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ポーラ・オルビスグループのオルビスの通販向け出荷ラインの東日本流通センター(埼玉県加須市)では、小型AGV(自動搬送ロボット)を活用し、集荷から方面別仕分けまでを自動化する出荷システム「T-Carry System」が稼働している。導入から約1年。出荷能力・作業効率の向上、コスト削減といった成果が出ているという「T-Carry System」の意義やその効果について、サプライチェーン領域を統括するオルビスの小川洋之氏(QCD統括部 SCM推進担当部長)に聞いた。

物流改革を行った理由は? 効果は?

次世代物流プロジェクトの構想は、稼働の約2年半前である2018年3月に始まる。同年に現代表の小林琢磨氏がオルビス社長に就任し、「通販会社からスキンケアブランドに」事業ドメインを変換、リブランディングを実施。物流の効率化を掲げ、通販向け出荷ラインの変革プロジェクトを開始した。

オルビスのEC売上高構成比は2021年12月期で64.1%、今後70%をめざすというなかで、非常に影響が大きい変革になったと言えるだろう(数値はポーラ・オルビスホールディングス2021年12月期の決算資料より)。

変革プロジェクトに着手した結果、センターの1時間あたりの出荷能力は1.3倍、人員は27%削減、1件あたり出荷作業費は18%削減といったコスト削減や効率化に成功。「注文が集中したとき、以前だったら対応できなかった量の注文に対応できるようになった」(小川氏)と言う。なお、今回のAGVによる物流改革に伴う現場では、時期によって差はあるものの約65名が働いている。

オルビスには物流改革を施した東日本流通センターの他に、従来の設備の西日本流通センターがあり、こちらと比べても成果は出ているようだ。

オルビス QCD統括部 SCM推進担当部長の小川洋之氏
オルビス QCD統括部 SCM推進担当部長の小川洋之氏

また、消費電力も4割程度削減できた。従来はローラーコンベアなどが常に稼働している方式だったが、AGVを導入した結果、省電力につながっている。

さらにローラーコンベアの稼働音がAGVのモーター音に変わったため、静音性が格段に上昇。企画を開始したのが2018年だったため意図したわけではないが、スタッフが商品に触る機会が減っているため、結果的にコロナ感染対策にもつながっている。

4つの「ない」と「ワクワク」を実現するシステム作り

オルビスのプレスリリースによると、物流業界では近年、AGVが棚を持ち上げスタッフの下へと運ぶ「GTP(Goods To Person)」という考え方がトレンドとなりつつあるという。これはロボットが対象商品の格納されている棚を、ピッキングするスタッフのいる場所へと運搬する方式だ。

しかし、オルビス東日本流通センターでは、従来の「GTP」の概念を覆す世界でも類を見ない独自の仕組みを構築した。その理由について小川氏は次のように話す。

AmazonさんなどGTP方式を採用している倉庫では、オーダーあたりの平均注文点数が1~2点だと想像しています。しかしオルビスの場合は1度のオーダーで7~8点もの注文点数がある。シュミレーションしたところ、何回も大きな棚がスタッフのところにくると、渋滞になり、大型AGVのスピードにも限界があり待ち時間が発生するなどして、効率がアップしないことがわかりました。(小川氏)

結局、最終案が採用されるまでに、20個ほどの倉庫内物流案を検討することとなる。スタッフに「触らない」「考えさせない」「待たせない」「歩かせない」の4つの「ない」、そして「ワクワク」すること。これは「せっかく新しいシステムを造るなら流通サービスさんや椿本チエインさんにとっても活用できるぐらいの斬新なものを」という小川氏の想いもある。

最終的に、AGVは制御技術に優れた中国のZhejiang LiBiao Robot(以下「リビアオ」)社の製品を採用した。このAGVのグレーの配色には、リビアオ社がいかに今回のチャレンジングなコンセプトに共鳴したか、ということを示すエピソードが隠されている。

リビアオ社が全世界で展開している小型AGVのカラーは、一貫して彼らのブランドイメージでもある黄色だが、彼らにとっても「世界初の取り組み」であることに共感した結果、特別にオルビスのコーポレートアイデンティティであるグレーに配色してくれたのだ。このことが「オルビスオリジナルの流通システム」を作ったという雰囲気の醸成に一役買うことにもなった。

オルビス 通販向け出荷ラインで稼働する小型AGV
オルビスの通販向け出荷ラインで稼働している小型AGV

AGVを導入している企業すべてが導入台数を公表しているわけではないが、「日本で一番かもしれない」という台数を導入。ただ「AGV1台あたりのコストはそんなに高いわけではない」と小川氏は語る。AGV自体にはセンサーなどは搭載しておらず、AGVの走行ルートはすべて制御管理システムが指示。そのため、今回の出荷ラインの肝もソフトウェアのシステム構築だ。

たとえば、ダンボール箱を梱包する際に使う封函(ふうかん)機。従来の機械だとアナログな調整が必要になるため、技術者がネジの位置などを細かく調整したりしていた。

しかし、オルビスのAGVを利用した新しい物流システムでは、すべてソフトウェアが自動で調整してくれる。このようなソフトウェアを活用した物流システムの設計には、担当者も可能性を感じているようで、後述するこれから作る新しい物流システムの構築にも生かされていくだろう。

ピッキングエリアのようす

コロナ禍でコミュニケーション・立ち上げはすべてオンラインで

今回の(AGVを活用した新たな)通販向け出荷ラインは2020年8月に稼働しているので、その終盤はコロナ禍に見舞われている。AGV自体は中国製の商品だったが渡航が叶わなかったため、未だにリビアオ社の社員はオルビスの現場を訪問できていないそうだ。そのため立ち上げはすべてリモートで実施している

連絡はすべて微信(WeChat)などのSNSで、翻訳やビデオ機能を駆使しながらなんとかコミュニケーションをとったようだ。従来だと現地の技術者が現場に赴き、細かい相談をしながら作業をしていくわけだが、コロナ禍においてはそうはいかなかった。しかし、結果的に「対面でなくSNSを使いながらでも立ち上げできたのは良い経験になった」そうだ。

コミュニケーション方法が変わったのは中国だけではない。社内でもリモートでコミュニケーションをとる事例が増えてきた。

本格稼働の前に経営陣へ報告会を実施しました。従来なら定例会議に担当者が参加して、役員がずらっと並んでいる前でビデオや資料を見せながらプレゼンするのですが、今回は倉庫の現場から生中継したのです。実際にAGVが走行するところをライブで見てもらったら経営陣は大盛りあがり。社長も「稼働初日に現場を訪問したい」「未来のモビリティを見ているみたいだね」と前のめりになってくれました。

コロナはもちろん大変なことなのですが、通信環境という意味では社内外で変化をもたらすきっかけとなっています

視察という意味ではもちろんリアルに赴くのがベストではあろうが、出荷拠点という性質上、地理的な問題が制約になる場合も少なくない(実際、オルビス東日本流通センターは本社から電車で2時間程度の場所にある)。しかしSNSやライブ配信などの技術を使いながら、立ち上げやコミュニケーションを効率化できたというのは、参考になる企業も多いのではないだろうか。

オルビス 流通サービスの佐藤正晃氏 椿本マシナリーの北村隆之氏
「T-Carry system」を協働で開発した佐藤正晃氏(流通サービス 第1ロジスティクス部 第1業務グループ 第1システム課 課長)(左)と北村隆之氏(椿本マシナリー SE部長)(右)

BtoB出荷拠点の改善などが今後の課題

順調に稼働している東日本流通センターの「T-Carry system」だが、次なる課題も見えてきた。

まずは、既存システムで動いている西日本流通センターのAGV導入の刷新化だ。東日本でメリットが出ていることに鑑みて同様のシステムを作りたいとは考えているものの、単に同じシステムを導入するのではなく、さらに進化させたシステムとすることを計画しているようだ。

またオルビスには通販を司るエリアの他に、店舗やBtoB(Amazonや楽天などへの卸販売)の出荷フロアが別に存在する。このロジスティクスを、テクノロジーを使いつつどう改善するかの議論が俎上に乗っているそうだ。

現在はカートにまとめて商品を詰めていき出荷するカートピッキングを採用していて、AGV導入の際に統合を検討するという話があったものの、出荷特性の違いもあり、再度構想を練り直している。BtoB売り上げが好調ということもあり、今後この物流改革も必要になってくるようだ。

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納富 隼平

合同会社pilot boat 代表社員CEO

1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人を経てベンチャー支援会社に参画し、2017年に合同会社pilot boatを設立。自社メディアを中心に他社媒体でもスタートアップ関連の記事を執筆。大企業向けオープンイノベーションのコンサルや、スタートアップ関連のリサーチも手がける。得意分野はFashionTech・BeautyTech・FemTech。

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