コロナ禍で変わった消費行動。「実店舗とデジタルコマースの境界線」があいまいになり、統一した顧客体験が重要になった

コロナ禍におけるBtoCコマースの現状、最新トレンド、消費者の期待、コロナ禍による変化などを解説します

笹 俊文

2021年9月1日 7:00

セールスフォース・ドットコムでさまざまな企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するなかで見えてきたBtoCコマースの現状、最新トレンド、消費者の期待、コロナ禍による変化などについて解説。調査データに加え、日本独自のトレンドも紹介していきます。

コロナ禍でEC市場、EC化率はどう変化した?

現在の日本のデジタルコマースの現状として、市場規模とEC化率を見ておきましょう。

経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」では、2020年の日本国内におけるBtoC-EC市場規模は、19兆3000億円(前年比0.43%減)。コロナ禍の影響により物販系分野が大幅に増加した一方で、旅行サービスなどサービス系分野の市場規模が大幅に減少したため、全体ではほぼ横ばいという結果になりました。

BtoC-EC市場規模の経年推移令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)
BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円、出典:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査))

物販系分野のみで市場規模を見ると、「生活家電・AV機器・PC・周辺機器等」(2兆3489億円)、「衣類・服装雑貨等」(2兆2203億円)、「食品、飲料、酒類」(2兆2086億円)、「生活雑貨、家具、インテリア」(2兆1322億円)の上位4カテゴリー合計で物販系分野の73%を占めています。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、全カテゴリーにおいて市場規模が大幅に拡大しました。

EC化率については、「書籍、映像・音楽ソフト」(42.97%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(37.45%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(26.03%)において高い値となっており、BtoC-ECで全体では8.08%(前年比1.32ポイント増)となっています。

物販系分野のBtoC-EC市場規模出典:令和2年度産業経済研究委託事業
物販系分野のBtoC-EC市場規模(出典:令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査))

コロナ禍においては、これまでECの利用に消極的だった層にも利用が拡大しました。

セールスフォース・ドットコムの調査では、新型コロナウイルスのリスクが下がっても「生活必需品はオンラインで購入する可能性が高い」と答えた人が68%になっており、傾向は今後も続くと考えられます。

今後の生活必需品をオンラインで購入する意向
今後の生活必需品をオンラインで購入する意向

コロナ禍でOMOが一気に注目

海外では、オンラインで購入して、店舗に購入品を受け取りに行くという取引形態「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」が主流となっています。

コロナ禍において、店舗での接触を減らせることから一気に普及しました。これは、コロナ感染拡大防止措置として、欧米では一定期間都市ごと封鎖し、店舗を閉鎖するロックダウンが取られたことが影響していると考えられます。

日本の緊急事態宣言では、店舗や飲食店は営業時間を短縮しても店は開いているため、通常通り店員と客との接触がありました。一方で、ECサイトでの購入が大きく増えました。

お気に入りのブランドの服をECサイトで買うときもあれば、店舗で買うこともある。こうした購入行動がコロナ禍で増えたことにより、オンライン、オフラインでも同じような統一した体験「OMO」が求められるようになってきています

「OMO」に代表される店舗受け取りの実現には、在庫管理という壁をクリアする必要があります。オンラインで購入しても、店舗に在庫がなければ受け取れないからです。

そのため、店舗ごとの在庫データとECサイトの在庫データを連動させる必要があります。在庫量が多いものであればいいですが、そうでない場合は頻度高く店舗在庫のアップデートが必要です。

各店舗の在庫データをAPIで更新しながら情報を集中ができるような仕組みの普及、導入が進めば、大手企業に限らず中小企業でもオンライン購入、店舗受け取りが加速するでしょう。

ECサイトでも1to1コミュニケーションのニーズが急増

コロナ禍での事業者側の変化をお伝えします。その1つが1to1コミュニケーションのニーズ増です。

。マーケティングソリューションの Salesforce Marketing Cloud (Marketing Cloud)を利用している事業者のうち、Eコマースソリューションである Commerce Cloud を追加導入する事業者が増えました。

この背景には、マーケティング施策として購入履歴に応じた商品のオススメなど1to1コミュニケーションを実現した一方で、その先のECサイトでの1to1コミュニケーションが考慮されていなければ、高まる消費者の期待に応えられないといった危機感を覚える事業者が増えたことがあると考えています。

実店舗であれば、店員が顧客を覚え、購入した商品に合わせた提案、顧客の好みに合わせた推奨などができます。しかし、無機質で誰が見ても同じ並びのカタログのようなECサイトで、しかも顧客が自ら商品を探し出さないといけないとなると、店舗とECサイトでの体験に大きな落差が生じてしまいます。

そこで現在、事業者側ではECサイトでも消費者1人ひとりに合わせた商品を表示したページの構成、レコメンドでおもてなしをしたいという期待が高まっているのです。商品検索した場合でも、検索結果を消費者1人ひとりに合わせて表示の出し分けができるような仕組みも必要となっていくでしょう。

顧客データを活用したECサイトであれば、上記のようなことは実現可能です。むしろ、店舗よりも適切な接客ができるとさえ言えるでしょう。店舗の陳列は、全顧客に最適化されているジェネラルなものですが、ECサイトであれば訪問者に合わせた陳列が可能だからです。この点で、より上質な顧客体験が提供できるようになっています。

◇◇◇

新型コロナウイルス感染拡大前から「OMO」の重要性が語られていましたが、多くの事業者にとって投資するための決め手が乏しかったと言えます。そのため、店舗、ECそれぞれで1to1コミュニケーションが実現できていれば良しとするという状態でした。

その大きな理由は、店舗に来店する人、ECサイトで購入する人がわかれていたことがあげられます。しかし、コロナ禍で多くの人がECサイトを利用するようになり、状況に応じて店舗、ECサイトを使いわけるようになりました。

顧客体験を第一に考えたとき、オンラインとオフラインで共通のブランド体験を提供できることは大きな強みになります。本当のおもてなしを実現するために、サービスのあり方を見直し、オンライン、オフラインの連携を強化するタイミングに来ていると言えるでしょう

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