楽天・三木谷社長が語る「覚悟」「超挑戦」とは? 独自配送ネットワークなど2018年の方針まとめ
2018年は楽天、出店者にとって覚悟の年になる。大きなチャレンジをしていかなければ「楽天市場」でサバイブできない。(楽天・三木谷浩史社長)
毎年1月に開かれる楽天の「新春カンファレンス」で方針を語る三木谷浩史社長の講演は、例年以上に「楽天市場」を力強く打ち出した内容となった。
三木谷社長が2018年の方針として何度も口にしたのが「覚悟」「超挑戦」「Amazon」。このキーワードを踏まえ、三木谷社長が語った独自の配送ネットワーク構築、楽天経済圏の拡大といった構想や方針をまとめた。
ワンデリバリー構想への「覚悟」「超挑戦」
楽天は世界最大手の小売企業ウォルマートと提携した。米国ではAmazonがホールフーズを買収し、グローバルでインターネットをプラットフォームにした流通革命、社会革命が起ころうとしている。
中国では現金を持たずにネットを中心とした経済を作っている。ライドシェア、バイクシェアが日常的になり、中国は日本よりも10年先を行っていると思う。
三木谷社長はグローバルで広がる小売業界などの変化をこう説明。それを踏まえ、「2017年は配送ネットワークがパンクした。楽天の直販サービスも出荷制限をしなければならない状況に陥った。(配送については)出店者の皆さんと一緒に新しいことをやらなければ、店舗も楽天の将来もない」と危機感をあらわにした。
そこでぶちあげたのが、楽天が主導する独自の配送ネットワーク作りなどの「ワンデリバリー」構想だ。
(楽天と配送キャリア間で)システムが統合されていないことが現状の課題。注文から手元に届けるまでの配送において、すべてのデータを楽天が管理できるような包括的な管理契約が必要だ。そのために、楽天グループ独自の配送ネットワークを2年で構築し、自分たちで最後まで商品を届けられるようにする。(三木谷社長)
ECプラットフォーム側が購買データ、配送キャリアが配送データを持つ構造となっているため、販売側と配送側で情報が分断されている。APIを活用して配送ステータスをECサイト上に表示するといった取り組みは一部で進んでいるものの、配送状況の可視化は進んでいない。
楽天は、購買データに加え、配送データも管理することで、スムーズな配送環境を整備。受け取りの利便性向上、再配達削減、配送状況の可視化の実現をめざす。
三木谷社長は、すでに大手私鉄の幹部とラストワンマイルの構築で交渉を進めていることを明かし、「この沿線は私鉄の子会社がやるといった話しになっている」(三木谷社長)と説明。そして、既存の配送キャリアの配送ネットワーク以外の、「ECに特化した独自の配送ネットワークを2年で作る」(同)と宣言した。
独自の配送ネットワークピックの構築であげたのがピックアップポイントの多様化だ。これまで、商品受け取りロッカー「楽天BOX」の設置、コンビニエンスストアでの店頭受け取り、日本郵便の宅配ロッカー「はこぽす」の利用などを進めてきた。1月29日には「楽天市場」で購入した商品を全国約2万か所の郵便局で受け取ることができるサービスを始めている。
たとえば、「楽天市場」の店舗に受け取りポイントになっていただくことも考えている。店舗に商品を送り、その店舗が近隣の消費者に商品を送る仕組みなど、ピックアップポイントの多様化を考えている。(三木谷社長)
物流拠点の整備も進める。現在、関東に2か所(市川、相模原)、関西に1か所(川西)を構えているが、これを10か所まで拡大することをめざす。北は北海道、西は福岡まで増やし、配送スピードや配送コストの低減につなげる。
三木谷社長はこうした物流施策について「ラストワンマイル構築への超挑戦。出店者の皆さんの物流コストを下げていくことに挑戦してく、これが覚悟」と語り、次の取り組みを進めていくとした。
- ドローンを活用した商品配送
- 自動配送車を活用した商品配送
- シェアリングエコノミーの活用
- AI(人工知能)を活用した輸送ネットワークの構築
- ウォルマートと提携したネットスーパー事業において、提供地域を拡大し、出店者の商品を配送できるようにしていく
店舗の個性を伸ばすことへの「覚悟」「超挑戦」
ネット販売は自動販売機のようなショッピングのツールではなく、消費者が買い物を楽しむもの。この哲学がAmazonとの大きな違い。店舗と一体となって店舗と盛り上げていきたい。長所は伸ばし、短所は改善していかないといけない。そのためにも、利便性の高い場を作る必要がある。
Amazonという巨大企業に対してどのように対抗していくか。覚悟を持って店舗は取り組まなければならない。(三木谷社長)
今回の「新春カンファレンス」で三木谷社長が幾度も口にした「Amazon」。事業規模を拡大するアマゾンジャパンは、「楽天市場」出店者にとっても驚異の存在になる。三木谷社長は「楽天は店舗がベース、Amazonは商品がベース」とし、店舗の個性をより一層、伸ばしていくことを表明した。
その1つの施策が「チャット機能」の拡大。店舗スタッフと消費者がチャットできる機能で、2017年から試験的に運用を始めている。現在、数十店舗が利用し、2018年には全店舗への導入を検討する。
簡単な質問にはAIが答え、効率性を上げる。スケーラビリティが実現できる。過去にはこうしたコンセプトのものはあったが、手間がかかる、スタッフを専属で付けないといけないという問題があった。ただ、いまはAIが出てきた。AIが労力を補う時期がくる。(三木谷社長)
「AIチャットボット」の将来性をこう話した三木谷社長は、試験導入している家具のECサイト「タンスのゲン」を例にあげ、「チャットを利用してソファーを購入した。日本人はお人好しなのか、推薦されると購入してしまう。店舗の転換率は上がっていく」と期待を寄せる。
三木谷社長の講演中、タンスのゲンの副社長が登壇し、次のように「AIチャットボット」の効果を語った。
これまではメールや電話で対応していた内容の問い合わせがチャットに移っていった。チャット経由の購入も多く、転換率も上がっている。お客さまからは満足の声をいただいており、CSスタッフのモチベーションも上がっている。(タンスのゲン副社長)
また、「ディープラーニングによって、潜在顧客発見の広告ソリューションを開発し、データを使ってより最適化されたマーケティング施策を皆さんに提案していきたい」と三木谷社長は話し、マーケティング施策の効率化と広告の最適化で、「ユーザーをおもてなししていく」とした。
楽天経済圏の超拡大
楽天スーパーポイントの流通が1兆ポイントを突破した。経済圏を囲い込むことによって、「楽天市場」で買ってもらう量を増やしていく。ポイントを使ったさまざまな体験を提供し、楽しんでもらうことが必要だ。(三木谷社長)
こう話した三木谷社長は、ポイントを活用した経済圏の拡大に言及。たとえば、楽天証券では楽天スーパーポイントを使って投資信託を購入できる仕組みを導入したことに触れ、「ポイントは現金に近ければ近いほど、関連サイトに戻ってくる。将来的には楽天カードの支払いを、楽天ポイントでできるようにする」(三木谷社長)と構想を語った。
楽天経済圏の拡大のカギを握るのが「楽天ペイ」だ。楽天は2017年に決済サービスのブランドを「楽天ペイ」として統合。「楽天ペイ(実店舗決済)」「楽天ペイ(アプリ決済)」「楽天ペイ(オンライン決済)」といったサービスの提供を通じ、楽天IDによる他社サイトや実店舗での決済を実現し、楽天IDの利用拡大を図っている。
三木谷社長は「楽天市場」における決済の方向性として、楽天が「楽天市場」の決済を一括管理する構想「One Payment」に言及した。「楽天ペイ(楽天市場決済)」によって、すべての店舗で利用できる決済手段を統一。ユーザーの利便性や店舗の決済業務の軽減を実現するとした。
また、「楽天ペイ」の実店舗決済における流通総額は2016年に2275億円に到達したとし、「早期に1兆円へ引き上げる」(三木谷社長)。携帯電話事業への参入などに触れ、「安く利用でき、楽天スーパーポイントで利用料金を支払える環境を整える」と話した。
楽天経済圏の拡大として、オンラインとオフラインの融合をめざす提携として話題となったウォルマートとの事業提携にも言及した。楽天は、ウォルマートの日本子会社である西友と、日本でネットスーパー事業「楽天西友ネットスーパー」を協働運営することを目的に、新会社を設立することで基本合意している。
楽天IDを使って、(「楽天西友ネットスーパー」で)日用品を購入し、自宅に持ってきてもらえるようにする。ネット通販という言葉は古くなった。オンラインやオフライン、あらゆるシーンで楽天IDが有効になる。それによって経済圏が広がる。
世界中のさまざまなサービスを本当の意味でつなげていく。私たちはグループサービスを結集して、「楽天市場」を拡大させていく。(三木谷社長)
※2/7の12時に一部文章を修正・加筆しました。