「AI対応って、結局何をやれば良いのか」。EC事業者がAI時代に取り組むべき6つのポイント

AI関連の情報が日々溢れるなか、EC事業者は何をするべきなのか? 2026年1月から4月の3つの転換点を踏まえて、ポイントを解説します

森野 誠之[執筆]

8:00

UCP(Universal Commerce Protocol:ユニバーサル コマース プロトコル)は主要プレイヤーが参加する共通基盤に動き、ChatGPTショッピングはアプリ決済から撤退しメディアへとシフト、日本の国産ECプラットフォームはAI対応で差が出始めた2026年1月から4月までに起きたEC×AIの3つの転換点。こうした状況のなか、EC事業者が「具体的に何をすれば良いのか」を解説していきます。(3つの転換点についてはこちら

やるべきことは今までと変わらない

4か月間の動きを追いかけていくと、「で、具体的には何をすれば良いの?」という気持ちになるのが普通だと思います。私自身、毎日Webマーケニュースを追いかけていて同じ問いに行き着きました。

そして、この問いに最も整理した形で答えていたのが、Yuwaiの田中さんが4月24日に公開した「『エージェンティックコマース対応』の前に、ネットショップのオーナーに知っておいてほしいこと」というブログ記事と、「毎日堂マーケティングラジオ」の対談でした。田中さんの結論は明快です。

やるべきことは、実はこれまでと変わっていません。(田中さんのブログより)

田中さんの整理を軸に、前編で見た4か月の動きを踏まえて、EC事業者と支援事業者がやるべきことを順番に書いていきます。

1. パイプの議論に振り回されない

UCP、ACP(Agentic Commerce Protocol:エージェンティック コマース プロトコル)、MCP、エージェンティックコマースに関する記事の多くは、田中さんの言葉を借りるなら「パイプ」の話です。

エージェンティックコマースに関する記事や発表を読んでいると、語られているのは主に「流通の仕組み」の話です。

(中略)

こうした話題は、いずれも商品が流れる「パイプ」をどう整備するか、という議論です。(田中さんのブログより)

パイプをどう整備するかは、ECプラットフォーマー側の課題であり、EC事業者が今日着手すべき仕事ではありません。UCPは4月時点でAmazonやMetaといった主要プレイヤーが共通基盤に集まる段階に移行しましたが、これは「事業者がUCPに対応する」という話とは別です。事業者が手を動かすのは、パイプではなく「パイプに何を流すか」です。

田中さんは靴下を例にあげ、AIに商品を理解してもらうことの難しさを説明しています。毎日堂の対談を要約すると次のようなイメージです。

人間は靴下の写真を見れば、「なんとなくモコモコしているからウールっぽくて暖かそうだ」と判断できます。ところがAIは写真だけ渡しても、素材も保温性もわかりません。色、素材、形状、重さといったスペックをきちんとデータとして持たせないと、AIにとってはすりガラス越しに商品を見ているような状態になってしまいます

しかも、AIにおすすめ商品として選ばれる候補は、せいぜい数個から十個ほど。何百億とある商品のなかから選ばれるためには、スペックだけでなく、レビューや使い心地のような「使った人の声」もAIが読み取る対象になります。

ここまで来ると、もう答えは見えています。AIに正しく理解される商品データを持っているかどうかが、AI時代のEC事業者の出発点です。

2. やることは「Google Merchant Center(GMC)」に収束する

田中さんの記事で最も腑に落ちたのが、ここでした。

エージェンティックコマースは、Google Merchant Center を丁寧にやることとほぼイコールと言えます。(田中さんのブログより)

なぜGMCなのか。理由は2つあります。

1つ目は、オープンなインターネット上でAIエージェントに商品を見つけてもらう時、現状Googleがほぼ独走しているからです。Google検索、Googleマップ、Gemini、AI Modeまで、Googleの全サービスの商品データの起点はGMCです。GMCに正しいデータを入れることが、これらすべてに対する入り口の整備になります

2つ目は、GMCで求められる商品データの整理(商品名、カテゴリ、画像、属性など)は、Amazonの商品カタログやMetaのコマースマネージャーにも、ほとんどの場合、流用できるからです。プラットフォームごとに細かな仕様の違いはありますが、「商品情報を構造化して、AIに読める形で提供する」という作業そのものはどこでも変わりません。「GMCに投資した労力は、他のプラットフォームでも回収できる」ということです。

田中さんはこの構造を、SEOとGEO・LLMOの関係になぞらえています。GEOやLLMOは、SEOにおいてまったく新しい領域ではなく、既存のSEOの延長線上にあります。同じように、エージェンティックコマースもGMCの延長線上にあります

AI エージェントに選ばれる商品情報の作り方は、Googleに正しく理解される商品情報の作り方と地続きで、別物ではありません。(田中さんのブログより)

これは、これまでGMCに丁寧に取り組んできた事業者にとっては朗報です。「エージェンティックコマース対応」という新しい仕事を立ち上げる必要はなく、これまでの仕事の延長で対応できるからです。一方、GMCを後回しにしてきた事業者にとっては、後回しのツケが一気に表面化する時期でもあります。

画像はYuwai「「エージェンティックコマース対応」の前に、ネットショップのオーナーに知っておいてほしいこと」からキャプチャ
(画像はYuwai「「エージェンティックコマース対応」の前に、ネットショップのオーナーに知っておいてほしいこと」からキャプチャ)

3. 三者の視点がそろって初めて機能する

GMCに取り組むと決めた時、次に問題になるのは「誰が何を行うのか」です。田中さんはこれを、制作ディレクター・エンジニア・広告運用者の三者の視点で整理しています。

制作ディレクターが考えること

商品情報の全体設計です。商品名の付け方、カテゴリ分類、画像の方針、説明文の粒度。これらはサイトを見る人間向けの設計と、AIに高い解像度で理解してもらうための設計を同時に考える必要があります。特に画像やURL構造のように、後から直そうとするとコストが膨らむ要素は、最初の設計段階で仕込んでおく必要があります。「きれいなサイトを作る」だけでなく「売れるデータ構造を設計する」ところに役割の重心が変わっています。

エンジニアが考えること

ディレクターが設計した商品情報を、どうGMCに届けるかです。データベースをフィード出力前提で設計する、バリエーションのURL構造を組む、ECプラットフォーム・サイト・GMCの間で価格や在庫がずれないようにする。地味な仕事ですが、ここが途切れると商品情報がそもそもGoogleに届きません。「ECプラットフォームの標準機能だけでは届かない属性をどのように補うか」という設計判断もここに含まれます

広告運用者が考えること

GMCに登録した商品データが実際にどのように表示されているか、どこで機会を失っているかを見続けるのが広告運用者の役割です。表示されにくい商品、不承認になっている商品、検索語句と合っていない商品。広告運用の現場で見える不具合をディレクターやエンジニアにフィードバックして、構造を修正していく。この循環がないと、GMCは「登録して終わり」のまま止まります。

ここで補足したいのは、中小事業者ほど「広告運用者の視点」が抜けがちだということ。GMCは登録すれば自動的にうまく動くわけではなく、不承認商品の修正、フィードのエラー対応、検索語句のずれの確認といった日々のフィードバック循環があって初めて機能します。社内に広告運用の知見がない場合、ここを外部の支援事業者と組むかどうかは、AI時代のEC事業の生命線になります。「制作会社に商品データの設計をお願いして終わり」では、「半分しか機能していない」ということです。

小さな事業者であれば、1人が複数の役割を兼ねることもあります。その場合も、3つの視点をそれぞれ意識して動くことが、結果の差につながります。

4. ECプラットフォーム選びは「目的」から逆算する

ここからは、「毎日堂マーケティングラジオ」の対談で田中さんが現場視点で話していた、もう少し具体的なテクニックの話です。

「これからECサイトをリニューアルする人にどうアドバイスするか」と聞いたところ、田中さんの答えは「リニューアルの目的次第」でした。

  • 日本流のおもてなしを作り込みたいなら、国産ECプラットフォームが向いています
  • AI対応を視野に入れるなら、「Shopify」が現時点で最も進んでいます
  • 海外を見るか・見ないかも、ECプラットフォーム選びの分岐点になります

「ツール起点でECプラットフォームを選んだ後、目的に合わなくて困る」という典型パターンに入らないために、「このショップで何を実現したいのか」を先に決めておく必要があります。

田中さんが教えてくれた現実的な工夫が、Shopifyの「エージェンティックプラン」の使い方でした。Shopifyは、フロントエンドのショップを使わずに、AIに商品情報を提供するためだけのプランを提供しており、自社のメインのECサイトをそのまま動かしつつ、ShopifyにはAI連携用のカタログだけを置いておくという使い方ができます。「保険的にShopifyを1つ持っておく」という選択肢が、現実に取れるようになっています。

そして、もうひとつ巧いやり方が、いわゆるLEFT JOINのアプローチです。

ECプラットフォームの商品情報に対して「Merchant Center」側で別途用意した補足情報を結合する。(「毎日堂マーケティングラジオ」対談より)

ECプラットフォームのデータをメインに置きつつ、AIに読ませたい属性のうち、ECプラットフォームでは持てない部分だけを別の場所(GMCのフィード加工側)で持ってひも付ける、という方法です。「今のECプラットフォームでは細かい属性が持てない」と諦める前に、補足情報を別管理で結合する手があります。販売者だけで完結する話ではなく、制作会社や広告運用者の知恵が必要になる仕事です。

5. 構造を整えても、売れない商品は売れない

ここまで、商品データを整える話・三者の視点で動く話・ECプラットフォームを目的から選ぶ話と、すべて「構造」の話をしてきました。ところが、田中さんの記事で最後にひっくり返されるこの一文があります。

構造を整えても、売れない商品は売れません。残念ながら。(田中さんのブログより)

AIエージェントが商品を選ぶようになれば、構造化されたデータを持つ事業者が有利になるのは事実です。しかし、構造化データの質は、取り組む事業者が増えれば増えるほど業界平均に収束していきます。皆がパイプをきれいにすれば、パイプのきれいさでは差がつかなくなります。

そのとき残るのは、パイプを流れる「水」そのもの。つまり、扱っている商品そのもの、その商品の背景にある事業のあり方、顧客との関係性です。

AI エージェント時代は、構造化データを整えることで参加資格を得るフェーズであり、その先で最終的に選ばれるのは、商売の中身が強い事業者です。

構造設計は必要条件であって、十分条件ではない、ということです。(田中さんのブログより)

これが、田中さんの記事の一番の肝だと、私は思います。

私も同感で、AIに振り回されている時間を商品力やブランド力に投資し直す方が、後で効いてきます。UCPの記事を1本読む時間で、自社商品のレビューを1件読み返したほうが、AI時代の競争力に直結することがあります。GMCの整備は当然やる、でもそこに使う時間と、商品そのものの中身を磨く時間はきちんと確保する。はやる言葉に振り回された人と、はやる言葉が落ち着いた後も伸び続けた人の差は、結局ここにあります。

画像はYuwai「「エージェンティックコマース対応」の前に、ネットショップのオーナーに知っておいてほしいこと」からキャプチャ
(画像はYuwai「「エージェンティックコマース対応」の前に、ネットショップのオーナーに知っておいてほしいこと」からキャプチャ)

6. 「ついていかない選択」も含めた3つの選択肢

「ついていかない選択肢」も含めて整理していました。GMCに取り組んでこなかった事業者に対して、田中さんは3つの選択肢を提示しています。

1つ目:きちんと取り組むこと

ECプラットフォームを整え、商品データをそろえ、GMCに向き合う。これまで後回しにしてきた分、最初は手間がかかりますが、エージェンティックコマース時代の土俵には乗ることができます。

2つ目:無理に対応しないと判断すること

ネットショップでの勝機がそもそも見えないのであれば、GMCに投資しないという判断もあり得ます。実店舗や別のチャネルが主戦場で、ネットはあくまで補助、という事業の形は今もあります。

3つ目:今は動かないが、頭の片隅に置いておくこと

今すぐ対応するリソースがなくても、これから少しずつ相対的に出遅れていくことは、認識しておいた方が良いです。いずれ取り組む可能性があるのなら、後から取り戻すコストが大きくなる前に、どこかで判断する必要が出てきます。

大事なのは、どの選択肢を選ぶにしても、状況を把握したうえで選ぶことです。(田中さんのブログより)

これに尽きると思います。「とりあえずChatGPT広告を出してみる」「とりあえずShopifyに移行する」と動く前に、自社のネットショップの商品がGoogleでどのように表示されているか、そもそも表示されているのかを確認する。判断はそこからです。

参考記事

まとめ:4か月の景色の変化が示していること

  • UCPが共通基盤に動いた → だから「どの規格に対応すべきか」と悩む段階はひとまず通り過ぎ、商品データ整備に集中できる
  • ChatGPTショッピングは決済としては未成熟とわかった → だから「ChatGPTで売れる」という派手な期待を抑えつつ、メディアとしての流入は冷静に計測・運用する
  • 国産ECプラットフォームのAI対応に差がつき始めた → だから「使いたい時にAIエージェントで対応してくれているか」がECプラットフォーム選びの軸になる

派手なニュースの裏で起きていたのは、結局「派手な動きから距離を取り、商品データという地味な基本に戻れ」という同じメッセージの繰り返しでした。

最後に、対談で田中さんが残した印象的な言葉を紹介させてください。生成AIを使って働くことを、田中さんは「パワードスーツを着ているような感じ」と表現していました。

常に「界王拳5倍」を使って動いているような状態で、確かにできることは増えるんだけれど、めちゃくちゃ疲れる。まったく楽にならない。(「毎日堂マーケティングラジオ」対談より)

AIで省力化されて余裕が生まれるどころか、できることが増えた分、仕事も増殖する。これが現場の実感です。

そして、そのパワードスーツを着てまでやるべき仕事の中身は、結局、商品データを整える、商品力を磨く、顧客との関係を作るという、AI以前から変わらないものでした。パワードスーツを着る目的を見失わないようにしたいですね。

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