大手ECモールの業績&取り組み&戦略まとめ

「世界で最もAIを使うプラットフォームへ」。三木谷社長が語る楽天の「最強AIエコシステム」と「AI店長」がもたらすECの未来

楽天グループが開催した「Rakuten AI Optimism」のキーノートに三木谷浩史代表取締役会長兼社長が登壇。楽天独自の強みを生かしたAI戦略、楽天モバイルの役割、「楽天市場」における新機能の構想などを語った。

ネットショップ担当者フォーラム編集部[執筆]

8:00

楽天グループが8月5日に実施した「Rakuten AI Optimism」のオープニングキーノートに登壇した楽天グループの三木谷浩史代表取締役会長兼社長。世界的な経済状況の大きな変化や日本におけるインフレ、世界的なAI革命の進化スピード、激変期における楽天モバイルの役割、そして「楽天市場」が店舗と共にめざす「人間味のあるAI」の未来像について語った。

止まらない円安とインフレ。マクロ経済の激変に立ち向かう楽天モバイルのミッション

物価高とインフレの波が押し寄せる日本経済、今後の厳しい見通し

三木谷氏はまず、AIの話題に入る前に日本を取り巻く深刻なマクロ経済環境について言及。現在、多くの事業者や消費者が原材料、人件費、仕入れ値といったコスト高に直面し、日本の物価が過去6年間で13.6%上昇していることを踏まえ、三木谷氏は「物価高はここで止まらない。今後は減速するのではなくて、加速していくと考えざるを得ない」と予測する。

物価高は止まらないと三木谷氏

かつて1ドル80円だった為替が160円となり、「日本の価値が半分に下がったとも言える」と指摘し、円安基調も簡単には止まらないと予測。AIの進展に伴うメモリーの爆発的な不足やエネルギー需要の増大、国際紛争の影響も、今後のさらなる物価上昇圧力になると警鐘を鳴らした。

家計を守る「通信費引き下げ」への挑戦と楽天モバイルの役割

このインフレに対抗するため、楽天グループが取り組んでいるのが「家計における通信費の引き下げ(爆下げ)」。三木谷氏は「最強一択」として、どれだけデータを使っても月額2980円(通話はアプリ利用で無料)という破壊的な料金設定を維持し、消費者の可処分所得を守るミッションを推進していると強調する。

このコスト優位性を実現しているのが、ハードウェアの処理をソフトウェアで仮想的に行う「ネットワークの仮想化技術」。さらに、膨大なネットワーク管理の大部分をAI(RAN Intelligent Controller、ランインテリジェントコントローラー)によって自律的に稼働させており、通信の分野でも世界最先端のAI活用を実践している。

完全仮想化ネットワークで圧倒的なコスト優位性を実現
AIを活用したRANの自動化・最適化

楽天モバイルはこの独自技術を強みに、まもなく1100万回線の達成を視野に入れている。

モバイル契約者が「楽天市場」にもたらすシナジー効果

楽天モバイルの拡大は、「楽天市場」をはじめとする「楽天エコシステム(経済圏)」全体の成長に直結している。楽天モバイルを契約したユーザーは、非契約時と比較して次のような相乗効果があるという。

  • 「楽天市場」でのショッピング利用額が51.3%増加
  • 楽天トラベルでの利用額が21.6%増加
  • 楽天カードのショッピング枠利用額が33.3%増加

また、「楽天市場」における流通シェアの約23%を楽天モバイルユーザーが占めるまでに拡大しているという。

楽天モバイルによるエコシステムへの波及効果

さらに、2025年12月にはコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」から「楽天市場」へ毎月5000万トラフィック以上の送客を達成した。

楽天市場流通総額の23%が楽天モバイルユーザー

もはやモバイル抜きに楽天のエコシステムは語れない。インフラとしての信頼性強化(ASTスペースモバイルによる携帯電話と直接つながる宇宙からのブロードバンド接続など)をこれからも進めていく。(三木谷氏)

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

サンバレーで語られた「AI革命」の本質。ムーアの法則を超える進化スピード

世界のトップリーダーが「AI」に集中、あらゆる前提を再定義

三木谷氏は、毎年7月に米国アイダホ州で実施され、世界のIT・エンターテインメント・スポーツ業界のトップリーダーが集う「サンバレーカンファレンス」に10年以上連続で参加。そこでAppleのティム・クック氏、Microsoftのサティア・ナデラ氏、OpenAIのサム・アルトマン氏、Anthropicのダリオ・アモデイ氏らと交わした対話の「95%はAIの話題だった」と振り返る。

「AI革命」は、単なる業務の効率化にとどまらず、これまでのあらゆる前提や仕組みがガラガラポンになるほどの「根本的な革命」であると確信した。(三木谷氏)

「7か月で性能倍増」という異常な進化速度と光と影

半導体の進化を示す有名な「ムーアの法則」では、約1.5年(18か月)で性能が2倍になるとされてきた。しかし現在、「AIエージェントの性能向上スピードは『ムーアの法則』を遙かに上回るスピードで進化している」(三木谷氏)とし、7か月ごとに倍速化しており、1年間で約4倍、2年間で16倍のことができるようになると指摘。かつて「AIにはさすがに無理だろう」と思われていた領域が、またたく間に現実のものとなりつつあるという。

AI進化のスピードは「ムーアの法則」の倍以上

人間とAIエージェントの業務遂行能力の比較においても、2025年時点でAIは人間に肉薄、あるいはすでに追い抜いている可能性が高い。三木谷氏は「人間の業務遂行率72.35%に対し、AIエージェントはこれを超えるレベルに到達している」と指摘する。

AIと人間との差は急速に縮小している

一方で、フィッシング詐欺(三木谷氏の写真を悪用した偽投資広告など)や、将来的な暗号解読リスク、AIによるセキュリティホールの発見といった「光と影」の双方に、ディフェンスを固めて立ち向かう必要があると強調した。

データは「ダイヤモンドの原石」。サードパーティに依存しない「独自開発AI」戦略

楽天が持つ「3兆超のデータ」という圧倒的優位性

AIはアルゴリズム(方程式)であり、それを動かす原資は「データ」である。三木谷氏は、楽天グループが蓄積してきたデータを「ダイヤモンドの原石」と表現した。毎月約5000万人のユニークユーザーがショッピングなどの経済活動を行い、蓄積されたデータの総数は実に3兆件を超える

この膨大なマルチサービスデータ(EC、旅行、カード、銀行、モバイルなど)が1つのIDプラットフォーム上で相互につながっている点こそが、単一の検索エンジンや個別ECを持つ競合他社に対する、楽天の決定的な優位性である。

圧倒的な量の実データが楽天の強み

サードパーティ依存がもたらすコスト増とセキュリティのリスク

多くの企業がOpenAIやGoogleなどの外部AIに頼るなか、楽天は独自のAIモデル(LLM)の自社開発にこだわり続けている。すべてのシステムを外部(サードパーティ)のAIに全面依存することは、将来的な「コスト(利用料)の爆発的な高騰」を招き、最終的に出店店舗や消費者への金銭的負担として跳ね返る懸念があるためだ。また、大切な顧客のデータを保護するセキュリティの観点からも、自社開発による主導権確保が不可欠だとした。

独自開発の日本語言語モデル

楽天が現在開発・運用している独自モデルは4つあり、15億パラメータでスマホ上でも動く「2.0mini」から、7000億パラメータという大規模な最高級モデル「3.0」まで用意。デスクトップや携帯端末上で軽量に動くモデルから大規模な処理を行うモデルまで、適材適所で組み合わせることでコストを大幅に抑えつつ、日本語の評価スコアにおいても世界水準のAI企業に対抗できる性能を実現している。

一報で、中国のオープンソースAI(DeepSeek、AlibabaのQwen、MoonshotのKimiなど)の急進によって、1社あたり1~2兆円の開発費をかけた優れたモデルが進化しているという。

OpenAI、ANTHROPIC、Googleの「Gemini」などを使いながら、独自のAIを組み合わせていく。コストを下げるだけでなく、サービスの品質を向上させていく。(三木谷氏)

なお、2025年における楽天グループ全体のAI活用による利益創出効果は、約255億円に達しているという。

AIは生産性改善装置から売上爆増装置へ

エンターテインメントとしてのECへ。会話型「AI店長:イチコ」が切り拓く新時代

Amazonとの決定的な違いは「店舗が主役」であり「人間味」を大切にする思想

三木谷氏は、「楽天市場」と最大の競合である「Amazon.co.jp」の決定的な違いとして「店舗のエンパワーメント」をあげた。「『楽天市場』は自動販売機ではない」という創業からの信念に基づき、テクノロジーの進化がどれほど進んでも、最終的には「人」や「人間味」が商売の価値になると語る。

24時間365日、店長をアバター化して接客する「AI店長 イチコ」

しかし、店舗が24時間365日、何万件もの顧客対応をすべて生身の人間で行うのには処理能力の限界がある。そこで楽天が現在開発を進めているのが、店舗のキャラクターや店長のペルソナを読み込み、店長をアバター化して接客を代替・補完する会話型「AI店長(仮称:イチコ)」だ。

AI店長

キーノート内では、コスメ店舗での「イチコ」の接客デモを実演。デモでは、顧客の曖昧な要望や追加の質問に対し、商品のレビューデータなどを瞬時に要約しながら、自然かつ人間味のある対話でスムーズに購入へとつなげる一連の流れが披露された。今後は、「楽天市場」の多種多様な店舗が、それぞれの特長を生かした「独自のAI店長」を持つことができる世界をめざす

AI店長のデモンストレーションのようす

進化する「スーパー・エージェント」への歩み

楽天が描くAI戦略は、単体のサービス効率化に留まらない。無料通話アプリ「Rakuten Link」での会話内容のAI要約や、将来的には「リアルタイム通訳」といった通信サービスへのAI実装を進めていく。

RakutenLinkにAI通話要約機能を実装

そして、ショッピング、トラベル、モバイルなど70以上のサービスを横断し、たとえば北海道にスキーに行くユーザーに対して「楽天市場」の防寒具を提案する、ふるさと納税の返礼品を提案するといった、各領域をつなぐ「スーパー・エージェント」へと楽天AIを進化させていくとした。

インターネットショッピングは自動販売機ではない。店舗と共に歩む楽天の覚悟

三木谷氏は「AIがサービスの本質を進化させていくが、重要なことは『人気(ひとけ)」をどのように大切にしていくか」だと強調。「人間はなぜ未だにロレックスなどの機械式時計を求めるのか。クォーツやデジタルでも良いはずだが、そこに人間味やストーリーを感じるからだ」と語る。エージェントは単に買い物を遂行するだけのものではなく、「こういった物はどうか」と各店舗の特長を生かしていく。「楽天らしいAIエージェントをさらに進化させていく」とキーノートを締めくくった。

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