Amazonがリアル店にこだわる理由── ウォルマートを追うアマゾンのスゴい実店舗戦略
Amazon(アマゾン)はWalmart(ウォルマート)のような大型チェーン店をいずれ展開するのでしょうか? それが実現すれば、オンライン小売業界の巨人であるアマゾンが、処方箋医薬品やPBブランドの販売など、新たな分野に進出する足がかりとなるはずです。
ウォルマートになろうとしているアマゾン
「現金は王様(Cash is King)」という言葉がありますが、この小売業界で言えば「アマゾンは王様」です。アマゾンはEC業界を牽引するだけでなく、スーパーマーケット業界やWebサービス業界まで、あらゆるビジネスに影響を与え、多くの現金を生み出しています。そして今、医薬品業界まで進出しようとしているのです。
アマゾンは手当たり次第に新事業を進めているわけではありません。テストを通じて実際に試し、しばしば失敗もします。参入障壁に立ち向かうその姿は、とても忍耐強く映ります。そして、何よりも重要なことは、このステップすべてが計算し尽くされているということです。
ウォルマートはアマゾンのようになろうとしていますが、私はアマゾンがウォルマートになろうとしているように見えるのです。それなぜでしょう? EC業界は成長しているものの、小売業界の売り上げの92%は実店舗で生み出されているからです。
今後、EC市場のシェアが大きくなっても、実店舗に取って代わることはありません。消費者は実店舗で買い物を続けるでしょうし、アマゾンはその事実を知っています。だからこそ、アマゾンがスーパーマーケット業界に足を踏み入れるのは理にかなっているのです。
アマゾンがスーパーマーケット業界に進出する際、かっこいい名前をつけてくることでしょう。ここではサービス名を仮で「アマゾン・ライフ」とします。それは、どんなサービスになるのでしょうか?
すでに書店を展開、食料品店を買収
実店舗も展開しているアマゾンはもはや純粋なEC事業者ではありません。書店を持ち、ホールフーズを買収(すでに複数のエリアで受け取りロッカーを設置)し、独立型の受け取りロッカーも作っています。
そして、百貨店チェーンのKohl'sとも提携しています。Kohl'sはアマゾンを利用した顧客の返品窓口のほか、「Amazon Echo」などアマゾン製品を購入できる場所にもなっています。Kohl’sがアマゾンと組んだ唯一の理由は、「倒すことができないのであれば、仲間になる」という考え方があるからでしょう。しかし、私はあまり良くない結果になるのではないかと考えています。
アマゾンはKohl'sをテストセンターとして利用し、どれくらいの返品率があるのかを追跡しています。消費者は、返品のために実店舗を訪れるのでしょうか? もしそうならば、どのくらいの頻度でしょう? 店舗での返却が可能になると返品率は上がるのでしょうか? もしくは変化はないのでしょうか? アマゾンは詳細に分析しているはずです。
一方、Kohl'sは、消費者が商品、特に衣類を返品する際、よりフィット感のある商品を購入するために店舗内を回遊すると考えているようです。理にかなってはいますが、長続きはしないでしょう。
アマゾンはすでに大量の商品をKohl’sに供給すると考えられているため(編注:米国ではPBの衣料品をテスト販売するという予測もある)、店内回遊へと導こうとするKohl'sの狙い通りに物事が進むことはなさそうです。アマゾンは衣料品カテゴリーだけで十数種のPBを展開し、拡大を続けています。自社商品を買ってくれそうな消費者を、アマゾンがKohl'sに引き渡すわけがありません。
店舗活用で配送コストを削減
配送コストは引き続き上昇し、収益を圧迫する要因となっています。消費者が注文したその日に商品を受け取れるような場所を設置することで、配送にかかるコストを大幅に削減することができます。
フルフィルメント用ソフトウェアを提供するTemando社によると、消費者の82%はオンラインで購入して店頭で受け取るという選択肢を望んでいるそうです。返品コストも大幅に削減できるため、Kohl’sのような店舗に消費者は足を運ぶのです。
そして、Kohl'sが考えるように消費者は返品手続きをしている間、新しいサイズなどの商品を探す可能性があります。しかし、Kohl'sにはアマゾンの製品が数多く販売されているため、アマゾンのポケットに多くのお金が流れるのです。
アマゾンのPBは、引き続き大きな売り上げを生み出し、拡大しています。最近では、2つのオリジナル家具ブランドも発表しました。30種類以上のPBブランドを保有しており、特にファッションでは店内で展示する商品が不足する恐れはありません。
洋服が返品の大部分を占めていると予想されるので、「アマゾン・ルック」(カメラ内蔵型のEcho。編注:カメラ付きAlexaデバイス「Echo Look」)への投資を増やし、地元の店舗で洋服を試着してもらうという戦略は理にかなっているでしょう(編注:Echo Lookはファッションチェックにフォーカスした機能を搭載。簡単に全身を撮影する機能などがあり、「Echo Look」アプリを通じてスタイリングをチェックすることができる。機械学習アルゴリズムとファッション・スペシャリストのアドバイスを組み合わせたスタイルチェック機能を通じて、自身に適した衣類を購入することが可能)。
また、Prime Wardrobe(プライム・ワードローブ。編注:プライム会員向けサービスで、気に入った衣類などを事前にオーダーし、試着した中から好きなモノを購入し、残りは無料で返却できるサービス)のような、商品を何度も送ることで発生する配送コストの削減にも役立ちます。
ホールフーズ買収+品ぞろえの拡充
Whole Foods Market(ホールフーズ、編注:アマゾンが2017年に買収)はすでに400以上の店舗を持っていますが、面積の狭い店舗が多いのが現状です。食料品と一緒に、新しいUSBコード、靴下、処方箋医薬品などを購入できれば、消費者は確かに喜ぶでしょう。こうした品ぞろえを提供しているのがウォルマートです。アマゾンのスーパーマーケットがすべての商材を提供すれば、より合理化された販売が可能になるはずです。
処方箋医薬品への進出
アマゾンは、薬局を運営するための許可を取得していませんが、確かにこのジャンルを狙っています。ドラッグストアのチェーン店を買収する以外の手として(可能性はあります)、ドラッグストアを作るか(あまりにもコストがかかります)、スペースが限られているホールフーズの中に入れるか、通販のみで展開するか(最も可能性が低いです)しかありません。
店舗進出で在庫回転率が大幅アップ
店舗を構えることによって、アマゾンの倉庫およびフルフィルメントにおいて、ブランドと取引する際に自社倉庫とフルフィルメントサービスをさらに活用できるようになります。
消費者がオンラインで購入したその日に商品を引き取ることができれば、ブランドは店頭に在庫を置きたがり、オンラインでも早く出荷できるように在庫を提供するでしょう。ブランドはおそらくアマゾン用の在庫を増やします。そして、アマゾンの売り上げが伸びるサイクルが生まれてくるのです。
時間の有効活用、利便性、経験を実現するAmazonの店舗
ショールーミングは、どの消費者も大好きなものです。世界最大の家電量販店Best Buyを見れば明らかです。テレビなどの大きな買い物の場合は特にです。現在、アマゾンはあまり多くの電化製品を取り扱っていません。「アマゾン・ライフ」では、ショールームを訪れた後にわざわざアマゾンのECサイトで価格を確認する必要がないのです。
データによれば、ミレニアル世代やZ世代は実店舗好きですが、オンラインでも買い物します。彼らにとって重要なのは、時間の有効活用、利便性、そして経験です。
多くの小売事業者は、店内のカスタマーエクスペリエンスを重視していませんが、アマゾンは違います。「アマゾン・ライフ」に足を運べば、便利で優れたカスタマーサービスを体験できるのは間違いないでしょう。
変わるプライム会員制度
プライム会員制度は変わるでしょうか? アマゾンが上述してきたことすべてを実現した場合、会員サービス「Amazon Prime」に新サービス「プライムスタンダード」「プライムプラス」(名称は仮)を加え、プライム内のサービスのなかで差別化を図っていくでしょう。では、どのように差別化するのでしょうか?
これは仮説です。「プライムスタンダード」は現在のプライムサービスに似たもので、2日以内の無料配送と無料返品、さまざまなメディアサービスを利用することができます。日用品をまとめ買いできる「Amazonパントリー」には、引き続き配送料がかかるでしょう。しかし、当日配送を無料提供するのではなく、どこかの拠点で注文当日に引き取りできるようにするのです。
「プライムプラス」の会費は少し高めになりますが、追加オプションとして当日配達が可能となります。食料品の配送料が月に1度無料になるかもしれません。どちらのサービスも食料や衣類のサブスクリプションサービスを取り入れ、他にも特典を付けていくでしょう。
ウォルマートはアマゾンを追いかけていますが、アマゾンは密かにウォルマートに近づこうとしています。プライム会員と非プライム会員の両会員に、顧客中心のカスタマーエクスペリエンスを物理的に提供するのです。そして、店舗を通じて顧客ロイヤルティをさらに強固なものにすることができるでしょう。
実店舗はまだ終わっていません。よりよくなる可能性があるだけです! アマゾンがそれを証明するでしょう。