楽天、会話型の「AIコンシェルジュ」で注文額17%増。買い物体験をどう変えた?

楽天グループはエージェント型AIツール「Rakuten AI」を「楽天市場」に実装し、成果につなげている。ユーザーの買い物体験向上、店舗の売上UPにつながる施策を取材した

小林 香織[執筆]

8:00

楽天グループ(楽天)が展開するエージェント型AIツール「Rakuten AI」の成果が表れ始めている。会話を通じて買い物をアシストする「AIコンシェルジュ」の利用により、「楽天市場」では購入決定までの時間が約41%短縮、平均注文金額が約17%増加した事例が出ている。楽天が描く「AI活用の構想」と「『Rakuten AI』の成果」を執行役員の髙間真里氏(コマース&マーケティングカンパニー マーケットプレイス事業 市場編成部 ジェネラルマネージャー)に聞いた。

70以上のサービスデータを統合し、1億会員のニーズを満たす

1997年に創業し、現在は70以上のサービスを展開する楽天。会員数は1億以上、日本における月間アクティブユーザー数は4588万人となる(2026年5月時点)。2つ以上のサービスを利用するクロスユース率は77.3%にのぼる(2025年12月時点)。

楽天の会員は1億以上で、そのうち77.3%が2つ以上のサービスを活用している(出典:楽天のプレゼン資料)
楽天の会員は1億以上で、そのうち77.3%が2つ以上のサービスを活用している(出典:楽天のプレゼン資料)

約30年かけて巨大な「楽天エコシステム」を築いた楽天は、各ユーザーの膨大な行動データを蓄積してきた。その強みに最先端のAIを融合させることで、楽天にしかできないパーソナライズされたサービスを提供する。それが「Rakuten AI」の原点だ。

楽天グループが強みとするのは、ユーザーの「意思決定データ」を豊富に持ち合わせていること。既存のAIツール開発企業と肩を並べるのではなく、買い物や旅行、資産など当社が保持する独自データを生かすことで、1人ひとりのユーザーのニーズを細部までくみ取ったサポートをしたいと考えています。(髙間氏)

楽天では、楽天IDの活用により70以上のサービスを通じて取得したデータがすべてひも付いている。つまり、1人ひとりのユーザーをより多方面から知ることができる。だからこそ、曖昧な質問でも意図をくみ取りやすいのだという。

「楽天市場」に搭載されている2つの「AI」

楽天は2025年7月に「Rakuten AI」の本格提供を開始。まずは、楽天モバイル契約者専用コミュニケーションアプリ「Rakuten Link」に搭載し、同年12月には「楽天市場」にも導入した。本記事では、「楽天市場」内に導入しているユーザー向けの2つの「AI」を紹介する。

1つ目は、会話形式で買い物をアシストする「AIコンシェルジュ」。「楽天市場」のWebサイト、およびアプリのトップページに設置している。膨大な商品のなかから、質問者の意図をくんで商品の検索や提案をするのが特長だ。

「楽天市場」のWebサイトやアプリに設置された「AIコンシェルジュ」を開くと、会話型の「Rakuten AI」に移行する(画像提供:楽天)
「楽天市場」のWebサイトやアプリに設置された「AIコンシェルジュ」を開くと、会話型の「Rakuten AI」に移行する(画像提供:楽天)

2つ目は、「楽天市場」の商品に関連したコンテンツがランダムで配信される「ディスカバリーレコメンデーション(発見)」。「楽天市場」のアプリに搭載し、「探す」のタブから閲覧可能。利用者の属性や志向によってコンテンツが配信され、SNSを見るような感覚で買い物体験ができる。

ディスカバリーレコメンデーションは、SNS感覚で使える(出典:楽天のプレゼン資料)
ディスカバリーレコメンデーションは、SNS感覚で使える(出典:楽天のプレゼン資料)

まるで店員のような「AIコンシェルジュ」

髙間氏によると、「AIコンシェルジュは曖昧な質問でも、ほしい商品にたどり着くよう設計されている」とのこと。試しに、「夜の寝苦しさを解消するアイテムを1万円以内で教えてほしい」と聞いてみると、「冷感敷きパッド」「サーキュレーター」「除湿シート」の3カテゴリーが提案された。より細かいリクエストを送ると、商品を絞り込んで紹介してくれた。

AIコンシェルジュの利用イメージ(画像は「楽天市場」のサイトからキャプチャ)
AIコンシェルジュの利用イメージ(画像は「楽天市場」のサイトからキャプチャ)

次に、「おいしいお菓子を知りたい」とあえて曖昧な質問を投げてみた。すると、カテゴリーや商品を提示する前に、「どのタイプのお菓子がお好みですか?」とチョコレートなど5カテゴリーが提示された。

曖昧すぎる質問をすると、AIから質問が返された(画像は「楽天市場」のサイトからキャプチャ)
曖昧すぎる質問をすると、AIから質問が返された(画像は「楽天市場」のサイトからキャプチャ)

従来の検索と大きく異なるのは、「色」「カタチ」「品番」などの明確な条件がなくとも、ざっくりとした質問から意図をくみ取ることです。たとえば、オフィスで使える夏向けのバッグがほしい場合、従来の検索では「素材・サイズ」などの条件を伝える必要がありました。一方、AIコンシェルジュは、「オフィス用途ならパソコンが入るA4サイズで、ナイロンではなくレザーのようにカッチリして見える素材がベストである」と判断し、厳選して提案します。(髙間氏)

これが実現するのは、オフィス用途で求められるカバンの要素をAIが事前学習しているためだ。このAIの知識と商品情報をかけ合わせて、ユーザーが求めるベストな商品を導き出している。一連の流れは、オフラインの店舗で店員と顧客が交わすやり取りに近い。「これが、まさに楽天がやりたいことです」と髙間氏。

会話のなかで細かなニーズを見いだし、絞り込んで提案する。これが、AIコンシェルジュを通じて実現したいことです。従来、「A4のバッグ」と検索すると膨大な検索結果が出てきますが、効率的ではありません。人間の店員はそんな対応はしませんよね。お客さまのニーズを最優先にしながら、より評価が高い商品、人気のある商品を見繕ってご紹介します。(髙間氏)

現在は、さらなるパーソナライズを目的に、各出店店舗の専門性・接客ノウハウやユーザーの行動・閲覧履歴をAIに学習させるアップデートを進行中だという。楽天が理想とする「私専用のコンシェルジュ」に着々と近づいているところだ。

購入決定までの時間が41%短縮され、注文金額が17%増加

最新の調査によると、このAIコンシェルジュの提案により、購入決定までの時間が約41%短縮され、平均注文金額が約17%増加したという。

※2026年5月1~25日における、通常サーチ経由と楽天市場AIコンシェルジュ経由の比較

AIコンシェルジュは、すでに成果が出始めている(出典:楽天のプレゼン資料)
AIコンシェルジュは、すでに成果が出始めている(出典:楽天のプレゼン資料)

成果につながったのは、「会話を通じて商品を選ぶプロセスが短縮された」「納得感のある提案ができた」ためだと考えます。従来の検索ですと、常に自問自答しながら商品を絞り込むのに対し、AIコンシェルジュは壁打ちをする相手となります。これも、納得感につながりやすいのかもしれません。(髙間氏)

利用目的で見ると、ギフトのように買いたいモノのイメージが明確でない場合に多く使われているそうだ。逆に、ドンピシャで商品名や型番がわかっている場合は、従来型の検索のほうが利便性が高いという。ただし、「法律などの課題がクリアになり、AIが決済まで代行するようになれば、会話型のAIがより多く使われるかもしれません」と髙間氏は付け加えた。

また、6月4~11日まで開催されていた「楽天スーパーSALE」では、AIコンシェルジュがセール対象商品にまつわる情報も提供した。あらかじめ、プロンプト例に「スーパーSALEで買える夏向けのトップスは?」「スーパーSALEで人気の1000円以上のグルメ商品は?」といった関連質問を記載しておいたところ、その例を利用する人が多くいたという。

「楽天スーパーSALE」は、複数店舗で買い回りをするとポイントが最大10倍になります。1店舗あたり1000円以上、かつ10店舗でポイントが最大化するため、「あと1店舗」を探すとなったとき、事例のようなプロンプトが役立つと予想したところ、想定通りに利用率が上がりました。(髙間氏)

出店店舗の“個性”をSNSのように発信。ポイントは「動画」

ユーザーが「今ほしいもの」を具体的に提案するAIコンシェルジュに対し、ディスカバリーレコメンデーションが狙うのは、「新しい発見」だ。

「楽天市場」における理想は、あらゆる商店が寄り集まる「楽市楽座」です。「アメ横」のように眺めるだけで新しい出会いや発見があるような。そうしたとき、AIコンシェルジュだけでは難しい。今ほしいドンピシャを当てにいくだけではなく、「まだ知らない何か」と出会ってほしいそれが買い物体験の楽しさや「楽天市場」の活性化につながると考えています。(髙間氏)

 「楽天市場」の主役は、商品ではなく「ショップ」だと髙間氏は強調した
 「楽天市場」の主役は、商品ではなく「ショップ」だと髙間氏は強調した

このディスカバリーレコメンデーションで配信されているのは、5万以上にのぼる「楽天市場」の各出店店舗が作成したコンテンツとなる。各コンテンツをクリックすると、各店の商品ページに飛ぶ仕様だ。現状、約半数の店舗から20万以上のコンテンツが配信されている(2026年6月時点)という。

「楽天市場」には、主役は商品ではなく「出店店舗」だという方針があります。あえて同一商品でも別ページで表示しているのは、このためです。実際、まったく同じ商品でも購買転換させるアプローチは店ごとに異なります。このショップの個性を、ディスカバリーレコメンデーションでも反映させたいと考えました。(髙間氏)

実際にディスカバリーレコメンデーションを見てみると、圧倒的に動画が印象的だった(画像は「楽天市場」アプリからキャプチャ)
実際にディスカバリーレコメンデーションを見てみると、圧倒的に動画が印象的だった(画像は「楽天市場」アプリからキャプチャ)

現状の利用状況をたずねると、利用率は非公開としつつ、「静止画よりも『動画』を活用したコンテンツのクリック率が高い」と髙間氏は回答した。そのため、出店店舗には積極的に動画コンテンツを用意してほしいと伝えているそうだ。

「楽天市場」出店店舗に求められる「2つの要素」

「楽天市場」出店店舗が、「AIコンシェルジュ」と「ディスカバリーレコメンデーション」を有効活用して自社の成長につなげるとしたら、何が求められるのか。髙間氏は、2点をあげた。

1つ目は、AIコンシェルジュに選ばれやすくするために、商品情報を豊富に掲載することです。色、素材、サイズ、型番などの条件だけでなく、「ターゲット」「利用シーン」「顧客の声」「わかりやすいメリット」なども含めると良いですね。

2つ目は、ディスカバリーレコメンデーションでのクリック率を向上させるために、目に留まりやすい動画コンテンツを多く用意することです。瞬時に魅力を伝えるビジュアルを意識するほか、商品紹介にとどまらない「読み物コンテンツ」も好評です。(髙間氏)

たとえば、実際に使ってみた体験談や顧客の声、商品の背景にあるストーリーなどが盛り込まれた熱量の高いコンテンツは、特に好評だという。動画コンテンツは一定の手間がかかるのがデメリットではあるが、SEO施策としても効果を発揮するそうだ。

ディスカバリーレコメンデーションも、引き続きパーソナライズを強化していく(出典:楽天のプレゼン資料)
ディスカバリーレコメンデーションも、引き続きパーソナライズを強化していく(出典:楽天のプレゼン資料)

楽天では、ユーザー向けにとどまらず、出店店舗のEC運営を効率化するAIツール「Rakuten AI for RMS」の開発にも注力している。現状、「R-Storefront(商品管理)」「R-Messe(問い合わせ管理)」「R-Karte(データ分析)」「レビューチェックツール」「店舗運営サポートチャット」の5つのツールを提供する。

出店店舗向けのAIも強化している(出典:楽天のプレゼン資料)
出店店舗向けのAIも強化している(出典:楽天のプレゼン資料)

当社では、店舗のみなさんの意見を取り入れながら、一緒に事業を盛り上げたいと考えています。たとえば、全国各地に役員が出向き、地場の出店店舗の方とディスカベーションする「楽天タウンミーティング」や出店店舗向けのコミュニティ運営などを通じてリクエストをいただき、改善につなげています。今後も、どんどんアップデートしていきます。(髙間氏)

「自分専用のコンシェルジュ」がいる新たな買い物体験は、どこまでユーザーに受け入れられるのか。引き続き、楽天の動向に注目が集まりそうだ。

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