現在地

米国のEC企業ではいま、「いかにして上質な顧客体験を提供するか」が課題となっているようです。米国で開かれた小売業向けカンファレンス「Shoptalk」に参加し、AppleやAmazonなどIT企業、大手EC企業などのセッションを聞いてこのように強く感じました。

ECテクノロジーやマーケティングは日本の先を行くと言われる米国のネット通販市場。米国のEC企業は“顧客との強いエンゲージメント”を生み出すために、デジタル化を推進しているという印象を強く感じました。

メーカーの枠を超えたペプシコの顧客体験の提供

“デジタル化”というキーワードから、EC企業は「テクノロジーや大量のデータを駆使して、売り上げを伸ばす・業務を効率的に回していく」といったイメージを抱くのではないでしょうか。

もちろんこうした側面はあります。ただ、ECという観点で言えば、販売事業者の思いをコンテンツ(商品ページや商品紹介動画、お悩み解決Q&Aなど)として作成、デジタルの力でターゲットとなる消費者に届け、顧客との接点を強化し、エンゲージメントを高める――といったエモーショナルな一面もあると気づきました。

このコンテンツが持つ力に注目したのが食品・飲料メーカーのペプシコです。デジタル化を推進する目的は「デジタルやリアルを問わず、誰かに伝えたくなるような経験を提供する」ことです。

ペプシコがデジタルを駆使するのは、SNSといったネットの世界で多くの消費者へ情報を届け、「気付いてもらい」「語られる」存在になること。そのための手段として、デジタルを駆使してコンテンツ(商品、体験など)を通じた顧客体験の提供に取り組んでいます。

自社のブランドに触れたり感じたりできる「体験型目的地」と称する存在となるための施策、利用者に世界観への「共感」を得てもらうための取り組みを紹介しました。

具体的には、ペプシコの商品を利用したドリンクを雰囲気の良いバーで提供したり、音楽に関する催しをしたり、プロダクションとしてショートフィルムを発表したり……。メーカーという枠を超える活動を通じ、さまざま年代にリーチできるようなコンテンツを提供しています。

ペプシコのデジタル活用を紹介するShoptalkでの講演スライド
自社製品を使ったドリンクを提供したり、音楽イベントを主催するといったペプシコの取り組みを紹介するスライド(筆者撮影)

ペプシコのセッションでは強烈なメッセージが聴講者に投げかけられました。短いメッセージですがとても大きなインパクトを残しました。それが次のような内容です。

Publish or Perish.(発表するか、滅びるか)

元々はアカデミックな言葉ですが、企業活動として「語られる存在になる」ためにコンテンツを作り続けて発信していくペプシコの姿勢を表しています。「自分たちは、サービスを通して何を語り」、そして、その結果「自社の活動がどのように語られているのか」。EC関連企業で活動する者として、“語る”“語られる”という意味を今一度考えてみるいい機会になりました。

ペプシコのデジタル活用を紹介するshoptalkの講演では、「Publish or Perish.(発表するか、滅びるか)」という強烈なメッセージが投げかけられた
自分たちのビジネスの意義や価値を多面的に、そして継続的に消費者に伝えなければ、自社の存在は危ないという意味があるとのこと。ペプシコの登壇者は会場に強烈なメッセージを投げかけました(筆者撮影)

デジタルの利活用で「実店舗での特別な体験の提供」が進む

デジタル化の波は、米国の実店舗業界にも変化の波をもたらしています。“実店舗での特別な体験”を提供する仕組み作りの武器として、デジタルが利活用されている印象を持ちました。

住宅リフォーム・生活家電チェーンのLowe's(ロウズ)のセッションでは、店内に設置したロボットが接客や在庫情報の管理をするといった取り組みが紹介されました。

消費者が探したい商品をロボットに音声入力形式で伝えると、ロボットが目的地まで案内します。また、在庫管理もリアルタイムで行うことができるそうで、実店舗でのロボット活用は、顧客や従業員の双方にとってメリットがあると説明されていました。ちなみに、このロボットは、2017年中にサンフランシスコのベイエリアで本格展開される見込みです。

Lowe'sが手がけるロボットによる店頭接客の紹介動画
Lowe's(ロウズ)のセッションでは、店内に設置したロボットが接客や在庫情報の管理をするといった取り組みが紹介された
接客を行うLowe'sのロボット(出典はLowe'sのリリース
Lowe's(ロウズ)のセッションでは、店内に設置したロボットが接客や在庫情報の管理をするといった取り組みが紹介された
接客を行うLowe'sのロボット(出典はLowe'sのリリース

化粧品販売のSephoraは、実店舗で展開しているARサービス「Virtual Artist」を紹介。タブレットサイズのディスプレイに利用者の顔を映し出し、好きなメイクアップ製品を選択すると瞬時にメイク後のイメージを表示してくれるARサービスです。

Webサイトでも「Virtual Artist」を利用することができる(画面下にはネット通販への誘導を設けている)

僕も試してみたのですが、口も目もメイクがずれることなくメイクアップされた顔がスマホに表示されました。写真は皆様の夢に出てきそうなひどいものなので、ここでは割愛を。参考までに次の動画をご覧ください。女性の意見を伺うと、商品を試した後洗い流す、といった手間もなく、気になった商品を一度にたくさん、気軽に試せて良いとのこと。

「Virtual Artist」の紹介動画

「Virtual Artist」はWebサイト、スマートフォンのアプリでも利用することができますが、大きな効果を発揮するのはやっぱり実店舗。「より良い顧客体験を提供できるサービス」と感じました。

利用者は「Virtual Artist」でたくさんの商品の中から自身に似合うメイクをデジタル活用により効率的に見つけたら、後は実物を試したり、ビューティーアドバイザーにメイクアップしてもらったり、アドバイスを受けたり……つまり、利用者の選択肢を増やすことができるのです。

選択肢が増えるとどんな効果があるのか? それは、利用者が望む最適な形、つまり納得した上で商品を購入できるようになるのです。実店舗が持つ顧客接点の価値=顧客体験を最大化できるデジタル活用の取り組み、だと思いました。

また、Sephoraではスマートフォンのアプリを会員証代わりに使用し、顧客の購入履歴を実店舗と自社EC両方から蓄積しています。顧客はアプリからECで再度購入したり、「Virtual Artist」で新しいアイテムを試したり、実店舗で行っているメイクアップレッスンのクラスをアプリから予約したり――スマートフォンをハブに”Connected Commerce(コネクティッドコマース)”を実現し、エンゲージメントを高めています。

”Connected Commerce(コネクティッドコマース)”は、テクノロジーやデータを資産として捉え、それをフルに活用しながらECや実店舗など、顧客接点の全てが一体となって顧客起点の経営の実現に向かうことを意味しています。

デジタル化によって1つひとつの顧客接点の価値を最大化し、エンゲージメントを高めていく――僕は、こんな企業活動が将来にわたって進んでいくのであろうと、「Shoptalk」で披露された事例から想像することができました。2018年はどのような新しい取り組みが発表されるのでしょうか? また来年も皆さんに米国ECの最新トレンドをご紹介できるようにしたいと思っています。

この記事が役に立ったらシェア!
記事種別: 

野間 和知

株式会社フューチャーショップ 事業戦略部

野間 和知(のま・かずとも)

株式会社フューチャーショップ 事業戦略部

大阪府出身。早稲田大学人間科学部卒業後、通信会社に勤務。その後、クラウドブーム直前のデータセンタ事業者でサービス企画や政府に対する提案資料作成などを担当。

1年間台湾で過ごした後、2012年7月に株式会社フューチャーショップへ入社。マーケティングや広報、データ活用を担当。「いいコマースとは何か?」を考えるブログ「ヒトテクラボ」の運営も行っている。

ネットショップ担当者フォーラムを応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]

[ゴールドスポンサー]
楽天株式会社 eBay(イーベイ) ecbeing. Qoo10
[スポンサー]
株式会社アイル Wowma! クリームチームマーケティング合同会社 ユーザグラム