ランサムウェア攻撃により商品出荷に大きな影響を受けていたアスクルは12月17日、新たに構築した物流システム(WMS)を本格稼働し、自動化設備を活用した出荷を再開した。
これまでの手作業による対応から、自動化と最適化を実現した新システムへの切り替えとなる。アスクルはメディア向けに出荷作業を公開、その模様をレポートする。
WMSをゼロから再構築
ランサムウェア攻撃により、倉庫内における商品の入出荷、在庫管理、保管、棚卸し、ピッキング、出荷作業などを一元管理するWMSで障害が発生。バックアップデータも暗号化され、物流機能が完全に停止した。
WMSはマテハン(マテリアルハンドリング)を含む全工程を管理しており、システムが復旧しなければ倉庫全体が稼働しない状態に。アスクルは早期の復旧に向けて、WMSをゼロから再構築した。
WMSの早期立ち上げをめざし、現場スタッフには一定の手当を支給して待機してもらい、スピーディーな復旧に備えた。全倉庫で同様の対応を実施したという。
12月17日の本格稼働では、「ASKUL東京DC」「ASKUL関東DC」の2拠点で出荷業務を再開。メディア公開された「ASKUL東京DC」には本社から約50人が応援に入り、通常は約300人(登録人員600人)の現場に、この日は約500人が集結して業務にあたった。
アスクルの11月度業績は95.1%減
アスクルによると、11月度(10月21日~11月20日)の月次業績は、単体売上高が前年同月度比95.1%減の16億9800万円と、前年同月度比でわずか4.9%にとどまる深刻な影響を受けた。
主力のASKUL事業の売上高は同94.6%減の17億円(前年同月度比5.4%)、LOHACO事業は同99.9%減の300万円(同0.1%)となっている。
吉岡晃社長「本格的な復旧フェーズに入った」
吉岡晃社長も現場を視察し、「ランサムウェアによるサイバー攻撃により、多くの顧客や取引先にご迷惑をおかけしたことをお詫びする。10月19日の攻撃以降、被害拡大の抑制と顧客保護、原因究明を最優先に取り組んできた。現在、2拠点において本格的な復旧フェーズに入った。信頼回復を最重要課題とし、セキュリティガバナンスの抜本的な改革に取り組むことで、社会的責任を果たしていく」とコメントした。
アスクルは12月15日から、単品(バラ)単位での注文対象商品数を、従来の500商品から約1万6000商品へと大幅に拡大。12月17日から「ASKUL東京DC」「ASKUL関東DC」において、物流システムを使用した商品出荷を再開した。なお、ECサイト上のお知らせによると、倉庫管理システムを使用しない手運用による出荷スキームも一部継続するとしている。
今後も対象商品および出荷センターを順次拡大する予定だが、安定稼働が確認できるまでは、通常よりも配達日数がかかる場合があるという。
12月17日以降の注文方法と対象商品については、FAX注文はすべての顧客が利用可能。Webサイトからの注文は、在庫商品・直送品ともにすべての顧客が利用できる。対象商品数は、在庫商品が約1万6000点(申込番号数で約2万8000アイテム)、直送品はWebサイト注文限定で約1450万点超となる。
なお、「ASKUL東京DC」「ASKUL関東DC」からは単品・箱出荷が可能。大阪、仙台、横浜、名古屋、関西、福岡の各物流センターからは箱出荷のみの対応となる。出荷センターは商品ごとに異なる。
自動化設備も公開
メディア向けには物流拠点の自動化設備も公開された。主な設備は次の通り。
GTP(Goods To Personシステム)
「人が商品を取りに行く」のではなく、「商品が人の手元に届く」自動化システム。作業者は定位置でピッキング作業に集中でき、移動時間の削減や省人化、作業負担の軽減を実現する。ベルトコンベアで商品が入ったオリコン(折りたたみコンテナ)が作業者の手元に流れてきて、指示された数量を顧客用ダンボールに移し替える。商品在庫は奥のエリアですべてコンテナ化して管理される。
シャトライナー
ピッキングエリアと出荷エリアを結ぶ、省スペースかつ効率的な搬送システム。コンベアに代わる仕組みで、設置面積を抑えられる点が特長。天井付近の搬送ルートから垂直搬送機でオリコンを作業者の手元へ降ろし、作業後は再び上部へ戻して次のゾーンへ搬送する。作業者の背面には固定棚が設置されており、棚から商品を取り出してピッキングを行う。上部空間を活用してオリコンを循環させることで、コンベア滞留を防ぎ、省スペース化を実現している。
アイパック(I-pack)
商品を詰めたダンボールの高さを自動で調整・封かんする梱包設備。未封かん状態で流れてきたダンボール内の商品高さを機械が計測し、中身に合わせて折り目を付け、折り込み・糊付けを行う。箱の高さを最適化することで、無駄な空間を削減できる。封かん後は配送伝票(荷札)も自動で貼付され、出荷可能な状態で完成する。
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