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クラフトビールファンから「よなよなエール」などが支持され、18年連続増収を続けるヤッホーブルーイング。マスプロモーションではなく、長年続けているファン向けのイベント、時代の流れ、消費者ニーズに応じた独自の施策によって認知度を広げ、新規顧客を獲得、そしてファン育成を続けてきた。

コロナ禍においてもSNSを活用したオンラインイベントなどのファンコミュニケーションを継続。環境の変化に応じて綿密にニーズを汲み取り、ひたむきにファン作りに取り組んでいる。近年成長しているサブスクリプションサービスを含めたファンマーケティングの取り組みを、ヤッホーブルーイング コンシューマー事業部門 事業統括の望月卓郎氏が解説した。

ヤッホーブルーイング コンシューマー事業部門 事業統括
望月卓郎氏

ヤッホーブルーイング コンシューマー事業部門 事業統括
望月卓郎氏
人材ベンチャーの創業に携わったのち、2009年に成長前夜のヤッホーブルーイングに入社。EC店長となり、楽天市場店の10年連続SOY受賞のほか、多店舗展開・SNSの取り組み・バックヤード改革を推進。ヤッホーのEC事業の基盤をつくる。2018年より、コンシューマー向け事業全般の事業統括に就任。運営サイト「よなよなの里」は、2021年全国ネットショップグランプリを受賞。

99%を大手が占めるビール市場。クラフトビールブームによりクラフトビール事業者が急増

ヤッホーブルーイングは大変熱量のあるファンから支持されているが、ファンマーケティングのベースとなる業界の背景やポジショニングについて示したのが以下の2つのグラフだ。

ファンマーケティングのベースとなる業界の背景やポジショニングについて2つのグラフ

右の「クラフトビール ムーブメント」のグラフは、2010年以降、小規模なクラフトビール事業者が増えてきたということを表す。テレビや雑誌でもクラフトビールが取り上げられることが増え、米国のクラフトビールブームが引き金となって、2015年前後から急激に新しい事業者が増えているという。

左は国内のビールメーカーのシェアで、大手ビールメーカーとクラフトビールメーカーのシェアの差を表したグラフ。出荷量ベースでは市場の約99%を大手メーカーが占めており、クラフトビールメーカーは1.3%に過ぎない。「図には400社とあるが、直近の情報では約500社(500ブルワリー)と言われている。つまり数社の巨大メーカーと400社~500社の小規模なクラフトビールメーカーがひしめき合っている状況」(望月氏)

ヤッホーブルーイングのアドバンテージとは

そんな状況下、26期を迎えるヤッホーブルーイングが続けてきたこととは何か。それは消費者認知のための活動だ。

多数のファンに支持されるためには、前提としてまず商品を知ってもらい、認知されることが必要。そのためには消費者とのタッチポイントとして、目に触れて手に取って買ってもらえるような販路、国内では主にコンビニエンスストアやスーパーマーケットといった流通市場に採用されていないと、そもそもの消費者認知のベースが取れないという事情がある。(望月氏)

また、そういった流通市場に商品を出し続けるには、大きな製造設備が必要になる。大きな生産能力を持てないクラフトブルワリーが多い中、ヤッホーブルーイングのアドバンテージを示すキーワードに「装置産業」と「価格帯」があると望月氏は話す。

図:価格帯

図の右側は下から第三のビール、発泡酒、一般のビール、プレミアムビール、そしてクラフトビール類のおおよその価格帯を示している。ヤッホーブルーイングの主力商品である「よなよなエール」は店頭で220円〜240円台位で売られており、クラフトビールの中でも手に取りやすい価格となっている。「クラフトビールカテゴリの中で、顧客が買いやすく、飲まれやすい価格のポジションにいるというところも1つのアドバンテージと言える」(望月氏)

製品ブランド開発で目指すのは「圧倒的な差別化」

ブランディングについては「ファンマーケティングの前提として、そもそも商品が美味しくないと支持を得られない。また、その後のファン形成につながっていかない」と望月氏は説明する。大手と異なり、年間に何アイテムも製品開発をすることができないため、1つひとつの商品を大事に、市場投入する前に他との圧倒的な差別化を目指す製品ブランド開発を心がけているという。

圧倒的差別化を目指す製品ブランド開発

個性的なネーミングとパッケージデザイン、クラフトビールの中で最も高いレベルかつ安定した品質をねらって、ターゲットを狭く、コンセプトや飲用シーン、お客さんが飲む時のベネフィットなど、かなりこだわった製品開発をしている

そしてその少数のこだわりのブランドを息長く育てることで圧倒的な差別化につながり、コアターゲットに刺さって熱心な支持を得ることができている。尖った製品は市場で際立ち、結果として、ターゲット層の周辺まで含めた幅広い支持を獲得することができる。(望月氏)

「水曜日のネコ」のペルソナと副次的効果

たとえば、ヤッホーブルーイングの人気商品「水曜日のネコ」では、コアターゲットのペルソナを次のように細かく設定している(開発当時)。

「水曜日のネコ」のコアターゲットペルソナ

さらに飲用シーンにおいても次のように設定している。

「水曜日のネコ」のコアターゲットの飲用シーン

このペルソナと飲用シーンからパッケージデザインやビールの味はどういったものが良いのかといった質問を、ペルソナに該当する少数のモニターに聞きながら製品開発を進めていくといったプロセスを取っている

ここまでターゲットを狭く設定したことで、水曜日のネコは女性に大変評価され、きちんとねらった層に届いている、また、そうした女性像に憧れている層にも飲まれている。(望月氏)

さらに、あまり想定してなかったところで、パッケージにある猫のキャラクターから、猫好きからも話題になったり、製品名にある水曜日から「今日は水曜日なので、水曜日のネコを飲みます」といったSNSの投稿が増えるなど、副次的な効果もあったという。

ヤッホーブルーイング流のプロモーションが誕生した背景

ヤッホーブルーイングと言えば奇抜なプロモーションがたびたびSNSで話題になるが、そのはじまりは、2000年代初頭より楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤーを10年連続受賞した時期にさかのぼる。望月氏のお気に入りの事例として、2017年に政府の呼びかけで「プレミアムフライデー」が始まった頃、「早く帰れる夜をふやそう」というキャッチコピーのもと「定時退社協会」という架空の協会を立ち上げたプロモーションが挙げられた。

定時退社協会設立

代表取締役社長の井手直行氏がこの協会の理事長に扮して記者発表会を開催。同時に「定時退社訓練」という動画をリリース。ビアパブに集まったさまざまな企業の社員が早く帰るための訓練を行い、そのスピードを競うというもの。

この動画には多くの反響があったという。「このように、古くからお客さんに楽しんでもらうことを主眼に様々な企画を行っていたため、こうした姿勢を気に入ってくれる方には大変面白がっていただき、ファンの方に愛されるお店になった。それがスタート地点だった」(望月氏)

ファンの「情緒的ベネフィット」に寄り添うための施策

もちろん、こうしたイベントも思いつくままやっているわけではなく、「なぜこのようなイベントになったのかという背景がある」と望月氏は話す。

2000年代前半に実施した顧客調査の結果、よなよなエールのファンの特性として「ビール好きで、少し内向性がある、自分の判断力に自信を持っている、マイノリティ意識が高い」ということがわかった。また、消費の動機としては「味の良い物、クオリティの高いものが良いということはもちろん、何かに共感したい、アンチメジャー」といった動機が導き出された。

こうしたさまざまな調査結果から「よなよなエールの情緒的なベネフィット」として、「理想像の実現」「癒やされる」「自己確信」「共感する」「仲間をつくる」の5つを定義した。

情熱的ベネフィットから学び、交流、共創のサイクルへ

お客さんは「何かしら自分の理想像を実現したい。癒されたい。自分の決定に自己確信がある。共感して仲間を作りたい」といったことを考えていることがわかった。(望月氏)

こうした情緒的ベネフィットを感じてくれているのが「よなよなエール」の熱いファンであり、それを抽象化・具体化していくことで、顧客の潜在ニーズに対してヤッホーブルーイングが提供できる価値は「学び」「交流」「共創」だという仮説に至ったという。

「交流」の手段としてリアルやオンラインのイベント開催する。ブランドストーリーや製法のこだわりなどをイベントやサイトで表現することで「学び」の体験を提供し、顧客の自己確信を強めてもらうというように、実際の活動や施策に落とし込んでいった。

醸造所見学、交流、共創等の活動

たとえば、「醸造所見学ツアー」では、顧客をビール工場に招き、製造工程を見ながら社員の解説を聞き、実際にビールを飲んでもらうといったことを行う。ビールづくりの知識を深めつつ、顧客同士の交流・仲間づくりにもつながると考え、こうしたイベントに結びつけている。

ファンと作るプロモーション

今までは企業体力的にもマス向けの広告に頼れないため、口コミ中心のプロモーションを積極的に手がけてきたと話す望月氏。

マス広告にタウ寄らない口コミ中心のプロモーション

ローソンで販売している「僕ビール君ビール」という商品は、ビール離れが進む若者世代に訴求できるビールが欲しいというリクエストから製品開発を行ったもの。発売時には営業担当とSNS担当が一緒にプロモーションを考え実施した。

商品にカエルのマークが付いていることから、発売日に「カエル捕獲大作戦」と題して、Twitterで図のような投稿をした。

Twitterで実施したカエル捕獲大作戦

その夜、全国から届くお客さんからの「カエル捕獲ツイート」を肴に、スタッフと視聴者が生配信で盛り上がるといったイベントを実施した。その結果、全国から多数のSNS投稿が集まったという。こうした顧客参加型イベントも同社では定番のやり方になっている。

コミュニケーションをとればとるほどロイヤリティは上がる

ファンとのコミュニケーションは主に「よなよな編集部」というオウンドメディアを運用している部門と、お客様相談室の「おもいやり隊」のメンバーが担当している。記事を作成して公開するだけでなく、記事に対する反応を含む顧客の声を1つひとつエゴサ(エゴサーチ)して、“コミュニケーションを取りに行く”ということを全員で行うという。

よなよなエールについてつぶやいてくれた顧客に対してリプライをすると「公式からリプをもらって嬉しい」という反応がもらえたり、商品に関心のあるツイートをした顧客には開発秘話が載ったページを紹介することで製品理解を深めてもらえたり、実際に製品が購入されるといった行動にもつながる。さらに、製品や会社を気に入ってくれたファンが友だちに商品を勧めてくれるといった推奨行動も頻繁に起こっていると望月氏は話す。

これは自分たちなりの解釈だが、顧客と絆を深めるため、こちらから積極的に語りかけ、コミュニケーションをとればとるほど、顧客の反応が増え、SNSのフォロワーやLINEの友だちが増大し、サイトアクセス・PV数・登録会員も増え、認知度が向上し、顧客のロイヤリティも上がってファンが増大していく。(望月氏)

アクセス数・会員登録数・売上などはコンシューマ部門のKPIになっているが、顧客とのコミュニケーションがこれらのKPIに大きな効果をおよぼし、より大きな経営課題の解決にも直結していると考えているため、スタッフにも「楽しくコミュニケーションをとることがヤッホーブルーイングの経営課題の解決に直接つながっている」ということを伝えているという。

ヘビーユーザーの熱烈な支持を得るサブスクサービス

最後に、ヘビーユーザーからの熱烈な支持を得ているのがサブスクリプションサービスだという。同社では「よなよな月の生活」というビールの定期宅配サービスを提供している。

ひらけよなよな月の生活

自分の好みで選べるヤッホーブルーイングのビールが24缶または48缶、毎月か2か月ごとに届くというサービスで、限定ビールを含むさまざまなビールをお得な値段で楽しめる。イベントの優先招待やビールの楽しみ方を紹介する定期会報誌もセットにしている。「ヤッホーブルーイングのビールを一番楽しめる、縦横無尽にクラフトビールのある生活を楽しめるようなサービスとして人気を得ている」(望月氏)

直近1年でサブスク会員数が約1.5倍増と好調。今までは年間契約しかできず価格のハードルが高いサービスだったが、それを解決するために最短3回の「お気軽コース」を導入した。また、大規模な設備投資を行ない、ラインを自動化して少数の人数で何千何万という単位の出荷に対応できる状況を整えた。

昨今、大手ビールメーカーも自宅で生ビールが飲めるサーバー貸し出しサービスを開始するなど、ビール市場でもサブスクリプションでビールが買えるという事がだんだん認知されてきた。「まだまだスタートしたてだが、大手の参入によりこれからサブスク市場がぐっと広がっていくだろうということで、この市場でも一定の存在感を出したいと思っている」(望月氏)

現在、年間の平均購入額は5万5000円を超え、継続率は90%超というサービスとなっており、今後はサブスクリプションサービスをECの柱にしていきたい考え。「商品魅力やCRMも強化し、大型のプロモーションも開始する予定」(望月氏)と言う。

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