野間 和知 2017/5/9 7:00

ECテクノロジーやマーケティングは日本の先を行くと言われる米国のネット通販市場。日本でも注目を集めているAI(人工知能)、会話型ECについて、米国のEC企業らはどう捉えているのか? 決済ビジネスの進化は消費者の買い物行動にどんな変化をもたらすのか? 店舗とECの関係性はどうあるべきなのか? こんなテーマで米国の最新ECトレンドをご紹介します。

AIを使ったカンバセーショナルコマース、会話型ECは「手探り状態」

日本でも話題になりつつあるのが会話を通じたオンラインショッピング。アメリカではConversational Commerce(カンバセーショナルコマース)と呼ばれていて、日本ではチャットなどを活用した「会話型EC」という名称が一般的でしょうか。

「Shoptalk」(AppleやAmazonなどの企業が登壇する小売業向けの大規模カンファレンス)では、AI(人工知能)やカンバセーショナルコマースについてのセッションで、「チャットを経由した際、商品購入のコンバージョン率は5倍高い」といった発言がありました。

AIを活用したチャットボットや、小売業でのAI活用などの事例が日本でも華々しく聞こえてきます。しかし、現地で感じたのはまだまだ手探り状態であるということ。業界全体が試行錯誤している様子でした。

ただ、AIやカンバセーショナルコマースの仕組みを導入する大手企業は増え続けているため、無視することはできないテーマになっています。セッション内では日本の大手アパレルの名前を明らかにし、AIを導入した取り組みが始まっていると説明されていました。

こうしたテクノロジーは、活用方法が一度定まると一気に広まりますよね。データの蓄積が何よりも重要なAI分野で、先行者利益を獲得する企業も出てくることでしょう。

アメリカでも手探り状態の会話型ECですが、AIといった最新テクノロジーを利用しない、つまり“人対人”のカンバセーショナルコマースで、顧客を伸ばしている成功事例が紹介されていました。

ファッションコーディネートをチャットでのやり取りだけで提案する「スタイリストサービス」は、顧客獲得に成功と説明されていました。忙しいエグゼクティブ層から高い支持を受けているようです(実は3年前にもアメリカでこの取り組みについての発表を聞いたことがあります)。

AIなど最新テクノロジーを使ったカンバセーショナルコマースが日本で浸透するのはまだまだ先かもしれませんが、コミュニケーションを通じた新しい販売手法自体は、日本でも増えていくかもしれません。

実際、私の所属会社で提供しているECプラットフォーム「FutureShop2」の導入企業では、LINE@を使ってファッションのアドバイスを1人ひとりに行っている店舗さまがいます。また、LINEの「Official Web App」オプションを導入することで、顧客とコミュニケーションを通じてファンとのつながりを強化する店舗さまも増えています。

今後、会話型ECが日本でどのような展開を見せるのかはまだ未知数ですが、顧客接点としてLINEのようなメッセージングアプリがECでも活用の幅を広めていくのは間違いないでしょう。

新しいショッピングの形を示した「Google Home」

対話型のAIの活用事例では、音声認識デバイスの「Google Home」(グーグルホーム:会話型AIのGoogle アシスタントを搭載したスマートホーム機器)が実際に稼働しているところを初めて見ました。

デモでは「今晩のパーティーで必要なベロアのオペラシューズを探している」という条件で話しかけたものの、会場が満員御礼のためか、「インターネット接続がありません」と何度も音声で返されてザワつく場面も。

ECは最新のテクノロジーでどう変わる? 決済の未来、AI、リアル戦略など米国EC最前線 AI活用事例で、音声認識デバイスの「Google Home」との会話が披露
AI活用事例で、音声認識デバイスの「Google Home」との会話が披露されました

無事に接続できた「Google Home」が音声で返した答えは「ここから何マイル先にあるデパートで●●ドル、何マイル先のデパートでは△△ドル」など、複数の選択肢を提案していました。

「すぐに必要なのか」それとも「安く手に入れたいのか」など、考えられる状況を先回りして分析コンシェルジュのように気の利いた回答をするなぁと感じました。

「Google Home」は、在庫の有無、現在地からの距離、配達などの手に入れやすさ、価格の安さなど、さまざまな条件で商品を探してくれるそうです。今後、情報入力や検索のあり方が変わっていくのか? こんなことを感じました。

ちなみに、「Google Home」にはコマース機能が2017年2月に追加されました。スマートフォンにダウンロードした「Google Home」のアプリ(iOS・アンドロイド対応)を開き、設定画面でクレジットカード情報と配送先を入力すると、すぐに買い物をすることができるようになるそうです。

ネットショップ担当者フォーラムの記事によると、Bed Bath & Beyond(インターネットリテイラー社発行「全米EC事業 トップ500社 2016年版」第67位)、PetSmart(第340位)、Costco Wholesale(第8位)など、すでに50社以上の小売業者が「Google Home」を通じた商品販売を始めているそうです。

ECは最新のテクノロジーでどう変わる? 決済の未来、AI、リアル戦略など米国EC最前線 Googleのブログでは、「Google Home」に話しかけるだけで買い物ができると説明されている
Googleのブログでは、「Google Home」に話しかけるだけで買い物ができると説明されています

「チェックアウト」が重要ではなくなる日

決済分野のFintech(フィンテック)も重要なテーマです。さまざまなペイメントサービスがひしめき合っているアメリカですが、今回のイベントでは、「Amazon Pay」(Amazonのアカウント情報を使って配送先指定やクレジットカード決済などができるサービス)「AliPay」(アリババグループの決済サービス)「Samsung Pay」(サムスンが提供する決済サービス)「Android Pay」(Googleが提供する決済サービス)を提供する4社の責任者が登壇するという豪華なディスカッションが行われました。

余談ですが、「Apple Pay」(アップルが提供する決済サービス)は別セッションで登壇していました。「どうせなら同じ場で意見を聞いてみたかった」というのが参加メンバーの共通認識。

ECは最新のテクノロジーでどう変わる? 決済の未来、AI、リアル戦略など米国EC最前線 「Amazon Pay」「AliPay」「Samsung Pay」「Android Pay」を提供する4社がディスカッション
「Amazon Pay」「AliPay」「Samsung Pay」「Android Pay」を提供する4社が登壇

このパネルで最も印象的だったのが、Amazon Pay責任者が話した次の言葉。

In time, idea of checkout will fade. Moment of truth is the check in.(やがては、決済などの「チェックアウトする」という考えは薄れていくだろう。お客さまがその企業を判断する真実の瞬間は「チェックイン」だ)

このセッションで重要な言葉だと思ったので私なりの考えを説明します。買い物をする際、「これを買おうと決めた」「次もここに来よう」と思う瞬間があるでしょう。そのタイミングを英語で「Moment of truth」と言ったりします。顧客接点は今まで会計をする時でしたが、将来的には実店舗やECへの来店時に変わっていく――こんなお話だと私は理解しました。

「何を探しているのか」「どのような接客スタイルが好みなのか」など、企業側は来店時に消費者を理解することで、顧客に合った接客ができるようになり、競合他社と差別化できる顧客体験を提供できるようになる。または、店舗運営の省力化が図れる……そんなシナリオが描かれているのかもしれません。

また、Amazonといえば2016年にテストオープンした「Amazon Go」が話題ですよね。「Amazon Go」のテクノロジーについて、ネットショップ担当者フォーラムの記事は次のように記載しています。

「Amazon Go」はその場でお金を支払う必要がありません。この技術は、自動運転と同じ、「コンピュータービジョン」(Computer Vision)「センサーフュージョン」(Sensor Fusion)「ディープラーニング」(Deep Learning)を使っている。「(モノを)取ってから(そのまま)出る」(Just-Walk-Out)技術は、商品がピックアップされたり戻されたことを自動的に認識し、消費者のバーチャルショッピングカートにデータを渡している。

こうしたことを踏まえると、Amazonが提供する決済ビジネスの将来像がわずかながら垣間見ることができました。

「Amazon Go」に搭載されている技術について紹介している動画(編集部が追加)

データ活用の波が実店舗などのリアルな世界にも

「Shoptalk2017」のトピックはいろいろありましたが、大きな共通意識としては「テクノロジーや自社が持っているデータをいかにして経営に役立てるか」ということ。今回登壇された企業の方々の発言からも、こうした課題解決の方向性を感じました。そのキーワードは2つ。「データ活用」と「Connected Commerce(コネクティッド・コマース)」です。

データ活用

ECなどのデジタルな世界は、収集したデータを活用できることが大きなメリットになります。たとえば、顧客を条件分けした上で販促施策を実施することで、「どの層に」「どのような効果があったのか」「またはなかったのか」を知ることができます。

その結果を元に、より良い顧客体験を提供できるように改善していくことが、デジタルな世界でのデータの持つ価値でしょう。

アメリカではデータ活用の流れが実店舗にもやって来るであろうという兆しを感じました。実店舗でも顧客の購買プロセスや購入後のさまざまな行動が徐々に可視化され、データとして取得・活用されてきています。実際にそういったツールの展示、事例が紹介されていました。

例として、上質な家具を販売するcrate&barrelは、店内での接客にiPadを利用。接客相手が誰かを特定しながら、「個客」として対応。パーソナライズされた接客を行っているそうです。

実は3年前も似たような取り組みとして、ラグジュアリーブランドの事例が紹介されましたが、その時は参加者もまばらで「まだまだ先の話かな…」という反応でした。ですが、今回は多くの参加者が「店舗のデータ活用」へ熱心に耳を傾けている姿を目にしました。

Connected Commerce

何度も耳にしたのが「Connected Commerce」。テクノロジーやデータを資産として捉え、それをフルに活用しながらECや実店舗など、顧客接点の全てが一体となって顧客起点の経営の実現に向かうことを意味しているのだと思います。

以前はECが成長すると実店舗の売上は下がると予想されていたが、ECの成長に伴い実店舗も同じく成長している

これは今回のカンファレンスで言及された実店舗とECの関係性についてのお話の一部。「実店舗 vs EC」ではなく、「実店舗 × EC」の相乗効果が売り上げなどの業績に大きく寄与することが示されました。

ECは最新のテクノロジーでどう変わる? 決済の未来、AI、リアル戦略など米国EC最前線 店舗販売を行う会社(Brick & Mortar)とEC(ONLINE)は、その相乗効果が業績アップに寄与する
店舗販売を行う会社(Brick & Mortar)とEC(ONLINE)は、その相乗効果が業績アップに寄与すると示された図

今後も「Connected Commerce」の考え方を軸に、テクノロジーやデータの活用がさらに進化し、顧客の気持ちをつかんで離さない取り組みが小売業で実現されることでしょう。

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