Digital Commerce 360[転載元] 8:00

米スーパーマーケットチェーンのTarget(ターゲット)は、AIと機械学習を積極的に活用してきました。現在、全社売上高の回復に向けて、最高執行責任者(COO)のマイケル・フィデルケ氏はAIと機械学習を活用する領域をさらに拡大しようとしています。

TargetのAI活用

米国ミネソタ州のミネアポリスに本社を置くTargetは現在、業績面で複数の課題に直面。経営再建の方法を模索するなかで、次期CEO候補の1人と目される人物であるフィデルケCOOはAIが重要な役割を果たすと考えており、すでに大規模なAIへ投資、AIを活用した複数の施策を打ち出しています。

Targetの年間EC売上高と成長率(単位:10億ドル/出典:TargetのIR資料、『Digital Commerce 360』によるTargetの収益レポートチャート/2025年の数値は『Digital Commerce 360』による予測)
Targetの年間EC売上高と成長率(単位:10億ドル/出典:TargetのIR資料、『Digital Commerce 360』によるTargetの収益レポートチャート/2025年の数値は『Digital Commerce 360』による予測)

従業員向けチャットボットが指導

たとえば「Store Companion」と呼ばれる店舗従業員向けの生成AIを活用したチャットボットがその1つです。店舗従業員はTargetから提供されるデバイスのアプリからアクセスでき、チャットボットがさまざまな手順に関する質問へ即座に回答します。

2024年6月、「Store Companion」を従業員向けデバイスのアプリとして約2000店舗の従業員に展開すると発表。業務プロセスや手順に関する質問への回答、指導、タスク達成のためのサポートなどに利用されています。

従業員による「Store Companion」の活用イメージ(画像はTargetのニュースリリースから追加)
従業員による「Store Companion」の活用イメージ(画像はTargetのニュースリリースから追加)

チャットボットアプリを試験的に試した店舗のディレクター、ジェイク・シーキスト氏は「『Store Companion』によって日々の業務の効率化につながり、従業員がより多くの時間を来店した顧客の接客対応に使えるようになることで、店舗全体の顧客体験が向上する」と話しています。

AI推進のための専任チームを創設

このほか、Targetは在庫管理のサポートにも生成AIを利用しています。今後はさらにAI活用に踏み込むため、社内のAIツールを推進する専任チームも設置しました。

5月21日に実施した2025年1-3月期(第1四半期)の決算説明会で、フィデルケCOOは「ブライアン・コーネルCEOも話していましたが、私は“加速化オフィス”という新設の部署を率いて、ボトルネックの排除とチームの迅速な意思決定をサポートすることで成長を促進していきます」と話しました。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、フィデルケ氏はコーネルCEOの後任候補として取締役会で検討されているそうです。フィデルケ氏が描くAIの成長戦略は注目に値します。

ECのレビュー要約、商品説明、検索を改善

フィデルケ氏は、2025年1-3月期の決算説明会で、“加速化オフィス”について次のように説明しました。

このオフィスを通じて、Targetの組織全体のリーダーと連携し、これまで展開してきたAI活用技術を超えて、よりダイナミックにテクノロジーとAIの力を活用していきます。事業成長のロードマップの一環として、Targetが優先事項として重視しているのは、より効率的かつコスト効果の高い業務の実現です。(フィデルケ氏)

TargetはECサイトでも生成AIを利用して、レビュー要約や商品説明を更新しています。2024年にはすでに10万ページ以上でAIを活用。さらに、会話形式のやり取りから得たテーマや文脈などを反映したAI強化型の検索体験も導入しています。

商品説明にも生成AIを活用(画像はTargetのECサイトからキャプチャして追加)
商品説明にも生成AIを活用(画像はTargetのECサイトからキャプチャして追加)
会話型のやり取りからほしい商品を探せる検索体験(画像はTargetのECサイトからキャプチャして追加)
会話型のやり取りからほしい商品を探せる検索体験(画像はTargetのECサイトからキャプチャして追加)

リテールメディアにも導入

広告分野でもAIを活用しています。Targetのリテールメディアネットワーク「Roundel(ラウンデル)」では、広告主がGoogle、Meta、Pinterestなどのプラットフォーム上で目標やパフォーマンスに基づいて広告枠を調整などできるAIツール「Precision Plus」を導入しました。

Targetのリテールメディアネットワーク「Roundel」トップページ(画像はサイトから追加)
Targetのリテールメディアネットワーク「Roundel」トップページ(画像はサイトから追加)

在庫管理や需要予測にもAIを活用

「ChatGPT」のOpen AIが市場で頭角を現す前から、Targetは需要予測や在庫計画、価格設定といった小売業共通の課題にAIを活用してアプローチしていました。

2023年のニュースリリースでは、データサイエンス担当上級副社長ブラッド・トンプソン氏とプロダクトエンジニアリング担当副社長メリディス・ジョーダン氏が、機械学習を活用することで在庫切れの改善に取り組んだ事例を紹介しています。

Targetは、在庫切れに対応するために「Inventory Ledger(インベントリ・レジャー)」という社内ツールを開発店舗における来店客の購入、補充、注文処理といった活動全般にわたる在庫の変動を追跡する機能を搭載しています。

ニュースリリースでは、「Inventory Ledger」導入の背景として「Targetが最近実施した棚卸し(Targetは棚卸しを毎年全店舗で、全商品を対象に実施。一部の商品はより頻繁にカウントしています)において、在庫切れの半分はシステム上では把握されていないことがわかりました」と説明していました。

「Inventory Ledger」は、在庫状況を全社的に評価できるよう設計。毎秒最大36万件の在庫取引を処理し、毎秒1万6000件の在庫照会リクエストに対応します。平均では毎秒1万2000件を処理しています。

これにより、Targetは「店舗の商品棚の在庫がより充実していることを把握でき、消費者に商品を提供する準備がより良くできるようになった」と説明しています。

Targetでは「Inventory Ledger」が店舗の商品棚の在庫切れ把握に役立っている(画像はTargetグループのニュースリリースから追加)
Targetでは「Inventory Ledger」が店舗の商品棚の在庫切れ把握に役立っている(画像はTargetグループのニュースリリースから追加)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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