Digital Commerce 360[転載元] 2023/8/17 7:00

コンバージョンを自然に高められる商品詳細ページを作ることはできるのでしょうか。米国で歯磨き粉の小売業を手がけるColgate(コルゲート)は、Eコマースのデータ分析ツール開発事業を行うProfitero(プロフィテロ)と共同で、独自のプロジェクトを進めています。目的はコンバージョンアップにつながる商品詳細ページを作成すること。Colgateの事例を詳しく解説します。

記事のポイント
  • 生成AIツールの導入で商品詳細ページを最新の状態に維持している
  • Profiteroの生成AIツール導入企業は、Webサイト上で生成AIボットに詳細な質問ができる
  • 生成AIツールの導入で、数週間から数か月間かかっていたデータ分析の時間を大幅削減

商品詳細ページに生成AIを導入するメリットとは

10以上の出店モールで商品詳細ページ約1000を運用管理、その課題をAIで解決

歯磨き粉で著名な小売事業者のColgateは、何百もの商品詳細ページの管理に生成AIを活用しています。戦略・実行担当グローバル・デジタル・コマース・ディレクターを務めるトッド・ハッセンフェルト氏は、自社が展開する商品の詳細ページについて、次のように説明しています。

米Amazon、米国スーパーマーケットチェーンのWalmart(ウォルマート)やAlbertsons(アルバートソンズ)、食品や日用品のECを展開する米Thrivemarket(スライブマーケット)、食品の即日配達サービスを手がける米Instacart(インスタカート)など、10以上のECモールでそれぞれ数十のSKUを出品しているため、商品詳細ページは合計で1000近くあります。

Colgate 戦略・実行担当グローバル・デジタル・コマース・ディレクター トッド・ハッセンフェルト氏
Colgate 戦略・実行担当グローバル・デジタル・コマース・ディレクター トッド・ハッセンフェルト氏

これらの商品詳細ページをいつも最新の状態に保ち、なおかつ各ブランドサイトのターゲットとなる消費者の共感を得られるようにするには、社内で複数人のリソースが必要となります。これを省力化するため、商品詳細ページの最適化をサポートする新たな生成AIツールを試験的に導入しています。

ColgateのAmazonでの販売ページ(画像は編集部がAmazonでの販売ページからキャプチャ)
ColgateのAmazonでの販売ページ(画像は編集部がAmazonでの販売ページからキャプチャ)

Colgateはすでに、Profiteroのデジタルシェルフ(編注:消費者がインターネット上でブランドと関わりを持ち、商品を調べたり購入したりするデジタル体験)の技術を活用し、これらのページを管理しています。その技術は、Colgateなど8社の小売企業が試験的に運用している生成AIツール「Ask Profitero」です。

商品詳細ページの課題をAIが指南

このAIツールを使うと、小売事業者は、サイト内の全商品ページに関する課題およびその解決方法などを、生成AIのチャットボットに質問できます

たとえば、ColgateがWalmartの販売サイトでマウスウォッシュのコンバージョン率を向上させたいとします。その場合、生成AIのチャットボットに「このカテゴリーで売り上げを伸ばすために最適なテキストの長さは?」と質問できるのです。

生成AIのチャットボットは質問に対し、そのECサイトの特定カテゴリーにおいて最適なテキストデータの量を回答します。(ハッセンフェルト氏)

生成AIのチャットボットは商品の新しいキャッチコピーを提案し、なぜその言葉を提案したのかを事業者に説明することもできます。

消費者が特定のキーワードを入力したときに、商品がECモール内の検索結果でどれくらい上位に表示されているかといったデータに基づき、生成AIはこうした回答を導き出しています

Profitero CEO ブライアン・ウィナー氏
Profitero CEO ブライアン・ウィナー氏

データ分析を効率化する生成AI

商品の検索結果データは常に知り得ることができるものの、分析には時間がかかります。これを効率化するためにProfiteroのソフトウエアを使用しているブランドは全世界で4000以上。データ分析の改善に役立っているそうです。

Profiteroのクライアント企業の一例(画像はProfiteroのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)
Profiteroのクライアント企業の一例(画像はProfiteroのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)

生成AIツールは、Profiteroのソフトウエアから迅速にインサイト(編注:消費者の潜在ニーズを分析すること)を取得するのに役立っています。たとえば、生成AIのチャットボットに対して「全ブランドのミントのトータルホワイトニング歯磨き粉の売り上げは?」と聞くことができます。

消費の在庫切れに関するデータを取得し、「ある商品が特定の小売店でどれくらいの頻度で在庫切れになっているか」「30日間のうち何日間在庫切れになっているか」などを調べることもできます。(ハッセンフェルト氏)

AIが評価やレビューの要約作業を簡素化

Colgateはこのほかにもう1つ、生成AIツールの活用法として構想していることがあります。消費者による商品評価、レビューの傾向を簡単にまとめるようにすることです。

生成AIに「この製品に対するレビューの傾向は何ですか?」と質問し、評価の高いレビューの多くが「風味が良い」など特定の特徴を強調した場合、それらの情報を活用して商品詳細ページをアップデートできるようにしました

このように、効果的な販促が期待できる商品詳細ページを作成することは、オンライン販売だけで重要になるわけではありません。ハッセンフェルト氏は、商品詳細ページは店舗での販売においても重要だと指摘します。

消費者は店頭で買い物をしながら頻繁にスマートフォンをチェックし、商品詳細ページで商品情報を詳しく調べているかもしれません。また、店内の看板や販促物から商品の詳細情報を取得することもあります。

消費者がいつでも商品の最新情報を確認できる環境を用意しておくことが、さらに大きな売り上げを狙える可能性があるのです。(ハッセンフェルト氏)

手作業の時間とリソースを削減、迅速なマーケティングを実現

ハッセンフェルト氏は、生成AIツールの導入で、手作業で分析に費やす時間を数週間から数か月節約できると見込んでいます

通常、1つの商品SKUのコンテンツや、コンテンツのバリエーションを複数のプラットフォーム用に作成するには、膨大な時間がかかります。作成後も、Colgateが何かに変更を加え、それによってコンバージョン率がどのように改善されるかを確認したい場合、変更を実施して分析するまでにかかる時間は数か月にのぼることもあると言います。

ColgateはAIツール導入によって人的なリソースを減らすことができますが、従業員数の削減は計画していません。なぜなら、従業員の負担が従来よりも軽減されることによって、より迅速なマーケティングができるようになると期待しているからです。

生成AIに期待するCVRアップ

Colgateがこの生成AIツールを使うもう1つの目標は、コンバージョン率の向上だとハッセンフェルト氏は話します。

たとえば、2%のコンバージョン率を3%に引き上げることは、各商品で1000ドルから1万ドルの収益アップに相当するインパクトです。このようなコンバージョン率の引き上げは、AIツールから実用的なインサイトが得られれば可能になるはずです。(ハッセンフェルト氏)

AIを活用したリアルタイムなマーケティング戦略を構想

短期的な全体の目標は「商品に関連して消費者から得られたデータの分析結果を、迅速に実行できる施策に反映し、特にコンバージョン率と売り上げ向上のために得られたインサイトに基づいてマーケティング戦略を打つこと」(ハッセンフェルト氏)

加えて、「長期的には、データから消費者のトレンドを見つけ、リアルタイムにインサイトを得るための情報源を当社のマーケティングチームに提供したいと考えています」とハッセンフェルト氏は言います。

AIの活用によるトレンドのキャッチアップや、消費者の動向にリアルタイムなマーケティングを計画する(画像はColgateの自社ECサイトから編集部がキャプチャ)
AIの活用によるトレンドのキャッチアップや、消費者の動向にリアルタイムなマーケティングを計画する(画像はColgateの自社ECサイトから編集部がキャプチャ)

Colgateは米国本社のスタッフ約10~20人が、このAIツールの活用に従事しています。さらに、マーケティング、ブランディング、カスタマーサービス、ロジスティクスなど、グローバルのさまざまな支社から7~10人の従業員を追加して、機能横断的なチームを編成しています。

Profiteroは「ChatGPT」利用2か月で生成AIを開発

ProfiteroのウィナーCEOによると、ProfiteroはこのAIツールを、人工知能コンソーシアムOpenAIの言語モデルに基づいて自社で構築したそうです。「ChatGPT」が利用可能になってから、Profiteroは約60日間でAIツールを開発したと言います。

Profiteroはすぐに、より迅速で優れたインサイトを提供してクライアント企業に役立つツールを開発しました。問題は、それをどのように導入してもらうかです。(ウィナー氏)

Profiteroは2023年6月、ユーザー・カンファレンスでこのAIツールを発表し、β版でクライアントとの協業を開始しました。

開発したAIツールに「このインサイトは適正です」または「このインサイトは的外れです」といったフィードバックを行い、AIツールを微調整するために、当社に協力してくれるクライアントを探していました。(ウィナー氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

この記事が役に立ったらシェア!
これは広告です

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
ecbeing.
[スポンサー]