(以下、関氏):「売らない店舗がECとどう融合するのか」「リテールは今後どう進化していくのか」などを掘り下げていき、EC事業社へ今後のヒントになるようなテーマでお話したい。まず、今回のポップアップイベントをどのような思いで「売らない店舗」と表現しているかお聞きします。
西澤隆幸氏(以下、西澤氏):リテール業界全体を見ると、バブルの成功体験から抜け出せず、変化できずにずるずると店舗を運営してきたように思います。当時を振り返ると、アミューズメントの世界が百貨店にはあり、来店の目的は最新の商品を見て回り、それを買うことが楽しみだった。しかし、時代の変化でネットの力が大きくなり、消費者はモノを所有することが楽しみではなくなり……。実店舗に足を運ぶこと自体の魅力が薄れてきたように思います。
今後、お客さまにとって魅力的な店にしていくには、リアル店舗ならではの楽しさを感じていただく「体験」を重視した店作りをしていかなければならない、ということにたどり着きました。
D2Cブランド体験型ポップアップイベント「We'll SHOP by D2C SUMMIT」
- 日程:2022年2月16日(水)~2月20日(日) 10時00分~21時00分
- 場所:博多マルイ4F 特設会場(福岡県福岡市博多区博多駅中央街9-1)
- 詳細はこちら:https://d2c-summit.com/news/20211019.html
D2Cの台頭で「店」はどう変化しているか
関氏:僕は2000年頃からネットで買い物をしていますが、当時「ECでアパレルを買うわけがない」と言われていました。しかし、今となってはネットで服を買う機会が非常に増えてきた……。
また、リアルでしかできなかったこと、たとえば過去の履歴からサイズを比較する、3Dで状態がわかるなどECもリアルの体験に近づいているように感じます。リテールは体験に近づき、ECはリテールに近づいている、お互いに進化しているような状況にあるのかなと考えています。
西澤氏:EC、リアル店舗に共通して言えることですが、「単にモノを売るだけ」の業態は厳しいですね。リアル店舗では、ネットでも買えるようなモノがただ並んでいるだけでは魅力がありません。ECの技術的進歩やアパレルを中心とする低価格化は、ますますECへの流出を高めています。また、EC側でも単にモノを売るだけでは、販売コストの増大や価格競争に飲み込まれてしまいます。
一方、リアル店舗ではリアルの良さを生かした体験価値が高いものは伸びています。漢方やハーブティーなどコンサル性が高いモノは人気が高い。食やサービスなども含め、リアル店舗でなければできない「体験」は支持が高まっていると感じます。EC事業者のなかには、このリアル店舗ならではの「体験」をうまく活用している方が増えていますよね。
関氏:EC側も競争が激化していて、体験価値をどう提供していくのかは差別化のポイントになってきています。ここ1、2年でその違いが顕著に表れてきています。さらに、コロナ禍でECが伸びているのと同時にEC事業者の数も大きく増加。単純なモノ売りが淘汰されていくのはECも同じで、EC事業者も「どう提供価値を上げていくのか」をもう一度考え直さないといけない時期にきています。
「偶然の出会い」をEC事業者が生かせる場所にしたい
関氏:今回のD2Cブランド体験型ポップアップイベント「We'll SHOP by D2C SUMMIT」(以下、We'll SHOP)では、EC事業者のみなさんにECだけでは提供できない体験提供を行ってほしいと思っているのですが、どのように活用してほしいですか。
西澤氏:実現したいことは2つです。1つ目は「体験価値」。「楽しい」という体験と「(実物の)確認をする」という体験を提供する場にすること。2つ目は「セレンディピティ」。目的とは違うコト・モノとの偶然の出会いを大事にしていきたいです。
今、インターネットで商品を見ているとどんどん最適化され、自分が既に興味を持っている商品しか出てこないような状態。最適化し過ぎている状態となり、複数の企業が同じキーワードを取り合っています。そのため、お店側も新しいお客さまを見つけようにも見つからない状況です。しかし、リアル店舗ではそういうことはなく、まったく知らなかった商品との出会いを作ることができ、そこに大きな商機が転がっています。
関氏:セレンディピティ(編注:偶然の出会い、予想外のモノを発見するという意味)がオフラインに向いているというのは、リモートワークで仕事するなかでも大きく感じました。また、人と人との間で自然と新しい発見が生まれていくことの重要性も感じています。お店に足を運べば他の店舗も目に入るので、今の話はすごく納得しましたね。
ECは狙いを定めて、商品を求めている人を見つけることが非常に得意。一方で、データに基づいて興味・関心のありそうなモノはレコメンドできますが、まったく気付かなかった出会いを創出するのは難しい。
西澤氏:テレビや雑誌もある種、最適化されていっていることを考えると、セレンディピティはリアル店舗に期待される、私たちの今後に向けた大きな役割だと感じています。EC事業者が活用したときに、それを実感できるのではないでしょうか。
接客を通して体験価値を感じて購入、アカウント登録などをしたお客さまは、「顧客獲得単価が低い」「LTVが高い」という特徴があります。「We'll SHOP」では、まだ店舗販売をトライしたことがないEC事業者に新しいお客さまとのチャンスを掴んでほしいと思っています。
ポップアップショップ「売らない店舗」での顧客の変化
関氏:今、東京の新宿や有楽町などでは体験型のD2C店舗も増えているようですが、お客さまの反応に違いはありますか。
西澤氏:多くの場合、まだお客さまが知らない新しいアイデア、機能などを盛り込んだ製品が並んでいて、それを自由に手に取って体験できるスタイルになっています。担当スタッフのミッションも「売り込むこと」ではなく、フレンドリーなコミュニケーションをベースにした「体験のお手伝い」。フレンドリーな空気感は、単に認知の拡大だけでなく、定性コメントの収集にも力を発揮します。クライアントからは「売れなかった時」のコメントに価値があると評価されています。
ネット上では「自分がほしいものがわからない」という状況もありますが、店舗ではそういった新しい商品や体験との出会いを楽しむお客さまが多くいらっしゃいますので、そこを活用してほしい。「We'll SHOP」がアミューズメント施設のような場になれば良いですね。
関氏:先ほどセレンディピティの話がありましたが、D2Cの体験型店舗を来店目的にしている方もいますか。
西澤氏:それはまだ少ないと感じています。「We'll SHOP」を行う博多マルイは、博多駅に隣接していて1日約3万人が入店します。年代的には博多駅前の人口構成に近く、購入は女性が多いです。テナントなども年代を絞りがちなアパレルの構成が低く、食や生活雑貨、エンターテイメント・アニメなどが中心。そのため、さまざまな方が来店します。どういうお客さまに興味を持っていただけるのか楽しみですね。
関氏:ポップアップショップをどう企画していくかも重要ですね。EC側でも、そういったアミューズメント性を意識しながら店舗をプロデュースできる人材が必要になってきます。両方をわかることが大事になってくるかもしれません。
西澤氏:リアル店舗側でもそうですよね。だからこそ、一緒に共創していくことが大事ですよね。
関氏:ECと実店舗をまたがって顧客の体験を作っていく必要がありますね。なかなかそのようなことを考えたことがないかもしれませんが、カスタマーサクセスの文脈であれば考えやすいかもしれません。そこを一緒に考えていく感じでしょうか。
西澤氏:消費者としての成功体験といいますか、消費者の直接的な接点をどう事業の中に盛り込んでいくかという観点が大事かなと感じています。
ポップアップショップは「お客さまにファンになってもらう」場にしたい
関氏:リアル店舗を出店しているEC事業者から「店舗では採算は取れている」という話をよく聞きます。なので「We'll SHOP」は「売らない店舗」ではなくて「売っても良い店舗」ですよね。
西澤氏:百貨店やメーカーなど売り手側への言葉でもあるのですが、今までは売ること、坪効率をあげることに目を向け、それがDNAに刷り込まれていたように感じています。
なので「売り込む」ことから解放されて、お客さまに楽しんでいただきファンになってもらう。結果的に売り上げにつながるという状態にチャレンジしたいです。売る以外のことにどれだけ注力できるかが勝負になります。
関氏:なるほど。そういう場として「We'll SHOP」を活用してもらえば良いということですね。
今後、博多マルイではパッケージとしてこのような「売らない店舗」を提供していき、それをEC事業者が活用することで、より体験価値を高めていけるか、セレンディピティを獲得していけるか、2点に対してPDCA回していくことが重要ですね。
西澤氏:「売らない店舗」を通じて、実際のお客さまに直接見ていただくことや今までとは違うお客さまとの出会いも感じてほしいと思っています。事業段階にもよると思いますが、新しい出会いや機会になると確信しています。
関氏:ECではお客さまの手元に商品が届いてからがお客さまの体験のスタートになっていて、そこから体験の「共創」のプロセスも始まります。買う前のお客さまでもそのプロセスをスタートできるということですよね。
ECを立ち上げやすくなっているからこそ、多くのプレイヤーが生まれているわけですが、成功と呼べるのは一握りです。成功しているEC事業者は「どれだけ解像度を高くしてお客さまのことを感じているか」を大事にしています。インタビューをしたりオンライン上で意見を聞いたりして、より深い顧客理解につなげています。それを店舗側でも行っていくことで、成功に近づくEC事業者が増えていきそうです。
西澤氏:リアル店舗での強みをより鮮明に打ち出していき、一緒に成長できたらと思っています。「We'll SHOP」ではイベントスペースも設けていますし、どういうアミューズメントを提供していくかを一緒に考えていけたら良いなと感じています。
関氏:一過性のものではなく継続して取り組んでいき、ビジネスカンファレンス発のポップアップショップの成功事例を作っていきたいですね。PDCAをしっかりと回しながら、ともに成長できるモデルを作っていきたいです。
D2Cブランド体験型ポップアップイベント「We'll SHOP by D2C SUMMIT」
- 日程:2022年2月16日(水)~2月20日(日) 10時00分~21時00分
- 場所:博多マルイ4F 特設会場(福岡県福岡市博多区博多駅中央街9-1)
- 詳細はこちら:https://d2c-summit.com/news/20211019.html