Digital Commerce 360[転載元] 8:00

ロボットの活用を拡大しているAmazonは、米国とドイツの一部倉庫で新たな倉庫内ロボット「Vulcan(バルカン)」の運用を始めています。Amazonはすでに導入している75万台のロボットシステムに「Vulcan」を追加。フルフィルメントの効率化と、人間の従業員の身体的負担軽減に貢献する仕組みを備えています。

スピードアップ+従業員負担軽減を両立

触覚を備えた倉庫ロボット「Vulcan」

Amazonは、フルフィルメントの速度向上と従業員の身体的負担軽減を目的とした、「Vulcan」と呼ばれる新たな倉庫ロボットの導入を発表しました。

Amazonのビジネス戦略、社会貢献活動、顧客への取り組みなどさまざまな情報を配信しているWebサイト「AboutAmazon.com」のシニアエディターであるアレックス・デイヴィス氏によると、「Vulcan」はAmazon初の触覚を備えたロボットです。デイヴィス氏はリリースで、「Vulcan」はAIを活用したツールと力覚センサーを使用し、商品がぎっしり詰まった保管棚から商品を格納・取り出すことができると説明しています。

Amazonが運用を開始した新たな倉庫ロボット「Vulcan」(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
Amazonが運用を開始した新たな倉庫ロボット「Vulcan」(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)

従前、倉庫内で荷物をピッキングする際は、従業員がはしごを登ったりかがんだりして取り出す必要がありました。「Vulcan」を導入する狙いは、フルフィルメント効率を高めつつ、従業員の身体的な負担を軽減することです。

「Vulcan」はフルフィルメントセンターに保管しているすべての種類の商品の約75%をピッキングまたは格納できる能力を持ち、最前線の従業員と同等のスピードで作業できます。従業員の日常業務を「Vulcan」による自動化とAIがサポートするため、効率と従業員の負担軽減に大きな変化をもたらすでしょう。(デイヴィス氏)

「Vulcan」の特長と「Vulcan」による倉庫内作業(動画はCNBCのYouTubeアカウントから追加)

すでに50万件超の注文を処理。米国スポケーン倉庫では保管商品の75%に対応

Amazonによると「Vulcan」は2025年5月現在、米国のワシントン州スポケーンとドイツのハンブルクにあるフルフィルメントセンターで稼働しており、これまでに50万件以上の注文を処理しています。

スポケーンでは、ロボットは上段および下段の在庫にアクセスするタスクを担当しており、保管している商品タイプのうち75%を扱うことができます。Amazonは今後数年間で、「Vulcan」をより広く展開する計画で、ヨーロッパおよび米国の他の拠点でのさらなる導入も予定しています。

今回の発表は、これまでのAmazonの10年間にわたるロボット投資の成果と言えます。Amazonは現在、全世界のフルフィルメントネットワーク全体で75万台以上のロボットシステムを稼働させており、今後さらに増やす予定です。

「Vulcan」は触覚を備えているため、正確なピッキングや格納作業ができる。Amazonでは今後さらなる「Vulcan」の導入拡大を計画している
「Vulcan」は触覚を備えているため、正確なピッキングや格納作業ができる。Amazonでは今後さらなる「Vulcan」の導入拡大を計画している

AmazonのロボティクスAI担当ディレクターであるアーロン・パーネス氏はリリースで、「Vulcan」についてこのように説明しています。

「Vulcan」はロボティクス全体の大きな飛躍を象徴しています。ロボットが、視覚のような認知機能で周りの状況を捉えるだけでなく、触れて感触を理解できるようになり、従前のAmazonのロボットではできなかったことができるようになりました。(パーネス氏)

身体的負担が大きいタスクを代行

Amazonによると、「Vulcan」は通常、従業員が手を伸ばしたり、かがんだり、はしごを登ったりする必要がある身体的に負担のかかるタスクを担当するように設計されています。

身体的に負担がかかるタスクのうち、高さ約2.4メートルの保管棚の上部や下部から商品を取り出すタスクは特に複雑になり、負担がさらに増えることがあります。「高所でのこうした作業は倉庫ではよく見られるものですが、作業の効率が下がったり、従業員の安全に関わる場合もあります」(デイヴィス氏)

Amazonは「Vulcan」に保管棚の上段と下段のピッキングや格納を任せることで、従業員はより安全かつ効率を上げやすい、太ももから胸の高さの範囲――人間工学に基づいた「パワーゾーン」に集中して倉庫内の業務に当たることができると説明しています。

従業員の身体的負担が大きい高さのタスクを「Vulcan」が担い、業務効率アップや負担軽減に貢献する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
従業員の身体的負担が大きい高さのタスクを「Vulcan」が担い、業務効率アップや負担軽減に貢献する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)

デイヴィス氏によると、Amazonはこれを実現するために、「Vulcan」に搭載するための新たなアーム先端ツール、2つ以上のカメラを使って対象物までの距離や位置を計測するステレオビジョンシステム、「Vulcan」が物理的な接触を解釈して反応することを可能にするアルゴリズムを開発しました。

「Vulcan」が高精度なワケ

人間の従業員と“協業”

「Vulcan」のロボットアームには、吸引カップとカメラが搭載されており、近くの在庫を乱すことなく、商品がたくさん並べられている保管棚から目的の商品を取り出すことができます。柔らかいパドルとコンベアのような部品を組み合わせたハイブリッドグリッピングシステムが、作業の精度の高さに貢献しており、商品を所定の位置に配置することができるそうです。

「Vulcan」は特定のアイテムを動かせない場合にそのことを認識し、人間の従業員に作業の助けを求める賢さも備えています。これにより、テクノロジーと従業員が協力して、ベストな状態で仕事ができるのです。(デイヴィス氏)

搭載の触覚でアイテムを正確に検知

特筆すべきは、このロボットのAIは、シミュレーションだけでなく、実際のインタラクションを使用してトレーニングされたことです。「靴下から壊れやすい電子機器まで、何千もの物理的なアイテムを扱うことで学習し、試行錯誤を通じて『Vulcan』が状況を把握できる方法を改良した」とデイヴィス氏は述べています。また、「Vulcan」は、扱う物体ごとに触覚の違いを検知し、適応できるそうです。

目標は、「Vulcan」をAmazonのネットワーク全体に拡大し、フルフィルメントの運用効率を高め、職場の安全性を向上させ、身体的に負担のかかるタスクを減らすことで従業員をサポートすることです。(パーネス氏)

Amazonが推進中の自動化戦略

「Vulcan」のほかにも、Amazonは配送ステーション向けに設計されたいくつかの自動化ツールを発表しました。ツールの名称と、それぞれのツールが実現する動作は次の通りです。

  • 「Tipper」: カートからの荷降ろしを自動化。手作業による荷物の荷降ろしを不要にし、作業員の負担を大幅に軽減する。
  • 「Echelon」と6面スキャナー: 従前は手動だったバーコードスキャンを自動化。手作業によるスキャンとハンドリングが不要になり、効率化に貢献している。
  • 「ZancaSort」:人間工学に基づいた高さで従業員に荷物や配送用バッグを運搬。従業員は荷物を専用の袋に入れるだけで済むため、作業効率が向上し、快適性も大幅に向上した。
  • 「VASS (Vision Assisted Sort Station)」: 視覚的な投影を使用し、従業員の仕分けタスクをガイド。荷物と仕分け場所が視覚的に強調表示されるため、従業員は数千もの荷物を適切な配送ルートへ素早く配置する作業が容易になる。
Amazonが配送倉庫内で導入しているツールの1つ「Tipper」。カートの荷降ろしを自動化する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
Amazonが配送倉庫内で導入しているツールの1つ「Tipper」。カートの荷降ろしを自動化する(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
従業員に荷物や配送用バッグを運搬する「ZancaSort」(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)
従業員に荷物や配送用バッグを運搬する「ZancaSort」(画像はAmazonのコーポレートサイトから追加)

75%の注文にロボットが対応

Amazonは、現在75万台以上のロボティクスシステムを使用しており、顧客からの注文のうち約75%をロボットが対応しているそうです。

ロボティクスシステムは、反復的な動作を減らし、仕分け精度を高め、安全性を向上させるように設計されているそうです。Amazonは、ドイツのドルトムントにあるイノベーションセンターで多くのロボットをテストしていると公表していますが、このほかにも、他の市場への展開も計画しています。

ロボット運用のための新たな職種

また、自動化戦略によって、ロボティクスを運用するためのサポートとメンテナンスの領域で、高度なスキルを必要とする新たな職業を生み出している、とAmazonは言います。

Amazonでは、従業員がキャリアを成功させるために新たなスキルの習得を支援する教育支援制度「Amazon Career Choice」を通じて、従業員がこれらのスキルを磨くためのトレーニングも提供しています。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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