Digital Commerce 360[転載元] 7:00

OpenAIは、ECサイトの買い物もサポートできるAIエージェント「Operator」を開発しました。まだ検証段階ですが、eBayなどの大手米国事業者が導入し、自社サービスを利用するエンドユーザーの利便性アップにつなげようとしています。「Operator」の特長、導入企業の反応を解説します。

OpenAI、初の「エージェント型AI」ツールを開発

バーチャル上のアシスタントのように機能する

OpenAIは、ECサイトを含むWebベースのタスクを処理できるAIエージェント「Operator」を発表しました。商品検索、購入、注文などのユーザーによるアクションをサポートします。

このツールを最初に導入する事業者のなかには、オンライン小売事業者も含まれています。米国の一部ユーザー向けに早期プレビュー版としてリリースした「Operator」は、OpenAI初の公式「エージェント型AI」です。

「Operator」は、単に回答するだけのチャットボットとは異なり、バーチャル上のアシスタントのように機能します。ユーザーは自身の手間を最小限に抑えながら、ブラウザ上でクリック、スクロール、タイピングなどを行うだけでタスクを完了することができます。

eBay、Instacart、Etsyが導入

OpenAIは「Operator」をテストするために、越境ECプラットフォーム運営のeBay、食料品や日用品のオンラインデリバリーサービスを提供するInstacart、ハンドメイド商品のECを展開するEtsyなどの主要なEC事業者と提携したと発表しています。

ユーザーはそれらの事業者が運営するECサイトで、「Operator」に食料品の注文、ギフト探し、Webサイト上でのチケット予約などを依頼でき、必要に応じていつでも注文内容の調整や修正を行うことができるそうです。

OpenAIの「Operator」はECサイト運営においてどのように機能するのでしょうか?

「『Operator』は、AIを従前の受動的なツールから、デジタルエコシステムのアクティブな参加者に変えます」とOpenAIはニュースリリースで発表しています。

「Operator」を活用するユーザーのタスクを効率化し、より良い顧客体験を追求します。コンバージョン率アップをめざす企業に、AIエージェントならではのメリットをもたらします。(OpenAIのニュースリリースより)

ユーザーに代わってアクションする「Operator」

「Operator」の使い方は「ChatGPT」と似ています。まずユーザーは「operator.chatgpt.com」にログイン。次に、「食料品を注文する」や「旅行のホテルを探す」など実行したいタスクを入力します。そこから、「Operator」はクラウド上に独自の仮想Webブラウザを起動してタスクを完了していきます

「Operator」の使い方イメージ。実行したいタスクを入力すると、「Operator」がクラウド上に独自の仮想Webブラウザを起動する(画像はOpenAIのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)
「Operator」の使い方イメージ。実行したいタスクを入力すると、「Operator」がクラウド上に独自の仮想Webブラウザを起動する(画像はOpenAIのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)

この技術を可能にしているのは、OpenAIが新たに開発した「Computer-Using Agent(CUA)」モデルです。グラフィカルユーザーインターフェースで動作するようにトレーニングされており、「Operator」がWebサイトを見て、ボタンのクリック、フォーム入力、メニューの操作などにより対話する――とOpenAIは説明しています。

「Operator」がユーザーと対話しながら、仮想Webブラウザ上でフォームに入力したりメニューを操作したりする(画像はOpenAIのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)
「Operator」がユーザーと対話しながら、仮想Webブラウザ上でフォームに入力したりメニューを操作したりする(画像はOpenAIのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)

よく使うワークフローは保存可能 

「Operator」は、ユーザーが頻繁に行うタスクの手順を保存できます。たとえば、Instacartが運営する「Instacart」で、ユーザーが特定のアイテムを再注文するためのカスタム設定を作成するオプションを用意できます。また、特定の航空会社のフライトを予約することも可能です。

OpenAIは、「Operator」が「ユーザーの好みに基づいてパーソナライズされたエナメルマグを『Etsy』で注文しながら、キャンプ場のレンタルサービス『Hipcamp』でキャンプ場を予約する、といった、複数のタスクを同時に処理することもできる」と説明しています。

機密情報は手入力

それでも、人間の手入力がまだ必要なシーンは少なくありません。「たとえば、ユーザーは支払い情報やログイン詳細などの機密情報は手動で入力する必要があります」(OpenAI)

現在、「Operator」は限定的な「リサーチプレビュー」段階であり、OpenAIが月額200ドルで提供している「Pro」プランに加入している米国のユーザーのみが利用できます。OpenAIは、ユーザーのフィードバックに基づいて改良を重ね、「Operator」を他の有料プラン、国、そして最終的には「ChatGPT」の無料版に拡大する計画です。

改善すべき点はまだたくさんありますが、まずは実際にユーザーに使っていただきたいと考えています。今後数週間から数か月以内に、さらに多くのAIエージェントを発表する予定です。(OpenAI サム・アルトマンCEO)

「Operator」の有用性は? eBay、Etsy、Instacartの反応

「Operator」の有用性を示すために、eBay、Etsy、Instacartなどの主要企業と提携しているOpenAI。

Instacartでは、「Operator」を通じて、より速く、より簡単にエンドユーザーが食料品の買い物をできるようにしています。デモ動画では、エンドユーザーが手書きの食料品リストの写真をアップロードし、「Operator」がアップロードされたリストを取得、注文フローを経て、配達までをスケジュールします。

OpenAIの「Operator」は、食料品の注文のような工程を信じられないほど簡単にする革新的な技術的です。(Instacart 最高製品責任者、ダニエル・ダンカー氏)

Etsyは、「Operator」を「自社ECサイトの利用者が、何百万人もの出品者から自分のほしいアイテムをより迅速に見つける方法と捉えている」そうです。

ビジネスに特化したSNS「LinkedIn」での投稿で、Etsyは「ますます自動化が進む昨今の世情において、Etsyが提供するマーケットプレイスを利用する人との関わりを強化するために、AIを実装していく予定です」とコメントしています。

eBayの最高AI責任者であるニツァン・メケル-ボブロフ氏は、「OpenAIとの提携は、eBayが進めるAI戦略における重要なステップ」だとeBayのコーポレートサイトでコメントしています。

OpenAIとの提携は、エンドユーザーにオンラインにおける商品の発見と、新しい買い物体験をもたらします。「Operator」はユーザーを「eBay」に誘導して、ほしい商品を見つけるサポートができます。

このコラボレーションを通じて、「eBay」に出品しているセラーのリーチを拡大し、より多くの消費者に「eBay」のが取りそろえるラインアップを知ってもらえると期待しています。(eBay ニツァン・メケル=ボブロフ氏)

安全性とプライバシーへの配慮

OpenAIは、ユーザーの代わりに商品の注文などのアクションができるAIツールを作成することに伴うリスクは認識しています。

ユーザーからの安全性の懸念を払拭するため、「Operator」に組み込まれているいくつかの安全策を公表しました。

  • テイクオーバーモード:ユーザーは支払い詳細などの機密情報を自分で入力する必要がある。「Operator」はこのとき入力されたデータを保存しない。
  • 承認ステップ:AIは注文などの主要なアクションを完了する前に一時停止し、ユーザーが確認するようにする。
  • タスク制限:銀行口座の管理などのリスクの高いタスクを拒否するようにトレーニングされている。
  • リアルタイム監視:メールや金融サービスなどの機密性の高いサイトでは、「Operator」のアクションを綿密に監視する必要がある。ユーザーは「Operator」が間違ったアクションを取った場合、直接確認できる。

「Operator」にはプライバシーツールも含まれています。たとえば、閲覧履歴の削除、保存されたログイン情報の消去、データ共有のオプトアウトなどの機能です。「誤用を防ぎ、ユーザーの安全を確保するために、安全策を継続的に更新しています」(OpenAI)

とはいえ、「Operator」はまだ完璧ではありません。Open AIによると、カレンダーの管理やスライドショーの作成など、より複雑なタスクの対応はまだ苦手のようです。

長期的には、OpenAIはこの「Computer-Using Agent」モデルを、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)を通じて開発者に提供したいと考えています。これにより、企業はさまざまなタスクに対応する独自のAI搭載エージェントを構築できるようになります。

OpenAI、成長著しいAIエージェント市場に参入 

大手テック企業がすでに同様のAIエージェントを構築しているなか、「Operator」はレッドオーシャン市場に参入しました。

GoogleやSalesforceなどの企業は、独自のエージェントツールを立ち上げています。これらのツールは、顧客からの質問への回答、予約のスケジュール、フォームへの入力などのタスクを処理できます。

「TikTok」を運営するByteDanceも、2025年1月にオープンソースのAIエージェント「UI-TARS」でAIエージェント市場に参入。「UI-TARS」は「Operator」と同様に、ユーザーのタスクを段階的に実行します。

他社のAIエージェント開発事例

小売業関連では、半導体メーカーのNvidiaが最近、販売促進につながるAIエージェントの開発を支援するツール「Blueprint」を発表しました。これを利用して開発者が生成するデジタルアシスタントは、テキストと画像のプロンプトを処理でき、複数のアイテムを同時に検索したり、商品が防水かどうかなどの質問に答えたりできるそうです。

このような高度な機能を備えたAIエージェントは、顧客体験を向上させ、コンバージョン率を高め、返品率を下げるのに役立ちます。また、補完商品やアップグレードに関して、開発者にパーソナライズした提案を行い、注文の平均単価を大きくするように設計されています。(Nvidia)

eBayはAIエージェントのさらなる活況を予測

eBayのメケル-ボブロフ氏は、大規模言語モデルからエージェント型システムへの進化は「ほんの1年前に予測していたよりも速く起こっている」とコメントしています。ボブロフ氏は、AIエージェントベースのやり取りが、今後数年間でEコマース、ひいてはデジタル経済全体の未来において重要な役割を果たす可能性があると考えています。

これはほんの始まりに過ぎません。eBayでもAIエージェント機能を進化させ続け、AIエージェントとの戦略的パートナーシップを深めていきます。ユーザーがお気に入り商品を発見し、ひいてはセラーがビジネスを成長させるために、AI技術の活用がどれほど効果を発揮するかを学んでいるところです。(メケル-ボブロフ氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]