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オンライン・マーケットプレイスの巨人Amazon(アマゾン)は「Discount Provided by Amazon」(アマゾンが提供する割引)という名前の新しい割引プログラムをスタートしました。マーケットプレイスで商品を販売する販売事業者の商品価格を引き下げて販売するもので、その差額はアマゾンが負担しています。

割引分はアマゾンが負担、対象などは非公開

この新しい割引プログラム「Discount Provided by Amazon」は、短期的にも長期的にも、アマゾンのマーケットプレイスで販売している事業者やブランドには打撃となるでしょう

アマゾン(インターネットリテイラー社発行「全米EC事業 トップ500社 2017年版 」で第1位)は、新プログラムの開始時期、割引適用商品、割引率など、プログラムの詳細を開示していません

しかし、販売事業者が出品しているマーケットプレイスの商品に割引を適用し、割引価格で販売している事実は認めています。アマゾンの広報担当者は次のように説明しました。

アマゾンの割引が適用されれば、顧客はより満足できる価格で商品購入が可能になります。割引価格が適用されても、中小企業は希望販売価格のまま売り上げを得ることができるのです。

「Discount Provided by Amazon」の対象となっているのは、マーケットプレイスで扱う全アイテムではありません。しかし、アマゾンのマーケットプレイスを利用している販売事業者は、アマゾンのフルフィルメントサービス「FBA(Fulfillment by Amazon)」を利用して販売している商品には適用されていることに気付いています。

FBAは、販売事業者が物流倉庫代と配送手数料をアマゾンに支払って物流業務を委託するプログラムです。販売事業者がこのプログラムを使用すると、販売商品は「Amazon プライム」の対象商品になります。ただ、アマゾンは割引適用商品の全てが、FBAプログラムの商品なのかどうかについては言及していません。

アマゾンは、割引適用商品をECサイト上で消費者にアピールしています。たとえば、商品ページでは割引価格の下に、「Discount Provided by Amazon」と記載し割引を強調しています。

商品ページでは割引価格の下に、「Discount Provided by Amazon」と記載されている

「詳細」のリンクをクリックすると、マーケットプレイスで販売事業者が販売している商品にはアマゾンによって割引が適用されている旨が記載されています。「詳細」のポップアップボックスには以下のようなことも表示されます。

  • この商品は第三者の事業者によって販売されています。 割引はアマゾンが提供しています
  • 期間限定の割引です
  • 割引はデジタルコンテンツには適用されません
  • 割引の適用は、在庫がなくなるまで、もしくはアマゾンでの販売が終了するまでです
  • 割引前の価格に送料と税金が適用される場合があります
  • 予告なく割引を変更、またはキャンセルすることがあります
  • 割引商品やコンテンツが返品された場合、返品ポリシーにのっとり対応します。払い戻し金額は支払い金額と同等です

アマゾンが提供しているセラーディスカッションフォーラムによると、商品が割引されたにも関わらず、割引適用の通知がアマゾンから届かなかったマーケットプレイスの販売事業者が複数存在していることがわかりました。

販売事業者は割引プログラムから退会することはできるものの、そのためにはサポートセンターに連絡しなくてはなりません。サポートセンターに連絡した販売事業者が受け取ったメッセージは以下のとおりです。

アマゾンは御社の商品に割引価格を適用します。その場合の売上額や支払い手数料は、御社が設定した本来の価格に基づきます。アマゾンは、御社が設定した価格以上の金額で販売することはありません。もしこのプログラムから退会を希望される場合は、こちらにご連絡ください。

複数チャネルで販売している販売事業者には打撃

アマゾンは当面、販売事業者が設定した販売金額と割引価格の差額を自社で負担するとしています。しかし、オンラインとオフラインの両チャネルを通じて商品を販売する小売事業者やブランドにとっては打撃になるでしょう。

販売事業者の中でも特にブランドが、アマゾンへ商品を卸販売するのではなく、サードパーティ販売事業者としてマーケットプレイスで販売するのはなぜでしょうか? それは、商品の販売価格を自ら設定・管理できるためです。

たとえば、最低販売価格を設けている販売事業者にとって、アマゾンが提供する割引プログラムは矛盾を引き起こす可能性が出てきます(EC事業者が商品を最低販売価格以下で提供することを防ぐため、メーカーはルールを設けています。最低販売価格ルールに類似した、再販価格や小売価格に関するルールもあります。また、小売事業者が商品を宣伝・広告する場合の宣伝費や販売金額をメーカーが一方的に決定できるようなルールもあります)。

また、販売事業者自身のECサイトや、eBay、ウォルマート(「全米EC事業 トップ500社 2017年版」で第3位)が運営するECサイトなどで商品を販売している場合も、さらなる問題を引き起こす可能性があるでしょう。

ECに関するテクノロジーを提供するVolusion社のCTO(最高技術責任者)バーディア・デジュバン氏は、次のように言います。

自社のeコマースサイトを持ちながら、サードパーティとしてアマゾンでも商品を販売する事業者にとっては悪いニュースでしょう。アマゾンや他のマーケットプレイスで価格競争を余儀なくされるのですから。

自社ECサイトにおいては29.99ドルで販売するウィジェットを、アマゾンが24.99ドルに引き下げた場合、多くの消費者はアマゾンから購入し、他のサイトでは買わなくなるでしょう

─Volusion社 CTO バーディア・デジュバン

他のマーケットプレイスが販売事業者に価格の引き下げを要求する可能性も出てきます。事務用品を取り扱うEC会社Jam Paper&Envelope社(「全米EC事業 トップ1000社 2017年版」第737位)のディレクター、アンドリュー・ジェイコブス氏は言います。

他のマーケットプレイスも、アマゾンで販売されている価格と同じ価格で商品を販売したくなるでしょう。他のマーケットプレイスが自社で割引分のコスト負担、手数料の引き下げなどを行わなければ、販売事業者側に販売価格を下げるように圧力をかけてくるでしょう。

最終的には、アマゾンの新割引プログラムのせいで、販売価格と利益が坂道を転げ落ちるように下がっていく可能性があるのです

─Jam Paper&Envelope社 ディレクター アンドリュー・ジェイコブス氏

調査会社MarketTrack社のソリューション部門360piのデータによると、アマゾンが在庫を自社で保有する1300万SKUと比較し、マーケットプレイスには3億5000万以上のSKUが掲載されています。アマゾンの自社在庫には、書籍、メディア、ワイン、その他のサービスは含まれていません。アマゾンが公表した最新の収益報告では、第3四半期(2017年7~8月期)に販売された商品の50%がマーケットプレイス経由であると記載されています。

今回の新割引プログラムがアマゾンの売り上げにどのような影響を与えるかは、まだわかりません。アマゾンを利用する販売事業者向けに支援サービスを提供するSeller Labs社のマーケティングディレクターであるジェフ・コーエン氏によると、販売事業者の約95%が割引された価格、または定価よりも低い価格で販売されているそうです。コーエン氏は、定価よりも販売価格をどんどん下げていく販売事業者に対し次のように言及しています。

顧客は何年もの間“偽の割引”に対して不満を募らせていました。

─Seller Labs社 マーケティングディレクター ジェフ・コーエン氏

販売事業者から賛否の声

一部の販売事業者は、アマゾンのセラーディスカッションフォーラムで今回の新割引プログラムに対する意見を表明しています。

ある事業者は、割引によって商品の価値が下がる可能性があると述べています。

ある商品をアマゾンでは100ドル、自社サイトでは105ドルで販売するとしましょう。もしアマゾンが販売価格を75ドルに下げたら、私が設定した価格よりも低く販売されるため、商品価値が下がってしまいます。定価で売り上げた収益を受け取れるかどうかなどは関係ありませんアマゾンは購入者にその商品にはもはや100ドルの価値がなくなったというイメージを植え付けてしまうのです。

別の販売事業者は、アマゾンの割引が競合他社にも影響を与えるかもしれないと指摘しています。

アマゾンは一部の販売事業者の商品だけを割引するかもしれません。その結果、一部の事業者は売り上げが急増し、他の事業者の売り上げは落ちていくことになるでしょう。

アマゾンの新割引プログラムは、大きな問題になる可能性があります。競合他社よりも低い価格で販売していた自社商品があったのですが、競合の商品が何らかの理由で新割引プログラムの対象になり、競合がショッピングカードボックスを獲得(編注:出品商品がAmazon.co.jp上で有利な位置に表示されることを意味し、「ショッピングカートボックスの獲得」と表現されています。詳細はこちらしたことがあります

一方、新割引プログラムを前向きに捉え、伸び悩んでいた売り上げを伸ばした販売事業者もいます。数商品に新割引プログラムが適用され、セラーディスカッションフォーラムに「素晴らしい取り組み」と書いている事業者もいるのです。

 一例ですが、78.50ドルで販売している商品がありました。ある日、ショッピングカートボックスがなくなり、売り上げが急減しました。その後、売り上げが伸びてきたので、商品ページを確認したところ、再びショッピングカートボックスを獲得できていました。ページには、

74.90ドル(免責条項あり)、割引:3.60ドル(5%)
Discount Provided by Amazon

と、記載されていました。私たちは定価の78.50ドルから手数料を差し引いた売上金額を得ることができます。しかしながら、適用されたのはFBAを利用している商品のみです。アマゾンが割引しても、手数料で回収できるからです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア「Internet RETAILER」の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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