ナイキのEコマース事業の現状は? 全社売上の26%を占め133億ドル規模に達したNikeのデジタル事業の今+これからの課題
ナイキのデジタル事業「Nike Digital」(ECサイトやアプリ運営)の2022年度(2022年4月~2023年5月期)売上高について、2023年3-5月期(第4四半期)は前年同期比14%増、通期では前期比24%増で着地しました。「Nike Digital」の売上高は総売上高のうち4分の1以上(26%)のシェアを占めており、2022年度の「Nike Digital」売上高は約133億ドルに達したと推測できます。
ナイキのEコマース事業は堅調に拡大
米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』が発行する「北米EC事業 トップ1000社 レポート 2023年版」で第9位にランクインしているナイキは、2023年3-5月期(第4四半期)もデジタル領域の売り上げを引き続き伸ばしました。
ナイキのデジタル事業「Nike Digital」が展開するアパレル・アクセサリーのEC売上高は第4四半期で14%増、通期では24%増加しました。「Nike Digital」の2022年度の売上高は、全体売上のうち26%のシェアを占めています。
「Nike Digital」は、「Nike.com」「Converse.com」といったECサイトの運営、アプリの配信などを展開しています。コロナ禍前の2019年、「Nike Digital」の売上シェアは、全体売上の10%程度でした。
ECを含むナイキ全体の2023年3-5月期(第4四半期)の売上高は前年同期比5%増の128億ドル。通期売上高は前年度比10%増の512億ドルでした。
「Nike Digital」の売り上げは全社売上の26%を占めることから、『Digital Commerce 360』は、ナイキのEC売上は2022年度に約133億ドルに達したと予測します。
ナイキのジョン・ドナホー社長兼CEOは次のように話しています。
消費者はブランドに対して、Eコマースが担うデジタルと、実店舗が担う物理的なアクセスの両方を望んでいます。これに加えて、デジタルと実店舗で地続きとなる、シームレスな購買体験も望んでいます。このニーズに応えることが、市場におけるナイキのマーケティング戦略の原動力となっています。
中国市場ではデジタルよりも実店舗が優位
北米における「Nike Digital」の売り上げは17%増加しました。また、欧州、中東、アフリカでは、24%増加しています。
一方、中国では、「Nike Digital」の売上高が12%減少しました。マシュー・フレンド副社長兼CFOは「実店舗での購入が前年比を上回る傾向が続いているため」と説明します。
中国で売り上げが減少した一方、アジア太平洋およびラテンアメリカにおける「Nike Digital」の売り上げは前期比9%増加しています。
私たちは、消費者がマーケットプレイスでほしい商品を探す前に、私たちの店舗やオンラインショップで買い物をしている、もしくは少なくともオンラインショップで商品をチェックしているという事実に基づいて、「Nike Digital」事業を成長させるために投資を続けています。(マシュー・フレンド副社長兼CFO)
D2C事業は前期比14%増収で推移
ナイキが店舗やEコマースサイトなどを通じて消費者に直接販売するD2C事業「Nike Direct」の2023年3-5月期(第4四半期)の売上高は55億ドルで、レポートベースでは前年同期比15%増、為替変動調整後では同18%増。実店舗の売り上げは24%増加しました。なお、「Nike Direct」の通期売上高は前期比14%増の213億ドルでした。
「Nike Direct」の第4四半期の売り上げを地域別で見ると、北米では15%増、中東とアフリカでは28%増、中国では19%増、アジア太平洋およびラテンアメリカは9%増となっています。
D2Cにアクセルも、コロナ禍収束で戦略見直し?
Webサイトのトラフィック分析などのサービスを提供する英Similarweb(シミラーウェブ)の分析によると、2023年3-5月期(第4四半期)の「Nike Digital」のコンバージョン量は、前年同期と比較して5.8%減少しました。
Similarwebによると、スポーツアパレルブランド上位10社のうち、2023年5月時点でナイキのデジタル市場におけるシェアは42.5%。10社のなかで最大でしたが、シェアは前年同月比で6.2%減少しました。
米国スポーツ用品店チェーンのDick's Sporting Goods(ディックス・スポーティング・グッズ)が運営するECサイトへの、ナイキからのトラフィックは2023年3-5月期(第4四半期)は前年同期比で3.4%減少しています。
コロナ禍をきっかけに、ナイキはD2C販売に注力する傾向が大きくなっています。これにより、ナイキはEコマースやナイキアプリのような顧客とダイレクトにつながる販売チャネルを拡大しているのです。そのため、卸先との取引が縮小しています。
現在、コロナ禍の終息に伴いECへの追い風が弱まっています。市場がこのように変化しているため、ナイキはマーケティング戦略を再検討し、D2Cと卸売りの最適なバランスを再考せざるを得なくなっている状況です。(Similarweb インサイトマネージャー スネハ・パンディ氏)