コアなファンの期待をどう超えるか。前年比130%成長を支える老舗玩具メーカー「タカラトミーモール」の施策と戦略

「トミカ」「ベイブレード」などで知られるタカラトミーが、広告運用、メルマガ施策、会員制度、不正対策、データ活用を紹介

小林 義法

8:00

「メーカーECは値下げができず、売上拡大に限界がある」――そんな共通の悩みを打破し、前年比130%の成長を遂げているのが「タカラトミーモール」だ。大人層が約7割を占めるという特有の顧客ポートフォリオを生かし、予約解禁時の需要を刈り取るSNS広告の運用から、開封率40%超を誇るMAメルマガ、さらには現場の負荷を激減させた最新の不正対策まで、おもちゃのプロとしてユーザーの心を動かす「タカラトミーモール」の舞台裏を、タカラトミー 事業統括本部メディア戦略室 D2C・CX戦略部の平位俊雄氏と遠藤隆浩氏が語る。 ※肩書きは登壇当時

タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室 D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 課長 平位俊雄氏、タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室 D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 スペシャリスト 遠藤隆浩氏

創業100周年を迎えた玩具メーカーの直販サイト

タカラトミーは1924年創業の玩具メーカーで、2024年に創業100周年を迎えた。主力ブランドはミニカーの「トミカ」、ベーゴマを進化させた「ベイブレード」、さらに「プラレール」や女児向け人形の「リカちゃん」などがあげられる。老若男女さまざまな層に向けた玩具・ホビー商品を提供している。そんなタカラトミーの公式ECサイトが「タカラトミーモール」である。タカラトミーの商品をD2Cで販売している。

タカラトミーモール
タカラトミーモール https://takaratomymall.jp/shop/

「タカラトミーモール」の立ち上げは2013年。売上高は毎年上昇しており、2025年には前年比130%の成長となり、過去最高の売上高を達成した。「タカラトミーモール」の顧客層は大きく2つ。子どもおよびファミリー層が約33%、「自分買い」の大人層が約66%である。ファミリー層にとっては誕生日やクリスマスといったイベントが重要な購買タイミングで、大人層は限定商品の予約解禁が重要なタイミングとなる。

「タカラトミーモールとは?」ブランドを定義し、社内で共有

タカラトミーにおける「タカラトミーモール」の役割は「事業成長」と「データ活用」だ。事業成長については、タカラトミーは卸しも行っており、リアルな売り場の良さも大切にしながら、メーカー公式ECとして原則定価販売のなかでどのような付加価値を提供できるのか、そこを考えている。データ活用はECの企画やCRM、商品の企画改善へのフィードバックもできるので、スピーディにテスト販売したり、新しい企画を試したりする「場」として機能させたいと思っている。(平位氏)

タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室 D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 課長 平位俊雄氏
タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室
D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 課長 平位俊雄氏
(※肩書きは登壇当時)

自分たちの役割を果たすために、まず着手したのは、「タカラトミーモール」が事業活動を行う上でのブランドを定義することだった。半年ほどの期間をかけ、外部のパートナーとも協力し、「タカラトミーモールとは何なのか?」を問い続けた。

具体的には「ミッション」(ブランドの規定や価値観)、「コアバリュー」(誰のためにどのように役立つのかなどの戦略指針)、「ビジョン」(今どこにいて、これから何をめざすのか)といった項目について、「タカラトミーモール」の「ブランド方針」を定義した。

「『タカラトミーモール』とは何か」がチームメンバーに共有されたことによって、仕事で迷った時や次にどのような企画を実施するかという時に、「『タカラトミーモール』はこういうコンセプトだから、それに基づいてこっちの方にしよう」というように、みんなの道しるべ、立ち戻る場所、めざす場所として非常に役立っていると思う。(遠藤氏)

タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室 D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 スペシャリスト 遠藤隆浩氏
タカラトミー 事業統括本部 メディア戦略室
D2C・CX戦略部 D2C・DX推進課 スペシャリスト 遠藤隆浩氏
(※肩書きは登壇当時)

デジタル施策で広がる「遊び」の体験、その先の展望

ここからは、「タカラトミーモール」の個性的な商品や注力している施策を紹介する。

商品企画

コアなファンに向けた高額商品など、限定商品やオリジナル商品をラインアップできる点は、メーカー直販サイトである「タカラトミーモール」の大きな強みだ。商品は商品企画部門や事業部門と連携して開発する。

デジタル連動

1999年に誕生した「ベイブレード」は、カスタマイズできるコマで対戦を楽しむ商品だ。現在発売されている「BEYBLADE X(ベイブレードエックス)」では、デジタルとの連動を進めている。商品のQRコードをブランド側で制作したアプリで読み取ると、アプリ内でも購入した「ベイブレード」で3Dバトルが楽しめる。また、プレイや来店、イベント参加などで「ベイポイント」を付与し、ポイントがたまると「レアベイ交換チケット」が入手できる。チケットに記載されたコードを「タカラトミーモール」で入力すると、限定商品と交換できる仕組みだ。

スマホアプリ「BEYBLADE X(ベイブレードエックス)」
スマホアプリ「BEYBLADE X(ベイブレードエックス)」

サブスクリプション

2025年3月、月額550円の会員制サービス「プレミアムX」を開始した。特典として毎週1回イベントに参加できたり、「タカラトミーモール」で使える550円分のクーポンが毎月もらえたりするほか、限定商品の抽選販売や会員専用コンテンツの閲覧などもある。「プレミアムX」を実現するためにシステム開発も行った。

「タカラトミーモール」でしか購入できないアプリ限定の「ベイブレード」のほかに、「プレミアムX」会員だけが購入できる「ベイブレード」もある。ベイブレードチームと「タカラトミーモール」の相互で良い関係を保ち、会員を増やし、「ベイブレード」全体を盛り上げていきたい。(遠藤氏)

会員制サービス「プレミアムX」の特典
会員制サービス「プレミアムX」の特典

広告運用

広告はGoogleやYahoo!のリスティング広告、リターゲティング広告を中心に運用しており、2年ほど前からはSNS広告も始めた。理由は先述の「ベイブレード」のように、歴史のある商品に幼い頃に触れ、いまは大人になり、おもちゃから離れている人たちに「懐かしのこの商品が復活しましたよ」という情報を知ってもらうためだ。

SNS広告で認知拡大や新規獲得を強化した結果、予約商品の売上推移に変化が表れるようになった。これまでは予約開始直後に伸び、徐々に少なくなっていたが、SNSで「何月何日で締め切り」といった訴求を行うことで、締め切り間際に駆け込み需要を刈り取ることができるようになった。グラフの右側にもうひと山できる形だ。商品によってはかなりの数が予約締め切り間際に売れることもある。

メルマガ

メルマガはMA(マーケティングオートメーション)から自動配信するものと、ECのシステムからスポットで出すものの2種類を実施している。自動配信のシナリオは30以上。全体施策として誕生日向けのメールを配信したり、ブランド別に初回購入後のフォロー施策などを配信したりしている。開封率は平均40%を超えるものもあり、全体的に高い数値だ

MAを行うことで「1通目も2通目も開封されなかったが、3通目は反応が良かった」などもわかるので、振り返りをしながら改善を繰り返している。手動のメルマガは年間100本以上配信している。普段は滅多にないブランドをまたいだクロスセルが発生するなど、面白い発見がある。1通ずつすべて振り返りをして、「じゃあ次はこういうことをやったら良いんじゃないか」ということを話している。(平位氏)

ライブコマース

2024年9月からライブコマースも開始した。月1回のペースで開発者などに出演してもらい、商品の魅力を伝えてもらう。

私自身もブランドの担当者時代は、全国のイベントで子どもたちとじゃんけん大会をしたり、ファンミーティングをしたりした経験がある。その熱量をWebに持ち込むことで、お客さま同士も「自分の好きなものを他の人も好きでいてくれるんだ」という、ファンの方の気持ちの高まりをオンラインでも醸成できないかと思っている。(平位氏)

UGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)の活用

投稿したユーザーの許諾を得て、Instagramの投稿を商品ページに掲載している。ここでも特定の商品や、「トミカ」のミニカーの収納法についての投稿のクリック率が予想以上に高かったというように、通常の業務では得られない発見がある。こちらも毎週振り返りをして、「なぜ良かったのか」をメンバーで共有している。

今後はこうしたUGCをお客さまに向けて発信していくことにも着手したいと考えている。また、同じくUGCとして捉えている商品レビューも導入し、商品ページで活用している。こちらはテキストデータが多いので、どのように分析・活用しようか検討している段階だ。(平位氏)

ロイヤルティプログラム

2024年に「タカラトミーモール」自体のロイヤルティプログラムも開始した。登録時に100ポイントを付与するほか、「ウエルカム会員」から「ゴールド会員」まで4段階の会員ステージごとにポイント付与率を設定した。

「タカラトミーモール」の会員ランクごとのポイント付与率
「タカラトミーモール」の会員ランクごとのポイント付与率

各ブランドのファンに向け、好きなブランドを表現できるアイテムとしてアクリルブロックやキーチェーンなどを制作。「タカラトミーモール」のポイントを使って応募すると、抽選で賞品が当たる企画を実施した。

ロイヤルティプログラムのキャンペーンとして、ロイヤルティの高い方に還元されやすい仕組みも考えている。(遠藤氏)

不正対策

2025年8月に行動検知型の不正検知ツールを導入した。これが遠藤氏の業務を劇的に変化させた。

入社以来、さまざまな不正対応に追われる毎日だった。一番深刻なのはカードの不正利用で、「3Dセキュア」を導入して防いできたが、実際にはカード会社から月に数百件の調査依頼が来るような状態だった。金銭的な問題だけでなく、真正のユーザがさまざまな不利益、不正の判定に巻き込まれて注文できないなどの機会損失にも注目し、行動検知型の不正対策ツールを導入した。

結果的に売り上げに寄与する形になり、運用負荷も減った。2025年8月頃にツールを導入して以降、ほぼカードの不正利用に関する調査依頼は発生しておらず、自分たちの予想をはるかに上回る良い成果が出ている。以降は購入ルール違反の制限等もツールを利用して実施していこうと思っている。(遠藤氏)

データ活用

「タカラトミーモール」ではトレジャーデータの「AutoML」を活用し、クラスタリングやクラスターごとの施策の検討、実行、分析などを行っている。時期によって変化があるが、現在はブランド別に6つほどのクラスターに分け、考察を重ねている。

クラスターごとにメールの内容を出し分け、開封率やコンバージョンを調査している。なかには開封率が63%、コンバージョン率が3%という結果が出たものもある。データを見れば知識がなくてもわかるのが良い点だ。(平位氏)

リアル開催イベント

「ベイブレード」の大会を中心に、フィジカルイベント(リアルイベント)も開催している。「ベイブレード」は世界大会も開催されており、人気が高い。参加者は「タカラトミーモール」への会員登後に抽選となるため、会員数の増加にも一役買っている。

AIで事業成長とデータ活用を加速

今後のテーマは、事業成長とデータ活用の2つ。事業成長はメーカー公式ECだからできることや、付加価値を武器に追求していく。データ活用は企画や施策への反映、商品企画開発へのフィードバック、テスト販売やマーケティングを行う。すべて、デジタル活用して加速させていく。

冒頭にあったブランド定義をした際、「タカラトミーモール」がめざす姿は、「夢中になれるアソビが“見つかる”“買いたくなる”“分かち合える”体験によって、アソビたい! 気持ちが循環していく場所」という1文にまとめられている。具体的に顧客に提供したい体験、今後の変化をメンバー間で共有している。

自分が大事だと思っているのは「期待を超える」という部分。期待を超えてこそ、お客さまに喜んでいただけたり「良いな、楽しいな」と思っていただけたりする。これはECだけなく商品開発も同じこと。(平位氏)

こういった方針が出る前は、やはりメーカーECなので「売り上げを作らないといけないけれど値下げができない。じゃあどうする?」という課題や葛藤があった。しかし、こうして自分たちがやるべきこと定義をすることによって「メーカーECだからこそできる、売り上げ以外の新しい価値を、おもちゃが好きなユーザーさんに与えられるんじゃないか」という、ECチームの新しいやりがいが生まれるようになった。(遠藤氏)

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