VRやARで買い物行動はどう変わる? 米国の通販&小売の最新事例【Shoptalkレポート】
ECテクノロジーやマーケティングは日本の先を行くと言われる米国のネット通販市場。今、米国で話題になっているテクノロジー、最新事例を研究するため、AppleやAmazonなどの企業が登壇する小売業向けカンファレンス「Shoptalk」(米国ラスベガスで3月に開催)に行ってきました。VR、AR……日本のIT業界でも話題になっている最新テクノロジーがECでどのように活用されているのか。そんな情報を今回はレポートします。
僕が所属しているフューチャーショップはここ4年程、アメリカの最新事例や技術動向を確かめ、機能開発などに役立てることを目的にアメリカのカンファレンスに参加しています。今回、足を運んだのが今年で2回目となる「Shoptalk」という大規模カンファレンス。
まず、「Shoptalk」のレポートを連載する前にお伝えしておきたいことがあります。実店舗やeコマースをテーマにしたカンファレンスはアメリカでいくつか開かれていますが、「Shoptalk」は他のカンファレンスに登壇しないAppleやAmazonといった企業の責任者などが登場するのが特徴です。
また、登壇者の6割がCEOやCMOといった最高責任者に就いている方。事業の責任者も多数登壇しています。こうした方々の口から、VR(バーチャルリアリティ)/AR(拡張現実)、AI(人工知能)といった顧客接点の改善に役立つ新しいテクノロジー、そして、顧客との関係性構築のための顧客サービスやファン化施策(ロイヤルティ向上)への取り組みを聞ける機会はめったにありません。
VR、AR……ビジュアルが変える買い物行動
まず、僕の印象に残ったテクノロジーやソリューション、事例を何点か紹介します。2016年に初参加したカンファレンスの展示会では見かけることはなかった企業のブースがありました。その1つがショッピング体験をパーソナライズするためのSaaSソリューションを提供するBOLD METRICS社です。
展示していたのは「VR METRIC」というVRを使って衣類を試着するソリューション。自分の体型と同じマネキンを音声入力ですぐに作成し、VR内で衣類を試着できるソリューションです。ヨーロッパのアパレルメーカーがすでに導入したそうです。
写真後ろのディスプレイにマネキンが表示されていますが、これがVR上での試着イメージになります。
VR上で自分の体形に適したマネキンを作るには、一般ユーザーだと45分以上もかかるそうです。それを、「VR METRIC」は音声入力だけで簡単に作成できるようにしているとのこと。BOLD METRICS社のホームページには、「VR METRIC」について次のように紹介されています。
BOLD METRICSのボディ予測エンジンを利用すると、8つ以下の簡単な質問に答えることで、正確なアバターを生成することができます。これは新しい世界です。バーチャルな世界でさまざまなことができるようになるんです。導入企業は3Dモデルを構築する方法を学ぶ必要はありません。「VR METRIC」に大変な作業を任せることで、ユーザーは簡単に仮想世界へ飛び込むことができるようになります。
-BOLD METRICSから引用
ほかにも印象に残ったVRの事例があります。GAPはWeb上のマネキンに衣類を着用させ、サイズ感を確認できるようにしています。
これはGAPが2017年1月に発表した「DressingRoom by Gap」というアプリです。買い物をするユーザーは、購入を検討しているGAPのアイテムを選択します。Google Tango(GoogleのAR技術)対応の端末でアプリを利用すれば、衣服をいつでも・どこでも「試着」でき、気に入った商品はオンラインで購入することができるとのこと。
アパレルEC向けバーチャル試着サービスを提供するAvametric社と開発したそうです。GAPの公式ブログでは開発の狙いなどを次のように記載しています。
ファッション業界では、実際に衣類がどれほどフィットするか、人々に理解してもらうことに対してこれまで協力的ではありませんでした(注:見た目の良いモデルが着ていた製品を消費者が手にとって試着した時の失望感、私にはよくわかります)。GAPは、顧客の見た目や気分を良くする製品を一貫して紹介し、お届けするプロセスに技術を活用することで、顧客の信頼を勝ち得ることに務めています。
-GAPの公式ブログから引用
他の企業の事例も紹介しましょう。Googleの「Tango」を利用し、スマートフォンを店内にかざすことによって、ARで通路に矢印を表示し、顧客が求めている商品に誘導する取り組みが公開されました。
また、購入前の商品を自分の部屋に置いたら、どのくらいのスペースを取られるのかといったサイズ感をARで表示させるという事例もありました。たとえば、32インチと40インチのテレビでは、部屋に置くとどう見え方が異なるのか――といったことが紹介されました。
確かに、家電や家具はサイズなどのスペックを数字で説明されても、実際に置いてみなければイメージがわかないですよね。こうしたことを踏まえると、数年後の日本のネット通販市場でVRやARが活用されているのかもしれません。
店頭コミュニケーションを変えるデジタルサイネージの進化
デジタルサイネージの技術も進化しています。次の写真は、展示されていたハイヒールを手に取り、実際に履いてみた映像や商品詳細情報などをディスプレイに表示する取り組みのものです。
実店舗で販売している商品の価格タグにQRコードを付け、スマホで読み込むと商品の詳細情報が掲載されているページに移動できる取り組みが話題になったのは3年ほど前でしょうか。
実は僕、その取り組みが話題になったとき、ニューヨークの店内で1時間ほど粘って観察してみたものの、1人しか試さなかったため、「店舗内で商品情報を知りたいというニーズはそんなにないのかな?」と思っていました。
ただ、商品を手に取るだけで詳細情報をディスプレイに表示できるようになると、新しい店頭コミュニケーションの手法として活用できるシーンはあるのではないかなと感じました。