Digital Commerce 360[転載元] 2023/7/13 8:00

コロナ禍でEコマースの受注は急増し、多くのオンライン通販事業者は業績を伸ばしました。しかし、今は送料無料へのプレッシャーを含む競争により、各社の利益率を圧迫しています。この記事では、利益を確保するために、複数のオンライン通販事業者が行っている取り組みを解説します。

競争加速、コスト高騰が利益を圧迫

北米オンライン小売企業トップ1000社によるEコマース売上高は、コロナ禍の3年間で年平均成長率は20.7%増で拡大。コロナ禍前までの5年間の年平均成長率は17.7%増だったので、コロナ禍の年平均成長率の向上は累計750億ドルの売上増という押し上げ効果がありました。

恩恵を受けたのは大手小売企業だけではありません。2022年と2021年は、トップ1000社の下位半分の企業が、上位半分の企業を上回るペースで成長したのです。

しかし、Eコマースの競争激化、人件費の増加、検索連動型広告の単価上昇などさまざまなコストが上昇。売り上げの向上が利益面の拡大および改善に直結しなくなってきています

たとえば、乗馬用グッズ販売の米Dover Saddleryは、コロナ禍の間に競争が激化し、馬術用品のクリック単価型検索広告の価格は少なくとも2倍に上昇。加えて、Amazon、他の大手企業からの送料無料競争の圧力が、収益を悪化させる事態に拍車をかけています。

今日、小売事業者が利益を伸ばすことが難しくなっています。電動工具のオンライン通販事業者である米CPO Commerceのマイク・リッター社長は次のように話しています。

利益を確保することが難しくなっている今、すべてにおいて賢い選択をしなければいけません。

CPO Commerce 社長 マイク・リッター氏
CPO Commerce 社長 マイク・リッター氏

さまざまな施策で利益創出に取り組む中小オンライン事業者

中堅・中小のオンライン小売企業は、どのようにして利益を上げているのでしょうか? 顧客と競合の動向を分析し、送料無料の施策から新しいテクノロジー、設備への投資先まで、あらゆることに知恵を絞っています。

事例① 顧客を理解した商品レコメンド、徹底した競合分析

「CPO Commerceにとって重要なのは、電動工具の購入者が何を求めているかを理解すること」だとリッター氏は説明します。ペット向け商品など他の種類の商品を購入する消費者とは異なり、ドリルやのこぎりのような商品を購入する消費者は、「Milwaukee(ミルウォーキー)」(世界屈指のコードレス工具メーカーのブランド)や「Dewalt(デウォルト)」(電動工具世界大手米メーカー「スタンレー ブラック・アンド・デッカー」の工具ブランド)といった特定のブランドを好む傾向があります。

もし私が「Milwaukee」のファンなら、「Milwaukee」の商品を買いあさり、集めます。ですから、「Milwaukee」を好んで購入する消費者には、類似した「Milwaukee」の商品をどんどん紹介するのです。「Milwaukee」を好む消費者に「Dewalt」の商品をお薦めすることはありません。(リッター氏)

ECサイト「CPOOutlets.com」のトップには、「Shop by Brand」というナビゲーションを設置。特定ブランドから商品を購入できるようにしています。そして、リッター氏は「市場の動向に注意を払い、それに応じて戦略を調整している」と話します。

「CPOOutlets.com」のトップページ(画像は「CPOOutlets.com」から編集部がキャプチャ)
「CPOOutlets.com」のトップページ(画像は「CPOOutlets.com」から編集部がキャプチャ)

たとえば、サプライヤー側に特定の商品の在庫が少ないことがわかった場合、それは大手競合がその商品を大量に購入し、セールを計画していると推測できます。逆に、CPO Commerceがその商品を大量に手元に置いている場合、売れ残った商品を過剰在庫として抱えてしまわないように、競合他社が値下げする前に売りさばきます。そのために、デジタルマーケティングを強化しています。

CPO Commerceでは、149ドル以上の注文で無料を自社で負担するようにしています。そのため、ほとんどの注文について、消費者は送料を負担せずに買い物をしています。リッター氏は、「商品発送の送料負担はCPO Commerceにとっては大きな問題ではない」としつつも、スピード感を重視した発送は大切だと言います。

顧客は、Eコマースサイトに目当ての商品の在庫があり、競合他社よりも優位性がある即日発送をしていることがわかれば、購入先にCPO CommerceのECサイトを選ぶことが多いのです。(リッター氏)

事例② 「常に最安値である必要はない」。サービスや品ぞろえで勝負

「乗馬用具やアパレルを販売するDover Saddleryが重要視しているのは、フルフィルメントコストのコントロールだ」と言うのはブラッド・ウォランスキーCEOとダナ・スプリングフィールド副社長。

Amazonでの購入に慣れている今日の消費者のEコマース事業者に対する期待は大きい。商品の配送が迅速で、かつ送料無料であることだけにとどまらず、欲しい商品の在庫が必ずあることも当然だと思っています

Dover Saddlery CEO ブラッド・ウォランスキー氏
Dover Saddlery CEO ブラッド・ウォランスキー氏

Dover Saddleryでは、物流センター、37の実店舗(2023年中にさらに2店舗オープン予定)、サプライヤーが直接消費者に商品を発送する「ドロップシッピング」の3つの方法で配送に対応しています。問題は、1つの注文に、3つの配送元から発送する商品が含まれるケースの場合。1つの注文に対して、3か所からの配送料を支払う必要が発生します。

利益をしっかり確保できるレベルの商品価格の設定でなければ、こうしたコストを補うことはできません。スプリングフィールド氏は「幸いなことに、オンラインショッピングの利用者の多くは、価格よりも品ぞろえやサービスの充実ぶりで購入先を選んでいることが調査や経験からわかっている」と強調します。

ニーズに応える品ぞろえと適正な価格、そして顧客満足度の高いサービスがあれば、市場で競争することは可能です。他の点で優れていれば、常に最安値である必要はないのです。(Dover Saddlery 副社長 ダナ・スプリングフィールド氏)

また、Dover Saddleryは、「Amazonで商品を出品販売する場合でも利益を確保しなければならない」という方針を掲げています。これを実現するために、Amazonでは一部の商品の価格を自社ECサイトよりも高めに設定。「Amazonはかつてこれを禁止していたが、現在は価格差が大きすぎない限り認めている」とウォランスキー氏は言います。

Amazonで商品を販売し、自社の認知を拡大することが、自社のECサイトや実店舗で購入する新規顧客の獲得につながると考えているオンライン小売事業者もいます。Dover Saddleryの場合、Amazonの売り上げの80%以上がこれまで購入したことのない新規の顧客によるものです。つまり、Amazonでの販売を、「顧客獲得のための投資」として見てはいけないということがわかります。送料無料となる「プライム会員」からの注文でも、販売事業者はすべての注文で利益を確保しなければいけません。(ウォランスキー氏)

価格で勝負しない方針を掲げるDover SaddleryのECサイト(画像はDover SaddleryのECサイトからキャプチャ)
価格で勝負しない方針を掲げるDover SaddleryのECサイト(画像はDover SaddleryのECサイトからキャプチャ)

そのためには、Amazonでのビジネスを慎重に管理する必要があります。Amazonが販売者に対し、全米を対象にプライム配送(=無料配送)を無料で提供することを義務付けてからは、Dover Saddleryは売れ筋商品のフルフィルメントをFBA(Fulfillment by Amazon)に委託し、Amazonで販売する自社の商品が、多くの消費者が求めるプライム商品の対象となるようにしました

利益率を考慮して、注文がそれほど多くない商品はAmazonの倉庫に在庫を置かない方針を採用しました。Amazonのフルフィルメントサービスは、商品が倉庫に長く置かれると手数料を請求するからです。

徹底した顧客理解と商品の優位性

フルフィルメントにかかるコストの管理は非常に重要ですが、消費者がDover Saddleryのような小売店で買い物をするのは、優れた商品とサービスを提供している場合に限られます。(ウォランスキー氏)

Dover Saddleryは、乗馬用品という特殊な商品を販売しているため、市場で良いポジションにあると言います。他の多くの小売事業者はこうした商品を扱っていないからです。

黒いワンピースのような一般的な商品を販売している場合、競合他社との優位性を築くことは難しい。多くの場合、ビジネスは立ち行かなくなるでしょう。最終的には、取り扱う商品が肝なのです。(ウォランスキー氏)

一方で、Dover Saddleryの商品は特殊であるため、店舗でもカスタマーセンターでも、乗馬に詳しい販売員が必要になるとウォランスキー氏は言います。

Dover Saddleryのスタッフは皆、乗馬経験者です。乗馬経験者であることを、採用の必須条件としています。顧客の立場に立つことができず、スポーツを理解できなければ、何も売ることはできないからです。(ウォランスキー氏)

事例③ 低価格商品でも利益を上げる方法

Ann Clark(アンクラーク)のような小規模なオンライン通販事業者にとって、商品に関する専門知識、送料の負担、Amazonでの賢い戦略が重要です。ECサイト「AnnClarkCookieCutters.com」には、お菓子のレシピ、作り方の手順動画、お菓子作りのチュートリアルを数多く掲載。また、商品が米国製であることを強調しています。

「AnnClarkCookieCutters.com」のトップページ(画像は「AnnClarkCookieCutters.com」から編集部がキャプチャ)
「AnnClarkCookieCutters.com」のトップページ(画像は「AnnClarkCookieCutters.com」から編集部がキャプチャ)

Ann Clarkは30年前、バーモント州の小さな老婆、アン・クラーク氏が創業した家族経営の企業。実はこのことを大切にしています。

私たちが紹介している伝統的なパン作りは、家族的かつ、文化的に愛されているものです。人々は信頼できるブランドに引かれるもの。そのブランドの商品に対しては、少々値が張っても買いたいと思うのです。

Ann Clark Eコマース・ディレクター トム・ファンク氏
Ann Clark Eコマース・ディレクター トム・ファンク氏

Ann Clarkの課題の1つは、利益額が小さいこと。売れ筋商品のクッキーカッターを通常3ドル前後で販売しているためです。

平均注文額を増やすため、ベーキングミックス、めん棒、包装紙などの商品ラインアップを増やし、クッキーカッター5個や着色料3個など、まとめ買いできる商品を販売するようになりました。

また、イタリアから高価なチューブ充填機を輸入し、食用色素のチューブを製造・販売できるように投資しました。

「決して安くはない投資だったが、そのおかげで、Amazonで食品着色料を販売する最大手企業の1つになることができた」とファンク氏は言います。ファンク氏は買い付けた充填機の価格を明らかにしていませんが、これに類似した装置はインターネット上では数万ドルで売られています。

Ann Clarkのオンライン売上の70%以上がAmazon経由で、収益の大部分を占めています。Ann ClarkはFBAを利用して、消費者に無料で迅速な配送を提供しています。

消費者は、次の週末にどのようなクッキーを焼こうかと考えています。だからこそ、Amazonでのプレゼンスが重要なのです。消費者にとっては、迅速に配送されることが最も大切なのですから。(ファンク氏)

ファンク氏によると、Ann Clarkの商品の多くは、最近までFBAの「スモール&ライト」プログラムの対象となっていました。これは、3ポンド以下の重量でかさばらず、価格が12ドル以下の商品に対して、約25%安い手数料が提供されるというプログラムです。しかしAmazonは6月に、「スモール&ライト」の価格基準を10ドル以下に変更しました。

送料の自社負担は「微々たる代償」。注文額アップに成功

Ann Clarkは自社ECサイトにおいて、以前は一律4.99ドルの送料を消費者から徴収していましたが、2022年後半に25ドル以上の注文で送料を自社で負担するサービスの提供を開始。「これは大成功だった」とファンクは言います。

Ann Clarkが実施したA/Bテストによると、注文価格25ドル以上を対象とした送料無料キャンペーンを実施した場合、実施しなかった場合と比較して、訪問者数が23%増加し、コンバージョン率が16%、売り上げが58%増加したそうです。

送料無料キャンペーンを宣伝するEメールの効果は、そのキャンペーンがなかった前週と比較して2.6倍の収益を上げ、平均注文額は42%増加しました。

従来、送料から得ていた収益は、前週比増額分の20%程度に過ぎません。消費者を喜ばせ、売り上げを伸ばすために払う引き換えに「25ドル以上の購入で送料無料」とすることは微々たる代償です。(ファンク氏)

こうした売り上げを維持するため、Ann Clarkは、最近の英国国王チャールズ2世の戴冠式を祝う王冠型のクッキーカッターや、聖パトリック・デーの祝日用のクローバーのクッキー型など、特別なイベントに特化した商品を継続的に発表しています。

Ann Clarkのマーケティング・カレンダーは、年間を通じて26の祝祭日に焦点を当てており、そのなかにはドイツや日本など、Amazonのマーケットプレイスで販売する18か国のうちの数か国に特化した商品も含まれています。

Ann Clarkのような小さな会社は、今日の競争の激しいEコマース市場において、あらゆるチャンスをつかむ必要があります。

簡単にお金がもうかるような仕組みはありません。ビジネスで収益を上げるには、たくさんのお金と技術と情熱が必要です。そしてそれが、当社の強みになり、ビジネスも楽しくなります。(ファンク氏)

旧約聖書に登場する巨人・ゴリアテのような巨大企業ではなく、羊飼いから身をおこした古代イスラエルの王・ダビデのような小規模オンライン小売事業者が利益を上げ、生き残るためには、意欲と賢さ、そしてチャンスが訪れたときにそれを生かすことができるだけの資金があるかどうかが肝要になるでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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