知名度ゼロからDtoCで売上増のワケ。自社ECで売上9割を稼ぐ「英国発ブラインド専門店」に聞く
英国発ブラインド専門店「Tuiss(チューイッシュ)」。日本国内での知名度がない状態から自社ECで売り上げを伸ばした施策を取材した
8:00
2020年に日本進出した英国のブラインド専門店「Tuiss(チューイッシュ)」が好調だ。たとえば、左右の断面がハニカム(蜂の巣)の形状をした製品「ハニカムシェード」は、動画広告を中心とした訴求により、大幅な売上増を達成。売り上げの9割は、自社ECサイト経由となる。知名度ゼロ、かつニッチな領域で、どう売上増を達成したのか。TUISS DÉCOR マーケティングマネージャーの虻川稜太氏に聞いた。
2500種類を15か国で展開する「窓装飾」専門ブランド
英国で2000年に創業したブラインド・カーテンの専門ブランド「チューイッシュ」。ブラインドを中心とした圧倒的な品ぞろえを誇り、取り扱い点数は2500以上にのぼる。世界15か国以上で1500万台以上を販売した実績を持つ。
ブラインドというと、羽根が横方向に並んだアルミ製や樹脂製が一般的。しかし、「実はブラインドには多様な種類があります」と虻川氏は説明する。
たとえば、天然木を使用した「ウッドブラインド」、羽根が縦に取り付けられた「バーチカルブラインド」、左右の断面がハニカム(蜂の巣)の形状をした「ハニカムシェード」など。その他の窓装飾には、豊富な色・柄・生地からセレクトできる「ロールスクリーン」や折り畳み式の布製シェード「ローマンシェード」などもあります。国内外のデザイナーズブランドとのコラボ製品も多く、部屋の雰囲気や窓のサイズに合わせて柔軟に選択できます。(虻川氏)
国によって売れ筋は異なり、英国ならウッドブラインド、米国ならハニカムシェード、その他の欧州ではロールスクリーンとなるそうだ。国内で注目度が高まっているハニカムシェードは、独特な蜂の巣構造が生み出す空気層によって、夏は遮熱、冬は断熱を1枚で実現する特長がある。
こうしたさまざまな品種のほか、使い勝手にも注力する。調整できる遮光性や1ミリ単位でのオーダーメイド、穴あけ不要のオプション(突っ張り式・カーテンレール取り付け)に加え、すべてのプロセスが業者不要・オンラインで完結する。
採寸から注文・取り付けまで、すべてがオンラインで完結するため、全体的に低価格で提供できるのもチューイッシュの強みです。日本だけでなく、グローバルでも同様にDtoCのアプローチを採用して、短期間で成長してきました。(虻川氏)
国内は大手3社が独占。知られざるブラインド市場の裏側
欧州などで支持を広げたチューイッシュは、2020年にアジア初の進出エリアとして日本を選んだ。十分な市場規模に加え、自社優位性が生かせる市場であると判断したためだという。
日本法人の代表取締役社長を務める早嵜英二は、米国でブラインド・カーテン事業をゼロから立ち上げ、成長させてきた経歴の持ち主です。日本市場には、数社の大手ブラインドメーカーがありますが、販売店を挟んで消費者へ販売するBtoBtoCのビジネスモデルが主流です。そんななか、DtoCブランドであれば価格優位性を発揮できるのではないかと早嵜は考えたそうです。(虻川氏)
![]()
「BtoBtoCが主流のブラインド業界で、DtoCブランドのチューイッシュは特異なポジションだ」と虻川氏
早嵜氏によると、米国では、当初カーテンが主流だったという。しかし、多様なブラインド製品の登場やプロモーションにより、この20年ほどの間にカーテンからブラインドへ市場が移り変わっていった。現在では、一般家庭の約3分の2がブラインドを選ぶ逆転の状態になっているそうだ。
一方、国内では事情が異なる。2023年度の窓まわりのインテリア市場は約1842億円にのぼり、そのうち約6割をカーテン、約4割をブラインド類(スクリーン・カーテンレールを含む)が占める(出典:「タチカワブラインドグループ 統合報告書 2025」、卸売ベース)。ただ、いずれ米国のような流れが国内でも起こると早嵜氏は見込んだわけだ。
(画像は「タチカワブラインドグループ 統合報告書 2025」からキャプチャ)
加えて、ここ5年ほどはリフォーム市場の規模が拡大している。人口減に伴い新設住宅着工戸数は減少しているが、建て替え需要により窓まわり市場が拡大していくとチューイッシュは予測している。
国内ブラインド市場のシェアを見てみると、「タチカワブラインド」「ニチベイ」「TOSO(トーソー)」の3社がトップメーカーとなる。なかでも、1938年創業のタチカワブラインドは、ブラインド・スクリーン市場で約40%と、業界No.1のシェアを誇る(タチカワブラインド調べ)。
(画像は「タチカワブラインドグループ 統合報告書 2025」からキャプチャ)
とはいえ、消費者にはブランド名は浸透していない。施工会社などを通じて紹介され、ブランドというよりデザインや機能、価格で選ばれているようだ。また、ニトリやイケアなどの大手家具量販店でもカーテンやブラインドを扱っているが、専門店と比べると種類が限られる。こうした市場の状況を踏まえると、DtoC専門ブランドのチューイッシュは、特異なポジションにいることがわかる。
現在、チューイッシュの売り上げは、約9割が自社のECサイト経由だ。海外発のDtoCブランドを国内で展開するにあたり、どんな苦労があったのか。
自社ECだけで売上9割、ローカライズの工夫は?
チューイッシュでは、「Amazon.co.jp」「楽天市場」でも販売しているが、最優先は自社ECサイトとなる。というのも、製品の特性上、購入前後に複数回のコミュニケーションが必要になるためだ。
購入前の段階では、「生地サンプルの取り寄せ」と「採寸」がある。実物を見られる実店舗がないため、多くの顧客が複数枚の生地サンプルを取り寄せて検討する。その後、採寸をして発注となる。商品到着後は、自社ECサイト上の「取り付け方ガイド」にアクセスして取り付けを行う流れとなる。
購入までのスパンが長く、その間に何度もコミュニケーションが発生します。また、オーダーメイドのため選択項目も増えます。そのため、他社プラットフォームのUX・UIでは購入の難易度が上がってしまうんです。そこで自社ECサイトに情報を取りまとめて、すべてをそこで閲覧できるのがベストだと考えました。(虻川氏)
(画像提供:TUISS DÉCOR)
では、海外発のブランドを国内展開するにあたり、どのような課題があったのか。まずは、「品質」の壁だ。日本では求められる品質基準が欧米よりも高いため、工場と何度もすり合わせながら独自基準を作っていったという。
キズ1つとっても、欧米と日本のお客さまでは求める基準が大きく異なります。国内では小さなキズでもご指摘いただくことがあり、検品を厳格化するなどの対応をしてきました。今では、グローバルのCEOも「日本の基準に合わせたモノづくりをしよう」と話していて、世界的に品質が向上しています。(虻川氏)
「翻訳」にも難しさがあった。英国のECサイトをベースにしているが、細部まで日本仕様に配慮する必要性があったそうだ。
英国と比べて、日本の消費者は「ブラインド」を購入することに慣れていないため、単純に翻訳するだけでは不十分でした。特に、「取り付けガイド」は詳細な図を用意するなど隅々まで気を配りながら作成し直しました。(虻川氏)
そうして日本の消費者が満足するような体制を整えたが、「しばらくは売れ筋を見つけていくのに苦労した」と虻川氏は明かした。
多様な製品群が強みであり、予測が難しい製品でも「まず売ってみよう」とチャレンジもできます。その半面、打ち出し方に悩むことがあり、反響を見ながら売れ筋をつかんでいくのは当初の課題でした。(虻川氏)
知名度ゼロから売上増につなげたマーケティング戦略
ブランドでは選ばれにくいブラインドやカーテンを販売するにあたり、チューイッシュは、GoogleやYahoo!などの検索エンジン内に表示される「リスティング広告」や「SEO施策」といった基本的なマーケティング施策から開始した。ここでも、海外ブランド特有の難しさがあったという。
海外で成果が出ている広告をそのまま翻訳して国内で展開してみたのですが、反応はイマイチでした。内容としては、「オーダーが簡単」「おしゃれなデザイン」「高品質で低価格」など。そこで、1000以上ある広告のバリエーションを、まず自然な日本語に書き換えました。さらに、「2500以上の製品から選べる」「2万5000円以上で送料無料」など、より明確な表現も採用。その結果、ROAS(広告費用対効果)が大幅に向上しました。(虻川氏)
(画像提供:TUISS DÉCOR)
こうした顧客獲得の施策に加え、約1年前からは認知拡大を目的とした動画広告の配信も開始した。カーテンや障子からブラインドに切り替えた際のビフォー・アフターや業者不要で取り付けられる利便性、採光と遮光を1台で切り替えられる2層構造などを訴求している。
2025年に小規模な制作体制で8本ほどの動画を制作し、YouTubeやTVerなどで配信しました。特にパフォーマンスを発揮したのが、「ハニカムシェードの紹介」と「賃貸でも取り付け可能」の2本。そこで、2026年春は、ハニカムシェードに特化した動画を作成し、各社のプラットフォームで配信しています。(虻川氏)
さらに、近年注力しているのが、マイクロインフルエンサーを活用したマーケティング施策だ。フォロワー数が1万~10万人ほどのインフルエンサーを自社で探し、それぞれ個別にメッセージを送り、コラボにつなげているという。
インテリアや暮らしを紹介していて、かつフォロワーとのコミュニケーションが活発なクリエイターを中心に依頼しています。結果として、これまでの実績では女性クリエイターとのコラボが多くなっています。コラボ投稿はチューイッシュの公式アカウントやECサイトでも紹介し、お客さまからも「イメージがつかみやすい」と好評です。(虻川氏)
国内では依然カーテンが優勢だが、「リフォーム市場が拡大し、海外の文化に年々近づいている。それがチューイッシュにとって追い風になる」と虻川氏は期待をにじませた。今後は、Web上だけでなく駅のサイネージ広告などのオフライン媒体も活用して、ブラインドそのものの需要喚起を促す考えだ。

