Digital Commerce 360 2017/12/21 7:00

ネット通販など小売業界ではこれから数年、「4つのS」が鍵を握るでしょう。4つの「S」とは、「Search」(検索)、「Scroll」(スクロール)、「Subscribe」(メンバーシップ)、「Say」(音声)です。

最近、小売業界で大きな変化を巻き起こしている2つの企業で、時間を過ごす機会がありました。その2社とは、Amazon(アマゾン)とAlibaba(アリババ)です。この巨大企業を訪問し、驚異的な規模を目の当たりにした私は、小売業が世界的に、地域的にどう変わっていくのか、そしてテクノロジーとイノベーションが今後の購買行動にどう影響を与えていくのかを改めて考えました。

新しいパラダイムでは、「シンプル」「便利」「価格の安さ」が、マスマーケット(大衆全体)とマイクロマーケット(小規模商圏)の両方で、それもグローバルに小売業を支配していくでしょう。BtoB、BtoC、CtoCなどビジネスの形態を問わず、事業者は消費者をより理解しようと努力しています。そのため、皆が同じテクノロジーを使用し、どのビジネスも同じ方向に向かってくでしょう。

コンテンツ管理システムを提供するSitecore社のコマース部門副社長ワンダ・カディガン氏は次のように話します。

アマゾンやアリババのような企業が起こすイノベーションの影響で、小売業業界は変革を余儀なくされています。賢い小売事業者は、アマゾンに勝つための努力よりも、全体的なカスタマーエクスペリエンスの向上に注力しています。グローバルなブランドイメージを活用しつつ、主要なマーケットでは最新の注意を払ってローカル色を打ち出そうとしているのです。

マーケティングにおける「4つのP」をご存知の方は多いでしょう。「Price」(価格)、「Product」(商品)、「Promotion」(プロモーション)、「Place」(場所)です。この4つの「P」は、マーケティングやセールスが拠り所にするフレームワークです。

新しい「4つのP」はご存知ですか? 「Personalized Experience」(カスタマイズされた経験)、「Precise Connection」(正確なコネクション)、「Prescriptive Conversion」(処方的・指示的コンバージョン)、「Possible Exchange」(意見交換)です。

今回は、マーケティングリサーチを手がけるKantar社のブライアン・ギルデンバーグ氏が提唱する「4つのS」を紹介しましょう。それは、「Search」(検索)、「Scroll」(スクロール)、「Subscribe」(メンバーシップ)、「Say」(音声)です。この重要な「4つのS」を使い、消費者はどこで商品を探し、アイテムをスクロールし、サービスを購読、声を使うのかということを説明します。

「Search」(検索)&「Scroll」(スクロール)

アメリカでは、商品の検索をするときに、55%のユーザーがアマゾンを利用します。

オンラインショッピングのスタート地点として検索エンジンを使用するユーザーの割合は28%。アマゾンで検索するユーザーは55%にのぼる
オンラインショッピングのスタート地点として検索エンジンを使用するユーザーの割合は28%。アマゾンで検索するユーザーは55%にのぼる
出典:インターネットリテイラー社

リサーチ会社Statista社は、グローバルのEC市場規模は2016年の1兆8,600億ドルから、2021年には4兆4,800億ドルまで拡大すると推測しています。

2014年から2021年までの世界の小売電子商取引売上高(億米ドル)

2014年から2021年までの世界の小売電子商取引売上高(億米ドル)
出典:statista社

ユーザーの検索行動と市場規模の変化を見れば、「Search」(検索)と「Scroll」(スクロール)に関する戦略をしっかり打ち立てることの重要がわかるでしょう。消費者の検索行動を邪魔するようなものがあれば、ユーザーはすぐに他のECサイトで商品を探してしまいます。消費者に寄り添った戦略を立てる必要があるのです。

たとえば、消費者が野球用スパイク、帽子、バットを探しているとしましょう。

地元のお店では全部で190ドル、アマゾンのプライム会員であれば送料無料の180ドルで購入できるとします。

米国ではまだまだ購入先があります。消費者により多くのオプションを提供しているのが「Jet.com」です(編注:さまざまな買い物方法によってディスカウントするサービス。1つの店舗で購入するほど割引額は大きくなるといった仕組みを提供している)。多くの小売事業者が「Jet.com」に参加し、競い合うように消費者へ良いオファーを出すのです。

「より安い価格をご提案できますよ。まずは必要な情報を入力してください」。ECサイト上ではこのようなメッセージが表示され、190ドルだった商品がすぐに170ドルで買えるようになります。この仕組みは、パーソナルデータと人工知能(AI)を活用。消費者の購買決定の手助けをしています。

「Subscribe」(メンバーシップ)

会員制ショッピングサービスの生みの親と言われる「Sol Price」(ソル・プライス、会員制)がサンディエゴに会員制の販売サービス「Price Club」をオープンしたのは1976年のこと。

「Price Club」は後にコストコが吸収しましたが、売り上げが30億ドルを超えた初めての企業でした。現在、デジタル化の波と供に会員向け販売モデルが小売業を変えています。多様な商品を提供できる環境が整い、アマゾンがその勢いを牽引しています。

2017年6月時点で、全米でのアマゾンのプライム会員は8000万世帯を超えており、ドイツ全土の世帯数を大きく上回っています。

CIRP社が予測する米国Amazonの2017年6月時点のプライム会員数は、8000万人を超えている
CIRP社が予測する米国Amazonの2017年6月時点のプライム会員数は、8000万人を超えている
(編注:画像は編集部が追加)

また、Dollar Shave Club社はひげそりを月1ドルから定期販売するネット通販を展開し、ひげそりを毎月購入する行為そのものをブランド体験につなげて成功を収めています。

アマゾンだけではありません。NetflixやApple、Twitch(編注:Amazon.com が提供するライブストリーミング配信プラットフォーム)、Sportify(編注:デジタル音楽配信サービス)も会員からの売り上げが大きいです。一度、お客さまを囲い込んでしまえば、売り上げを継続的に生み出す仕組みになっています。

「Say」(音声)

アマゾンの「Alexa」(アレクサ)は驚くほど普及し始めています。アマゾンは音声に関するビジネスのパイオニアとして活動すると同時に、エンタテイメントと商売をうまく融合しています。

アレクサにはすでに2万5000以上の「Alexaスキル」(編注:クラウド内で実行されるアプリのようなもの)を搭載し、全米の家庭に浸透していっています。アレクサは車、テレビ、アプリなどと連携できるため、ブランド側は音声検索をどのように活用するか知恵を絞らなければならない状況になりました。

GoogleやAppleなど多くの企業が「声」のビジネスに参入しています。ブランドがビジネスで成功するには、「声」は不可欠な要素になっています。

次は何が来るのか?

中国では、「WeChat」(編注:中国テンセント社が提供するスマートフォン向けチャットアプリ)が新しい小売のエコシステムを作り上げました。アプリに買い物機能も決済機能も搭載しているのです。

ソーシャルメディアと購買がまだ完全に結び付いていないアマゾンやグーグル、YouTube、Facebook(フェイスブック)、Snapchat(スナップチャット)などとは大きく異なるところでしょう。どのようにソーシャルメディアと購買行動を結び付けるか――アメリカの有名ブランドが注目する次の動きになるでしょう。

アマゾンは巨大でグローバルな小売事業者ですが、買い物はアマゾンだけで事足りるわけではありません。一方で、グーグルやFacebookはグローバルとローカルの中間点となる新たな購買につながる接触点を探し出そうとしています。音声がより大きな役割を持つようになった今は、とても興味深い時期だと言えるでしょう。

なぜなら、成長市場がローカルとグローバルの両方で生まれているからです。マーケティング担当者からすると、アリババやアマゾンといった企業のおかげで市場がよりグローバルになりました。一方、テクノロジーが未発展ながらも急成長している市場はローカル色を強めているように映ります。

私たちは将来、どのような買い物をするのでしょうか? 最も興味深いのは、ブランドがいかに顧客を囲い込み、再購入してもらうような経験を作っていくのかという点です。Sitecore社のワンダ・カディガン氏はこう話します。

私がバーベキューセットを買ったとして、賢いブランドならそれだけでは終わりません。領収書を送り、私が住む地域で最もスタイリッシュでニッチなバーベキューソースをお勧めします。そして、地元のスーパーマーケットで開催するバーベキューの正しい焼き方講座に招待するでしょう。商品以上のものが必要なのです。購入してもらった商品からどこまで価値を引き出せるか、そしてどれだけ良い関係が作れるかということなのです。

「4つのP」に意味がないとは言いませんし、小売業はもう終わっているとも思いません。しかしながら、急激な変化が起こっている今、未来の購買行動に関しては「4つのS」 が新たな常識になるはずです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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