ebrun 2016/12/22 9:00

アマゾンが2015年にオープンした実店舗の書店がオフライン発のただの小売店だったら、「Amazon Go」は「革命的」と言えるでしょう。

北京時間の12月5日夜、アマゾンは1分49秒間のプロモーションビデオをYouTubeにアップしました。内容は「Amazon Go」について。同時に、シアトルで「Amazon Go」をオープンしました。現在はテスト段階で、アマゾン社員だけが利用できる状況です(2017年初めに正式オープン)。

米アマゾンがテスト運営している「Amazon Go」

米アマゾンがテスト運営している「Amazon Go」

この新型小売ショップ「Amazon Go」の敷地面積は1800平方フィート(約167平方メートル)で、主な取扱商品は即席食品と生鮮食品。ショップ内にはセンサーを設置し、リアルタイムでいろいろなデータを計測します。

アマゾンによると、「Amazon Go」と一般小売店の大きな違いは、列に並んで支払いをする必要がなく、レジすら置いていないこと

利用者は店に入る時、「Amazon Go」のアプリを開いて表示されたQRコードを、入口にある自動改札のようなゲートにかざすと入店できる仕組み。消費者が商品を取る動作、戻す動作もセンサーによって計測。その大量のセンサーがリアルタイムで変化するデータを利用者のアプリに送ります。商品を選び終わると、支払いなしでそのまま店から出ることができます。アプリはクレジットカード情報が紐付けられているので、自動支払いができる仕組みになっています。

「楽をする」行為の追及にはビジネスチャンスがある

アマゾンのプロモーションビデオでは、「Amazon Go」を次のように紹介しています。

「Amazon Go」はその場でお金を支払う必要がありません。この技術は、自動運転と同じ、「コンピュータービジョン」(Computer Vision)「センサーフュージョン」(Sensor Fusion)「ディープラーニング」(Deep Learning)を使っている。「(モノを)取ってから(そのまま)出る」(Just-Walk-Out)技術は、商品がピックアップされたり戻されたことを自動的に認識し、消費者のバーチャルショッピングカートにデータを渡している。

この動画からわかるのは、「Amazon Go」には多くのAI技術が使われていること。そして、「コンピュータービジョン」「センサーフュージョン」と「ディープラーニング」という3つの重要な技術が含まれていることです。こうした技術があったこそ、「列に並ぶことなく、その場で支払うことなく」(No Lines. No Checkout.)買い物ができるようになったのです。

この「Amazon Go」について、小売り研究を手がけるConlumino社のNeil Saunders社長は、次のようにコメントしました。

レジ決済は今でも実店舗ショッピングで効率が悪い部分。これが省ければ、人的コストが削減できるほか、消費者の支払い体験が向上するはずです。

モバイルマーケティングサービス・プロバイダーの費芮互動(very starの蒋美蘭CEOも、「『Amazon Go』はショッピング最後の支払い行動を最大限に便利にするほか、消費決定の工程についても簡単に解析できます。顧客が商品を買おうとしたが躊躇した、ピックアップしたが棚に戻した行為を認識できます」と指摘。蒋氏は続けて次のように話しました。

「楽をする」行為の追及にはビジネスチャンスが潜んでいて、「Amazon Go」にはオタク経済と利便性の両方が含まれています。ショッピングにおけるモバイル決済は、利便性の向上につながる1つのソリューション。ですが、「Amazon Go」は利便性、「並びたくないほど楽をしたい」ということを具現化し、消費行動の最短化をとことん極めたのです。

ドライブスルー型の店舗もオープンする予定

「Amazon Go」について、多くの海外メディアがこんな一般論を報道しています。

「Amazon Go」が成功すれば、伝統的な実店舗、また小売業界の従業員に対してどれだけの衝撃を与えるのだろうか。

「Amazon Go」はアマゾンの四か年計画プロジェクトの一部分で、オフライン小売に関する計画のごく一部かもしれません。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アマゾンでは現在、3種類のオフラインのコンセプトストアを研究開発しています。将来的には規模の異なるスーパーやコンビニを2000軒以上オープンする予定だそうです。

他の2種類のコンセプトストアの規模はコンビニ型の「Amazon Go」より大きいとのこと。ドライブスルー(drive-through)ストア(車を運転しながら商品を受け取る)は、数週間後同じシアトルでオープンする見込みです。

ある評論によると、「Amazon Go」の開設はアマゾンが食品雑貨業界への進出を意味します。この商品カテゴリーはアマゾンがまだ制覇できていない分野です。技術研究とコンサルティングを手がけるJackdaw Research社のアナリスト・Jan Dawson氏は次のようにコメントしています。

アマゾンは今までのECモデルがすべての商品に適するとは限らないことに気付きました。アメリカでさまざまな形態の実店舗が数百軒もオープンしたら、伝統的なスーパーにとっては大きな脅威になると思う。

アマゾンがターゲット(Target)やウォルマートといった大手小売業者のライバルになるとは限りません。牛乳やパンなどの食品以外、「Amazon Go」では朝・昼・夕食のファーストフードも提供します。チポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)のようなファーストフードチェン店の潜在的なライバルになる可能性もあります。

ジャック・マー氏「ECがなくなり“新しい小売り”が出てくる」

2016年10月に杭州で行われた雲栖大会(The Computing Conference)で、アリババグループ会長のジャック・マー氏は次のようなことを提唱しました。

10年、20年後の未来に、「EC」がなくなり、代わりに「新しい小売」が出てくるだろう。これはオフライン、オンラインと物流の融合である。

「Amazon Go」が身をもって示したのはこの「新しい小売」のこと。新しい技術、新しいビジネスモデルの検証には時間がかかります。しかし、その買物体験が「新しい小売」を探っている業者に対し、新しいアイディアを出してくれたことは否定できません。

中国ECは各分野で世界をリードしていますが、なぜ「新しい小売」ではアマゾンに先手を打たれたのでしょうか。これについて、新郎微博(Weibo)ユーザーから、次のようなコメントが寄せられました。

重要なのは実店舗の開設ではなく、あれだけの凄い技術を店舗内に応用し、消費者の動作を認識して何を購入したのかを識別することにあります。中国のEC会社で、あれだけ凄い技術を持っているところはまず少ない。

また、EC業界に携わるあるユーザーはこう指摘します。

中国ECは多くの分野でアメリカを超えた。しかし、多くがまだ売買という基本行為にとどまっています。一方、アメリカ人が求めているのは「面白さ」や「世界を変える」こと。これは物質と経済基礎で決められたのかもしれません。

費芮互動(very starの同蒋CEOは、こう言います。

これは技術力と価値観で決められたものです。アメリカの企業が技術創造に優れていることは多言する必要がありません。強調すべきことは、結果を問わず、市場に受け入れられるかどうかも問わず、強いチームが長期間を費やして研究開発を続けたことにある。中国のEC市場は激しい競争が繰り広げられています。うっかりすると他の企業に追い越されるため、研究開発を続けられる会社は少なくなってしまいます。

小売業界は「ほら、アメリカのEC会社は最終的に実店舗を開くじゃん、実店舗の復活じゃん!」といった声があがります。多額の投資で自社店舗の内装を行っている風景を見るたびに、私は悲しくなります。ECとオフラインのビジネスに関する最大の差は、「解決策の提供」にあります。モバイルデバイスなどで消費者へ利便性を提供することであり、単に店舗の内装を変えたりすることではないのです。

「Amazon Go」は消費行動を手助けする1つの解決策であり、単純な実店舗ではありません。外出する必要はあるが、利便性を求める人たちのニーズを解決することができます。買い物を早く済ませて、支払いも並ばずに済ませることができる――。これはコンビニエンスストアのようなもの。商品は、朝食か昼食のファーストフードのような外出時の必須商品カテゴリーがあれば大丈夫なのです。多くの人は会社へ出勤し、食事をしなくてはなりません。「Amazon Go」は最大の利便性を還元しているのです。

No Lines.No Checkout.

「Amazon Go」の特徴は、「列に並ぶことなく、代金を支払うことができる点

もちろん、中国にも新型のOtoOスーパーの盒馬鮮生があり、生鮮食品と日用消費財をメイン商品として扱っています。盒馬鮮生には3つの特徴があります。

  1. 支払方法はアリペイ(Alipay)のみ。オンラインとオフラインのキャッシュフローの統一とデータ統合が実現できる
  2. オンラインとオフラインとの情報の壁をなくし、実店舗とアプリの相互連携が可能
  3. 伝統生鮮食品の売買モデルを変革し、ユーザーに多くの選択肢を与えることができる

しかし、支払いという点では、盒馬鮮生は「Amazon Go」に太刀打ちできません。モバイル決済は未来の新しいビジネスモデルへの出入口となりますが、列に並ぶ問題を解決できませんし、消費行動に関する意思決定問題も解決してくれません。言い換えると、オフラインでアリペイ決済する時はレジを通過することが必要です。「Amazon Go」のように、消費者が商品を選ぶ過程を計測することもできません。

また、「Amazon Go」と比べると、京東到家(京東グループの宅配サービス企業)のような生鮮OtoOプラットフォームは臨場感のある消費体験が欠けています。大切なのは、「Amazon Go」以外に、アマゾンが計画中のさまざまな業態の実店舗はすべて「新しい小売」だということです。中国EC企業は恐らくそこまでクールなビジネスを展開することはできないでしょう。

もしかしたら、中国のEC業界が「新しい小売」を実現するには、アメリカから学ぶことかもしれません。

同蒋氏がコメントしたように、オンラインとオフラインの融合を進めるために最も必要なことは「問題の解決」なのです。

消費者の潜在意識として、ECを通じて提供するサービス体験は、実店舗でも提供してほしいものです。だから、実店舗の解決策は外見をきれいにする、クールにすることではありません。消費者が期待している買物体験を提供することにあります。たとえば、便利に返品・交換できるようにすること商品詳細の説明を簡潔・明瞭にすることスタッフの応対を親切・丁寧にすること、なのです。

中国の実店舗はこうしたことを切り口にして進化すれば、アメリカを逆転する余地はまだあるでしょう。

 

  • この記事は『ebrun』より本誌が記事提供を受け、日本用に翻訳、編集したものです。
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