WalmartのAIへの取り組みは、単にAIエージェントを開発するだけでなく、消費者、従業員、そしてパートナー企業を支援するAIシステムの構築にも及んでいます。2月から新CEOが就任するWalmartの、これまでのAI活用を解説します。
CEO交代、ファーナー氏が2月から就任
Walmartの新CEOとなるジョン・ファーナー氏は、2月に現CEOのダグ・マクミロン氏から職を引き継ぐ準備を進めています。マクミロン氏は1月31日付で退任予定で、ファーナー氏は2月1日付で新CEOに就任します。
ファーナー氏はCEOとして、AIエージェントや機械学習の最適な活用方法を判断していくことになります。その際、この小売最大手の巨人が掲げるAI戦略やエージェントコマース戦略が、小売企業が注目するべき取り組みとして頻繁に話題に上がることになるでしょう。
WalmartのAI活用の深化
米国のニュース配信・メディア「Axios(アクシオス)」の報道によると、マクミロン氏は2025年11月に実施された「Harvard Business Review」のイベントで、「駐車場でのカート回収業務から、技術者の働き方、そしてリーダーシップの役割に至るまで、AIによって私たちのあらゆる仕事が影響を受け、姿を変えていくでしょう」と語りました。
この発言は、WalmartのAI活用が大きく進展した2025年の締めくくりとして語られました。WalmartのAI活用はEC、ECと店舗をまたぐオムニチャネルでのショッピング、店舗での従業員の働き方、事業構造に利益をもたらす社内ツールの構築に至るまで、すでに業務全般に広がっています。
米国アーカンソー州ベントンビルに拠点を置くWalmartは、独自のAIおよび機械学習能力を開発するだけでなく、2026年に向けた計画の鍵となる領域でOpenAIとも協力しています。
「スーパーエージェント」の特長と活用法
Walmartのグローバル・チーフ・テクノロジー・オフィサー兼チーフ・ディベロップメント・オフィサーであるスレシュ・クマー氏は、WalmartがAIをどのように活用しているかを説明するために「スーパーエージェント」という言葉を使っています。
「スーパーエージェント」は、単にカスタマーサービスやカスタマーエクスペリエンスを向上させるだけではありません。特定の作業を行う「現場担当」のAIエージェントたちを、より高度な判断ができる「司令塔」のエージェントが指揮・管理するという仕組みです。
クマー氏は2025年7月のLinkedInの投稿で、「Walmartはビジネスのあらゆる側面に向けて、エージェントを迅速に構築してきました」と記しています。 Walmartは、これらのスーパーエージェントに独自の名称を付けました。
- 「Sparky」:消費者向けのWalmartのバーチャルアシスタント。顧客がオンラインで買い物をする際に商品を検索したり、異なる選択肢を比較したり、レビューをふるいにかけたりするのをサポートする
- 「My Assistant」:会議のスケジューリングからデータセットの活用などに、Walmartの従業員が使用するツール
- 「Marty」:Walmartのリテールメディアに出稿するパートナー企業を支援するツール。広告分野でアシスタントの役割を果たす
- 「WIBEY」:Walmartの開発者を支援するために設計されたスーパーエージェント
さらに、Walmartは「Wally」という名称の生成AIを活用したアシスタントを、従業員のマーチャンダイジングタスクを支援するために構築しました。
「WIBEY」の開発背景
スーパーエージェントの1つであり、Walmartの開発者を支援する「WIBEY」は、Walmart独自の機械学習プラットフォーム「Element」の上で構築しています。
Walmartは、大量のプログラムを安定して運用するためにGoogleが開発したオープンソースソフトウェア「Kubernetes(クバネティス)」を基盤として、自社専用のプラットフォーム「Element」を設計しました。この「Element」を用いることで、Walmartは複数のクラウド環境にまたがるテクノロジーサポートを効率化し、高性能なハードウェアを活用した先端技術の実験や、膨大なエンタープライズサービスとの円滑な統合を実現しています。
Walmart Global Techのグローバル・テクノロジー・プラットフォーム担当上級副社長であるスラバナ・カルナティ氏は、2025年8月に発表したニュースリリースで次のように説明しています。
「Element」は、実験から大規模な本番環境まで、ワークフロー全体をサポートするために専用の設計をしています。特定の中央サーバーに依存しない“分散型”で拡張性が高く、本番環境に対応したAIをめざして設計された「Element」は、インフラを効率化し、開発を加速させ、チームが利益を上げることに集中できるようにします。(カルナティ氏)
こうした広範囲にわたる規模の取り組みができていることは、Walmartほどの巨大企業だからこそ活用できるテクノロジーの層の厚さと、それらのシステムがさまざまな部門に広く浸透していることを示しています。
「ChatGPT」上から購入可能なOpenAIとの連携
2025年のホリデーショッピングシーズンの始まりに、WalmartはOpenAIとの協力関係を大幅に拡大することを発表。それを「実際にサービスとして動き出したエージェントコマース」と呼びました。
発表したのは、WalmartはOpenAIの「ChatGPT」プラットフォーム上でユーザーが商品を見つけ、「ChatGPT」上からWalmartの商品を直接購入できる機能。これにより、ChatGPTの「Instant Checkout」機能をWalmartの利用者に提供し始めています。「Instant Checkout」を利用すると、「ChatGPT」とのチャット画面からECサイトの商品を消費者が直接購入できるようになります。
Walmartはサプライヤー向けの「Walmart Academy」というプログラムの提供を通じて、OpenAIと、AIを使いこなすための認定試験やトレーニングの分野で協力しています。Walmartのサプライチェーンの基準や取引プロセスを学べる教育プログラムです。そのなかにはAI活用も含まれています。
2025年10月の提携によって、消費者はOpenAIの「ChatGPT」の画面内(エクスペリエンス内)で、そのままWalmartの商品を購入できるようになります。
Walmartは、先行して「Instant Checkout」を導入したEtsyやShopifyに続く形で、「Instant Checkout」の活用を開始しました。
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