GoogleのAIを活用したバーチャル試着ツールとは?
アパレル商材をEコマースで購入するとき、ネックになるのが試着できないことです。これを解決するため、バーチャル試着サービスを展開するブランドや事業者が増えています。Googleはこのほど、AIを活用したバーチャル試着ツールを開発し、提供を始めました。このツールは、Eコマースの返品を減らし、小売事業者がターゲットを絞り込むのに有効なデータを提供してくれる可能性があると専門家たちは考えています。
- Googleは、生成AIを使ってバーチャル上で服を試着できるツールを発表
- Googleのバーチャル試着ツールはすでにH&M、Everlane、Anthropologie、Loftが活用している
- Eコマースの専門家は、AIを活用してコンバージョンを増やし、返品を減らすことで、小売事業者の収益を伸ばすことができると説明している
Googleが開発したバーチャル試着ツールとは
Googleは2023年6月に、アパレル商材をバーチャル試着できる新たなAIツールを発表しました。一部の専門家は、これは「Eコマースに大きな変化をもたらす可能性がある」と指摘しています。
Googleショッピングのプロダクト担当シニアディレクターであるリリアン・リンコン氏は、このAIツールについて次のようにコメントしています。
この試着ツールは、生成AIを使用し、さまざまなポーズをとった実際のモデルに、洋服のたるみ、体への密着、伸び、シワや影の発生を反映させています。(リンコン氏)
米国のEC専門紙『Digital Commerce 360』が発行する「北米EC事業 トップ1000社 レポート 2023年版」にランクインしている企業のうち、いくつかのブランドはすでにGoogleのAIツールを活用しています。
消費者は、米国のアパレルメーカーAnthropologie(アンソロポロジー、Urban Outfitters傘下の企業)、アパレルメーカーEverlane(エバーレーン)、スウェーデンのアパレルメーカーH&M、Loft(ロフト、Ascena Retail Group傘下企業)の服はすでに、オンライン上で試着することが可能です。Googleによると、今後さらに多くのブランドが追加される予定です。
商品の返品数減少に期待
バーチャル試着ツールは、返品を大幅に減らす可能性があります。Eコマース企業の成長を支援するHeur(本社英国)のクリス・レイブンCEOは「返品が減れば、Eコマース小売事業者のコスト削減につながるかもしれない」と言います。
ブランドにとってコスト削減や時間の確保につながるだけでなく、アパレル業界が気候変動に与える悪影響を減らすことにもつながるでしょう。(レイブン氏)
レイブン氏がこのように話す理由は、返品された商品の廃棄が少なくなり、配送コストも下がり、二酸化炭素の排出量ダウンにつながるからです。
紳士服の小売業を営むOtero(編注:2023年7月現在は閉業)は、米Perfitly(パーフィットリー)社が提供すAI試着ツールを使って事業を拡大。ユーザーは自分の体型に基づいたアバターを作成し、カートに入れる前にオンライン上で試着できるようにしていました。
Oteroのスティーブ・ヴィラヌエヴァ創業者兼CEOは、「Oteroの返品率は業界標準を大きく下回る3%」と説明。ヴィラヌエヴァ氏が「とんでもなく低い」と話す返品率は、Perfitlyの試着ツールの精度の高さが理由だと話していました。
OteroとPerfitlyが、ユーザーへの質問、オンライン試着のアバターを微調整するのに伴い、返品率に多少の変動はあったそうですが、それでも9%を超えることはなく、常に2~3%で推移していたそうです。
生成AIによるレコメンド効果
AIを活用したGoogleのバーチャル試着ツールは、顧客の好みに基づいた商品を提案することができます。リンコン氏はこの機能を、店舗で働く店員が、色、スタイル、柄、価格を考慮して消費者に商品を提案することと同じだと言います。
今のところ、この機能は女性用のブラウスにしか使えないそうですが、販売できる商品が在庫のある商品に限られる実店舗とは異なり、オンラインではブランド横断的に商品を勧めることが可能です。
AIを活用したテクノロジーは、一過性の流行に過ぎないとは思えません。ブランドが現在の情勢に合わせて成長するためには、こうした新しいテクノロジーに寄り添い、活用しなければなりません。(SilkFred エマ・ワトキンソンCEO)
英国のアパレル小売事業者SilkFredのエマ・ワトキンソンCEOはこう説明し、顧客に商品を提案する同様のサービスを開始する準備を進めていることを明かしました。
デジタル戦略コンサルティング会社BDOのマネージング・ディレクター兼クライアント・エグゼクティブであるロバート・ブラウン氏は「Googleの生成AIツールは、1対1で顧客に合わせたアドバイスを提供するという『究極の武器』を小売事業者に与える」と説明します。
AIは消費者の好みやニーズに関する膨大なデータを収集し、小売事業者はそれを将来のコンバージョンにつなげることができる。(ブラウン氏)
こうして収集した消費者のデータは、事業者のロイヤルティプログラムや会員プログラムの改善にも利用できるでしょう。
テクノロジーの活用にハードルを感じるユーザーも
AIの発展はEコマース企業の売り上げを押し上げることにつながるかもしれませんが、マイナスの影響も考えられます。
レイブン氏は「多くのユーザーが新しいテクノロジーを活用することにちゅうちょし、ブランドから顧客が離れてしまう可能性があります」と言います。潜在的な顧客のなかには、怖気づいて新しい技術を学ぼうとしない人もいるかもしれない、というのが彼の主張です。
Oteroも最初は同じ問題に直面しました。「Perfitlyのバーチャル試着ツールを導入した当初は、利用する顧客はそれほど多くなかった」とヴィラヌエヴァ氏は語っていました。 ヴィラヌエヴァ氏によると、アバターを最初の入口とすることが、ユーザーに複雑だと思わせないための鍵だったそうです。
データを悪用すれば、消費者の信頼を失う可能性があります。顧客について知れば知るほど、それを悪用する人が出てくる可能性が高まるからです。(ブラウン氏)