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ナイキのAI活用事例。AIを用いた顧客体験向上+商品開発+業績立て直し改善のアプローチ

ナイキは、顧客体験向上、広告運用、商品のデザインまで、事業のさまざまな分野でAIを活用しています。事業の立て直しを図るなか、AIがどのように重要な役割を果たしうるのかを解説します。

Digital Commerce 360[転載元]

10月30日 8:00

業績の立て直しを進めているNIKE。その一環として、カスタマーエクスペリエンス、広告運用、シューズのデザインに関わる商品開発などさまざまな分野でAIの技術を活用しています。

業績を軌道修正中のNIKE

NIKEでは2025年、ECおよび全社の売り上げを立て直す取り組みを進めており、AI戦略は、事業の多くの部分に関わっています。 NIKEは、どのように AI を活用してカスタマーサービスを改善、ブランドの世界観を表現し、商品ラインアップを最適化しているのでしょうか。

NIKEは企業買収や商品デザインなど、さまざまな業務で何年にも渡ってAIを活用してきました。しかしこの過去1年、一連の業務に携わるリーダーが変わり、その影響が出ています。

たとえば、2024年にエリオット・ヒル氏のCEO任命、AIと機械学習を統括していたジェイソン・ラブランド氏の退任、そしてNIKEの最高イノベーション責任者を務めていたジョン・ホーク氏の退職などです。

2024年9月、NIKEのCEOに就任したエリオット・ヒル氏(画像はNIKEのコーポレートサイトから編集部が追加)
2024年9月、NIKEのCEOに就任したエリオット・ヒル氏(画像はNIKEのコーポレートサイトから編集部が追加)

低迷が続くも、回復基調

NIKEは現在、失った勢いを一部取り戻しつつあります。2025年6-8月期(第1四半期)に、NIKEがバスケットボールのマイケル・ジョーダン元選手と契約して誕生したシューズブランド「エア・ジョーダン」のスニーカー、メジャーリーガーのアーロン・ジャッジ選手の関連商品など、多くの商品を展開。

2024年度第3四半期(2023年12月~2024年2月)以来、久しぶりに四半期ベースの売上高が前年同期比を上回りました

マイケル・ジョーダンが関わるシューズブランド「エア・ジョーダン」(画像はナイキ日本法人が運営するECサイトをキャプチャして追加)
マイケル・ジョーダンが関わるシューズブランド「エア・ジョーダン」(画像はナイキ日本法人が運営するECサイトをキャプチャして追加)

米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』は、NIKEの2025年EC売上高は81億5000万ドルに達すると予測しています。

NIKEのEC売上高と成長率の推移(単位:10億ドル。曲線グラフは前年比成長率。2025年は『Digital Commerce 360』の推定値。出典:NIKEの公表資料と『Digital Commerce 360』)
NIKEのEC売上高と成長率の推移(単位:10億ドル。曲線グラフは前年比成長率。2025年は『Digital Commerce 360』の推定値。出典:NIKEの公表資料と『Digital Commerce 360』)

NIKEのAI活用

カスタマーエクスペリエンス向上を狙いアプリに導入

NIKEの上級副社長兼最高技術責任者であるミュゲ・エルディリク・ドーガン氏は2025年8月、AIがアプリ内検索体験とパーソナライズしたレコメンデーションでどのように活用されているか、その一端を説明。ドーガン氏のチームは、米国のすべての iOS版NIKEアプリユーザーに向けて、「NIKE AI ベータ版」と呼ばれる機能の提供を開始しました。

ドーガン氏は LinkedInで次のように投稿しています。

「NIKE AI」の提供は、NIKEが消費者のニーズや、その時々の状況・目標に合う商品を消費者と結びつけるプロセスにおいて、大きな転換と言えます。「NIKE AI」 は、NIKEのアプリに消費者と会話する力もたらし、消費者がどこにいても接客できるのです。(ドーガン氏)

ドーガン氏は、「NIKE AI」が対応できるリクエストの例として、レース用のランニングシューズやチーム用のギア、好きな色や好きなサイズの商品、これまでの検索では見つけにくかった商品でも、会話だけで簡単に探せるようになると説明しています。

NIKE AIの活用イメージ(画像はドーガン氏のLinkedIn投稿から追加)
NIKE AIの活用イメージ(画像はドーガン氏のLinkedIn投稿から追加)

NIKE AI は、最高水準の基盤モデルを使用し、NIKEの在り方を理解する専門家によって微調整されて構築されており、さらに、消費者の購買意図を理解できるように設計されています。消費者にとってシンプルかつ直感的な使い心地であり、実生活のニーズに即して作られています。(ドーガン氏)

Amazon で16年間勤務した後、2023年にNIKEに入社したドーガン氏は、新しいAI体験に対する消費者からの反応を「エキサイティング」と評しています。

「NAVER」のAI広告ツールを利用

韓国で総合ポータルサイト兼検索エンジン「NAVER」 を運営するNHN Corporationは、LINEヤフーと「NAVER」の共同開発プロジェクトであるAIプラットフォーム「CLOVA」の広告サービス「CLOVA for ADエクスペリエンス」を使用する初期のブランドとしてNIKEを迎え入れました。「CLOVA for ADエクスペリエンス」の仕組みは、「NAVER」の大規模言語モデル「HyperCLOVA X」を活用しています。

生成AIを用いたこの広告ツール「CLOVA for ADエクスペリエンス」は、消費者が「NAVER」で関連する商品を検索した時、ブランドの案内係としてAIがユーザーに話しかけながら、商品を提案する役割を担い、バーチャルブランドアンバサダーとして機能します。

「NAVER」はそのチャットボット形式の顧客体験を「BrandChat」と評価。生成AIによる顧客への回答は、NIKEのような特定ブランドからのガイドラインや視点を反映し、購買を促すパーソナライズされた商品提案を行うよう設計しました。

AIが商品デザインの開発をサポート

NIKEによるAI活用の最も華やかな事例の1つは、2024年のパリオリンピックの期間中に見ることができました。「Art of Victory」という名称の展示会を開催し、AIを活用して作ったシューズのデザインを披露したのです。

展示したプロトタイプは、NIKEと協働した陸上、サッカー、バスケットボール、テニスの選手13名のために製作。NIKEはこのプロジェクトを 「A.I.R. — Athlete Imagined Revolution(アスリートが想像する革命)」と呼びました。

「A.I.R」のイメージ(画像はナイキのコーポレートサイトから追加)
「A.I.R」のイメージ(画像はナイキのコーポレートサイトから追加)

NIKEは「A.I.R」の開発にあたり、AI が提案したアイデアに対して、選手が意見を返し、その意見を踏まえてまたAIが提案を改善する――というやり取りを繰り返しながら、選手それぞれの好みやプレースタイルをデザインに反映していく「共同創造のプロセス」を踏んだと説明しました。

バスケットボール選手のビクター・ウェンバンヤマ氏、陸上競技選手のシャカリ・リチャードソン氏、サッカー選手のキリアン・ムバッペ氏を含む著名アスリートたちが、NIKEデザイナーの専門知識を元に、AIが想定したコンセプトを解釈し、最適なフットウェアを形づくるための意見を提供し、「A.I.R」の開発に協力しました。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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