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楽天の「EC+チャット」未来構想&全店舗導入の理由&チャット戦略が与える影響

楽天は「楽天市場」全店舗にチャット機能とチャットボットを導入、2019年には会員IDとチャット機能の連携をスタートし、チャット利用者を識別した上で接客を行える環境を整備する

瀧川 正実

2018年12月5日 7:00

「楽天市場」全店舗にチャット機能とチャットボットを導入した楽天。2019年には会員IDとチャット機能の連携をスタートし、チャット利用者を識別した上で接客を行える環境を整備する。年間の国内EC流通総額約3兆4000億円の楽天マーケットプレイスで、約4万6000店の全店舗がチャット利用できる環境を整えたのはなぜか? どんなことをめざすのか? チャットに注力する楽天の動きはEC業界にどのような影響を与えるのか。楽天の担当者に聞いてみた。

楽天、チャットの未来構想

「楽天市場」の店舗スタッフと消費者がチャットで会話ができる機能を一部店舗に、試験的に導入したのは2017年。試験運用を経て、2018年9月に全店舗に導入した。

「楽天市場」全店舗に導入されたチャット機能
「楽天市場」全店舗に導入されたチャット機能

試験運用していた当時、導入していたチャット機能は世界中で10万社以上が利用するカスタマーサービスソフトウェア&サポートチケットシステム「Zendesk」。だが、現在はグループの楽天コミュニケーションズが扱うチャット機能に移管している。それはなぜか? 店頭のような顧客対応を行えるCRMを「チャット+EC」で実現するためという。

店頭接客のようなチャットを実現するにはツールと会員IDの連携は必須だが、外部製品と会員IDの連携にはグループの個人情報保護ポリシーが障壁となった。「Zendesk」ではそれができない――。だが、グループが提供するツールであれば会員IDのつなぎ込みのハードルは高くない。

会員IDとのつなぎ込みが実現すれば、どのユーザーがチャットで問い合わせしているのか判別した上で、ユーザー1人ひとりに合わせた接客が可能になる。そこで、楽天はグループの楽天コミュニケーションズが扱うチャット機能への移行を決断した。

現在のところ、質問を寄せてくる消費者の識別はできていないが、2019年には会員IDとの連携がスタートする予定。今後の開発スケジュールについて、楽天の村上潤氏(クライアントコミュニケーション部 店舗コミュニケーション推進課 企画グループ マネージャー)は次のように説明する。

明確な時期は言えませんが、会員IDとチャットのつなぎ込みは開発を進めています2019年の早いタイミングでリリースすることができるはずです。

チャットの推進を担当する村上潤氏(クライアントコミュニケーション部 店舗コミュニケーション推進課 企画グループ マネージャー)
チャットの推進を担当する村上潤氏(クライアントコミュニケーション部 店舗コミュニケーション推進課 企画グループ マネージャー)

たとえば、チャットで1か月前に商品を購入したAさんが質問してきた際、店舗側は会員IDと照合した上で「Aさん、ご質問ありがとうございます。1か月前に当店をご利用いただきましてありがとうございました」といった、店頭接客のような会話がECサイト上で実現できるようになるという。

同時に機能面の拡充も進めている。たとえば「Zendesk」ではチャット上でできていた画像添付の機能。会員IDと同様に、「2019年の早いタイミングでのリリースを予定しています」(村上氏)と話す。

チャット活用まだ少ない、「だから大きなチャンスがある」

チャット機能はスタンダードプラン、メガプランが月額5000円。それ以外は月額3000円。100会話以上になると1会話ごとに10円の従量課金制となる。

チャットの利用促進としてこれまで、パソコンとスマホブラウザに対応していたが、11月26日には楽天市場アプリにも導入した。一方、出店者の利用状況はどうなのか。村上氏はこう答えた。「9月に提供を開始したばかりで、まだまだこれからといった状況。多くの店舗さまが利用している状況ではないが、すでに活用している店舗さんには、効果を実感してもらっている」。

チャット機能を利用していない店舗も、利用頻度にかかわらず一定のコストが発生している。チャットを利用していない店舗がある一定数、存在している原因は何なのか。その理由を村上氏は次のように説明する。

1つはリソースの面で不安があるようです。業務量が増えてしまうので人を増やさないといけない、勤務時間が長くなる、といったことを未利用店舗さんは思っている傾向があるようです。しかし、多くの店舗さんの事例を見る限り、実態はそうではないことがわかってきました。実際に、チャット機能の導入後、利用店舗にアンケートを行ったところ、1店舗もリソースを増やしたという回答はありませんでしたシフト制を採用したり、可能な範囲での対応(チャット対応できるときのみオンラインに設定、対応不可の際はログアウト)をしています。多くの店舗さんは気軽にチャット機能を利用しています。

チャット活用は、シフト制の採用、「対応できるときにオンラインにする」といった割り切った運用などが必要と村上氏は説明する
チャット活用は、シフト制の採用、「対応できるときにオンラインにする」といった割り切った運用などが必要と村上氏は説明する

また、感情面も影響している可能性があるという。つまり、「利用していないのに課金される」「ほしくもないのに全店舗導入になった」などと、前向きな気持ちを抱いていない店舗も存在すると分析。その上で、チャットの可能性を次のように説明する。

アーリーアダプターの原理に似ていますよね。ネットは先行者利益の世界。新しいツールがでてきたときに、先ずは試してみようという企業さんが勝つ確率が高い。正式リリースから2か月でコンバージョンアップ、客単価アップといった改善数値が出ています。こうした結果を多くの店舗さんに伝えていきたい。結果につながる、“モノが売れる”ツールだとわかれば、“利用しないともったいない”と店舗さんの認識も変わっていくでしょう。過去を振り返れば、楽天がECを始めたときも“ネットでモノなんて売れるわけない”と言われました。メルマガを始めたときも一緒です。“メールなんかで売れるわけない”と。でも、先にやった企業さんや店舗さんは、先行者利益を得てきましたし、メルマガなんて大きな売り上げを作る販促手法になりましたよね。

店舗側のチャット管理画面
店舗側のチャット管理画面。3つの会話まで同時対応できる

楽天が進める全店チャット利用で、自社ECサイトもチャット対応が必要に?

チャット機能を活用した出店者では、具体的にどのような改善効果が出ているのか。楽天によると、テスト運用の時点で約9割の店舗で転換率・客単価が向上テスト前と比べて、転換率は14.4ポイントアップ、客単価は136.7%となったという。

店舗からは「売り上げにつながった。チャットはリピーター確保のチャンスとなる」「質問もらうことで買い合わせの提案が行えるので、最後のひと押しの大きな武器になる」「競合店との差別化として積極的に使いたい」「個別のコミュニケーションが実現できるようになった」といった前向きな意見があがっているとする。

チャットは楽天の中でも重要度が極めて高い施策。ECにおいても、“おもてなし”という新しい購買体験を店舗さんは提供できるようになります。(村上氏)

チャットへの意気込みを表すように、「楽天市場」全店舗にチャットボット機能を11月28日に導入。各ショップへの問い合わせをボットが自動応答するようにした。

購入履歴一覧の「ショップへの問い合わせ」をクリックすると、チャットボットが対応するようにするもので、まずは決済、返品ポリシー、営業時間の確認について対応。将来的には有人チャット機能との統合も視野に入れている

楽天は「楽天市場」全店舗にチャットボット機能を導入
「楽天市場」全店舗に導入したチャットボットのイメージ

「楽天市場」内では着実にチャットが実装されおり、市場全体でチャットを推し進めている環境にある。「楽天市場」に出店する約4万6000店舗が利用するようになれば、消費者の「ネット通販で困ったときはチャットを使おう」という意識が浸透する可能性がある

「楽天市場」に出店する店舗はもちろん。楽天のこうした動きを踏まえ、自社ECサイトでも、顧客対応の1つのツールとしてチャットを導入する企業が増えていくことが考えられる

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