日本開催は見送られたAmazonの「プライムアーリーアクセスセール」、結果はどうだった?
Amazonの「プライムアーリーアクセスセール(Prime Early Access Sale)」では、低価格帯の商品を販売する業者は2日間のセール期間中に売り上げを伸ばしましたが、広告料金の上昇が利幅を圧迫しました。
「プライムアーリーアクセスセール」の結果は、インフレ懸念が高まるなか、消費者が高額商品への出費を避けたことを示しています。この2日間のセールで年末商戦の幕開けを期待した事業者にとっては、複雑な結果でしょう。
サードパーティや研究者はまだ推定値を算出し切れていないものの、市場調査会社Numeratorが行った調査(対象はアーリーアクセスセールを利用した1025人)によると、初期段階では、テレビ、デスクトップコンピュータなど高額商品を扱う小売事業者が「プライムアーリーアクセスセール」では不利だったことが示唆されています。
一方、Amazonのマーケットプレイスで低価格の商品を販売する事業者は、好調に推移しました。Numeratorによると、セール初期に購入された商品の約58%は販売価格20ドル未満であり、消費者が支出を抑えたことを示しています。
Amazonによると、プライム会員が「プライムアーリーアクセスセール」の期間中に販売者から注文した商品は1億点以上にのぼったそうです。米国で最も売れた商品には、Apple AirPods (2nd Generation)、化粧品の「Laneige Lip Sleeping Mask」、サプリメントの「Vital Proteins Collagen Peptides」、歯のホワイトニングキット「Crest 3D Whitestrips Professional Effects Teeth Whitening Strips」などが含まれています。Amazonはドルベースの数字を発表していません。
製菓・製パンの器具などをネット販売するAnn Clark Cookie Cuttersのeコマース担当ディレクターであるトム・ファンク氏によると、Amazonでの売り上げは平均より15%ほど伸びたと説明します。ただ、「多くの販売者にとって、この時期は主にホリデーシーズンに向けた準備期間だった」と補足します。
Amazonにとって、ハロウィン自体が繁忙期であり、クッキーカッターや製パン用品には季節ニーズがあります。私たちは、割引やアーリーアクセスプロモーションを提供していません。多くの販売者がインフレ圧力を感じていると思うので、値引きは控えめになるでしょう。
Amazonプライムアーリーセール期間中のプロモーションや割引の様子
オーガニックティーのネット販売を手がけるArt of Teaのハンナ・ホウグルム副社長によると、イベント期間中の売り上げは平日と比較して35%増加しました。しかし、広告費の高騰、Art of Teaの商品ページでAmazon専用のクーポンを利用する消費者が増えたことで、利益率が圧迫されました。
セール期間中、クーポンの利用率が約20%上昇し、消費者が製品の特別割引に大きく影響されたことがわかりました。また、キーワード広告の効率はセール期間中大幅に低下し、主要なブランドキーワードの入札価格が大幅に上昇しました。ただ、売り上げは通常の火曜日と水曜日に比べて約15%から20%増加しました。(ハンナ・ホウグルム副社長)
7月に行われたプライムデーの売り上げは、「プライムアーリーアクセスセール」よりも約25%、投下した広告費に対する利益率も20%ほど高かったとホウグルム氏は総括します。
ブラジャーを販売するLeading Ladyは、「プライムアーリーアクセスセール」の期間中、Amazonストアで割引を提供し、直販サイトでもセールを実施しました。eコマース&マーケティング・ディレクターであるバーバラ・シアーズ氏は、次のように語っています。
2022年も、人々が買い物をする時期が早まるとメディアが騒ぎました。ですので、早い時期に広告へ資金を投じてトラフィックを取り込もうとしました。
その戦術は成功しました。Leading Ladyが運営するAmazonストアのセール期間中の売上高は、「プライムアーリーアクセスセール」期間前の2日間と比較して30%増加。一方、自社ECサイトの売上高も40%以上増加しています。
Amazon以外のECサイト、セールニーズを取り込む
EC売上高上位100社のうち80社が、「プライムアーリーアクセスセール」期間中に自社ECサイトで何らかのプロモーションを実施しました。
米国のEC専門誌大手『Digital Commerce 360』が100社の小売事業者を対象に行ったWebサイトの調査によると、小売事業者の8.8%がAmazonの「プライムアーリーアクセスセール」と直接競合するようなキャンペーンを実施。7月のAmazonプライムデーイベント期間中にセールイベントを実施した38.0%(79の小売事業者)よりも減少しています。
また、「プライムアーリーアクセスセール」で割引販売を実施した小売事業者は、71.3%にとどまりました。
ただ、Salesforceの推計によると、一部の小売事業者は「プライムアーリーアクセスセール」ニーズの先取りに成功しました。
- 2022年のプライムデー期間中の小売企業の売り上げは、2021年実績と比較すると前年比で2%しか伸びませんでした。しかし、「プライムアーリーアクセスセール」期間中は2021年の比較可能な週末と比較して10%増加しています。
- 2022年のプライムデー期間中の小売企業の売り上げは、2020年の同時期と比較すると19%増。ブランドやTargetのような小売事業者がセールイベントを早期に開始したことで、業界は平日のプライムイベントよりも先に消費者ニーズを獲得することに成功しました。
また、Amazon以外でも、小売事業者が値下げを実施したとSalesforceは説明しています。
「プライムアーリーアクセスセール」のセール期間中、Amazon以外のECサイトでは平均21%強の割引が行われました。これは、前年比25%増の割引率です。Salesforceによると、感謝祭からサイバーマンデーまでのサイバーファイブ期間以外では、コロナ禍スタート以来、最も大きい割引率になったそうです。
これらのデータは、世界 64か国以上、15億人以上の消費者の行動とオンラインショッピングの統計データを分析しているSalesforceのShopping Indexを活用。また、より広範な小売業界のマクロ経済的な数値を推定するために、いくつかの要素が適用されています。
インフレへの懸念
セール期間中、小売事事業者と消費者の双方がインフレを懸念していたことが明らかになりました。
セール終了翌日の10月14日、米国労働統計局は、9月のインフレ率が前年同月比8.2%上昇したと発表。この1年で食費は11.2%上昇し、家計は裁量支出を減らすようになっています。
取引追跡サイトBlackFriday.comのショッピング専門家であるクリスティン・マクグラス氏は、インフレ圧力によって消費者が大きな買い物を敬遠するようになったとBloomberg Newsに答えています。
セール期間中の多くのテレビ通販は驚くほどお得でした。しかし、次の食料品の支払いに不安を感じている人が買いたいと思うようなものだったかどうかは疑問です。(マクグラス氏)