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アパレルブランドにとって、自社アプリをダウンロードし、ブランドを“所持”してくれるお客さまがいかに大切かは説明するまでもない。ブランドとお客さまをつなぐ重要な役割を担うブランドアプリに、いま求められていることとは何か? TSIの越智将平氏、WEGO(ウィゴー)の園田恭輔氏、ビームスの矢嶋正明氏の3名が、アパレルブランドにおけるアプリの役割について語り合った。
※所属・肩書きは9月7日現在のものです。

3社とも実店舗を起点にアプリを開始

まだ「インターネットで洋服は売れない」と言われていたECの黎明期からECに取り組んできた3社。当然、アプリの必要性をキャッチするのも早かった。ナノ・ユニバースがアプリをスタートしたのは2014年。越智氏は「当時を思い出すと、例えるなら2000年代にホームページを作り始めた時に近い」と話す。

当時、ブランド表現としてアプリで何をやろうかと考えていたところで、何をしなきゃいけないというのも決まってなかった。店舗で紙に顧客情報を書いてもらうのは労力がかかるので、まずはそれをデジタル化したいというところから、会員カードの代替品として始めて、そこからEコマースに拡張させた。(越智氏)

TSI デジタルビジネスDiv デジタルマーケティング部 部長 越智将平
TSI デジタルビジネスDiv デジタルマーケティング部 部長 越智将平氏
2002年にに株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、CRM、デジタルマーケティングを中心に、店舗とECの融合に取り組んでいる。

「オムニチャネル」という言葉が盛んに言われるようになったのもこの頃で、どの企業も一様にECの会員と店舗の会員をつなげるという課題を抱えていた。スマートフォンの普及率も上がり、プラスチックの会員カードをデジタル化するのは自然の流れだった。

ウィゴーも「今後はスマートフォンだろう」ということでアプリを始めた。LINEをはじめSNSが急速に伸びていて、若い世代はほぼ全員がスマホを持っているという状況だった。

SNSも含めてメディアもオウンドメディアに切り替えようと決めて、PR手法も大きく変わったタイミングだった。アプリであればそれらをギュッと圧縮できるのが良いというところがきっかけだった。会員証やバーコード読み取り機能など、店舗での買い物のお助けツールとしての役割がアプリのコンセプトの1つになっていた。(園田氏)

ウィゴー 代表取締役社長 園田恭輔氏
ウィゴー 代表取締役社長 園田恭輔氏
1999年、販売員として入社。店長、エリアマネージャー、物流、MD、さまざまな部署、事業の立ち上げを経験後、2011年WEGO事業部長。2018年より代表取締役。

ビームスがアプリを始めたのもこの頃。3社ともに、店舗の顧客を想定して、店舗起点でアプリが設計されている。

お客さまがリアル店舗の近くまで来たらご案内できるといった新しいコミュニケーションの方法が増えるところが最初の主眼で、リアル店舗起点で始めた

例えば無印さんのMUJIパスポートのように店舗にチェックインして、そこからどういう接客が出来るかにつながっていったと思うので、最初はどこも店舗を起点としていたと思う。(矢嶋氏)

ビームス 執行役員 DX推進室 室長 矢嶋正明氏
ビームス 執行役員 DX推進室 室長 矢嶋正明氏
1998年、ビームス柏のアルバイトを経てビームスに入社。店舗販売業務を経て2005年にEC部門を立ち上げ、責任者に就任。EC事業の拡大に取り組むと共に、店舗とのサービス共通化を推進。2016年、自社ECサイトとビームス公式サイトを統合し、ECと店舗のオム二チャネルサービスを構築。2020年執行役員就任、2021年より現職、全社のDXを推進中。

店舗を起点に始めたアプリが、いまやECに欠かせない媒体になってきている。

最初は会員カードアプリとして作って、ナビゲーションの1つにEコマースがあり、ウェブビューの状態で見てもらっていた。言い方は悪いがそこから売れたらいいぐらいの感じだったものが、アプリの特徴を上手く使うと、ブラウザよりもリピートしてもらえることがわかってきたので、途中からECを主体としたアプリに変えていった。

チェックイン機能など技術的にアプリでないとできないこともしてきた結果、今期は自社ECの売上比率の中で、約55%がアプリ経由だった。(越智氏)

ウィゴーでは、SNSやメルマガと比べてアプリからECへの流入が最も多いという。アプリを見てるお客さまの半数近くがECサイトを訪れている状況。

一方、ビームスは去年アプリのリニューアルをしたところでまだ1年経っていないが、リニューアル前はアプリ経由が1桁台だったのが、現在は2割程度に近付いているという。

変化する店舗とデジタルの関係

店舗スタッフは接客や品出しなどさまざまな業務があるが、コロナ禍を経てデジタルの重要性への理解が格段に上がり、積極的にアプリを活用しているという。3社共にショップスタッフのコーディネート写真を自社ECのコンテンツとして提供している。

ビームス(左)、ナノ・ユニバース(中央)、WEGO(右)各アプリのスタッフコーデ写真の例
ビームス(左)、ナノ・ユニバース(中央)、WEGO(右)各アプリのスタッフコーデ写真の例

中でもウィゴーはスタッフのSNS投稿への意識の高さが業界内でもトップクラスと言われるが、スタッフ教育というよりは「まずは自分たちでやってみる」という文化があるという。ただ、スタッフのコーディネート投稿については、どうしても店舗ごとに違いは出てくる。

結果が数値化できて見えるようになったところもあって、現場のマネージャーによる(撮影しやすい)空気感作りが上手いところはスタッフの投稿も盛ん。1人では撮れないので、店舗業務中の協力体制がないと難しい。

協力体制や空気感作りが重要だが、それぞれの性格やモチベーションがどこにあるのかにもよるので、ばらつきは出てくる(園田氏)。

ビームスやナノ・ユニバースでも各店でデジタルに関わる業務は増えており、本部側としてはそこを支える体制づくりに注力している。

店舗スタッフのデジタル領域の仕事はものすごく増えた。例えば、アプリダウンロードやコーディネートの投稿、SNSの投稿、最近は予約を受け付けるサービスもやっている。それらの管理も含めて申し訳ないぐらいお願いしているので、こちらができることとして、わかりやすいガイドラインを作り、店長が少しでもスタッフの教育をしやすくする工夫をしているが、どうしても差は出てくる。

やはり集客が多い店舗はデジタルに多くの時間を割けないし、集客に苦戦している店舗は逆にデジタルに力を入れてくれていたりする。我々本部側がどう支援できるかはとても大事(越智氏)。

ビームスはスタッフのスタイリング投稿を2016年に開始し、会社として推進してきた。ただ、当初からそれをやるかやらないかはスタッフの任意で強制しないという。

モチベーションがそこにあるということがとても大事。なので、「やらされている感」は極力ないようにしたい。マニュアル化やUIを進化させるなど、やりやすい環境をどれだけこちら側が作ってあげられるかというところには気を配っている。

頑張ったことを評価するような機会として表彰制度もやっていて、当然、店舗ごとにバラつきはあるが、ベースラインは全体的に押し上がってきている。そういうところでとても頼もしく思う(矢嶋氏)。

ウィゴーの園田氏(左)とビームスの矢嶋氏(右)
ウィゴーの園田氏(左)とビームスの矢嶋氏(右)

各社ならではのアプリの特徴は?

アプリはアプリならではの機能を追加しやすいことが特徴だが、各社それぞれのアプリの特徴はどういったものなのだろうか。ウィゴーは基本的に機能は絞った方が良いという考え。「店舗で会員証として使えたり、クーポンが使えるといった、持っているメリットがわかりやすいことが大事。そのメリットをさらにわかりやすく、誰でも覚えられる機能にしていかないといけない」(園田氏)

ナノ・ユニバースでは、OMO(Online Merges with Offline)機能として、来店予約に力を入れており、マイページに自分のパーソナルスタイリスト(販売員)を設定できる機能を最近追加し、接客を希望するスタッフの空いている時間を事前に予約できるようになった。

ナノ・ユニバースのアプリの試着予約画面(左)と来店予約画面(右)
ナノ・ユニバースのアプリの試着予約画面(左)と来店予約画面(右)

販売スタッフの予約となるとハードルが高そうだが、予約するユーザーは購買意欲の高い顧客と想定され、実際に予約したユーザーの購入率は非常に高いという。

買い物をしようという時にネットで購入するかお店に行くかを選べて、さらにお店に行く時にただお店に行くだけなのか、販売員も指名するかを選べるUIになっている。この機能は購入したい方のサポート機能であって、お客さまの多様な買い方に対してサービスを進化させたいという考えで作ったもの。販売も一期一会ではなく、例えば美容室のように毎回同じスタッフが対応してくれるイメージで、お客さまが求めていることにきちんと対応できるように始めたサービス。(越智氏)

ナノ・ユニバースのアプリのもう1つの特徴は、6、7年続けているチェックイン機能だ。来店時にデジタルスタンプカードを押せる機能だが、チェックインしたユーザーにインセンティブ(ポイント)を渡しているだけで、別の価値を提供したいという課題があり、チェックインをするとその店内の情報が見える機能をアップデートで追加した

例えば、チェックインした店舗のベストセラーが出たり、その人におすすめのコーディネートや商品が出たり、事前にWebで見ていた商品が店内にあるかどうかを知らせるといったパーソナライズ機能を搭載した。

販売員から声をかけられないと商品がレコメンドされないというのも少し旧態然としているので、店舗での商品の選び方をアップデートしていかないといけないなか、お客さまの選択肢の1つとしてあった方がいいということで開発した。(越智氏)

一方、ビームスアプリにはバーコードスキャンの機能があり、店頭で商品のバーコードをスキャンすると、商品情報やその商品を使ったスタイリングを見ることができる。「どうやって着こなしているかに興味があるお客さまを想定して、スタイリング情報も用意している」(矢嶋氏)。

ビームスアプリのバーコードスキャン機能
ビームスアプリのバーコードスキャン機能

店舗では商品を触れるし試着もできるが、実際にどの商品が売れているのかはデータとして顧客側には分からない。ECサイトではランキングが常に人気のコンテンツであるように、売れているものが求められることも多い。

そういった店舗のデータが可視化できると、店舗での買い方もアップデートされていくことが考えられる。デジタルのデータとアナログの良さを融合することで、店舗はさらに面白くなりそうな可能性を持っている。

モデレーターを務めたヤプリの金子氏(左)と、TSIの越智氏(右)
モデレーターを務めたヤプリの金子氏(左)と、TSIの越智氏(右)

「店舗 × デジタル」でこれから実現したいこと

ナノ・ユニバースのアプリはアップデートされたばかりだが、ウィゴーとビームスに、アプリも含めた今後の展開についてうかがった。「店舗での接客には限界もあり、POPで伝えられることにも限界もある。いま情報を一番提供できているのはEコマースで、その入り口となるアプリに各社が力を入れている」と話すのはウィゴー園田氏。

実店舗、自社ECのスタッフの、自分たちが提供したい情報がスマホの中に凝縮されている状態を作り、お客さまとの最大の接点であり、情報の提供価値が最も高いところとしての便利なアプリを作ることが必要だと思う(園田氏)。

ビームスの矢嶋氏は「お客さまにとって」を主語に、ツールとしてどこまで便利にしていけるかがずっと続けていかなければならない挑戦だと語る。矢嶋氏は、そのキーワードとして「パーソナライズ」をあげている。

例えば(ECで)お気に入りに登録していたスニーカーが店頭にあったとして、その棚の近くに行った時に、レコメンデーションしてくれるなど、それぞれの顧客に合わせた情報をリアルタイムでスマートフォンから提供できるのであれば、機能としてあっても良い。

前に(お気に入りに)登録してたということまで気づかせてくれる、身近な存在になれるのであれば、そういったことにも取り組みたい。(矢嶋氏)

店舗スタッフによる丁寧な接客や、購買への一押しももちろん重要だが、顧客自身が前もって商品情報をある程度持っているという状況は、今後ますます増えてくるだろう。

お客さまがお気に入りに登録していたものから始まって、店頭でスタッフと会話をする。そうした顧客とのコミュニケーションにより時間を割ける方が価値があるのではないか。ブランド体験としてはそちらの方が望ましい。(矢嶋氏)

在庫の有無や色の展開といった情報はすべてアプリやWebにあって、顧客自らが調べた上で来店し、店頭ではもっと違う角度からのアドバイスや何気ない会話に時間をかけることができる。顧客とスタッフとの良い関係作りが期待できる。

「ファッションを買うのはECだけが最適ではないと思う」と話すのはナノ・ユニバース越智氏。

ユーザーアンケートでも、ECだけでは満足しないお客さまは絶対数いる。今はこのコロナ禍で店舗に行くのも不安な時代だが、そういったお客さまが店舗に行った時に、自分が若い頃に感じていたような洋服屋さんの居心地の良さや楽しさをどこまで提供できるか、アプリに限らず、そういったことの追求だと思っている。

その反面、自戒も込めて「あのブランドはアプリのサービスがいいよね」ということが一番に来て良いかというとそうではない。やはり商品が主力でないといけない。(越智氏)

所持されるブランドアプリになるには

アプリを作る上でも「アプリがすべてではなく、戦略としてどこに投資するかが重要」とナノ・ユニバースの越智氏は強調する。

アプリをやらないことも選択肢に持った上で、会社の戦略上、何をやるべきかを考える。例えば、ナノ・ユニバースのアプリはネイティブで開発していて自由度が高い。一方TSIの他のブランドはほとんどがヤプリで開発していて、その良さもある。どこまで投資するのか、機能にもメリットデメリットがあるので、短期的ではなく中期的な目線で決めていく方が良い。(越智氏)

「まずは必要最低限の基本的な機能からライトに始めることも大事だ」とビームスの矢嶋氏は語る。

多くの企業が今CRMとして顧客との中長期的な関係作りに取り組んでいるが、一番身近なのがスマートフォンというツール。プラスチックのカードを財布に入れてもらうことは難しいので、その代替ツールとしてのアプリからスタートでもまずは良いのではないか。そこからいろいろなサービスを付加できるので、お客さまとの接点の1つとして、取り組みやすい方法から始めてみるのが良いと思う。(矢嶋氏)

ウィゴーの園田氏は続ける。

一番はやはり(アプリを)入れてもらうことと、それを継続的に使ってもらうことだと思うので、お客さまにとって何が得なのか、何が便利なのかというところが軸でないといけないと思う。(園田氏)

この記事は『マーケターのためのアプリの教科書』(ヤプリ著、インプレス刊)の発売記念イベント内の対談を記事にしたものです。『マーケターのためのアプリの教科書』についての詳しい情報はこちらをご覧ください

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