楽天・三木谷社長が語った「送料無料ラインの全店舗統一」「ワンデリバリー」など2019年以降の戦略まとめ
楽天の三木谷浩史社長が1月30日の「新春カンファレンス」で強調したのは「強みの強化」と「弱点の補強」。自社配送ネットワーク作りなどの「ワンデリバリー」構想、そして、大きなインパクトを与えた「送料無料ラインを全店舗統一」など、三木谷社長が語った構想や方針をまとめてみた。
“弱み”の補強策
物流の統合 送料無料ラインの全店舗統一
今回の「新春カンファレンス」でもっとも大きなインパクトだったのは「送料無料ラインを全店舗統一」する構想。
「●●●●円以上で送料無料」といった送料の消費者負担を0円とする“送料無料ライン”を、「楽天市場」の全店舗で統一する方針を三木谷社長自身が説明した。
(楽天市場は)送料がそれぞれの店舗で異なる。約8割の店舗が●●●●円以上で送料無料としているが、店舗ごとでバラバラのためお客さまの印象では、(送料が)高くなってしまっている。印象で他社に負けてしまう。消費者は統一した送料体系を要望している。
楽天の消費者サーベイによると、「楽天市場」の送料について、「ショップによって送料が異なる」といった不満を抱える消費者は45.4%も存在。「安いと思ったら送料で高くなった」と回答した消費者は5割以上に上る。
そして、6割以上の消費者が「送料無料ライン●●●●円以上無料」を望んでいると回答した。
こうした消費者サーベイに加え、南米最大のマーケットプレイスと言われる「メルカドリブレ(MercadoLibre)」の事例を説明。出店型のマーケットプレイスでありながら、送料無料ラインの統一を断行し、その後、流通総額は大きく拡大した事例を三木谷社長は紹介した。
対象となるのは常温管理となる製品が中心。大型や冷蔵・冷凍などは例外になる可能性が高い。「送料無料ライン」の全店舗統一については今後、出店者へのヒアリングなど調整を重ね、2019年内に出店者から理解を得たいとしている。
商材やサイズ、粗利など各出店者によってそれぞれ異なるため、1年間かけて説明やヒアリング、協議などに時間を割く方針。出店者から理解を得たと判断した場合の実施時期については明らかにしていない。
三木谷社長はカンファレンスに参加した約4000店舗の出店者に次のように理解を求めた。
この難題に一緒に取り組むことで、お客さまの顧客満足度がさらにあがる。(出店者の)個別の事情は必ずある。だが、4万6000店舗が一体となって、この問題に取り組むことで、世界に類をみない、継続的なビジネスの成長につながる。楽天はここに大きな資金を投じる準備がある。「楽天市場」史上、最大のチャレンジになるだろう。
「ワンデリバリー」構想
2018年の「新春カンファレンス」で三木谷社長がぶちあげた楽天主導の独自配送ネットワーク作りなどの「ワンデリバリー」構想。2019年の「新春カンファレンス」ではその進捗などを説明した。
店舗の商品データ、配送商品データなどを保有している楽天が自ら自社配送を行うことによって、何を運んでいるのかがわかるし、楽天グループのサービスも配達先で提案できる。それが配送専門業者と大きく異なるところだ。
三木谷社長はこう「ワンデリバリー構想」について言及。当日正午までの注文商品は翌日に届ける「あす楽」の強化(深夜不在再配達などへの対応)、注文当日に商品を届ける「きょう楽も始める」(三木谷社長)と話した。
楽天の自社配送ネットワークの「Rakuten EXPRESS」では置き配をスタートしており、「Rakuten EXPRESS」による配送注文全体の2%はすでに置き配で届けているという。「トラブルはほとんどない」(三木谷社長)。
今後、楽天スーパーロジスティクスを使用していない店舗の商品を楽天が集荷・集配し、自社配送ネットワーク「Rakuten EXPRESS」に乗せる構想も発表。配送業者、配送に関するクラウドソーシングを使いながら、配送スピード、配送料を最適化していく方針を示した。
楽天スーパーロジスティクスとAmazonが提供する「FBA」のタリフの比較表をプレゼンテーション中に公開。「RSL(楽天スーパーロジスティクスは)FBAと比較してかなりの価格競争力がある。(使用する店舗の)収益も改善できる。そうした未来をめざす」と三木谷社長は力説した。
また、楽天ではAI(人工知能)を活用した新たな物流ソリューションの開発に着手しているとし、「ドローン配送」「無人カート配送」「店頭受け取り」など楽天独自の配送サービスを展開するとした。
決済手段の統一
楽天は2017年に決済サービスのブランドを「楽天ペイ」として統合。「楽天ペイ(実店舗決済)」「楽天ペイ(アプリ決済)」「楽天ペイ(オンライン決済)」といったサービスの提供を通じ、楽天IDによる他社サイトや実店舗での決済を実現し、楽天IDの利用拡大を図っている。
楽天が「楽天市場」の決済を一括管理する構想「One Payment(ワンペイメント)」。「楽天ペイ(楽天市場決済)」によってすべての店舗で利用できる決済手段を統一し、ユーザーの利便性や店舗の決済業務の軽減を実現するとしていた。
「ワンペイメント」導入後、ニーズの高かったコンビニ決済が全店舗で利用可能に。流通総額の成長を前年比5.1%ほど押し上げる効果があったという。
なお、2019年1月31日から後払い決済をスタートする。
強みのさらなる強化策
チャット機能
「楽天市場」全店舗にチャット機能を導入したのは2018年9月。
チャット導入によって、チャット機能を使うユーザーの転換率はチャット未利用者と比べて8.2ポイント、客単価は74.2%高いといった結果が出ているという。
AIチャットと店舗のチャット機能が連携したのは2018年11月。各ショップへの問い合わせをボットが自動応答するようにした。
購入履歴一覧の「ショップへの問い合わせ」をクリックすると、チャットボットが対応。テスト運用の位置付けで、まずは決済、返品ポリシー、営業時間の確認について対応している。
問い合わせの多いカテゴリにまずはチャットボットを実装。ニーズの高い配送状況など、他のカテゴリについては今後、順次対応していくようだ。
2019年には会員IDとチャット機能の連携をスタートし、チャット利用者を識別した上で接客を行える環境を整備。会員IDとのつなぎ込みが実現すれば、どのユーザーがチャットで問い合わせしているのか判別した上で、ユーザー1人ひとりに合わせた接客が可能になる。
RMSの強化
管理画面「RMS」の機能強化として、2019年に行う改善策、そして2021年には基幹システムを刷新する方針を説明した。
AIプラットフォームの活用
AIを活用した価格計算の最適化を進める。AIで「需要予測」「在庫の最適化」「価格調整」をサポートし、売り上げの限界利益率を向上させる。一部店舗で価格計算の最適化などを試験的にスタートしているという。
この「価格計算の最適化」にはデータが必要とし、楽天グループのサービス全体からデータを収集し、分析する「楽天アナリシス・トラッカー(RAT)」を提供できるようにすると三木谷社長は言及した。